俺ガイル短編集   作:エコー

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急に思いついて2時間ほどで書いてみました。

てか何故クリスマスイブに大岡なんだ……。


クリスマス短編
童貞風見鶏のクリスマスイブ


 

 

 見栄を張ってしまった。

 何故あんな見栄を張ったのかは自分でも分からない。だけど、言ってしまった。

 

「ごめん隼人くん、今日はどうしても外せない用事があってさ──」

 

 はぁ、オレは馬鹿だ。

 こんなことなら隼人くん主催のクリスマスパーティーに行っておけば良かった。

 

 12月24日。

 独りで歩く千葉の街。色とりどりの光の粒子の中を歩くカップルとすれ違う度に、ちくしょうと思ってしまう。

 

「今頃隼人くんたちはカラオケパーティーかぁ……」

 

 急に用事が無くなった、とか言って合流してしまおうか。いやいや待て。そんな嘘は優美子や姫菜に簡単にバレる。

 結衣は奉仕部でクリパとか言ってたし。

 あれ。もしかしてそのクリパ、ヒキタニも参加するのか?

 ということは、クリスマスにぼっちのオレはヒキタニ以下、か。

 はは……笑えねえ。

 

 つーかさ、知ってんだよ。ヒキタニがオレのことを童貞風見鶏とか呼んでることはさ。

 あいつだって童貞だろうが。そりゃ、結衣や雪ノ下さんと一緒にクリスマスを過ごせるあいつはオレより恵まれてる。それは認める。

 だけどさ、人間の価値ってもんがあるだろう。女子だって、あいつとオレなら九分九厘はオレを選ぶ筈だ。

 

 あー、ムカつく。

 本当、カップルなんて消えて無くなればいい。若しくは今夜、中折れしてしまえ。恥をかけ。なんならドタキャンされろ。

 それでもキャンセルされる予定があるだけ、オレより数段マシなんだぞ。

 

 ふと、ショーウインドに映るものが目に入る。

 映っているのは、背が低く、陰気な面をしたオレ自身。

 よし、勉強しよう。勉強して少しでも良い大学に入って、新歓コンパで可愛い子と出会って、さっさと童貞を卒業しよう。

 そうと決まれば参考書選びだ。行き先は決まった。

 

  * * *

 

 駅近くのデパートに入ると、暖房のせいか幾分寂しさが薄まる。が、それも一瞬だ。目に付くのは赤、緑、白のクリスマスカラーの飾り付けと、その中を楽しげに笑い合いながら歩くカップルたち。

 あいつら、今夜やるんだろうな……いいなぁ。

 ふん。せいぜい楽しんで裸で寝てしまえ。そして風邪引け。冬休みを棒に振れ。

 今に見てろ。オレだって、オレだって──。

 

「──うぉわっ」

「ご、ごめんなさいっ、急いでたから」

 

 背中に衝撃を受けて振り返ると、そこには三つ編みメガネの制服姿の女子高生が頭を下げていた。

 ったく。ついてねぇな。でも、こんな些細な事で怒らないのがモテる男への第一歩なのだ。

 

「あ、いいよいいよ。オレも気がつかなかったし」

「で、でも、背中が……」

「──へ?」

 

 後手で制服の背中をまさぐると、べっとりとした感触がある。指についたそれは、生クリームだった。

 お下げの女子高生の手元を見ると、潰れたケーキの箱があった。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 だが、まだまだこのくらいじゃ怒らない。今こそ一年前に漫画で読んだ台詞を活かす時だ。

 

「ああ、ごめん。オレの背中がキミのケーキを食っちまった」

 

 ──決まったな。

 

「……それ、スモーカー大佐ですね」

 

 あれ? 反応が薄いよ。

 おっかしいなぁ。オレのシミュレーションだとメガネの奥がハートになってる筈なんだけど。

 

「えーと、えーと……12巻っ!」

 

 はい?

 

「確か12巻ですよね、ズボンがアイス食べちゃったシーンって」

 

 うわぁ、この子オタクか。

 苦手なんだよなぁ。広く浅くがモットーのオレの頭には何巻のどのシーンかなんて全然残ってないよ。

 そういえば、この後スモーカーはどうしたんだっけ。

 ──あ、思い出した。アイスを弁償してあげたんだ。

 ならばオレも、と言いたいが、財布の中には諭吉さん一枚のみ。あとは小銭だ。

 どうしよう。箱を見る限りは三千円くらいのホールケーキだ。それに一万円をポンと置いて帰るのは勿体ないし、かといってお釣りを請求なんかしたら絶対セコい男に思われる。

 よし、ここはひとつ、勇気を出してみるか。

 

「お詫びに、もう一度ケーキ屋に戻ろう」

「え? で、でも、もうお金ないし……」

「いいから、ほら」

 

 さりげなく、あくまでさりげなく女子高生の手を握って歩き出す。うは、女子の手って柔らけえ。タイプじゃないけど柔らけえー!

 

「あ、あの……」

「お店、どっち?」

「あ、あっち、です」

 

 よし、これで周りからはカップルに見えるぞ。ケーキのお金はその報酬と思えばいい。何より、クリスマスに良い事をしたと思えれば救われる。

 斯くして、打算に塗れた超短時間ニセカップル作戦がスタートした。

 

  * * *

 

「あ、あの……ここです、けど」

 

 はい、三十秒でカップル終了。

 十秒千円かよ。高いよ。

 まあ仕方ない。見栄を張るのもモテる男の秘訣だ。

 

「買ったケーキはどれ?」

「あ、あれです……」

 

 お下げの子が指差すのは、その棚で一番大きなホールケーキだ。ええと、値段は……よ、四千円!?

 十秒で3.333333333……円!?

 

「あの、でも、もうお金が……」

 

 ふと気づく。俯くお下げの子のメガネの奥に光るもの。涙だ。

 あーもう、分かった。買えばいいんだろ。

 制服のズボンの後ろポケットからチェーン付きの財布を出して店員に呼びかける。

 

「あの、さっきこの子が買ったケーキと同じものをお願いします」

 

 振り返る女性店員の笑顔が、一万円札を差し出すオレとその子を見た瞬間に固まった。そりゃそうだ。傍目から見たら、オレがこの子を泣かせている様にも見える。

 

「いえ、オレの不注意でこの子のケーキをダメにしちゃって」

 

 言い訳する男はカッコ悪いけど、自己保身は大事だ。

 

「あー、そうなんですね。ちょっと待っててください」

 

 奥へと引っ込んだ店員が持ってきたのは、同じ大きさの箱と、それよりひと回り小さな箱の二つ。

 

「どうせ売れ残るんです。こちらはオマケです」

「え、いいんですか?」

「気にしないでください。私、店長ですから」

 

 すげぇ。店長すげぇ。あと美人。この人にならオレの童貞をあげてもいいな。

 

「彼、カッコ良いですね〜」

 

 などと言ってのける店長さん。彼じゃないです。出来れば貴女の彼になりたいくらいです。

 

「へ、は、ひゃいますっ!」

 

 え、今の何語?

 

「はいお釣り。可愛い彼女さん、大事にしてあげてね〜」

 

 違うんです。オレの童貞は貴女の為にとっておいたんです。

 溜息混じりに隣を見ると、お下げ髪の女子は耳まで真っ赤になっていた。

 やべ、ちょっとかわいい、かも。

 

  * * *

 

 デパートを出るまでにお下げ髪の女子と少し話をした。

 聞けばこの子、児童養護施設にケーキを届ける途中だったらしい。

 

「わたし、施設で育ったんです」

 

 その一言は、たいして不自由も無く暮らしてきたオレにとっては想像出来ない、重い言葉だった。

 何年か前に里親さんに引き取られたこの子は、毎年小遣いを貯めて自分が育った施設にケーキを届けているという。

 

「今年は夏に参考書を買っちゃったので、ひとつしか買えなかったんですけどね」

 

 施設は小さいらしく入居している児童は十人程だと言うが、そのケーキひとつを十人で分けるとすると、コンビニで売っている小さなケーキよりも少なくなってしまうだろう。

 

「よかったらこれも持っていってあげて」

 

 オレは、オマケで貰ったひと回り小さなケーキの箱を差し出す。

 オレは家に帰ればケーキやらチキンがある。ならばこのオマケのケーキは、その児童たちが食べるべきだ。

 

「え、良いんです……か?」

 

 オレの顔を覗き込むその無垢な可愛らしさに、胸が締め付けられる。

 なんだよこの気持ちは。全然タイプじゃないけど。名前も知らないけど。

 ──けど。

 そんなのは関係ない。

 

「オレが食べるよりも、その子供たちが食べる方がケーキも嬉しいと思うよ」

 

 これもドラマか漫画のパクりの台詞だ。でも、本心だ。

 

「……あ、ありがとうございますっ。これであの子たちにお腹いっぱいケーキを食べさせてあげられます」

 

 深々と何度も頭を下げる度に、お下げ髪がふわりと宙に舞う。それは天使の翼のように見えた。

 なんて良い子なんだろう。それに比べて、なんて自分は愚かしいのだろう。

 童貞がなんだ。オレには家族がいる。暖かい部屋でケーキも、チキンだって食べられる。

 なんて幸せな環境なんだ。

 

「子供たち、十人だったよね」

「は、はい」

「じゃあ、もう少しだけ付き合って」

 

 通りすがりのファーストフード店でチキンの6ピース入りを二つ買って、お下げの子に差し出す。

 

「これも子供たちに持ってって……あ、両手がケーキで塞がっちゃってるか」

 

 予想外だ。だがすぐに打算してしまうのがオレのズルい所だ。

 

「じゃあ、これ持って。代わりにケーキはオレが運ぶから。ここから近いの?」

 

 下心は無い。といえば嘘だ。

 でも今は純粋にこの子の為に、子供たちの為に何かをしてあげたくなった。

 

「でも、見ず知らずの方にそこまでして頂くのは……」

「じゃあ、自己紹介ね。オレは大岡。総武高校の二年生で野球部。キミは?」

「さっ、桜森……さくらです。二年生で、千葉中央高校で、文芸部……です」

「よし、自己紹介も済んだし、これで友達だろ。友達が困ってる時に手を貸すのは普通だよ。だから、ケーキはオレが持つよ」

 

 よっしゃああああ!

 自然な流れで名前と学校名ゲットオォォ!

 後はアドレスかLINEを教えてもらえば………いや落ち着けオレ。

 今はこのケーキとチキンを子供たちに一刻も早く届けることが先決だ。

 

「行こうぜ、チキンが冷めちまう」

「は、はい……はいっ」

 

 んー、なんかいいな、これ。

 

  * * *

 

 独りで歩く夜の街。

 なんで、なんでだよ。

 なんで言ってくれなかったんだよ。

 彼氏、いるんじゃねえか。

 しかもあんなにカッコいい彼氏がさ。

 

 施設に着くと、入口の前に男がいた。身長はオレと同じくらいの小柄な奴だけど、中性的な雰囲気のイケメンだった。

 その男を見るなり、さくらちゃんは抱きつきたんだ。

 

 結局オレに残ったのは、ケーキとチキンのレシートと、傷ついた心だけ。

 こんなことなら参考書買っておけば良かった。

 ちくしょう、クリスマスなんて嫌いだ──。

 

 

  ☆ ☆ ☆

 

「さっきの彼、いきなり走って帰っちゃったけど、どうかしたの?」

 

「う、ううん、わかんない。でもね、すっごく優しくて親切な人だったよ」

 

「そう? あたしには単なる小者に見えたけど」

 

「もうっ、あいちゃんは昔から他人に厳しいんだからっ。それに何その格好、男の子みたいだよ」

 

「あー、やっぱ髪が短いと楽だわ。シャンプーもリンスも減らないし」

 

「あいちゃんらしいね」

 

「そういうさくらだって、もっとオシャレすればいいのに。せっかく可愛いんだからさ」

 

「わ……わたしは、駄目だよ。地味だし」

 

「そんな事ないよ。コンタクトに変えて髪型を変えれば──ん?」

 

「どうしたの?」

 

「これって、生徒手帳……さっきのあいつが落として行ったのかな」

 

「え、ええと。うん、そうだよ。大岡くんって言ってたもん」

 

「なら、明日あたり届けてやんな。彼、喜ぶよ〜」

 

「そ、そうかな、わたしみたいな地味な子じゃ……無理だよ」

 

「お、その反応。まんざらでもないと見た」

 

「もう、からかわないで……あ」

 

「ん? どしたん?」

 

「大岡くんに……伝え忘れてた」

 

「ほほう、じゃあ明日生徒手帳届けるついでに伝えてあげたら?」

 

「そ、そんな……でも、そう、だね」

 

「で、何を伝え忘れたの?」

 

「もちろん、メリークリスマス、だよ」

 

 

 




お読み頂いてありがとうございます。
今回の短編は無計画。勢いだけで書きました。
誤字脱字などありましたら、お教えいただけると助かります。

それでは皆様、☆メリー・クリスマス☆
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