俺ガイル短編集   作:エコー

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懲りずに材木座で続編ですw


やはり我の青春ラブコ……げふん。続

 

 今日は良き日だ。

 先日奉仕部に持ち込んだ小説の感想を頂戴できた。

 残念ながら花魁、由比ヶ浜は(われ)の傑作を読んでおらぬらしく、難しい言葉を云々と愛想笑いをしていたが。

 それよりも驚いたのは、奉仕部の(おさ)である雪ノ下殿の感想であった。

 大量の付箋が貼られた我が珠玉の原稿を片手に、倒置法が多いと窘められ、(われ)の斬新なルビにダメ出しをされ、挙げ句の果てにヒロインが裸になる理由が分からぬと言ってきた。

 言葉は辛辣ではあったが、眠た気な顔をチラッと見るに、原稿を隅々まで熟読して頂けた様である。

 我が半身八幡に至っては、誰のパクリだとかラノベは絵師が良ければ売れるとか、グサグサと(われ)の心をロンギヌスの槍で抉って来おった。

 だが……それでも(われ)は嬉しかった。

 今までは誰の目にも触れること叶わぬ我が作品が、初めて人の目に触れた日なのだ。

 

 やはり今日は祝うしかないであろうな。

 そうと決まれば善は急げだ。いざ鎌倉とばかりに行きつけのコンビニに足を向ける。

 

「らっしゃーせ」

 

 店内に入るなり、見るからにリア充っぽい店員がやる気の無い声を上げる。リア充の中では頑張らない感じが良いのだろうか。

 だが、(われ)の目はその横に釘付けになっていた。

 

「……熱っ」

 

 揚げたてのメンチカツに指が触れてしまい、小さな悲鳴を上げる小さな女子。

 肩にかかる髪は濡れ羽色、地味ではあるが可愛いらしい垂れ目、若干幼児体型とも云える可憐な出で立ち。

 (われ)は、このコンビニで彼女を見るのを密かな楽しみとしていた。

 気持ち悪いとか云わないで欲しい。(われ)だって、時には細やかな幸せが欲しいのだ。

 彼女を横目で眺めつつ、(われ)はおにぎりのコーナーへと進む。

 今日は祝いだ。ならばやはりアレが必要となる。

 おにぎりの棚の二段目、いつもそこにある筈のアレが……無い。

 

 嘘だ。こんな日に赤飯のおにぎりが無いなんて。

 天は(われ)を見放したもうたか。

 

「う、うそーん……」

 

 無意識に声を上げてしまう。隣でサンドイッチを手に取る婦人が訝しげに(われ)を一瞥した後、足早に去っていった。

 ーーふっ、そんな攻撃で(われ)の心を打ち砕こうなど片腹痛いわっ。

 しかし、悲しいのは事実である。

 赤飯むすびが売切れの惨状に侮蔑の眼差し。泣きっ面に蜂とはこの事だ。まあ、今回は小さな蜂だったので命拾い出来た。

 がっくしと肩を落とし、赤飯の代わりに掴んだオムライスおむすび、通称「オムすび」を三つ、レジに置く。

 

「いらっしゃいませ……あら?」

 

 ショックで気づかなかったが、いつの間にかレジがメンチカツで火傷した彼女に代わっていた。

 どうしよう。(われ)、何の心の準備もしておらぬよ?

 三次元の美少女を目の前にして心臓は踊り出し、息は荒くなる。それを気取られぬ様に振る舞うのだが、今度は鼻息が強くなってしまう。

 ここは戦略的撤退もやむなし、かーー

 

「すいません、今日はお赤飯、売れちゃったんですよぉ」

 

 ……ほえ?

 何ゆえ彼女は(われ)が赤飯おむすびを求めていたことを知っておるのだ。

 

「あっ、だからオムライスなんですね。色が近いからーー」

「ちちち違う、オオオムライスも、すすす好きなのである」

 

 ナイスだ(われ)っ。

 務めて自然に三次元美少女との会話が出来ておるではないか。

 

「そうなんですね〜いつもお赤飯ばっかり買っていくんで、他には興味が無いのかと思ってました」

 

 な、なんと……(われ)の好みを見抜く眼力の持ち主、だと……!?

 てへぺろ、とばかりに眩しい笑顔を向けられた(われ)は、もう夢見心地である。

 そして、事もあろうに。

 

「あ、ああと、メメメンチカツ……全部ください」

 

 などと会話を途切れさせぬ為に、普段は絶対に買わない惣菜の注文までも成し遂げてしまった。

 

「はいっ、揚げたてで熱いですから気をつけてくださいねっ」

「う、うむ。そなたが火傷をしておったのを見ていた。だ、大丈夫か?」

「……見られてましたか。恥ずかしいですっ」

 

 ムッハー!

 (われ)、今三次元の女子と普通に喋ってるぅ。

 しかもそれがこんなに見目麗しい女子なのだ。

 ついに、ついに(われ)にも春がーー

 

「メンチカツ8点とオムライスおむすび3点で、1544円でーす」

 

 ーー来る訳は無いか。

 (われ)は、いつ果てるとも知らぬ孤高の身。やはり女子の眷属(けんぞく)など求めてはいかんのだ。

 しかもメンチカツ、8個もあったのね……迂闊っ。給金(こづかい)前の(われ)にこの出費は大きいぞ。

 再び肩を落として会計を終えると、レジカウンターの向こうから声が聞こえた。

 

「あの、良かったら……お赤飯、取り置きしておきますぅ?」

 

 な、な、な、な、なーー

 なにぃ!?

 女子から(われ)に提案だとぉ!?

 こんな事、我が戦いの日々において一度たりとも無かった現象だ。

 よし、ここは威風堂々と告げてやろうぞ。

 

「お、お願い、します……みっつ」

「はいっ、ではまた明日お待ちしてますねっ」

 

 ーーふう、()は満足である。

 

  * * *

 

 花見川の土手で沈みゆく夕日を眺める。

 もそもそとオムすびを食しながら、彼女の言葉を反芻する。

 

 初めてだった。

 

 初めて(われ)の存在を認めてくれた。

 初めて「喋り方キモいっ」と云わない女子に出会った。

 初めて……親切にしてくれた。

 コンビニ袋の中、一個ずつ丁寧に入れられた紙の小袋をひとつ取り出す。

 この8個のうちの何れかに、彼女の指が当たったのだ。

 どれだろう。

 (われ)ながら気持ち悪いとは思う。自己嫌悪してしまう。

 だがそれ以上に、彼女の指が触れたメンチカツが他の有象無象の口に入るのが嫌だった。許せなかった。

 ならば、(われ)が全て買い上げるしか無かろう。

 紙袋を半分辺りのミシン目に沿って割き、メンチカツの半身を露出させる。

 ごくり。

 期せずして喉が音を立てる。

 あゝ、(われ)はこれより彼女の作りたるメンチカツを戴くのだ。

 謂わば手料理である。礼を尽くして存分に味合わねば罰が当たると云うものだ。

 目を閉じ、一礼してかぶりつく。

 おおっ、何と豊潤な旨味だろう。サクっと衣を噛む度に滲み出る脂は、無遠慮に口内を蹂躙しては喉奥に吸い込まれる。あとに残るは肉の旨味。

 ここでオムすびを一口、かぷっといく。本来ならば揚げ物には赤飯がベストマッチングなのだが、無い物ねだりをしても仕方が無い。

 それでも肉の旨味とチキンライスの相性は悪くは無い。オムすびが口にある内にメンチカツで追い討ちをかけると、またしても凶暴な旨味が(ほとばし)る。

 

「むふぅ、中々である」

 

 思わず顔が綻ぶ。

 オムすびをまた一口、追ってメンチカツをかぷっと食す。

 

「あむっ……げふっ、げふんっ」

 

 ーー飲み物も買うべきだったな。

 おっ、あんなところに自販機があるではないか。

 どんな苦境にもすぐ対応出来る陣立てを自然と選択するとは、さすが(われ)であるな。

 さて、鞄の中からーーあれ?

 ……(われ)の鞄は? それに、今日返却された(われ)の傑作小説の原稿は……?

 

 ーーふっ。奴め、中々やりおる。再び来店させる為にレジに荷物を忘れさせるなど、さすがに(われ)も思いつかぬわ。

 

「……帰ってご飯食べよ」

 

 (われ)の意識は、母君の晩御飯に向いていた。

 影法師は長く、尾を引いていた。

 

 

 




今回もお読み頂き、ありがとうございました。
誰得な材木座義輝の話をまた書いてしまいましたw

次回で材木座の話は終わりの予定です。
彼の日常、とくとご覧あれ。
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