そして材木座編は今回で最終話となります。
彼のキモさ、純粋さを味わってやってくださいませ。
誰の言葉かは失念したが、この言葉には大きな嘘があると信じてきた。
人が真に対等ならば、何故にヒエラルキーが生じる。どうしてクラス内カーストが存在するのだ。
故に
故に、この現状は
だから耐えられた。
どんなに蔑まされようと、どんなに傷つけられようとも。
人はそれを「諦め」と名付けるのだろうか。
嫌な夢を見たせいであろうか。目が覚めた時、泣いていた。久しぶりの涙だ。
ふと昨日を振り返る。
奉仕部の面々に
帰り道に寄ったコンビニで、少しだけ良い事があった。
それと引き換えに財布が軽くなった。何ならその財布ごと荷物すべてコンビニに置いてきてしまった。
何をやってるんだろ……
* * *
誰とも関わらず、いつも通りの日常が淡々と進んでいく。今日は体育の授業が無いので隣のクラスの八幡とも話す機会は無かった。
ふと机の横を見る。
昨日までとは違うバッグだ。荷物まるごとコンビニに置き忘れた
財布はいい。数千円しか入っていなかったし、もう中味も抜き取られているだろう。
問題なのは……原稿だ。
あれを彼女に見られたら、
あれは
現実世界に希望を失った
そんなモノを見られて、どうして平気な顔でお客様ヅラなど出来ようか。
放課後、いつも通りの道を歩く。いつもと違うバッグが、肩に違和感を伝える。
コンビニが見えてきた。
……今日はあのコンビニに寄るのはやめよう。
足早に店の前を通り過ぎようと身を丸くする。
「あ、あのっ」
背後から声がするが、誰かが誰かに声を掛けたのであろう。
「あ、あのっ、赤飯むすびっ」
足が止まる。うっかり振り向いてしまう。
慌ててコンビニから駆け出してきたのだろうか。制服の上にユニフォームを羽織り、前のファスナーもまだされていない。
よくみれば少々息も荒いようである。
「き、昨日、鞄……忘れてましたよね?」
肩で息をしながら尋ねる彼女に頷くことしか出来ない自分が情けなくなる。
「あと、小説……ですか、あれ」
ーー読まれた。
やはりもう、ここにはーー
「き、気になりますっ」
……はっ?
なんですと!?
「続き、気になりますっ」
え? え? どゆこと?
ここは「キモい」とか「ブタ」とか「汗が臭そう」とか蔑まれる場面じゃないの……?
気がつけば、
「あれって、まだ途中ですよね。主人公が
あ……れ?
あれを読んだのに、読まれたのに、まだ
やばい。涙が出そうだ。
「も、勿論である。あれから幾重にも重なる輪廻の謎を解き明かさねばならんからな」
「そうですよねー、あの時点では伏線まったく回収してないですもんね」
ぐはぁっ!
な、中々の攻撃力ではないか。
だが
引かぬ、媚びぬ、省みぬっ!
「続き……読みたい、です」
「え、本当? それ本当?」
前言撤回。
「はい。あたし、ファンタジー系のラノベ、好きなんですっ。クラスのみんなはキモいって云うけど……仕方ないですよね、好きなんですから」
あっけらかんと言い放った少女は、はにかんだ笑みを浮かべていた。
好きだから仕方ない。
そうだ。
自分の作品を闇と称して、嫌われる材料だと決めつけて。
でも、それでも書きたいのだ。
才能なんか無いのは知っている。まともに完結まで至れた作品も無い。
だが、目の前の彼女は読みたいと言ってくれた。
文法がなっておらぬと断じられた
ならば何も迷うまい。
一人でも読みたいと思ってくれるのなら、
そして
「ほ、ほむん。ならば近日中に書き上げよう」
えーと、全然高らかじゃなかったですね。はい。
仕方ないよね。だってここは天下の往来。それでなくても叫ぶのって恥ずかしいもん。
だが目の前の少女は、その恥ずかしさまでも吹き飛ばして叫んだ。
「本当ですか!? じゃあ、一番最初に読ませてくださいねっ」
……おぅふ。
何たる破壊力。
眩しすぎるぜっ、その笑顔。
「わ、わかった。書けたら、その、また持ってくる」
「約束ですよっ」
「う、うむ、約束である」
約束……してしまった。
このヲタでブタでキモい
何だろう。
全身から力が抜けていく。それと同時に身体が熱くなる。
その熱はさっきまでの陰鬱とした心の闇を吹き飛ばし、晴れ間を出現させた。
阿保だ。
勝手に自分の中で想像し、自分の中で結論を出していた。
見もせず、聞きもせず、ただ絶望していた。
話してみれば何のことはない、それもすべて杞憂だったのだ。
晴れやかな気持ちで彼女に顔を向ける。
あぅ……恥ずかしい。やはり直視はハードルが高いな。
そんな愚考など知る由もない彼女は、少々頬を膨らませて
あれ?
「ところで……今日は赤飯むすび、買ってくれないんですか? せっかく取り置きしてたのにぃ」
「……勿論いただこう。メンチカツも一緒にな」
「毎度ありぃー」
ーー
今日のメンチカツは、11個あった。
了
材木座編最終話でした。
お読み頂いた皆様、本当にありがとうございました。
書き終えてみれば一話平均たったの2500文字。合計で7500文字程度。
だったら三話まとめて一話にすりゃいいじゃん!
って私自身も思っておりますw
材木座義輝は、俺ガイルのキャラの中で重要な位置を占めていると思います。
役割り的に「狂言回し」なので、原作の12巻以降には出てくるか怪しいですけど。
と云う訳で、またお会いしましょ〜♪