俺ガイル短編集   作:エコー

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奉仕部の三人が高校三年生になった一学期の終わる間際。
相変わらず平塚先生は、おひとり様を貫いているようで……。


平塚静
「世情」 〜前編


 

 寝室の窓を開け放つ。

 火照った身体に夏の夜風が心地良い。額の汗はもう「玉の汗」にはならないが、肌理(きめ)の細かさならば若い奴らにはまだまだ負けん。

 

「しっかし美味かったなぁ」

 

 現在午後十一時。

 この時間にカップラーメンを二つも食べる暴挙が出来るのも、まだ私が充分に若い証拠だろう。

 しかも二つとも醤油とんこつ味。

 こんな贅沢、他の奴らには分かるまい。

 まあ分かるとすれば、あいつくらいか。

 

 胸元に落ちた汗をパーカーの袖口で拭う。鎖骨に貼りついた後れ毛が少々気になった。

 

「……シャワー浴びよ」

 

  * * *

 

 少し温目のシャワーを浴び終えて寝室に戻って、そこで気がつく。

 替えの下着が無い。

 仕方なく、さっきまで着けていた汗の染みた下着を着ける。

 あと、新しいスウェットをーーあれ?

 

「はぁ、洗濯し忘れてた……」

 

 呟く声は誰に届く事もなく霧散する。

 明日の終業式を控えて、ここ数日は忙しかった。何せ担当する全クラスの現国の成績を付けなければいけなかったからな。

 それ故に残業続きで、今日も外食ではなく自宅でカップラーメンにしたのだから。

 

 仕方ない。コインランドリーで済ますか。

 

 時計を確認、まだ十一時四十分だ。充分間に合う。

 一旦着けた下着を脱いで、素肌にノースリーブのロングワンピースを被る。というか、洗濯した普段着はこれしか無かった。

 今は深夜だ。

 ロングスカートなら、下着など着けていなくても大丈夫だろう。

 大きな手提げバッグにありったけの洗濯物を詰め込んで部屋を出る。

 

「……んっ、やはりスースーするな。何か頼りない感じがまた……んんっ」

 

 外に出ると、下着を着けていない所為で下半身を通る風が妙にこそばゆい。

 まあ、こんな時間に知り合いに会うことなど無いだろう。ささっと洗濯を済ませて帰ってくれば問題は無い。

 

「……風とは、こんなにも私を蹂躙してくるものなんだな」

 

 ノースリーブのワンピースの脇から入り込んだ夜風が無駄に大きな胸部を撫でる。

 無防備のままワンピースの裏地に擦られた双丘の頂点が、意思に反して固くなる。

 

「んっ」

 

 刺激に身をよじると、スカートの裾から吹き込む風は私の下腹部に垂直に上がってくる。

 

「……んはぁっ」

 

 ーーいかん。

 これではまるで痴女ではないか。

 こんなところを生徒や父兄に見られたら。

 いや、あいつに見られたら……。

 

「ーーはぁんっ」

 

 うっかり湿り気を帯びてしまった所為で、下腹部に触れる風が冷んやりする。

 

 しかし、まだ誰にも貫通されたことのない乙女な部分をまさぐるとは、けしからん夜風だ。

 何だか癖になりそうで少し怖いな。

 

「……くふぅ」

 

 十分ほど歩いて、コインランドリーに着く頃には、すっかり私は出来上がっていた。

 何が出来上がっているかは、教師として絶対に言えない。

 蒸し暑いランドリーの中、洗濯物を放り込んでコインを入れる。

 

「ふう、間に合った」

 

 このコインランドリーは防犯上の理由から、深夜零時になると終了して自動的にドアがロックされてしまう。だが大丈夫。零時過ぎでも中から外へは出られるのだ。したがって、零時までに洗濯物を放り込めればこっちのものだ。

 だが、危なかった。

 現在の時刻が午後十一時五十分だから、本当にギリギリだった。あと数分決断が遅れていたら、明日の終業式は二日目の下着で生徒の前に立たなければならなかった。

 静ちゃん、えらいっ。

 

 しかし暑いな。

 座っているだけで汗が噴き出してくる。

 ふと外を見る。道を挟んで向かい側に自動販売機の灯りが見えた。

 

「コーヒー1本買ってくるくらい大丈夫か」

 

 ランドリーを出て、駆け足で自販機に行きコインを投入、いつものブラックコーヒーを購入する。

 待ち切れなくてその場でボトルキャップを捻り、一口煽った。

 

「はぁ、んまいっ」

 

 喉を通った冷たい液体が清涼感を、コーヒーの香りが安堵をもたらす。

 ワンピースのポケットからセブンスターを取り出して、火を点ける。

 ーーふぅ、やはりコーヒーときたら煙草だな。

 このベストマッチングだけは、どれだけたばこ税が上がろうと変わるものではない。

 

 紫煙を立ち上らせて満天の星空を見上げる。

 明日の終業式も暑くなりそうだ。

 時に、あいつはどうしているのだろうか。

 早いものであいつも高校三年生。数学が苦手なのは変わらないが、それでも着実に受験勉強に勤しんでいるようだ。

 手のかかる生徒ほど可愛いという先達の言葉は本当らしい。

 それは雪ノ下も同じだ。

 彼女は高潔過ぎた。それ故に周囲と衝突し、疎外された。

 だが最近の彼女はどうだ。由比ヶ浜と云う友人を得て、性格も角が取れてきて、時折見せる年相応の笑顔は眩い。

 由比ヶ浜も以前の様な臆病な雰囲気は影を潜め、はっきりと自己主張出来る子になった。成績が振るわないのは大きな課題だが、雪ノ下がいれば大丈夫だろう。

 彼女らは互いを補完し、共存出来る関係を築いた。それは今後の人生に於いて大きな財産となるだろう。

 あとは……あいつは、比企谷はどうするつもりなのだろうか。

 人一倍周囲の言動に敏感なあいつが、彼女らの好意に気づかない筈は無い。

 大学受験まであと半年。それまでに答えを出せるのか、心配だ。

 

 ま、いざとなったら私がもらっちゃおうかな。

 あれであいつは優しいし、ぼっち故の洞察力の所為か妙に気が利く。

 何より、私と対等に喋ってくれるのが嬉しい。

 教師と教え子が対等なのを喜ぶべきでは無いのだろうけど、やはり対等に話せる異性の存在は嬉しいのだ。

 

「あいつが卒業したら、と、友達に、なって……くれるかな」

 

 あいつとは趣味が合う。

 少年漫画好きの私の会話にしっかりと応えてくれる。

 それは良いものだ。

 

 芯が熱くなる。

 スカートの中を上昇する風が冷たい。

 もしかしたら、あいつも今頃……。

 無意識に手が蠢く。

 五本目の煙草を吸い終えた右手は胸に、空いた左手は熱くなった下腹部にーー。

 

 ーーおっと、いかんいかん。

 深夜の路上で妄想に耽っている場合では無いな。

 そろそろ四十分経つ。洗濯が終わる時間だ。

 いそいそとコインランドリーに戻ってドアを開けるーーあれ?

 

 ドアはロックされていた。

 

「え、え、あ、あぁ!?」

 

 何度かガチャガチャとドアを揺すってみるも、びくともしない。

 しまった。失念していた。

 このコインランドリーが深夜零時で閉まるのはさっき確認したのに。

 コーヒーを買って煙草を五本吸いながら思案に耽る間に、零時を過ぎていたのだ。

 

 慌てて緊急連絡先が書かれていないか探す。

 ーーあった!

 えーと、あ。ああっ?

 

「番号が、番号の部分だけが……ない」

 

 漸く見つけた緊急連絡先のプレートは、下半分がパッキリと折れて欠損していた。

 

「私の、全下着が……」

 

 折れたプレートを見つめ、その場でへたり込む。

 そ、そうだ。朝なら!

 

「あ、朝! 朝の開店時刻は……午前、八時……」

 

 朝ここに寄っていたら……間に合わないじゃないかっ。

 高校の始業前に洗濯物を回収出来る望みも絶たれたか。

 

「……ふっ、ふはは……」

 

 思わず口から漏れた乾いた笑いが虚しく響く。

 

「……ノーブラノーパンで終業式、か。まるでエロ教師、いやド変態淫乱教師だな……」

 

 自嘲する脳内に、ある男子生徒の顔が浮かぶ。

 あいつだ。

 比企谷の所為だ。比企谷が私の妄想の中であんな事やこんな事をしなければ。

 ーーあいつにはいずれ責任を取ってもらわねば、な。

 ロングワンピースの中、直接肌に触れて抜けていく夜風に少しだけ高揚した。

 

 この時私は、気づきもしなかった。

 パンツだけならコンビニで買えることを。

 

 

 




お読みいただき、ありがとうございました。
今回は我らが平塚先生の日常のエロいハプニングでした。

果たして平塚先生はノーパンノーブラで終業式に臨むのか。
具が見えてしまうのかっ?

後編にご期待くださいっ!
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