俺ガイル短編集   作:エコー

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初めて一色いろはのお話を書きました。



一色いろは
一色いろはは疾走する。


 

 

 桜咲き誇る校門を生徒会室の窓から眺めていると、若干着崩した制服に混じって、初々しい制服姿の生徒たちが通っていく。

 時には二人で、或いは集団で。ああ、あっちの子達はまだ友達が出来ていないのかな。

 無理もないかな。まだ新入生が入学式を迎えてまだ一週間も経っていないのだ。

 

「早いなぁ……」

 

 去年の今頃は、あたしはあの集団の中にいた。着慣れない制服の違和感に心を弾ませて、希望に満ち溢れていたのだと回顧する。その希望も二学期の秋に一度閉ざされたんだけど。

 

 この春あたし、一色いろはは高校二年生になった。

 二年生ということは、即ち後輩が出来たことを意味するんだけど。

 進級した途端に自動的(オートマチック)に先輩の自覚なんて芽生えることはなく、初々しい後輩くん後輩ちゃん達の制服姿に目を細めることもなく、ただ頭を悩ませるばかりなのです。

 

 ったく。こういう大事な時になんで先輩はいないんだろ。

 

 新年度も一週間も経てば各部活動はめぼしい新入部員が粗方入部して、あとは人数や実績に応じて今年の予算の割り振りをするだけなんだけど、その毎年行われるテンプレ的作業がこんなに大変だとは思わなかった。

 特に大変なのは運動系の部活。

 ちょーっとサッカー部の部費を二倍にしただけで野球部や柔道部の顧問は怒鳴り込んでくるし、戸塚先輩には上目遣いで部費の増額をお願いされちゃうし。

 はあ、こんなんじゃもっと早く先輩の使用許可を雪ノ下先輩に出しておけばよかったなぁ。

 

 先輩といえば、無事に総武高校に合格した妹の小町ちゃんが心配なようで、足繁く一年生の校舎に様子を見に行っているらしい。

 おかげで一年の校舎には目の腐ったアホ毛のゾンビが出るなんてウワサが立ったりしてる。

 この噂に雪ノ下先輩は頭を抱え、結衣先輩は苦笑い。当の小町ちゃんは達観していて「まあ、愚兄にとっては平常運転ですね〜」なんて言いながら今日も呑気に生徒会室でお茶を啜っている。

 

 そう。小町ちゃんは生徒会に入ってくれたのだ。まだ正式って訳じゃなくて時々来るお手伝い的な感じだし、元はと言えばあたしがスカウトしたんだけどね。

 将を射んと欲すればっていうアレですよ。

 

 ただでさえ雪ノ下先輩や結衣先輩に対して年月や学年のハンデがあるんだもん。あたしも何らかのアドバンテージが欲しいと思うのは当然の乙女心なのですよ。

 でも小町ちゃんたら、「やっぱ小町はお兄ちゃんの味方なんですよね〜」とかあざとく笑いながら奉仕部にも入部しちゃって。

 小町ちゃんを引き入れれば、先輩のことだから週5くらいで生徒会室に来るかと思ったのに。それを小町ちゃんが追い返しちゃうものだから、それから先輩は大人しく奉仕部で小町ちゃんを待つスタンスに変更したらしいし。

 もしかしたら一番の難敵は小町ちゃんなのかも知れないと思う、今日この頃。

 将より馬の方が手強いって、どんな状況なのよ。

 まあそれでも小町ちゃん経由で先輩の情報は入ってくるし、悪くはないかな。

 お茶を啜る小町ちゃんの、ぴこんと立ったアホ毛が揺れる。

 

 ──ふう。会いたいなぁ、やっぱ。

 

「はあ、もう帰っていいですかぁ?」

「駄目に決まってるだろう、会長が先に帰ったら新入生に示しがつかないよ」

 

 真面目で女心に鈍感な三年生の副会長、本牧先輩の非情な台詞が乙女の小さな野望を打ち砕く。

 はあ、ダメですねそんなんじゃあ。乙女心を理解しないと書記ちゃんに逃げられちゃいますよ〜と思っていたら、当の書記ちゃんこと同じく新二年生の藤沢佐和子ちゃんも強く同意していた。

 むむむっ、こ奴らもしや既に……けしからんっ。

 

「むぅ、わかりましたよ。やればいいんでしょ、やれば」

 

 不貞腐れ顔を作って書類の束に目を戻すと、書記ちゃんがお茶を淹れてくれた。

 ありがと、書記ちゃん。でもでもぉ、あたしが飲みたいのは紅茶なんだよ。

 雪ノ下先輩が淹れた紅茶を飲みながら先輩を揶揄うのがあたしの唯一の癒しなんだよ。

 こうなったら、後で先輩にご褒美を貰わなきゃ割に合わない。何を奢らせようかなぁ。あ、そういえば駅前に新しいクレープ屋さんが出来たんだ。

 よしっ、それにしよう。

 

「そーいえば本牧先輩、一昨日駅前のクレープ屋さんにいましたねー」

 

 何ともタイムリーな話題を振ったのは小町ちゃんだ。

 しかし副会長は愛想笑い、いや苦笑いを浮かべるのみだ。

 

「あっ、これって内緒だったんですか? 藤沢先輩ごめんなさいですっ」

 

 ──うん。全部話しちゃってるね。

 すっごく分かりやすかったよ。てかやはりこ奴ら、デキておるのか。

 

「……副会長」

「な、何かな」

 

 じろりと視線を向けると、副会長の両目が泳ぎ出す。

 はい結論出ました。この反応はクロですね。

 でもこの後の交渉のカードを増やす為に、一応確認を取っておきましょうか。

 

「一昨日って、確か予備校があるとかで生徒会をお休みしたんですよね」

「あ、う、うん」

 

 副会長の表情がどんより曇った。じゃあお次は共犯者の尋問といきましょうか。

 

「書記ちゃん?」

「……はい」

「書記ちゃんは確か、家の用事で休み……だったかな?」

「そ、そうだった、かな」

 

 書記ちゃんは俯いて顔を赤らめている。

 やっぱこの二人、クロだった。いや書記ちゃんの顔は真っ赤なんだけど。

 よし、有利に事を運ぶカードは手にした。さあ交渉だ。

 

「……いいですか。今は部の予算を決める大事な時期なんですよ。そんな大事な時期にイチャコラしてる暇があると思ってるんですかっ」

 

 うわぁ、我ながら嫌なオンナ。

 だってこれは、先輩に会えない、先輩成分が足りないことへの八つ当たりだもん。

 

「という訳で、あたしはちょっと気分転換に行ってきますからねっ」

 

 ふふん、完璧な理論武装だねっ。

 と思っていたら、小町ちゃんから衝撃の事実が。

 

「あ、そういえば奉仕部は今日休みですよー」

 

 な、な、な……なんですって!?

 じゃあ、雪ノ下先輩の紅茶を頂きながら先輩を愛で……いじるというあたしの計画は!?

 

「な、なんで休みなのかなぁ、小町ちゃん」

「決まってるじゃないですか、三人でデ──あっ」

 

 三人で、デ……?

 

 

 

 

 

 

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