俺ガイル短編集   作:エコー

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短めの第2話。



一色いろはは疾走する。 2

 そそくさと荷物をまとめ、副会長と書記ちゃんの刺す様な視線を振り切って生徒会室を飛び出したあたしは、京葉線を西へ向かっていた。

 

 もうっ、先輩ったら。せっかく可愛い後輩が弄……遊びに行こうって時に部活休んでお二人とデートなんて、許せませんね。

 一人だけ生徒会室から笑顔で送り出してくれた小町ちゃんのにやにやした笑顔を思い出す。何処と無く先輩に似てたなぁ。

 兄妹って面白い。性格は全く違うのに、ふとした時の表情だけは似てるなんて。あとあのぴょこんと跳ねたアンテナみたいなアホ毛もそっくりだけど。

 

 海浜幕張駅。目指すはそのほぼ駅前に位置するおっきなショッピングモールだ。

 この海浜幕張には幾つかのショッピングモールがあるのだけど、きっと先輩達は此処にいる。

 確証はない。だけど確信はある。

 結衣先輩が好きそうなブランドのショップがあって、雪ノ下先輩が好きなパンさんのグッズ売り場やペットショップもあって、それに先輩が好きなサイゼも本屋さんもある。

 あのお三方が学校帰りに一緒に出掛けるとしたら、きっとここだ。

 もう一度言おう。確証はない。

 

 早足で歩きながら耽る。

 昨年度の末、奉仕部のお三方に何かしら変化があったのは感じていた。

 多分バレンタインデーあたりが境目だったと思う。

 

 雪のそぼ降る二月十四日。

 あの日は総武高校の入学試験の日だった。当日の朝から生徒会は入学試験の準備、受験生の誘導、問題用紙の配布などの手伝いをしていたから間違いない。

 本当は先輩にも手伝って貰おうと思ってたんだけど、何故かその時に限って先輩に連絡がつかずに諦めていた。

 別にいいんだけど。先輩のチョコなんて用意してなかったし、幸い賞味期限だって長かったし。

 でも、ちょこっと寂しかったのは寒さのせいだけじゃないと思えた。

 

 それからだ。

 奉仕部に暇つぶ……依頼に行くと、部室に漂うあの甘酸っぱい空気。

 なに。最近はレモンティーばっか飲んでんの? と突っ込みたくなる程だった。

 ちらりと誰かが視線を泳がせると、他のお二人が反応する。三人の視線が交差すると、それぞれの視線がそれぞれの色を残して散っていく。それからお三方は、決まって頬を緩めるのだ。

 

 そこに漂うのは穏やかな空気。お三方の共通の空気だ。

 ここまでの変化があって、気づかない方が無理だった。

 結局、その件に踏み込めないままに春休みを迎え、進級してしまったけど。

 

「はぁ、何やってんだか、あたし」

 

 目的地であったショッピングモールを散々歩いて走って、疲れ果てた身体を外に設置されたベンチに預ける。

 やばい。

 

 忘れていた訳ではないけど、このショッピングモールは広い。それに、この隣にも別のショッピングモールがあるのだ。

 

「はぁ……」

 

 我ながら無鉄砲過ぎた。

 こんなことなら大人しく生徒会の仕事でもして気を紛らわせている方がマシだった。

 でもお三方がデ……出かけていると聞いて、居ても立ってもいられなくなって。

 お三方の行き先はわからないのに歩き回って、気がついたらこの二つのショッピングモールの間のベンチにいて。

 はぁ、もうやだ。

 さっき自販機で買った、毒々しい色彩を放つ細長いスチール缶。その強烈に甘ったるいコーヒーをちびりと飲む。

 うえぇ、覚悟してたけど……やっぱり甘ったるい。

 てか、何でこんなもの買っちゃったんだか。

 カロリー高そうだし、甘すぎるし。でも、一口含むと少しだけ安心する。

 これで太ったら先輩のせいだ。今そう決めた。罰としてスイーツバイキングにでも連れてって貰おう。

 

「──はぁ」

 

 勿論分かってるんだよ。あたしの言い分なんかただのこじつけだ。屁理屈にもならない。

 そんなあたしの与えた勝手気ままな罰に付き合ってくれる先輩が優し過ぎるのだ。

 だから、もっと求めてしまう。先輩の時間を、言葉を、捻くれた優しさを。

 

 鞄の中で軽快なマリンバの音が鳴り響いた。

 

「──葉山先輩、か」

 

 メールだった。サッカー部のみんなで誕生日のプレゼントを買うから何か欲しい物を教えて欲しい、だってさ。

 無理ですよ、葉山先輩。あたしが本当に欲しい物は……多分手に入りませんから。

 まあ、そんな愚痴は言える筈もない。テキトーに返信しておこう。

 

「みなさまのお気持ちだけで充分です……っと」

 

 よしっ、これで謙虚な後輩アピールは完了っと。

 

「──疲れちゃったなぁ。多分プレナにはいないだろうし、帰ろっかなぁ」

 

 はあ、ホント。何やってんだか。

 花も恥じらう十六歳ももう直ぐ終わっちゃうっていうのに。

 花の命は結構短いんだから。聞いた話だけど。

 あー、もう帰ろうかな。どうせ会えないだろうし。

 缶に残った激甘な液体を喉に流し込み、ベンチから立ち上がる。

 

「あ──」

 

 ふわりと暖かい春風が吹いて、制服のスカートの裾がひらりと旗めいた。

 桜の花びらが舞う視界の隅、遠くでアホ毛が揺れた──気がした。

 

 

 

 

 

 

 




お読みくださいまして誠にありがとうございます。
短編「一色いろはは疾走する」は次回が最終話となります。
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