持ち込んだ本を読んでしまった比企谷八幡は暇を持て余しているようで。
暇つぶし
麗らかな日差しの降り注ぐ奉仕部の部室で、俺は暇を持て余していた。
持参したラノベは読み終えてしまい、スマホも電池残量が少ない為に使えない。
「あー、暇だな」
「そうね。最近依頼は来ないし、由比ヶ浜さんも用事でお休みだし。でも、いつも通りじゃない」
そうなんだよ。そうなんだけどさ、手持ち無沙汰なんだよな。
由比ヶ浜でもいたら揶揄って遊ぶのだけど。それに、雪ノ下と二人っきりなのも久しぶり過ぎて何か変な感じがするし。
ともかく、今の俺には暇つぶしの武器が何ひとつ無い状態だ。
「そりゃそうだけど……暇だわー、暇、ひーまー」
ギャーギャーと喚いていると、突如冷気が襲ってきましたよ。
ぱんっ、と本を閉じた雪ノ下がこちらに冷たい視線を向ける。
やべ、怒らせたか。
「あなた、いつも読んでいる如何わしい小説はどうしたの?」
「さっき読了しちまった。全然如何わしくないけどな」
訂正を添えて応えると、再び雪ノ下は本を開く。
「ーーそう、ご愁傷様」
「別に不幸は無いからな」
雪ノ下は、ふふっと笑みを漏らした。
その表情は余りにも柔らかで、麗らかな今日の陽気とベストマッチングである。
が、それも長くは続かない。人生とはそう云うものだ。
一旦俯いた雪ノ下は、今度は素晴らしく良い笑顔をこちらに向けてくる。
これはアレだ。罵倒の前兆だ。
「そうだったわね、ごめんなさい。あなたの場合、生まれた瞬間から不幸が始まっているものね。軽率だったわ」
「いや今の発言の方が軽率だからね。俺だけでなく関係各所に」
* * *
「……」
鞄の中をごそごそとあれこれ探してみたが、やはりやる事は見当たらない。
古文の課題は数学の授業中に終わらせちまったし、数学の課題は
こうなったら最後の手段、ひとりしりとりでもするか。
「ーー最近、あの彼も自作の小説を持ち込まないわね」
ふと、雪ノ下は呟く。
「ああ、何でも創作活動に行き詰まってるらしい」
「行き詰まる程の活動をしていたのかが非常に疑問なのだけれど」
確かにそうだな。あいつのは創作活動と云う名の模倣、パクリだ。
「私、書物は小説や随筆の類いしか読まないのだけれど……ひとつ物語を思いついたのよ」
へえ、雪ノ下が小説に興味があるとはな。今度材木座にも教えてやろう。接点は出来ないと思うけど。
「ほう、珍しいな。どんな話なんだ?」
本にしおりを挟んで、顎に手を当てる。
「ジャンルで云えば、いわゆる推理物、かしら。小学生の探偵が難事件を解決していくという……」
「またベタな話だな」
うん。昔の作品にも少年探偵団とかあるし。
「まだ話の途中よ。その小学生は、実は高校生が幼児化した男の子でーー」
「ーーはぁ?」
何こいつ。素で言ってるのか。本当に知らないのか?
「……何かしら。余りにも荒唐無稽な設定とでも言いたいのかしら」
「いや違う。逆だ。その話……聞いたことあるぞ」
「あなた、私の才能を羨むのは良いけれど、嘘は良くないわ」
「いや、あるんだよ。マジで」
真面目な顔で返すと、可愛い顔を少し傾げた雪ノ下は、何かを思いついた様に話し始めた。
「では、設定を少し加えるわ。幼児化するきっかけは、悪の組織の取引現場を目撃してしまった時、口封じに飲まされた毒薬が効かずに幼児化してーー」
「こらこらこら」
「ーー何か?」
マジかこいつ。実は毎週サンデー買ってるんじゃないの?
「おいおい、まんまじゃねえかよ」
驚愕の表情を浮かべる雪ノ下に、思わず驚愕する。
「ーー驚いた。既に同じ様な作品があるのね」
「いや、まったく同じ。何ならもう何年も続いてて大ヒットしてる漫画だ」
「漫画は読まないから分からないのだけれど。では更に設定を変える必要があるわね」
でも万が一、こいつが何も知らずにその設定を思いついたのなら、天才かもしれない。
そう思うと、俄然興味が湧いてきた。
「例えば?」
「そうね。例えばだけれど、その小学生の近所に発明家の博士がいて……」
はいアウトー!
「ちょっと待て。さすがにおかしい。本当は知ってるんだろ?」
「何の話かしら。私は少年漫画は読まないと言っているでしょう」
「何で少年漫画って知ってるんだよ」
「たまたまよ。では、ガラリと設定を変えましょう。少年は探偵では無く、宇宙人にしましょう」
おっ、今度はオリジナルっぽいな。
宇宙人ということは、スペースオペラか何かか。
「ほう、それで?」
「外見はほとんど地球人と変わらない感じね。ずば抜けた強さとしっぽがある以外は」
「……へえ」
「少年は、幼い頃に地球に送られてきたのだけれど、与えられた指令と共に記憶を無くしてしまうの」
「……」
「そして、優しいお爺さんに育てられた少年は、拳法を武器に、集めれば何でも願いが叶うと云う玉を集めてーー」
はいそこまで。
「あー、あるなぁ、あるよ、あるんだよそれも」
「そうなの? 世の中って広い様で狭いのね。ではこうしましょう。その玉は、実は神様が作ったもので……」
「だから、まんまなんだって」
「え、ピッコロのくだりも?」
「いるよピッコロも。何なら長きに亘って登場するわっ」
つーか言っちゃった。ピッコロって言っちゃったよ。
「ーーそうなのね。やはり私の様な素人の考えることは、既にプロは考えている様ね。さすがはDr.スランプの作者だわ」
「おいっ、やっぱ知ってんじゃねえかっ」
やばい。ツッコミ疲れてきた。つーか何こいつ。俺で遊んでるの?
「何おまえ、俺を揶揄ってるの?」
「ブルマ、オラからかってねえぞ」
似てねえ。それ全然悟空じゃねえよ雪ノ下。
つーか。
「思いっきり揶揄ってるじゃねーかよっ」
「誰が?」
「お前がっ」
「誰を?」
「俺をっ」
「どうしてるって?」
「揶揄ってんだろっ」
「それをまとめると?」
「お前は、俺を、揶揄ってる」
「ーー正解よ」
だぁーもうっ。やっぱ揶揄ってたんじゃんか。
何なの、何なのこいつ。
わかんない。
わけわかんない。
「ーーじゃあコナンも知ってるんだな?」
「毎週アニメは観ているわ」
ふう、やっと観念したか。いや分かってたけど。
「つーか、何でそんな話をしたんだよ」
その問いに微笑んだ雪ノ下は、片目を閉じて答えた。
「少しは暇つぶしになったかしら」
……くそっ、可愛いじゃねえか。
お読みいただき、ありがとうございました。
今回の話の元ネタは「ウレロ☆未完成少女」というシチュエーションコントドラマの第8話です。
いわば実験ですねw
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