夜の帳が落ち、寝静まった街。
その街に佇む、人気の全くなくなった学校。
その学校の旧校舎の一室には明かりがついている。
一室の中には、数人の男女がおり―――その内の二人だろうか―――口論の声が中から聞こえてくる。
数刻前から始まった口論は、次第に激化し今のように外にまで聞こえてくるようになっていた。
さらに、数分が立ちついには机をたたいたりなど声以外の音が目立つようになり始める。
―――そして
パシンと言う乾いた音が、その部屋に響き渡った。
*********side イッセー**********
……流石に、痛いな。
そう思いながら、俺は左頬に手を当てる。
リアス部長の顔は、本気で怒っている人間の顔だった。
俺はあの後、アルジェントさんを救う為ある程度の準備をしていた。
そこにあったのは、自分だけの意思だけだった。
しかし、そこで木場に捕まった。
どうやら、昼過ぎに風紀委員室に行ったところ居なかったため一日中探してくれていたらしい。
俺は、オカルト研の部室に連れてこられる。
そこで、事の顛末をリアス部長に話しアルジェントさんを助けに行くということを伝えると絶対にダメだと止められた。
それはそうだ、そもそも昨日の夜止められたばかりのことだ。
それでも尚俺は食い下がり、そして平手打ちを食らった……というわけだ。
「何度言えば分かってくれるのイッセーッ!!確かに、相手がレイナーレさんを救う為に倒さなければいけない相手だというのは分かるわ。それでも、今あなたがやろうとしていることは自殺行為よ!!」
部長は、強く俺に言ってくる。
「相手の上の繋がりもッ横の繋がりもわからないッ!戦力だって、全然わからないッ!!そんなところに単身で行ったとしても死ぬのは確実よッ!!今あなたがやろうとしているのは、一匹の蜂が大きな竜巻に突っ込んで行くようなものなのッ!それくらい、無謀な事なのよ」
リアス部長がそう言って怒るのは分かる。
もし、俺が単身で突っ込んでもし何かあれば次に被害があるのはオカ研の面々やレイナーレさんだ。
だとしてもだ、俺は俺の信念に誓ってアルジェントさんを救うと決めているのだ。
「……分かっている。だけどだ、これだけは絶対に譲ることはできない」
―――だからこそ、絶対に譲ることはできない。
「あなたのことだから、分かったうえで行ってるとは思うけどこれは貴方だけの問題じゃないの!私や他の部員、さらには今ここに匿ってるレイナーレさんにだって被害が及ぶことになるわ!主として、眷属を危険に晒すことはできない!!」
「……それは、つまり俺があんたの眷属だから……か?」
「……ええ、そうよ。あなたも私の眷属だからこそ危険に晒したくはない」
……眷属を…“仲間”を大切にしているからこその言葉というわけか…
「だったら……だったらだ。俺個人として、これはやらして貰う。幸いにも、そうなるような道が一つだけあるしな」
「……無理よ、そんな方法あるわけ……」
「いいや、たった一つだけ方法はある………俺がはぐれになればいい」
「「「「「!!!!?」」」」」
俺のその一言で、俺以外の全員の顔が驚愕に染まった。
リアス部長は、その表情のまま机をダンと叩く。
「イッセーッ!!貴方、それがどういう意味か分かっていっているの!!!?」
「ああ、分かっているつもりだ。はぐれはどの勢力からも命を狙われる……つまりどことも無関係になるわけだ。その無関係の奴だったらアルジェントさんを救いに行ける」
「ふざけないで!!貴方は私の大切な眷属なのよ!!!そんなことは絶対に認めないわ!!それに、レイナーレさんはどうするのよ!!」
「あんた達が、本当に優しい人間――いや、悪魔か。悪魔ってわかったからな、きっとあんたらに任せておけば何とかなる。彼女の部下たちも、あいつのところに向かえばきっと救えるからな」
俺はそう言って、リアス部長に向き直した。
おそらく、今の俺の顔は“あの時”と同じ表情をしているだろう。
それくらいの覚悟を持って言っているのだから。
そのままでいると、レイナーレさんが俺に近づいて来た。
「……どうして、貴方はそうやって自分の身を犠牲にする方向で考えるんですか……」
そう言って近づいてくるレイナーレさんの眼には涙がたまっていた。
「………あの時、言ったのと同じだ。これは俺の“覚悟”の問題なんだ」
「だとしてもッ!!……自分が死ぬかもしれないんですよッ!!」
「………死ぬのは怖くない。……俺が一番怖いのは、“覚悟”したことがあるのに達成できず過ぎ去ってしまうことだ」
そう、あの時の覚悟は全く変わっていない。
むしろ、アルジェントさんと出会い新たに増えたくらいだ。
「『レイナーレさん達を守る』、『あいつも倒す』、『彼女も救う』……全部やらなきゃいけない……それが今の俺の覚悟なんだ」
俺は、彼女に向かってそう言った。
そのまま、数秒の間まるで時が止まったかのように部室の中は静まり返った。
それを壊すように、一匹の蝙蝠がリアス部長の元へと飛んできた。
リアス部長は、その蝙蝠から何かを聞くそぶりをする。
「………この話は、一旦お終いよ。大事な用事ができたわ。朱乃……それと、レイナーレさんと一緒に少し外に出てくるわ。その間、貴方はここから一歩も出ないで」
「……話はまだ終わってないぞ……」
リアス部長は、それを無視して数枚の紙を渡す。
「……これ、今日あなたに教えようとしていたものを纏めた物よ。私たちが戻るまでに全部に目を通しておいて。小猫、祐斗はイッセーが外に出ないように監視しておいて。………さあ、行くわよ。レイナーレさんも」
「ええ、分かりましたわ、部長」
「えっ、はい」
そうすると、三人は部室の外へと出ていった。
俺は、少しイライラしながら渡された紙の一枚目に目を向け――思わず笑ってしまいそうになった。
やれやれ、そうならそう言えばいいのに。
「……どうしたんだい、兵藤君」
俺の変化に木場が気付いたのか声をかけてくる。
「いやなに……これを読めばわかるさ」
「どれどれ……ッ!なるほどね」
木場に、その一枚目を読ませると何か理解したような顔になった。
「……どうしたんですか?」
その木場の反応に、興味を持ったのか塔城さんも近づいて来た。
「ほら、小猫ちゃんも読んでみて」
「………お借りします………ッ!!…あのこれって」
そう言って、塔城さんは俺のほうに顔を向けた。
「……塔城さんが、思ってる通りだよ。やれやれ、俺達の部長はもともと戦いに行くつもりだったんだな」
俺は、塔城さんの持っている紙に目を向ける。
その紙には、
『この、駒王町は私達グレモリーが納めている土地。その土地で、堕天使(レイナーレさんを除く)が好き勝手に暴れていることはこちらの侮辱に値する。だから、次に堕天使が行動を起こした時には即座に戦闘という行動でここがグレモリーの土地だという事を分からせる』
と書かれていた。
俺はそれを再認識した後に、座っていたソファから立った。
「……行くのかい?」
「……木場、止めてくれるなよ。ここまで、お膳立てされているんだ行かないわけにはいかないだろ?」
「……そうだね、でも一人は無謀さ……だから、僕もついていく」
……まさか、木場がそう言ってくるとは思わなかった。
「いいのか?」
「うん。多分、僕たちをここに残した理由は“兵藤君のことを止めろ”ではなくて“兵藤君のことを助けて”だと思うから。この文で、それがはっきりと分かったよ。それに、レイナーレさんは覗くけど個人的に堕天使とか神父好きじゃないんだ。憎いほどにね」
……こいつはこいつで、腹に何か抱えるものがあるんだな。
今は聞く気にはなれないがな。
そうやって、木場とやり取りをしていると塔城さんがこちらを見る。
「……私も行きます」
そう言いながら、塔城さんは胸のあたりで拳を作った。
「いいのか?塔城さん」
「……たった、二人じゃ戦力不足です。……さっきの木場先輩と同じですが、私もついていくために残されたと思ってますから………」
「そうか、だったら……行くとするか」
俺は、先ほど三人が出ていったドアに手をかける。
「兵藤君、堕天使のアジトに心当たりはあるのかい?」
「ああ、大体の目星はきっちりついている」
俺たちはそう話しながら旧校舎から外に出る。
きっとやつの根城はあそこだろう。
この街にたった一つだけある廃墟となった場所。
アルジェントさんが、この街に来た時に目的地にしていた場所。
「町はずれの廃協会、たぶん奴はそこにいる」
*********side リアス**********
私と朱乃、それにレイナーレさんの三人はある場所に向けて文字通り飛んでいた。
さて、イッセーはあの一枚目をちゃんと読んでくれたかしら。
もし、諦めて大人しく待っているとしたらそれはそれで眷属を危険な目に合わせなくて済む。
でも、彼はそれをよしとは
「しないでしょうね。きっと……」
「部長、どうかなさいましたか?」
……どうやら少し口に出ていたようだ。
「いえ、何でもないわ」
そう言って、私は向かっている方向を見据える。
「あの……ところで今どこに向かってるんですか?」
レイナーレさんが、そう私に問いかけてくる。
「そうね……一足先に、彼の“覚悟”…その内の一つを達成しようと思って」
そう言いながら、私たちが降り立ったのは廃協会近くの森の中。
そこには――
「ッ!!カラワーナ!!ミッテルト!!」
――虚ろな目をしてこちらを見る二人の堕天使―――イッセーとレイナーレさんが言っていたドーナシーク、奴に操られたレイナーレさんの部下たちがいた。
その二人は、その虚ろな目のまま光の槍を取り出しこちらに構える。
「……レイ…ナ……レサマ……ニゲ……テクダ……イ」
「……ウチ……ラ……ハ…ダイ…ウブ…ッス……カラ」
ッ!!あんなにもひどい状態なのにまだ自我が残っている。
「レイナーレさん、貴方かなり愛されてるわね」
「……はい、大切で……信頼できる部下ですから」
「ウフフ、それでは今の地獄のような状態から救ってあげなくてはいけませんね」
朱乃が言う通りね、早く助けてあげなくては。
もう、精神的な物がボロボロの状態だろうから。
「もはや呪いみたいねものね……朱乃解呪任せるわよ?」
「ええ、一刻も早く……救いだしてさしあげましょう」
「レイナーレさん……部下と戦うのは心苦しいかもしれないけど……ちょっと手伝ってくれるかしら?」
「……ええ、早く二人を助けて……それで、イッセーさんも助けに行きましょう」
……どうやら、ばれていたらしい。
朱乃もこっちを見ているし。
……イッセー、やるからには絶対に救いなさい。
その上で、我が物顔でここで好き勝手にやっている奴を全力でぶっ飛ばすのよ?
私は、そう思いながら彼女たちのほうに駆け出す―――彼女たちを救う為に。
to be continued→
ED YES-Roundabout
いかがだったでしょうか、第十話。
こんにちわ、「半クラッチは生の感触に触れないとやり方を忘れる」略して半生です。
まさかの、二日連続投稿です。
明日バイトなのに、深夜に何をやっているんでしょうか。
さて、ここまでこれましたね。
もう、多くは語りません。
果たして、ブチャラティ――いえ、イッセーはアーシアを救うことができるのか!
最終回ぽいけど、これ、原作的に見るとまだ一巻ですよ。
それでは、また次回もお楽しみください。
しーゆーあげいん、BYEBYE!!
感想、批判、誤字修正、ベネ!!―――お待ちしております。