「…超知らない天井です。………そういえばここは御門の部屋でしたね」
目を覚ますなり何やら某汎用人型決戦兵器に乗っている少年のようなことを口走った絹旗。昨夜から御門北斗の部屋に(北斗によって無理やり)住むことになった少女だ。結局、住む場所については諦めたのか、出ていく機会を窺っているのか一先ず厄介になることにしたようである。なお、ここは絹旗に与えられた部屋であり12畳程とそれなりの広さがある。
「まったく。お風呂だけでも超一杯一杯なのに一緒に寝ようだなんて無理に決まってます」
溜息をつきながら誰に聞かせるでもなく愚痴を吐きだす。一緒にお風呂は避けられなかったが、どうやらその後に誘われた一緒に就寝は避けられたようである。
「けど誰かと一緒に入浴するなんて研究所の洗浄以外では初めてでしたね……案外悪くないかもしれません。まぁ男と一緒なのが問題なんですが」
昨夜は恥ずかしさやらなんやらでパニック状態に陥っていたが冷静になればどこか感じ入るところがあったようである。もっともパニックの一因には衝撃的なものを見てしまったせいもあるだろうが。そのあたりは普通の年頃の女の子といったところだ。
「御門もこの世界にいる割には見た目ほど悪い人間でもないようですし……兄がいたらあんな感じだったんでしょうか。…一緒に寝るくらいならしてあげてもよかったかもしれませんね」
「なら今夜からは一緒に寝るか、妹よ」
独り言のつもりで本心を曝け出していたが、突然聞こえた声に思わず固まってしまう。ぎぎぎっと錆びて壊れたロボットのように振り向いた絹旗の眼に映ったのは部屋の扉にもたれかかった北斗の姿。さすがに自宅ではスーツ姿ではなくスウェットを着ている。
「…いつから聞いてたんですか?」
「超知らない天井です、からだな。起こしに来たつもりだったんだが、ともかく新しい生活を気に行ってもらえたようでなによりだ」
「起きた時には確かに部屋に誰もいなかったのに!?」
全て聞かれていたと知り、羞恥で顔を紅潮させる。絹旗最愛一生の不覚である。
北斗はそんな絹旗を眺めて楽しんでいるようだ。
「部屋の外で聞いてた。それ程薄い壁ではないが、能力のちょっとした応用だ」
「能力の超無駄遣いです!」
「別にいいだろ。それより朝食にするから顔洗ってこい、寝癖がついてるぞ」
「超洗ってきます!」
さすがに寝癖がついている姿を見られるのは嫌なのか、頭を押さえながら急いで洗面所に向かう。しっかりと見られてしまったのだしもう遅いような気がするが、それを口に出すのは無粋だろう。慌ただしく駈けていく絹旗の背中に北斗が声をかける。
「ああ、言い忘れていた。おはよう最愛」
「…おはようございます(名前で…)」
名前で呼び捨てにされた絹旗だったが不思議と嫌な感じはしなかった。そのことに内心首を傾げながらも絹旗は速やかに寝癖をなおすために洗面所に走って行った。
「「「ごちそうさまでした」」」
全員揃っての朝食を終え、今は食後の休憩中の三人。三人とも学校には通っていないので、仕事さえ入っていなければ朝でも余裕がある。
「なかなか美味しかったです。それにしてもアナタはいつも御門の膝の上で食べているんですか? やっぱり超子供ですね」
「なんだぁ? 絹旗ちゃんってば羨ましいのかにゃーん?」
「べ、別に羨ましくなんか超ありませんから!」
「その反応は怪しいねぇ。言っとくがここは私の定位置だからな」
「だから違いますって!」
黒夜をからかおうとした絹旗だったが、逆に黒夜にニヤニヤとした意地の悪い顔でからかわれ顔を真っ赤にしていた。おそらく先ほどの独り言を聞かれたせいで変に意識しているせいだろう。それとも本当に羨ましかったのだろうか。
「二人とも仲良くしろよ。ところで最愛は今日なんか予定でもあるのか?」
「今日は仕事も無いんで映画でも見に行くつもりでしたけど……それがなにか?」
突然自分の予定について聞かれたため訝しげに答える絹旗。黒夜にいじられたせいで少し機嫌が悪くなっているようだ。
「いや、オレ達も今日は暇でな。差し支えなければついて行ってもいいか?」
「別にいいですけど私が見るのはC級映画なのでアナタ方には超つまらないと思いますが」
「暇つぶしなんだから構わないさ」
「私は北斗が行くならついていく」
「それに意外と面白いかもしれないしな」
「そうです! そもそもC級映画というのは………………………」
着いて来ると聞いて迷惑そうな顔を浮かべていた絹旗だったが、興味を持ったと知った瞬間、なにやらC級映画について語りだした。それを聞く二人は少し引き気味である。ともかく三人は映画を見に行くことになった。
現在三人がいるのは第七学区にあるとある映画館。少々入り組んだ所に建っており、立地条件はそれほどよくないのではないだろうか。上映開始まで間もないというのに映画館の中に客の姿はなく、北斗達三人しかいない。
「…ずいぶんと空いてるんだな」
「いつもこんな感じですよ」
どうやらこれが通常の営業状態らしい。この状況でなぜ営業し続けていられるのか。もしかすると絹旗のようなもの好きが寄付でもしているのかもしれない。
「なあ北斗、ポップコーン買っていいか?」
「オレが買ってくるよ。最愛も食べるか?」
「じゃあ塩味で。キャラメルなんてのは超邪道です」
「オレはキャラメル好きだけどなー」
ポップコーンと飲み物を買ってきたところでちょうど映画が始まった。どうやら日本を舞台にした恋愛モノらしい。しかし出演者は全員外人であり、無駄に多国籍である。オープニングを見る限りはなかなか良さそうな雰囲気だ。
~十分経過~
「(超流石です。やはりC級はこうでなくては)」
「………(なんでホラーでもないのにヒロインがいきなり幽霊と戦ってるんだ? しかも巫女服を着ときながらロザリオを連射する銃とか……両サイドにケンカ売りすぎだろ)」
「…ふみゅ……北斗…そこはダメ………」
「(何の夢見てるんだ)」
映画は急展開をみせており、絹旗は楽しんでいるようだが北斗はついていけていない。黒夜にいたってはすでに夢の中だ。
~三〇分経過~
「……………(恋愛って幽霊同士のだったのか!? 落ち武者の霊とか説明されてたが……何故に落ち武者ヘアーの板金鎧)」
「……北斗ぉ……ベッドの上でじゃなきゃ嫌……」
「(映画より寝言の方が超気になります)」
意外に集中して映画を見る北斗。絹旗は映画よりも黒夜の寝言の方が気になるらしい。
~一時間経過~
「……………(幽霊が巨大化した!? しかも戦闘機とバトルしてるし………………幽霊合体ってなに!?)」
「……自分で動けだなんて……」
「(やはり二人は超そういう関係なんですかね)」
どういう発想で作ったのかと戦慄する北斗。黒夜は危険なことを口走っており、絹旗はなにやら思案顔だ。
~映画終了~
「突っ込み所が満載だったな…」
「…よく寝た」
「駄作でしたね(寝言が気になって映画どころじゃ超ありませんでした……私もあんなことされてしまうんでしょうか)」
結局まともに映画を見ていたのは北斗だけだったようだ。黒夜はまだ眠そうにしており、絹旗にいたっては映画そっちのけで妄想でもしていたのか頬がほんのり紅潮している。
長編の映画だったため、これから帰ればちょうどいい時間帯になるだろう。
「じゃあ夕飯の材料でも買って帰ろうか。何が食べたい?」
「北斗が作るものなら何でもいい」
「食べられるものなら何でもいいです」
「ならオムライスでも作ろうかね」
二人の手を引きながら歩いていく北斗。絹旗がなにも反応していないが、彼に絆されてきたのかもしれない。
本人は引率でもしている気分なのだろうが傍から見ればいたいけな少女を連れ去っていこうとしてるようににしか見えなかった。
夕飯も食べ終わり三人はそれぞれ思い思いに過ごしていた。なお、どうでもいいことだがオムライスにはケチャップでそれぞれの名前が器用に書いてあったことを追記しておく。
「さて、オレはちょっとやることがあるから少し外すけど、オレがいなくなったからって二人ともケンカするなよ?」
「それは絹旗ちゃん次第だな」
「しませんよ」
「ならいいんだけどな」
二人に冗談めかしてそう告げた北斗はケータイを片手に自室へと入って行った。この部屋は北斗以外は例え黒夜であろうとも入ることを許されていない完全なプライベートルームである。
そして残された二人はというと…
「「……………」」
ひたすらに無言だった。今まで会話が成立していたのは北斗が間に入って緩衝材になっていたからであり、むしろ二人だけでは険悪な雰囲気すら漂っている。
そんな中、絹旗が意を決して話を切り出す。
「ひとつ聞きたいんですが……アナタと御門はその…そういう関係なんですか?」
「あん? ああ、ヤることはヤってんな。だけどお前が思ってるような恋人って関係じゃないぞ」
目も向けずにどうでもよさそうに返答する黒夜。北斗の前以外で慣れ合うつもりは皆無のようだ。
「恋人じゃない?」
「私は北斗の所有物だ。アイツの望みを叶えるためだけに存在している。だから北斗が殺せと言えば殺すし、死ねと言われれば死ぬ」
「所有物……御門はそんなこと望んでいません! 私たちを会わせたのだってアナタに自分以外の人との関わりを持ってもらおうと…」
あんまりな言葉に思わず声を荒げて反応する絹旗を遮って黒夜が雰囲気をがらりと変えて喋りだす。先ほどとはうって変わり、鬼気すら漂ってきそうである。
「お前に北斗の何がわかる。北斗がそう言うなら他人とも関わるさ。だけどそんな優しさだって北斗の一面に過ぎない。北斗は私の全てだ、このどす黒い真っ黒な『闇』の中でなお暗くて深い唯一の存在。私を引きこんで離さない深淵の君、茨の王。私が吸い殺されて枯れ落ちるまでこの命は北斗のためだけに在る」
「…………」
「それに勘違いしてるようだから言っておくが北斗も暗部の人間だぞ? しかも『
「……そんな…」
北斗のことを語る黒夜はまるで自らの信仰する神を称賛する時のようなぞっとする異質な気配を醸し出している。目を爛々と輝かせながら絹旗の瞳を覗き込む。
「私はそんな愛でも構わない。物として見ていようが
「………………私は………」
「お前も北斗に
自分とお前は同類だと、同じ存在だと断言する黒夜。例え姿形が違うともその本質は変わらないのだろう。傲慢な物言いでありながらその言葉は絹旗にとってどうしようもなく正しく聞こえる。
「……確かに私が彼に惹かれてるのは認めます。私たちの気が合わないのは同族嫌悪の面が大きいからでしょうからね。それで? それを知った貴女は私をどうするんですか? 邪魔者として殺しますか?」
「いいや? 私は別に北斗に女が増えようと気にはしないさ。ただ北斗に害を成すようなら排除するがな」
「超肝に銘じておきますよ」
こちらも負けじと慇懃無礼に返す絹旗。しかし黒夜も負ける気はないようだ。
「まぁそんな貧相な体じゃ北斗を満足させられないだろうがな」
「そんなことはまだしませんよ! それにあなただって私とほとんど変わらないじゃないですか!!」
「私はテクニックがあるからいいんだよ」
「それくらいちょっと練習すれば超余裕です!」
「どうだかねぇ。言っとくけど北斗は他にも女がいるからな?」
「………え? ……それでも他の女には負けません!!」
「まぁ頑張れよ(何が惹かれてるだ。完全に惚れてるだろ)」
自覚はないようだが傍から見ればもうべた惚れだ。男という点に関しては黒夜に一歩も二歩も譲っているようだ。
「まずは御門を誘惑するために、さらにワンピースの丈を超ギリギリのラインにしなければ!」
「……もう裸も見られてんだろ…」
果たしてその努力は実るのだろうか。成功の芽は薄いかもしれない。
北斗の自室。入るためにはパスワードはもちろん、静脈認証や網膜認証、生体認証まで必要であり、核シェルター並みの強度を誇る、例え建物が倒壊しようともこの部屋だけは無事に残るという特殊な部屋だ。当然、盗撮や盗聴などの防諜は完璧である。そこで北斗は携帯電話で誰かと話をしていた。
「ああ、わかっているさ。もう近くまで来ているんだろう? ならアンタのためであろうともやってやるよ。そもそもアンタがいなければオレは生きていけないんだからな。アンタがオレに何を期待しているのかは知らないが無様に踊ってやる。今は、だがな」
険悪とも呼べる態度で電話相手と話していた北斗だが用件は済んだのか電話を切り、天井を見上げる。その眼はここではないどこかを見ているような遠い目をしている。
「時は満ち、物語がの開始を告げる鐘が鳴り響く。そして『プラン』は進んでいく、か。……何を企んでいるかは知らないがオレには関係ない。この世界に生み出された時からオレはオレだけのために生きていくと決めたんだ」
自分自身に誓いをたてるその呟きは誰にも聞かれることなく闇の中に溶けていった。
オマケ~あったかもしれない話Take2~
「そろそろ寝るか。最愛、一緒に寝るか?」
「そ、そんないきなりだなんて心の準備が…」
「残念なお知らせだが私も一緒だよ。絹旗ちゃんは純情だねー」
「なっ!? 初めてが三人なんて……」
「何言ってんだ? いいから早く寝るぞ」
「結局ただ寝るだけなんですね……」
「ん? 物足りないなら抱きしめて寝てやるよ」
「え!? 超待ってくださ……」
「なら私は北斗の背中で我慢するか。今日だけだぞ」
「………(い、息が耳に!? それに手が胸に当たってて……変な気分に…)」
「……(北斗の背中温かいな…)」
「(この体勢寝辛いな……止めとけばよかった)」
~オワリ~
お待たせしました!第五話です!
今回の話はただの日常回かと思いきやシリアスや秘密と見所が満載です!
最後の電話相手とは一体!?
まぁバレバレですよね(笑)
それでは次回もお楽しみに。
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