これは少女にとっての昔とも云うべき話だ。
血筋なのか、それとも少女自身の内面を示唆してるのか、彼女の目付きは幼少の頃から頗る悪く、それに加えてあらゆる事を知り尽くしたいという知識欲という建前の『病気』のせいで常時餓えていた。
この病気のせいで、何にもしなくても恵まれた生活か
保証される家系に生まれた幸運があるくせに、少女はそんな生活すらその知識欲という建前の病気のせいで幸福とは思えず、衝動に付き従うかの如く全てを、家族も兄妹も何もかも棄てて、地獄を求めて外に飛び出した。
当時まだ10歳にも満たない少女の考えとしてはまさしく異常。
地獄を見ることでより理想的な答えを導き出せる――それが少女が見出だした一つ目の答えであり、その為には今の恵まれた環境が邪魔だったのだ。
だから少女は着の身着のままで家から飛び出し、自らその身を地獄に突き落とした。
屋根のある部屋で安眠も出来ず、その日の食べ物の確保すら難しいホームレスみたいな生活すら、素晴らしき答えの為の糧でしかないと自分に言い聞かせて……。
だが、少女にとっては正解だと思い込んでるその選択が果たして本当に正解だったのか失敗だったのか……。
薄汚れた生活をしてやると意気込んだその直ぐ後に少女は出会ってしまったのだ。
『あーぁお前は良いよなー
恵まれた環境に居ときながらクソ贅沢な選択が出来てよ。
名前があるだけまだマシなのに、なぁにが地獄だってんだ……甘えてんじゃねーよボケ』
自分だけがと思っていた更なる地獄を既に経験し、それでも尚死ぬことすら許されなかったとある少年。
年の頃は自分と変わらず、薄い茶髪で顔立ちまぁまぁ整ってるその少年もまた自分と同じで帰る家が無く、更には親も居ないらしい。
そこら辺の虫や雑草で食いつないで生きていたらしく、偶然今日の根城を探してフラフラしてた少女が立ち寄り、これまた偶然彼が根城にしていた
『名前と居場所と両親と――自分という個すら奪われてから出直したまえ。
今のキミはただ単に"地獄が見たい"なんて勝手に意気込んでるだけで、普通に空回ってるクソガキだよ』
何処までも自分以上に異常で、何処までも暗くて、なのに真っ直ぐした目を持つ矛盾した少年に見下された言葉を吐かれた少女は……。
『おい付いて来んなよ。
俺に近付いて良いのは、おっぱいの大きい女子高生以上の女の子だけであって、お前みたいな勝手に一人で世間を知り尽くしましたって思い込んだひねくれた目をしてる餓鬼じゃないの』
『……』
コイツの近くに居れば全部が分かる気がする……その本能に従うかの如く、あからさまに嫌そうな顔をした少年の背中を10年以上も追いかけ続けるのだった。
オレには親友が居る。
その親友とは中学生の頃からの仲であり、普通の気質に隠れた異常に対する異常な執着心が気に入ってツルむ様になった。
私を
その結果……その親友は所謂改造人間になった。
オレが常に間近で見ていた"アイツ"の異常を通り越した身体能力を参考にして作り上げたオレの大好きなその
「そら、調整が終わったぜ古賀ちゃん」
「ん~ ありがと名瀬ちゃん!」
オレには"アイツ"みたいな身体能力は無い。
地獄を知るために全てを捨てたつもりだったのに、結局はアイツにおんぶに抱っこだった。
だからなのか、オレには不可能だった事をこの親友に自己投影として託したのかもしれない。
まあ、この親友こと古賀いたみに施した改造でも"アイツ"の億分の1未満なんだが……。
「よーっし! 今日こそ私と名瀬ちゃんの親友パワーで彼を倒しちゃうもんね!」
「…………」
名瀬妖歌……それが今のオレの名前。
栄養ドリンクを飲みながら意気込む古賀ちゃんを無言で見つめながらオレは名瀬妖歌として今はアイツを引き続き追い掛けている。
オレ以上に異常で、オレ以上に最低で、オレ――いや誰よりも人間としての枠を外れた生粋の異常野郎。
オレが見ようとしていた地獄を鼻で笑って小馬鹿にし、オレがその為に全てを捨てたという話も鼻で笑って見下しやがった女好きの変態野郎。
顔とスタイルの良い女の前では只のバカになる分かりやすい性格してやがるくせに、その真の内面だけは未だに読めないムカつく野郎……。
「襲撃・ライダーきーっく!!」
「んぁ? うるしゃい――――ぶっべらぁ!?」
「………………」
霧島一誠……。
戸籍が存在しない異常者野郎。
それが腹立たしい程高い壁として立ちはだかってくれる――オレにとっては最初で最後の『同類』であり……。
「な、何事っ……いっででででで!?」
「ライダー腕十字固め!!」
「よぉ一誠くん。
今日もお前の大好き巨乳女の子が二人も遊びに来たぜ?」
汚かろうが生き続ける貪欲さをオレに叩き込んだ親友以上のナニかであり、只今
「よーし古賀ちゃん、そのままキメてろ、その内にオレがコイツの筋繊維を解剖して調べて――」
「図に乗ってんじゃねーぞ……このボケ共がぁぁぁっ!!!」
「うっ!? か、肩の関節を――ぎゃん!?」
「っ……古賀ちゃ――ぐぅ!?」
そして今日の襲撃も、滞りなく大失敗したぜ。
「カエレ」
「「……」」
ある程度成長したお陰で社会的信用をある程度得られる年齢までになったアイツこと一誠が、今生活してるマンションの部屋にオレと古賀ちゃんは暇さえあれば襲撃してるんだが、ほぼ100%の確率でその襲撃は失敗する。
コンクリ程度の強度なら余裕でぶち壊せる腕力を持つ古賀ちゃんの関節技を意図も簡単に外した処か、即座に反撃して沈められ、今日も仲良く頭に一発貰って床に正座をさせられてしまうのも最早御約束って奴だ。
「ま、また負けちゃったよぉ名瀬ちゃん……」
「仕方ねーよ古賀ちゃん。
一切顔色を変えずに、腕と肩の関節外して古賀ちゃんの技から抜け出す様な奴だ……今度は腕を引きちぎる勢いでやらねーとな」
「う、うん……頑張るよ!」
「………。反省の色がまるで見えず、それどころか腕を引きちぎるとかふざけんなしバカ野郎」
ヒクヒクと口の端っこを痙攣させて怒りを抑えながら、襲撃失敗の反省会を古賀ちゃんとしてるオレを見る一誠。
当然の事ながら、既に正座なんてしてないというか、反省の色なんて見せた事なんてオレも古賀ちゃんも無いのはコイツもよーく知ってる話だ。
「ハァ……。
折角おっぱいハーレムの夢を見ていい気分だったのに、全部お前等のせいで台無しだぜ」
「……」
「わー相変わらずそればっかだね」
どうやらコイツにとっては天国みたいな夢を見て、それを邪魔された事に不満があるらしいので……。
「ザマァ見ろばーか」
取り敢えず普段からオレと古賀ちゃんはコイツにおちょくられてるので、その恨みをちょっとくらいは晴らそうと、包帯で隠した顔のまま口元を歪ませて煽ってやる事にした。
すると一誠はオレの煽りを耳にするや否や……。
「ケッ、そんな見え透いた煽りには乗らねーぜ、この似非シャイガールめが」
逆にオレの考えを見通してますと言わんばかりの半笑いな笑みを見せてきやがった。
ヤバイ……凄いムカつく。
「おしとやかで巨乳なおんにゃのことは未だに仲良くなれず、知り合いと言えば電波で精神マゾな包帯女と見た目以外はマウンテンゴリラな女…………マジで人生って儘ならねぇよな」
ハァ……とわざとらしく落胆したため息を吐きながら口調とは裏腹に小綺麗に掃除の行き届いてるリビングで勝手に寛ぐオレ達を罵る一誠だが、そう言ってる割りにはオレと古賀ちゃんに茶を出す辺り、昔から律儀な面は変わってない。
「オメーがさっさと箱庭学園理事長の申し出を受けて十三組に入れば、家までわざわざ押し掛ける真似なんざしねーよ」
「そーそー! 理事長に言われて唯一交遊関係が深い私と名瀬ちゃんがこうして直接フラスコ計画にスカウトしに来てるのに、イッセーくんはいっつものらりくらりなんだもん」
……。そうで無くても襲撃なら毎日するがな……。
そう内心呟きつつ、一誠からぶっきらぼうな態度で出された茶を古賀ちゃんと飲みながら話すと、その一誠はあからさまに嫌そうな顔になっていた。
「またその話か。
嫌だね、お前等含めて『変人集団でございます』なグループに入ったらモテる気が益々無くなるぜ」
だからパス。
あの理事長に言っとけ、普通の巨乳美少女10人のグループ作ってくれんなら考えても良いが…………ぐぅぇへへへ! とドスケベな顔して言い切る一誠にオレも古賀ちゃん呆れてしまう。
オレ達が通う箱庭学園は一見すれば単なる人数が多いマンモス校に見えるが、その裏ではオレや古賀ちゃん――そしてこの一誠が見せる人としては異常なナニかを解析し、ゆくゆくは天才を量産させるという理事長のエゴ丸出しな計画と研究を日や続けている秘密結社みたいな高校だったりする。
んで、その計画に参加する条件として分かりやすく一組から十三組の中の十三組所属の生徒のみが可能であり、オレと古賀ちゃんは十三組に一応所属しているのだが……。
「お前等の言う
つーか、テメー等の事を
この一誠は本来なら文句なしの十三組で
今だってオレと古賀ちゃんという十三組を見ながら『姿もアブノーマルだしよ』と軽く小馬鹿にしてきやがるし。
「テメーに比べたらオレと古賀ちゃん――いや
「そうそう! 加えて王土センパイが対抗意識燃やしちゃって大変なんだからね?」
「王土? あぁ……あのサイヤ人みたいな髪型したセンパイさんね。
そんなのに対抗意識燃やされても……嫌すぎるわ」
俺様王様な十三組の先輩の話を古賀ちゃんが出した途端、さっき以上に嫌そうな顔になる一誠の異常性はまさしく異常でも取り分けトンでる。
さっきの王土って人……つまり都城先輩の人身支配の異常性を真正面から受けてもヘラヘラ笑いながら『スーパーサイヤ人でもめざしてんすか? かっけーっす(笑)』と煽るわ、高千穂先輩の異常な反射神経からくるオートパイロットも真正面から『ウィィィィィ!!』なんつーどっかのレスラーみたいな奇声を発しながらラリアットで迎撃するわ……。
いっそオレがその場で解体して調べ尽くしてやりてーほどにコイツの異常は異常だったりしやがる。
「奇人変人より普通の女の子だわ。だいたい、この前見た平戸ロイヤルっつーのは何なん? 意味不明過ぎんだろ……目を覆ってる布ひっぺがしたら意外とアリな顔してたけど」
「うわ、イッセーくんってばサイテー」
「女子の衣服ひっぺがすとかレイパーだサイテー」
「服じゃねーよ! 目元を隠してた手拭いみたいな布だっつーの!」
今でこそ思うが、だからこそオレはコイツを追っかけて来たんだと思う。
仮想検体名『
それが一誠の異常性を唯一言葉にするものだ。
まあ、学園側や古賀ちゃんにすら内緒にしてる話で、昔コイツが死にかけていたオレを『死にかける現実を否定して超健康な幻想に逃げる』とか呟いた途端、本当に何事もなく復活させたという、ゾッとしないエピソードが唯一の手掛かりだったりするがな。
「十三組に入れば登校義務も無いし、フラスコ計画に協力したらお金がガッポガッポなんだよ?」
「おあいにく様、餓鬼の頃と違って金に困ってる事は無いし、学校に通うのが楽しみな俺に登校義務無しの条件出されても意味ねーぜ」
「なら、これからも襲撃はやめられねーな。理事長に言われてる以上こっちもオメーを勧誘し続けねーとならねーし」
傷や病気を一瞬で他人のだろうが消すという、説明がまったく付けられない異常性と、もうひとつ……古賀ちゃん曰く『戦ってるとドンドン強くなって結局は叩き潰される』という異常性。
どちらかが一誠が持つ異常性を応用したのもなのかは知らないが……コイツを知ることでオレの欲が満たされていくのは間違いないのでこれからも付きまとわせて貰うし、正体を知るのはオレだけで良い……。
「あーぁ、試験パスで入れてくれるって話にホイホイ乗るんじゃなかったぜ……。
まあ、普通科の女の子は皆可愛いから悪くねーけど」
「む……それしか言わないけど、私と名瀬ちゃんは可愛いと思わないの?」
「はぁ? ……ふへ!一人は小学校の高学年前に素顔を隠し始めた似非シャイガールで? 一人は中学の頃にいきなり『私を滅茶滅茶にして!』とか教室のど真ん中で呑気に読書してたコイツに言った痴女スタイルの女だ?
ふっはっはっはっ、いくら作りが良くても無いわ……いや、ありえねーわ」
オレの人生観をねじ曲げてくれた仕返しは絶対にしてる……。それが今の生きる理由だ。
霧島一誠
血液型:rh-AB型
所属:箱庭学園二年二組
備考:十三組面子からも更に異常者扱いされてるかつての兵藤一誠。
これは、全てを失いその世界から身を消したつもりが別世界で生きる嵌めになった少年と、その少年にシンパシーを感じて付いてくる、自ら全てを捨てたつもりの包帯ガールと親友の改造人間少女との日常……。
「んな話はどうでも良いとして、つー訳で今日も襲撃を失敗したオレ達の脳天に一撃寄越せや一誠」
「え゛? わ、私は嫌だよ名瀬ちゃん……」
「ん……ならオレだけで良い。失敗した報いは古賀ちゃんの分までオレが……」
「いや待てよくじら――じゃなくて妖歌さんよ。
毎度俺にお前を殴らせる意味はなんなん?」
「深い意味はねーしこちとら戒めのつもりだけだから早くしろ、出来ればキツくてズキズキと脳細胞をぶち壊すというか頭蓋骨が陥没するほどの一発いや二発くれや 早く……速くしやがれ!」
「………。いやごめん、そんな脳天こっちに向けてスタンバられても嫌なんですけど」
「な、名瀬ちゃん……」
終わり
オマケ・サイコロテスト
理事長曰く、異常な人間は日常の何気無い所にもその性質が出てしまうとの事らしく、それを簡単に見分ける方法として『複数のサイコロを同時に振る』というモノがある。
「サイコロォ? また理事長の遊びかよ」
「常に異常性が変質してる一誠は1度や2度調べても意味が無いからな。十三組に入る気が無いんならせめてこれくらい協力しろや……可愛い幼馴染みの願いだオラ」
「腐れ縁じゃアホ……ったく、仕方ないのォ……」
十三組に入らずとも、コイツをある程度調べる方法はある。
恐らく理事長も唯一一誠と繋がりがあるオレと古賀ちゃんを毎日仕向ける理由もこれであり、何だかんだオレと古賀ちゃんの頼みなら律儀に付き合う。
「そーらよ……ったく、サイコロなんて同時に振って良いことなんてないのに……」
ブツクサ良いながらも渡した6つのサイコロを物をどかしたテーブルの上に軽く振り、それぞれ音を立てながらサイコロが散らばるのを全神経を張り巡らせて観察するオレと古賀ちゃんは、確かに"6つのサイコロ"がテーブルに散らばるのを見たつもりだった――
「げ……今日は1個消えるのかよ」
「……!」
「え、うそ……!?」
確かに6つあった筈のサイコロが、5つだけになってテーブルに……しかもその残りの5つ全てが積み重なってるのを見てしまえば、上には上の
「え、1個どこ!?」
「縦にサイコロが積み重なるのもそうだが、一つ消えたってのがまたありえねーな……マジで変態だぜお前」
「るせっ! オメーの格好よりマシじゃ!」
これまでオレも含めて理事長の遊びに付き合ってる奴を何度も見たが、振ったサイコロが消失するなんて結果はコイツだけだ。
ほんの一部でこれなんだし、全貌はまさに変態と言えるに相応しき
「異常だろうが過負荷だろーが知るか! 俺は俺じゃい!!」
「マイナスって何さイッセーくん?」
「
「ったく、サイコロごときで一々大袈裟に一喜一憂しやがって……クソ暇人共が」
十三組連中との決定的な違いの一つ、異常だろうが自分を一切見失わず、性質に飲まれない強烈な精神力。
これのせいでオレの開発サンプルである異常殺しの薬を投与してもまるで変化が無い。
何だっけか……『薬程度で俺のスキルは消せないな……それが厄介なんだが』と遠い目をして言ってたのが印象的だったな。
「へんたーい! へんたーい!!」
「て、テメェ……なまじ顔とスタイルが良いから俺に何もされないと思ってチョーシこきやがって……!
正真正銘の変態に20円で売り付けんぞボケが!」
「無理だろ、そんな事しても古賀ちゃんならその変態をぶっ殺しちまうだろうし」
それを考えると、一誠は自分の異常性に飲まれては無いが抜け出せては無いっぽいんだよな。
本人はそれを含めて『それすら利用して人生楽しく生きてやる』と割りきってるから、結局は抱き込めずに厄介なまんまなんだけど。
「サイコロテストは終わりにして、さっさとオレを一発シバキ倒すテスト始めろよ。
腹パンだろうが何だろうがテストの為だし仕方なく受けてやるからよー」
「変態はテメーじゃねーか!」
「ごめん名瀬ちゃん……ちょっと引くよ……」
しかしそれでも未知の塊で、オレに毎度毎度決定的な挫折を味合わせる唯一の男な事に変わりは無く、出会ってからずっとそれは変わらない。
だからこそオレは一誠に拘るんだよ……。
「前に殴られた時のえも知れない気分をもう一度味わいたいだけで、要するに自分を知りたいだけだ。
他の意図はねーよ、だから殴れや一誠よー?」
「アブノーマルって意味ならお前が最強だわ……。
というか何時からこんなマゾっ子になったんだし……」
「私が名瀬ちゃんとイッセーくんの親友になった頃にはこんな感じだったけど……」
「え……じゃあもっと前から? 全く身に覚えが無いんだけど……」
「色々大変なんだよ? イッセーくんに勝つと言っときながら、小さく『どんなパターンで叩き潰してくれるか楽しみだぜ……』――とニヤニヤしてたし」
「引くわぁ……」
常に届かせない壁として前に立つバカ野郎にな。
IF集の整理ですね。