龍帝になれなかった少年   作:超人類DX

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ある意味彼女は現状一誠キラーかもしれない。

※相変わらずの手抜きだけどちょっと付け足した。


過去の古傷

 ぬわー……うぬわー……うにゅわー……怠い。

 今更になって果てしなく怠いぞ。

 

 

「ねぇ、やっぱ断っちゃ駄目?」

 

「後輩の希望をそんな形で切り捨てる辺りが実にイッセーくんらしいとは思うけど、名瀬ちゃんが過負荷(マイナス)を間近で見て研究したいってノリノリだから無理だと思うよ」

 

「ですよねー……うわ怠いよぉ……夏休みになってまで学校行きたくないよー」

 

 

 あんまりにも黒神後輩ちゃんが必死すぎて見てられなくなっちまったもんだから、協力するなんて言ってしまった訳だけど、一時のノリは大変宜しくないよね。

 

 

「ほら学園の敷地内に入るには制服着用が義務だから着替える着替える!」

 

「うー……めんどくせーよ……」

 

 

 古賀に制服の上着を着せられながら俺は思った。

 一時のノリで行動するのはこの先控えてしまおうと……。

 

 

 

 夏休みに入った箱庭学園に生徒は殆ど居ない。

 居ても生徒会戦挙の日を避けた各部活動が練習に精を出しているくらいであり、帰宅部なぞは基本一日たりとも来ないだろう。

 太陽の光がジリジリと照らし、木々に止まったセミが大合唱するそんな学園校舎に設備されている生徒会室内では、夏休み気分で居る者は皆無だった。

 

 

「ほ、本当に霧島先輩と名瀬先輩と古賀先輩が……?」

 

「あぁ……何とか頼み込んでな。

とはいえ、お情けで協力を漕ぎ着けたというべきかもしれないが」

 

「善吉君が謎の復活を遂げてる間にそんな高難易度な事をしていたのねめだかちゃんは」

 

 

 庶務戦に勝利した。

 しかしその代償は書記と会計である阿久根高貴と喜界島もがな――そして協力者である黒神真黒と前生徒会長である日之影空洞のリタイアという、実質書記と会計を放棄しなければならない状況への追い込まれだった。

 

 幸い、毒ハブによって一時心配停止までになった善吉は謎過ぎる復活を遂げ、高貴ももがなも精神的ダメージは深刻なものの命に別状は無かった。

 しかし善吉の様に書記戦と会計戦を二人が出来るかと問われれば、めだかは二人を出すわけにはいかなかった。

 

 故にめだかは自分の持つプライドだ何だを捨てて、唯一自分にまるで影響を受けないどころか楽々と捻り潰せる程の力を持った霧島一誠に協力を扇いだのだが……。

 

 

「もうやだー……古賀ぁ、俺アイス食べたいよー」

 

「子供じゃないだから、終わったら買ってあげるからシャンとする!」

 

「くじらぁ~ ジュース飲みたい~」

 

「昨日ちょっとやる気出したせいで変な反動が始まってやがる。こりゃ出るのは最後の方だな」

 

 

 

 

「なぁ、外から果てしなくやる気の感じない先輩の声が聞こえるんだが……」

 

「…………」

 

 

 外の廊下から近づく男女の声……特に一番当てにしている男の声の物凄いダレた姿の想像できるヨレヨレ声に、善吉とめだかは苦い表情を浮かべてしまう。

 

 

「ほら着いたよ」

 

「帰りたい……家でゴロゴロしながらアイス食べたい……」

 

「駄目だこれ」

 

 

 いたみとくじらに左右から肩を貸され、人間の怠惰な精神をこれでもかと集約した顔で入ってきた一誠を見てもっと顔が歪むめだかと善吉は多分悪くないだろう。

 

 

「よ、よく来たな三人とも……。まずは協力の程を感謝するぞ」

 

「だってさイッセーくん」

 

「うぇー……」

 

「な、なんつーやる気の無い顔だ」

 

 

 何せこの様だ。

 人の中にある行動理念を全て取り上げた様な顔で女子二人に繁華街で調子くれて飲みまくって酔っぱらったリーマンの如く支えられている有り様は、思わず善吉も内心『や、やべぇ……終わったかもしれない色々と』と諦め心まで芽生えさせる。

 

 

「急に朝になったらこうなっちゃてさ、どうも聞いてみると、一時のノリで協力すると言ったのは良いけど面倒になっちゃったみたい」

 

「まあ、こんな状態でも普通に『勝つだけ』なら可能だから何も言う必要もねーぜ黒神」

 

「は、はぁ……」

 

 

 しかし、何とか一誠を椅子に座らせた二人は慣れた様子で言うので、めだか達は信じるしか無かった。

 何せ協力者の宛は最早この三人しか居ないのだから……。

 

 

「あー……うー……? あれ、人吉後輩くんじゃないか。

キミ、重症でおねんねしてたんじゃなかったの?」

 

「あ、いえ。それが俺自身もよくわかりませんけど、気付いたらこの通り動けるくらいに回復しました」

 

「ふーん回復ねぇ? あっそ」

 

 

 そんな訳でめだかによりどっちつかずの三人組の確保を完了し、生徒会戦挙のルールについての説明を受ける一誠達。

 

 

「以上になるが、次の書記戦は八月一日になる。

従ってくれぐれも球磨川達には気を付けて貰いたい」

 

「選挙の支持率争いじゃねーのは予想通りだが、何だかなぁ……」

 

「戦挙のルールはその日引いたカードによって違うらしいから、大まかにしか出来ないの……ごめんなさいね」

 

「どーも」

 

 

 善吉の母親、人吉瞳から目を逸らしながらボソッと呟く一誠は説明を受けてる最中も聞いているのか居ないのか分からん態度だったが、帰ると言わない辺り、一応参加はするつもりらしい。

 後は誰が誰の代理で出るかという話であり、まずは先に行われる書記戦の代理者を決めなければならなかった。

 

 

「単純な戦闘力は古賀さんと霧島君が圧倒的なんだけど、彼等相手だとそれだけでは駄目なのよ」

 

「霧島二年生……そしてくじ姉はその事についての心配は皆無だが、問題は耐性が無い古賀先輩だ。球磨川とまでは行かないにしても球磨川に匹敵するマイナスらしいし」

 

 

 ほぼジョーカー扱いの一誠とどんな相手だろうと関係なしのくじらの二人はめだか達も心配は無かった。

 しかし三人の中で唯一普通から改造されているいたみだけは感性がノーマル寄り故、善吉が球磨川に呑まれるのと同じ災難が振り掛かるだろうと懸念していた。

 なので善吉、めだか、瞳の三人は慎重に誰の代理を頼もうかと考えながら話し合う。

 

 

「だってさ古賀。

お前随分とあの人達に嘗められちゃってるね」

 

「耐性なんて球磨川ってヤローと過負荷(マイナス)が現れてからとっくに付けたんだがな……」

 

「ちょっとムカつく」

 

 

 そんな三人を余所に、部屋の隅っこに固まり、いつの間にかネコババした菓子を頬張りながら一誠達は呑気していた。

 一誠により『どうせ同じ人間だから、何をされようがケロッとしてた方が逆に不意を突けるぜ』といい加減なのかよく分からない持論を叩き込まれたお陰か、以前の球磨川との鉢合わせの時と比べると劇的に彼等に対する心構えが変わっていたりする。

 

 

「霧島二年生に教えを乞うというのはどうでしょうか? 正直云って大分違うと思います」

 

「まあ、めだかちゃんを瞬殺する異次元生命体だからな……アリちゃあアリだけどよ」

「問題は霧島君が了承するかどうかよね。

今だって三人でお菓子食べてのほほんとしてるし……」

 

 

 そんな事実を知らない三人は、重苦しい表情をしながらもぐもぐと自分達が用意した備蓄品を食い荒らしている三人を――一誠を見つめる。

 どうも緊張感が無いというか……めだかからすればあんな気の緩んだ姉を見るのも初めてであり、そしてそうさせるだけの親密度の誇る一誠が羨ましかった。

 

 

「で、俺を書記戦にした訳か」

 

 

 そんな訳で気難しい姉をあんなにも懐かせている一誠に嫉妬をしつつも、話し合った結果。

 一番耐性や対抗策が少ないいたみを副会長戦に添えるという結論にまとめためだか達は、既に勝手にお茶まで汲んでまったりとしていた一誠達に話し合いの結果を伝える。

 案の定、話した途端いたみが顔を顰めてた。

 

 

「うむ、古賀二年生も考えてみれば貴様と一緒に居る時点で耐性も何も無いだろうしな」

 

「俺の扱いが微妙に酷い様に聞こえるんだけど」

 

「所詮代理だし何でも良いが、結局先にやる会計と副会長戦は誰が出るんだよ? オレか? それとも古賀ちゃんか?

オレとしては奴等の研究目的で協力してるだけだし、何処でも構わねーぜ」

 

「書記戦は女の子相手が良いな……。

こう、事故に見せ掛けてダイブとか噛まして……ぬしししし!」

 

 

 ちょっと納得できない表情のいたみをくじらが宥めつつ、残りの二戦の振り分けについてを問う。

 

 横でゲスな笑みを浮かべてる一誠は全員して無視だった。

 

 

「古賀二年生とくじ姉は――」

 

 

 そしてそんな二人の代理役職は――

 

 

 

 

 球磨川禊は予想していた。

 自分が庶務戦でめだか達の気を引いている間に、仲間達が例え阿久根や喜界島や真黒、日之影を潰してしまったとしても、安心なんかありはしないと。

 

 何せ仲の程は知らないが、黒神めだかにはまだ宛が三人ほど居るのだ。

 潰そうにも潰せない厄介な三人が。

 

 特に『嫌な奴』に何処と無く似ているあの男を、もしめだかが仲間に加えたら確実に不利となる。

 故に球磨川は友達になってよと建前で取り繕いながら近付き、遠回しに生徒会戦挙に対する興味と関心を逸らしてきたつもりだったが、やはり甘かったみたいだと球磨川は自分の持つ生まれながらの不運(マイナス)っぷりに笑ってしまう。

 

 

「っしゃあ! やっとやる気出てきたぜオイ!

特盛装備のおんにゃのことキャッキャッ出来るとか最高じゃねーかクソッタレ! ひゃっほぅ!!」

 

「まあ、奴の表情を見るに既に嫌われてるがな」

 

「うん、どうせ終わる頃は変態と言われてサヨナラだね」

 

 

 八月一日書記戦。

 球磨川禊達は不知火半袖を除いたフルメンバーで書記戦に挑もうと箱庭学園にやって来たのだが、そこに居たのはどちらの誘いも蹴っ飛ばして無関係だった筈の霧島一誠、名瀬妖歌、古賀いたみの三人とめだか達だった。

 

 

「『あーらら』『参加しないって言ったのに参加するんだね霧島くんは?』」

 

「あん? って何だアンタかよ。そーだよ、参加の暁には疑似ハーレム体験させてくれるらしいから仕方なくね」

 

「『………』」

 

 

 自分を見ても平然と俗っぽい話で釣られたと宣う一誠は、いっそ清々しい何かを感じたが、これで副会長戦に於ては負けを覚悟しないとならないと球磨川は、書記戦に出る志布志飛沫を呼び寄せる。

 

 

「『志布志ちゃんには酷かもしれないけど』『この書記戦は是非とも"のびのび"と頑張って欲しい』」

 

「まさか彼等が向こう側に付くとは思いませんでしたね」

 

「チッ、だからどっちつかずはさっさと潰してしまうべきだったんだよ」

 

 

 一人女子と戦えるとハイテンションな一誠に、色んな意味で身の危険を感じる飛沫は、既に一誠を蔑んだ顔で睨みながら悪態を付いている。

 女性としての本能というべきなのか、彼女ともう一人の過負荷女子の江迎怒江は、特に何もされては無いものの一誠に対して微妙なる嫌悪があった。

 

 

「はぁ……せめて一発殴ってから滅茶苦茶にしてやるか」

 

「『うん』『その意気だよ飛沫ちゃん!』」

 

 

 だが勝つには何も戦挙を制すだけでは無い。

 結局の所、此処で例え負けても残りを勝つ様に仕向ければいいのだ。

 例えば一誠に負ける代わりに、残りの代理をこの前みたいに参加出来なくするとか……。

 

 

「やーやーよろしくね。俺一誠ってんだ!」

 

「気安く話し掛けるな、アタシはチャラチャラした奴が嫌いなんだよ」

 

 

 勝ちを譲る代わりに一誠を完全にコチラ側に引きずり込むか。

 やりようはいくらでもあるし、圧倒的な不利なんて状況なんて今に始まった話では無いのだ。

 ある意味この件により過負荷(マイナス)達の団結が深まる結果となったまま、審判である長者原なる男の登場により、書記戦は本格的に始まる。

 

 

「書記戦を始めるに辺りいくつかご注意を。

まず今回の代理を勤める霧島様は、仮にこの戦挙に勝利をしても書記に就くのは阿久根様となりますのでご理解のほどを」

 

「へいへい、そんなもんに興味なんざねーんでどうぞご自由に。

つーか、選挙管理委員会ってーとあの抱き枕とアイマスクの委員長の所じゃん。

んだよ、太刀洗ちゃんが出張れよなー……もしこんな状況でも寝てたらスゲー事してやんのによー」

 

「…………。最後の台詞は聞かなかった事にします」

 

 

 長者原融通もまた霧島一誠をある意味で知っていた。

 それは一誠が自分の所属する選挙管理委員会の委員長である太刀洗斬子をナンパしまくってたのを何度も見ては追い出していたから……よーく知ってるのだ。

 

 

「とにかく役職就任についてのご了承をありがとうございます。

では二つ目となりますが、黒神様と球磨川様のお二人は少々前へ」

 

 

 しかしその事を今此処で話すつもりも無く、あくまで代理参加者に対しての振る舞いで通した長者原は、一誠の後ろで古賀と名瀬が無言で一誠の脇腹を肘打ちしているのを目にしながら、球磨川とめだかを呼び寄せ、二人の腕にサッと鎖で繋がれた手錠を嵌め込む。

 

 

「……。これはどういう趣向だ長者原二年生?」

 

「『本当だよ』『わざわざめだかちゃんと僕なんかを縛るなんてめだかちゃんが可哀想だぜ?』」

 

「前回の庶務戦の事がありますので、処置を取らせて頂きました。

ご心配せずとも書記戦が終了次第外させて頂きます。では書記戦参加者の志布志様は、試合形式を決定する為に前回と同じく十三枚のカードからお好きなカードを1枚お引きください」

 

 

 めだかと球磨川を試合以外での動きを抑制させる処置も終え、遂に始まる書記戦の為にカード引く様命じられた志布志飛沫は、あっけらかんとした顔の一誠を軽く睨みつつ、前回の庶務戦で球磨川が引いたのと同じ『巳』のカードを引き、長者原へと渡す。

 

 

「成る程、前回の球磨川様と同じ巳のカードとはこの長者原、志布志様の大胆不敵さに感服致しました。

しかし前回と庶務戦と同じ巳のカードだから毒蛇の巣窟での戦いとは限りませんが……」

 

 

 そう呟きながら巳のカードの裏側を読む長者原はパッと両手を広げながら参加者である一誠と飛沫……そして見学者である全員に向かって宣言した。

 

 

「書記戦は冬眠と脱皮となりました。それでは皆様を会場へご案内します」

 

 

 一誠にとってこれが『目を逸らし続けてきた自分の過去と向き合わされる』戦いとなる事とはまだ知らず、書記戦のルールはこれにて確定した。

 

 

「零下48度の巨大冷凍庫内での戦いとなりますが、今回は完全に相手の意識を奪った時点で勝利となりますので、掛かる時間によっては共倒れも覚悟してください」

 

「だってさ、特盛ちゃん薄着だけど大丈夫なん? よかったら中でバトルなんて止めて暖めてやろうか? 身体で」

 

「死ね半端ヤロー」

 

 

 普通に一歩間違わなくても死ぬかもしれない環境下でのガチンコバトルを前に一誠も飛沫も特に何を思うことなく、ナンパしながらされながらの状態で揃って巨大冷凍室へと足を踏み入れる。

 

 

「やっぱり緊張感の無い人だなあの人」

 

「……。この際目は瞑るべきだ」

 

「『……』『ふふ』」

 

 

 そして少なくとも黒神くじらや古賀いたみは勿論の事、黒神めだかと人吉親子は、この勝負に対して一種の信頼をしていた。

 変態だが滅茶苦茶に強い一誠なら多少遊んでも勝つだろうと。

 

 

 だがしかし――

 

 

「ウガォォァァッ!?!」

 

「っ!? コイツまさか………ひ、ひひひ! オイオイオイオイ、まさかこの手が通用するとはなぁ!」

 

「っ……!? ぐぅ!?」

 

 

 開始の不意打ちすらヘラヘラ笑いながら動じず、それどころか見ていて変態にしか見えないニヤニヤ顔で、飛沫を追い詰めていった一誠は、ほぼ自棄っぱちで使用した飛沫のとあるスキルの応用により、それまで余裕だった表情をガラリと変化させ、頭を抑えながらその場に蹲った。

 

 

「い……ぁ……!?」

 

「散々いじめてくれた礼はたっぷりやらないとなぁ? 霧島センパイよー?」

 

 

 いきなり過ぎる一誠の変化に、それまで呆れてつつも安心しながら観戦していためだか、善吉、瞳は驚愕する。

 一誠が何かに苦しむ姿もさる事ながら、その表情にハッキリと『恐怖』という感情が浮き出ていたのだ。

 

 

「ど、どういう事だ!? いきなり霧島先輩が聞いたこともない悲鳴をあげながら志布志から逃げようとしてるぞ!?」

 

「第一向こうのマイナスは霧島センパイにはあんまり通じなかったじゃねーか! なのにどうしてセンパイが蹲ってんだよ!」

 

「『へー?』『どうやら飛沫ちゃんが自棄っぱちで放った他人の心の傷を開いた力が効果抜群だったみたいだね』『これはチャンスだよ飛沫ちゃん』」

 

「な、なに!?」

 

 

 余りにも唐突なる状況変化に戸惑うめだか達に、それまで静観していた球磨川が冷凍庫の中で飛沫に蹴り飛ばされて転がる一誠を興味深そうに眺めながら、何処か待っていた様に口を開く。

 

 

「『今なら完全にコチラ側に引き込めるかもね』『霧島一誠という隠された過負荷(マイナス)が!』」

 

「っ!? き、貴様まさか先程から黙っていたのは……!」

 

「『んー?』『別に霧島くんに対して何か企んでいたつもり無いよ?』『まさかこうなるとは僕も予想外だったしね』」

 

 

 ニコニコとめだかを片手で叩き潰す筈の一誠が寒さでとは思えない理由でガタガタと震えながら目を泳がせ、冷凍庫内を何とか逃げ回る姿を見つめながら、球磨川の声は更に弾んでいく。

 

 

「『めだかちゃんを楽に捻られる霧島くんを』『異常性を塗り潰す程の過負荷(マイナス)を解放した霧島くんがもし仲間になったのであれば』『僕はその時点でこの生徒戦挙――いや箱庭学園から出ていっても良い』」

 

「な、なに!?」

 

「『いやーめだかちゃんには感謝だよ』『殆ど諦めていた霧島くんとの仲をこんな形で取り持ってくれるなんて』『ありがとう』『キミはなんていい子なんだ!』」

 

「っっ!?」

 

 

 清々しい皮肉を飛ばす球磨川にめだかは顔を歪めた。

 そう、今の一誠は文字通り押せばどちらにも傾く程精神のバランスを崩してしまっている。

 それは一誠を一番見ていたくじらといたみも良く知るところであり……。

 

 

「…………。ねぇ名瀬ちゃんマズいよ。今の一誠くんは夢に魘されて起きた時と同じになってる」

 

「分かってるよ。

チッ、あの女……一誠の触れちゃいけない面を抉って来やがったか」

 

 

 逃れられない忌々しき過去を蒸し返された一誠は、確かに大ピンチだった。

 くじらといたみは挙動不審気味に目を泳がせている一誠を外から見ながら、どうすべきかと全力で考える。

 

 

「ふ、ぁ……ず、頭痛がしやがる吐き気もだ……! クソ、クソが……! 余計な事を思い出させてくれたなこのヤろ――がぁっ!?」

 

「おやおや? ご自慢の異常も使えないのかい? なら安心して皮まで剥いでやれる……なっ!」

 

 

 しかしそんな二人を余所に、一誠は過去の記憶をほじくり返されて嘗て無い程に追い込まれていた。

 

 

「ぐふっ!?」

 

「おいおい、逃げるなよ? 最初の威勢は何処に行ったんだい?」

 

 

 多くのものを求めすぎたから破滅する。

 女の子に悪戯しようものなら自滅する。

 一誠は只今間違いなく相手を軽視してしまった故に罰が当たったのだ。

 

 

「くそ、ちきしょう……! 頭の中にクソみてーな記憶が次々と……邪魔だクソッタレ!!」

 

「おっと、そんな大振りに当たるアタシじゃないな!!」

 

 

 一誠はある意味で何事にも動じない。

 しかしその理由は心の奥に封じてきた過去の記憶から目を逸らしてきたからであり、その記憶という名のトラウマが呼び起こされた今、無限の進化を促す異常性は封じられたも同然だった。

 

 

「ふっ……は……! クソ、野郎のニヤケ顔が頭から離れねぇ……。俺を平然と忘れた奴等の態度が……! 俺を……おレを……!」

 

 

 唯一の穴。唯一の懸念。唯一の弱点。

 それは己自信の拭えない忌々しき記憶であり、霧島ではなく兵藤一誠としての全てを奪われた喪失感こそ彼自身を弱体化させる方法だったのだ。

 

 

 




補足

まあもうネタバレってますけど、他人の心の古傷すらぶち開ける飛沫さんのマイナスこそ、ある意味過去の事から目を逸らして生きてきた一誠を潰せる一番の手なのかもしれない。
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