龍帝になれなかった少年   作:超人類DX

2 / 14
その2

名瀬ちゃん……まあ、そゆことで。


三人の在り方

 正直、自分で勝手に死んだ筈が『似てるようで全然違うこの世界』にすっ飛ばされた事に関しては運が良かったとした思えない。

 

 何のカラクリでそうなったかなんぞ、今でも分からないし今更どうだって良い。

 どうであれあの世界での兵藤一誠は奴のものであり、俺は名前すら失った虫けらか何かなのだ……未練もクソもありゃしないのさ。

 

 霧島一誠――それが俺の今であり、それ以上でもそれ以下でもない。

 俺を奪う奴等は此処には居ないし、俺を咎める煩い連中も居ない自由気ままな生活が出来るって時点でもう十二分だ。

 

 後はそうだな……霧島一誠として良い生活して、良い車乗って、良い女抱けたらそれで良い。

 それ以上は求めない……求めてはならない。

 求めて過ぎて身を滅ぼすなんてオチは真っ平ゴメンだぜ。

 ただまぁ、強いて贅沢を言うならば――

 

 

「マウンテンゴリラでもなければ、わざとダミ声出してる包帯ミイラみたいな奴以外の、もっともっと普通にかわいくて普通におっぱいの大きいおんにゃのことイチャイチャする毎日を過ごしたいですます……」

 

「無理だろ。学園中の女子達がお前を変態だと誰もが思ってる時点で」

 

「うん、十三組の女子だって『アレに無いわなんて言われたくない』とかしょっちゅう言ってるしね」

 

「ま、まだ挽回の余地はあるだろう……多分、きっと」

 

 

 あー……おっぱいにル〇ンダイブかましてぇ。

 

 

 

 箱庭学園二年二組、出席番号7番・霧島一誠。

 一組から十三組まであるクラスの中では『普通科』と呼ばれるクラスに所属してるかつての兵藤一誠は、学年全体……いや学園全体でも女好きのドスケベ男子ともっぱら噂されてる。

 そしてやることなすことが一々壮大なせいで、かの生徒会長・黒神めだかとある意味双璧を成す有名人っぷりだった――勿論、マイナスな意味の割合が多めに。

 

 

「乳が揉みたい……てか吸い付きたい……!」

 

 

 こんな風に、取り敢えず可愛くて胸の大きな女子に目がない発言を授業中だろうが、教室のど真ん中であろうが平然と宣うせいで女子生徒からはかなり敬遠されてしまっているのに気付いてないのか……一誠は普通に残念な思春期男子として君臨している。

 

 

「まぁた言ってら……アイツ馬鹿だよやっぱ」

 

「言わなきゃ言わないで違和感あるけどな」

 

 

 割りと性格は明るくて、本当に女子の嫌がる真似はしないせいで本気で嫌われてる訳では無いものの、それでも平然と下ネタを口にするせいでモテモテ街道からは遠ざかる毎日であり、クラスの男子からは名物君としてわりかし人気があったり無かったりだったりする一誠。

 

 とある風紀委員に目をつけられてボコボコにされても懲りない。

 一部の女子の告発で生徒会に連行されて説教されても懲りない。

 いっそ清々しくも情けないブレなさを持つこの一誠少年はあらゆる意味で目立っており、今日も眠たそうな顔しながらブツブツと女性の胸について夢を膨らませながらニタニタ笑っているのであった。

 

 

「ふわぁ……昨日ゲームしすぎたじぇ……」

 

 

 そんな有名人の一誠少年の日常は、普通科……もしくは特待生(スペシャル)と呼ばれるクラスの女子に手当たり次第にナンパしては玉砕する毎日であり、今日も朝から放課後までに20数名の女子生徒にナンパをして見後に玉砕していた。

 

 

「うーむ、やはりがっついた態度を表に出すべきでは無いのか……?」

 

 

 『ご、ごめん……霧島君はいい人だと思うけど、そういう目では見れないの……』と、遠回しに無理と言われて続けて最早ノーダメージにまでなっていた一誠は、ブツブツと眠気を感じつつもナンパの成功方法について真面目に思案しながらテクテクと廊下を歩いている。

 

 人生面白くを基準に、ほとんど本能的に生きてるせいで性格が実に残念であり、そのせいで女子生徒の殆どからは『悪い人じゃないのは分かるけど、ちょっと……』と思われてしまっており、一誠のナンパ道はこれからも先が長そうであった。

 

 まあ、部活動に所属しない身で女子水泳部の様子をニタニタしながら覗いてたり、女子同士の絡み合いにロマンを感じるという理由で女子柔道部の練習風景をニヤニヤしながら見てたりな毎日を繰り返していればこうもなろう…………と本人が気付くことが無ければ永遠に無理な話である。

 

 唯一互いに何の建前もなく本音トークぶちまけられる二人のトモダチにもそれを言われてるのに聞かない辺りが、彼の残念さをより際立たせてると言えよう。

 とある風紀委員長にぶちのめされても、ヘラヘラ変わらない。

 とある生徒会長に『お話』されても無駄にキリッとした表情で『俺はおっぱいに命懸けだ!』と言い返してこれまた変わらない。

 

 所謂バカの代名詞ともいえる一誠少年の夢見るおっぱいハーレムの道のりは、まだまだまだ先が長そうである。

 

 

 

 

 本日の天気は快晴!

 何時もの様に、親友の名瀬ちゃん専用の地下研究室で改造後の調整を受けた私は、何時もの様に未だ勝てないもう一人の親友であるイッセーくんに勝負を――いや、奇襲を仕掛けたよ! 具体的には時計台の地下にある私達のフロアーにイッセーくんを呼びつけ、扉が開いた瞬間に一撃をお見舞いしてあげる感じでね!

 

 なーんて、このエリアから多少の地の利もこっちにあるし、今日こそは勝ってみせるよ! とか意気込んでいたのは約30分前だったかなぁ……。

 

 

「いだい! いだいよ~!?!?」

 

「おおっと、一誠選手必殺のキャメルクラッチだー(棒)」

 

 

 …………。うん、扉が開いてイッセーくんの眠そうな姿を視認した瞬間、名瀬ちゃんがアフリカ像ですら昏倒する麻酔薬タップリの注射器を沢山投げ付け、その間を縫ってアタシが欠伸なんてしてたその顔と鳩尾に一発ずつ入れた筈なんだよなぁ。

 なのに平然と受けたイッセーくんに頭をパシーンってされたと思ったらこんな状況に……。

 

 

「く、苦しいよぉ……!」

 

「フハハハハハハ!!」

 

「チッ、また失敗か……クク」

 

 

 手加減の手の字も無しに苦しむ私の背中に乗り、ケタケタ笑いながらプロレス技を止めないイッセーくんはだからモテないんだと私は思うんだけど、その理屈を言っても通用しない。

 前々からイッセーくんは向かってくる者なら男女問わずオーバーキルして対応するタイプだし、名瀬ちゃんはまたまた負けたというのに何か笑ってるし……。

 これって私だけが損してるよね絶対……。

 

 

「けほけほ……うぅ……!」

 

「そっちから呼び出しときながら、こんな手厚い歓迎をれるとは俺はびっくりだぜ」

 

「チッ、片手間に処理しといて何言ってやがる」

 

 

 あらゆるプロレス技の実験台にされること数十分……漸く解放して貰えた私は盛大に噎せながら、首に刺さっていた空の注射器を乱暴に引っこ抜いて床に捨ててるイッセーくんと、一見悔しそうに悪態をついてる名瀬ちゃんの様子を眺める。

 

 改造人間……つまり常人を遥かに越えた異常なまでの駆動が可能な私は、自慢じゃないけど鉄筋コンクリート程度のモノなら楽に壊せるんだけど、イッセーくんはそれを嘲笑う様に毎度毎度叩き潰してくる。

 何の改造も施してない生身の人間がだよ……何で身体が出来てるのか気になって仕方ないよ……。

 

 

「んで、わざわざこんなしみったれた場所にわざわざ呼び出してくれた理由はなんざんしょ?」

 

「決まってるだろ? 古賀ちゃんのパワーアップの為に唯一真っ向勝負で叩き伏せられるお前をシュミレーション相手に呼んだんだよ」

 

 

 ポリポリと音をさせながら、取り出したお煎餅を食べるイッセーくんに名瀬ちゃんが呼び出した理由を説明している横で、私は痛む腰を押さえつつ中学生の頃よりも更に前から一緒だった二人のやり取りを見る。

 

 

「せめて72時間ノンストップで動けるスタミナを付けさせろ。じゃねーと何時か足下救われるぞ」

 

「それは当然オレも考えてる。当面の目標だな……」

 

 

 正直……二人の関係が羨ましい。

 恋人でも無いし、家族でも無い……自覚の無いそれ以上の繋がりを感じさせる二人の関係が。

 私が入っても絶対になれないだろう、奇妙だけど絶対的な繋がり……。

 それがイッセーくんと名瀬ちゃんの間に形成されているのが会話だけでも聞いて分かる。

 

 

「さて、一誠はオレ達の不意討ち虚しく叩き潰してくれた訳だが、古賀ちゃんは充分その報いを受けた。だから次はオレがオメーに罰を貰う番だ」

 

「……。言ってる意味は分かるが、テメーが何で制服捲って腹を見せて来るのかが分からねぇ」

 

「決まってんだろ? 罰を甘んじて受け入れるんだよ。

オレがこう見えて潔いタイプだって知ってんだろ? そら、青アザが残るレベルの一撃を頼むぜ」

 

 

 ただ、そんな事を平然と頼むのは流石に引いちゃうよ名瀬ちゃん……。

 

 

 

 

 

 

 それから暫く経ったある日の事だった。

 風紀委員長による生徒会室爆発事件が引き金になったとしか思えない十三組生徒の出現。

 

 そしてその十三組の生徒達の出現により浮き彫りになったフラスコ計画という名と理事長の思惑。

 それを知った黒神めだか率いる生徒会は、『今日中にフラスコ計画を潰す』という宣言と共に研究が密かに行われている箱庭学園地下エリアへと、幾多の壁を乗り越えながら突き進んでいった。

 

 毎日パスワードが変わる拒絶の扉だったり。

 

 反射神経が異常な戦闘科学部門担当の十三組の十三人の一人を会長であるめだかが倒したり。

 

 同じく十三組の十三人の一人で、殺人衝動を持つ生徒を庶務の少年が倒したりと、決して楽ではない道を仲間達や元フラスコ計画統括にてめだかの兄でもある青年を加えた一行は、次のエリアである地下三階へと足を進めていた。

 

 だが此処に来て新たな問題が一行の中の一人……つまり生徒会書記である阿久根高貴の身に降り掛かった。

 何と自分だけ仲間から引き剥がされ、待ち受けていた十三組の十三人……それも二人の少女を相手に持ち前の柔道で戦う羽目になったのだ。

 

 しかも相手は異常駆動という改造を施された戦闘専門である古賀いたみとマッドサイエンティストな名瀬妖歌 であり、柔道界のプリンスにてかつては破壊臣と呼ばれた高貴は相当な苦戦を強いられる戦いとなった。

 

 しかるに高貴はどさくさに紛れて現れためだかの兄である真黒による助言のお蔭で、いたみの異常駆動の弱点を突き、柔道技で見事勝利を納める事に成功したのだった。

 

 

「さて、もし阿久根君が古賀さんに買ったら名瀬さん……キミの素顔を見せてくれるという約束だったよね?」

 

「……………」

 

 

 腐れ縁じゃ片付けられない少年の警告通り、自らが改造を施したいたみの弱点を見事見抜かれ、高貴によって組伏せられてしまってる現状を前に、あくまで非戦闘員である妖歌は何もすることが出来ず、嫌味な程勝ち誇った顔で戦う前に取り決めた約束を出され閉口してしまう。

 

 負けたら包帯で覆っていた素顔を晒す。

 それはつまり……目の前の男に出したくない正体を見せなければならない。

 真黒という青年とは現統括と前統括という意味での因縁とは違うモノがある妖歌は、『駄目だよ名瀬ちゃん! 私はまだ降参してないから取らなくても良い!』と、既に異常駆動から織り成す化け物じみたパワーすら出せない身でありながらも親友を思う態度を示すいたみ。

 

 それはまさに妖歌にとっては何よりも嬉しく、だからこそ自分の生き方を肯定してくれた二人目の大切な人の為に妖歌は顔を覆う包帯を緩めながら言った。

 

 

「オレみたいな奴を心配してくれる古賀ちゃんはやっぱり大好きだぜ……。

だからこそ、親友を引き換えに出されたらオレはテメーのツラを晒すくらい訳無いのさ」

 

 

 友だから。肯定してくれる親友だからこそ、自分だけ無傷で済まそうだなんて思いたくない。

 バタバタと組伏せられた状態で暴れるいたみ対してそれだけハッキリと妖歌は言うと、自分の常識を全て塗り替えてくれた茶髪の少年を最後に隠した素顔を数年振りに晒す為、覆っていた包帯全てを見ている者達を前で取り払う。

 

 

「…………」

 

「な、名瀬ちゃん……」

 

 

 いたみにすら見せなかった素顔。

 目付きが悪いものの、それでも尚彼女の素顔は綺麗であり、初めて見る親友のその素顔にいたみは暫く惚け、高貴は違和感を覚えていた。

 

 

「……………」

 

 

 ただ一人……黒神真黒だけは妖歌の素顔を見て一気に顔を強張らせるの除いて。

 

 

「だから素顔をさらしたくねーんだよ。どいつもこいつも変なリアクションしやがって、あー恥ずかしい……」

 

「それが本音なのかい?」

 

「あ?」

 

 

 傷ひとつすら無い綺麗な容姿を片手で半分ほど覆って隠しながら悪態を付く妖歌に、真黒は鋭い視線を向けながら低い声で問い掛ける。

 真黒のその表情……そして目付きと素顔になった妖歌の容姿は何処と無く似ており、めんどくさそうに声を出す妖歌に真黒は言った。

 

 

「素顔を隠していた理由はそれだけでは無い。

黒神くじら……お前の本当の名前をも隠すためじゃないのか?」

 

「えっ!?」

 

「っ、兄妹!? 何処と無く似てると思ってたけど……」

 

 

 真黒の口から話された更なる事実にいたみと高貴は驚愕する。

 真黒に妹が……めだか以外にも居た事に。

 だが真黒の説明により高貴といたみは彼女が黒神家から失踪した事を聞き納得した。

 

 

 

「家に閉じ籠るよりよっぽど有意義な人生送れてんだよオレは」

 

「……。それがこのフラスコ計画だというのかい?」

 

「それもあるが……。へっ! オレにとって計画は利用価値があったから乗っただけだ」

 

 

 複雑すぎる兄妹間のやり取りを呆然と見てるだけしか出来ないでいたいたみは、やがて妖歌改めくじらが『降参』という言葉を送り、高貴から解放されると、肩を貸して貰いながらその場を去ろうとした。

 

 

「オレ達の敗けってことで先に進んでも構わねーぜ」

 

「いや、そうはいかないよ。お前をこのまま逃がすわけにはいかない」

 

 

 が、やっと探し当てた妹を逃がさんと真黒が動き、そこから始まる言葉の応酬を経ていたみと高貴による戦闘を続行しようとくじらが声を荒げようとした瞬間――

 

 

「黒神くじらという素敵な名前が聞こえた場所は此処か?」

 

 

 壁を蹴り砕き、先の高千穂との戦闘で所々ボロボロな生徒会専用の制服に身を包むめだかの登場により、いよいよもってくじらといたみはピンチに陥る事になる。

 

 

「やはりくじ姉で間違いないようだ……。お久しぶりです」

 

「くっ……!?

ど、どうしよう名瀬ちゃん。アイツ等まで此方に……」

 

「……」

 

 

 戦闘できない自分と、スタミナ切れの親友。

 圧倒的に数でも戦力でも不利な状況に追い込まれたと感じたくじらは、不安そうな顔のいたみを抱えながら――

 

 

「これじゃあ一誠に笑われちまうな……情けねぇ」

 

 

 不敵な笑みを浮かべていた。

 ピンチなのにも関わらず、眉をひそめる生徒会のメンバー+αを前に、くじらは何の不安も無いとばかりに自分達を見るめだかや真黒達に挑戦的に笑っていた。

 自分達は確かに弱点を突かれて負けた……それは認めてやる。

 だがそれでも自分達は絶対に捕まりはしないという確信がぐじらにはあり、その表情を見ていたみも察した。

 

 

「おいおい、何事だしこれ?」

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

 

 

 そう……理事長が注目する異常性を孕む黒神めだか――それよりも更に異常の塊として傍にいてくれた少年……。

 

 

「リフォームにしては雑だなおい。

時計塔の入り口扉もメチャメチャだし……強盗集団にでも襲われたのか?」

 

 

 一誠が来てくれるという確信があった。

 だからくじらは捕まならない自信があり、今だって自分といたみを追い込む黒神めだか達の後ろから呑気な声と共にその姿を現してくれた。

 その事実がより心を落ち着かせ、安心という気持ちにくじら自身を浸らせていく。

 

 

「リフォームなんかしてねーよ。ちょっとした困り事に遭遇しただけだ」

 

「イッセーくん!」

 

 

 めだかが大穴を開けた壁の穴を潜り、脱力した様子でその姿を表した少年……普通科所属の一誠の登場により、人吉善吉は困惑した表情を見せる。

 

 

「き、霧島先輩……!? 何で普通科クラスの人がこんな所に!?」

 

 

 生徒会としても『ある意味』顔見知りである一誠が――所構わず普通科(ノーマル)やら特別科(スペシャル)に所属する女子生徒をナンパしまくってる問題児でしかない一誠が何故此処に!?

 善吉は、高貴は、会計所属である喜界島もがなは……そして黒神めだかすら一誠の出現に驚いたが、それよりと更に驚いたのは、自分達が居ることをまるで気にすること無く空いた壁の大穴を潜り、驚愕に立ち尽くす善吉達を通り過ぎた先に立つ二人に対する態度だった。

 

 

「あれ珍しいじゃん?

お前が人前で素顔(くじら)になってんのって」

 

「へっ、オメーが来るの遅かったから晒す羽目になっちまったんだ、このバカ」

 

「そーだそーだ!」

 

 

 何の接点も無さそうな二人と極自然に……しかも黒神くじらである事すら当たり前のように認識してるような態度を取る事に、何年も掛けてくじらの行方を探していた真黒までもが驚愕した。

 

 

「……。キミは二年二組(ノーマル)の霧島君だったね?」

 

 

 思わぬイレギュラーの出現に、生徒会チームの誰もがその場に立ち尽くし、その間を一切視線も関心も寄越さず通りすぎて行く一誠に真黒が話し掛けた。

 

 

「は? ……………………えっと、誰ですか?」

 

 

 しかし一誠は興味の無さそうな――心の底からどうでも良さそうな表情で真黒を一瞥するだけで質問に答える事は無かった。

 しかも誰なんだと言ってる癖に、その目から感じるのはまさに『無』であり、解析(アナシス)としてくじらの前任者を勤めた真黒ですら今の一誠に何も感じ取る事ができず、うっと言葉を詰まらせてしまう。

 

 

「元・兄貴だ。アレとの勝負に負けてこうしたって訳」

 

「あぁ、お前の兄貴ね……あ、そう」

 

「っ……!」

 

 

 決して真正面に立とうとしない。

 まるで遥か彼方の天空から見下してくる様な……人を人だと思おうともしないその目に真黒は得体の知れない戦慄を覚える真黒達を他所に、くじらが代わりに答えてもやはり態度が変わることは無かった。

 

 

「黒神ってのはアレか? 目付きが悪いです一族でも狙ってんのか?」

 

「知るか」

 

『………』

 

 

 そして気付く、彼もまたまともな人間じゃないという事を。

 

 

「まぁお前の兄貴なのは分かったけど、何で生徒会さん達まで此処に居んの? つーか何で揃いも揃ってボロボロなの?」

 

「このフロアや上の階の状況見て察しろよ。戦ってたんだよ」

 

「ふーん? で、古賀の様子を見て察するにやられましたと……ハッ、ざまぁねーなオイ」

 

「むっ! そんな言い方しなくても良いじゃん!」

 

 

『…………』

 

 

 何もしてないのでどうすれば良いのか分からない。

 けれど会話の様子からして、二人とかなり親しい関係だと察した生徒会の面々はどうすべきか迷いながら、全員がリーダーであるめだかの行動を待とうとしている。

 

 すると、くじらといたみにヘラヘラした顔しながら小バカにしている一誠に対し、めだかが口を開いた。

 

 

「……。霧島二年生、くじ姉と親しいその理由は知らぬが、どうやら貴様はやはり『タダ者』では無かった様だな」

 

 

 善吉を加えた生徒会長としての仕事の中に多く絡み、何度と無く顔を合わせていためだかが一誠に話し掛けると、生徒会達に背を向けていた一誠が気だるげに身体を向ける。

 

 

「タダ者じゃないって、その定義って何だよ? …………と、今更惚けられる状況じゃねぇから言わねぇけど、それはお互い様じゃねーのよ黒神めだか後輩ちゃん?」

 

 

 薄く、校内で片っ端から女子生徒をナンパしてる時みたいなふざけた表情とは違う――何処までも底が見えない微笑を浮かべながら軽く首を傾ける一誠に、めだかは目を細める。

 

 

「ま、待ってくれ霧島先輩!

色々と超展開で整理が付かないがこれだけ聞かせてくれよ! アンタは十三組の奴等みたいな異常者(アブノーマル)なのか!?」

 

 

 何時もの――何度と無く度の越えたナンパ行為を止めろと言っても、ヘラヘラしながら『やーなこった!』と言い切り、ある意味めだかの影響を未だ受けていない人物だったと思い当たる節はあったものの、それでも単なるアホな先輩なんだろうなと思っていただけに、今見せられる現実に若干ショックを受けた表情を見せながら、めだかと一誠の何とも言えない雰囲気に割って入るは人吉善吉だった。

 

 

「異常者……ねぇ? 俺は大きなおっぱいした女の子が大好きな男ってだけで、異常性欲者と言われるのは些か心外だぜ?」

 

「い、異常性欲者とは言ってねーし質問に答えてくれよ!!」

 

「何だよ何だよ? 軽いジョークだってのにそんな声を荒げる事ねーじゃん? まあ、この状況だしキレたくなるもの無理ねーか……ごめんごメンゴ」

 

 

 割って入る善吉にもおちょくった態度を示す一誠だったが、めだか以外の面子がイライラを募らせた表情になってるのを見て苦笑いしながら軽く……でもふざけた態度で謝り、制服の懐に忍ばせていた二枚の紙幣を取り出した。

 

 

「お金! しかも一万円札が二枚も!?」

 

 

 諭吉がプリントされた紙幣を急に見せびらかし始めた意図がサッパリで、これもまたおちょくられてるのかと顔をしかめる善吉達と、若干違う反応を見せる眼鏡っ娘に、一誠は笑みを崩さないまま漸くこの場所に現れた理由を……。

 

 

「理事長と都城先輩に軽いアルバイトを頼まれてなー

何でも『黒神めだかを無傷で無力化させ、その他の侵入者を撃退しろ』とか何とか……」

 

 

 金で雇われて、生徒会達と敵対するという意思を諭吉を見せびらかせながらハッキリ宣言した。

 

 

「……。都城三年生と不知火理事長にだと?」

 

「そそ、だからキミに恨みなんてもんはなーんも無いけど、諭吉ちゃんを二枚もくれるってんならこりゃあもうやるしかねーだろ? 『働かざる者食うべからず』って言うし?」

 

 

 王様気質でめだかと善吉が会った異常者と、箱庭学園理事長からの命令で動いていると知った生徒会のメンツは再び驚愕しつつ、一誠が十三組側に付いていると理解し一気に臨戦態勢を取ろうとする。

 だが一誠は構えること無く殺気立つ生徒会達に笑みを崩さずに居るだけであり、王土と理事長に二万円握らされたから来たと宣う事に対し、一誠の後ろに居たくじらといたみは呆れ顔になってしまっていた。

 

 

「おいおい、嘘つくならもっとマシなのにしろよな。

二万程度のはした金でオメーが動くわけねー事ぐらい、オレと古賀ちゃんが気付かねぇと思ってんのか?」

 

「そーだよ、あれだけフラスコ計画に勧誘しても……アタッシュケースひとつ分のお金を見せても『やだ』って言ってきたのに、今更二万円でイッセーくんが動くわけ無いじゃん」

 

「………………」

 

 

 ある意味この世の誰よりも一誠という人間性を知ってるくじらといたみだからこそ、呆気なく金で雇われましたという張りぼてを見抜いたその一言に、生徒会の面々は目を丸くしてしまうのを放置し、妙にニヤ付き始めたくじらといたみは、図星を突かれて無言を貫こうとする一誠の本音を直接聞こうと煽りだす。

 

 

「本当の事吐けや? あれだろう? 理事長にこのフロアで闘り合ってたのを見て、負けそうになってんのを見たから来たんだろ? しかも急いで」

 

「……。おいおいおいおい、揃いも揃って随分と自意識過剰――」

 

「だっておかしいもん。最初はアイツ等を見て『何で居んの?』って、初めて知りましたみたいな事を言ってたのに、さっきになって都城先輩と理事長に頼まれて撃退しに来たって矛盾した事言ってるし」

 

「……………」

 

「なぁどうなんだよ? 心配でもしてくれたのかよ一誠ー?」

 

「別に笑わないし寧ろ嬉しいから本当の事言ってよ~?」

 

「……………………………」

 

 

 

 

「……。何だろ、霧島先輩が煽られて何も返せず苦虫を噛み潰した顔をしてるだけって珍しくね?」

 

「……。経緯は分からないし悔しいけど、相当あの二人と親しかったみたいだね彼は」

 

「くじ姉……」

 

 

 なーなー? と気付けばいたみとくじらが二人して目を泳がせてる一誠の周りをニヤニヤしつつ回りながら煽っており、幼少期の黒神くじらの抱えていた闇を知っていた真黒とめだかは、それだけに他人な一誠をそこまで信頼してる様な態度を見せている姿に複雑な気持ちだったとか。

 

 

「っ……あぁぁぁっ!! うるせぇんだよ馬鹿!! そうだよ! 理事長に呼び出されたと思ったら追い詰められてる古賀とくじらの映像見せられたから来たんだよ!! 文句あんのかボケ!!」

 

「おう、全然無い」

 

「そっかそっか……ありがとねイッセーくん」

 

「くっ……コイツ等マジムカつく……」

 

 

 気付けば生徒会達を置いてけぼりに展開される、他人が入り込めなさそうな空気を放つ三人。

 ワナワナと肩を震わせる一誠にパシパシと左右からその肩を軽く叩きながら、妙に笑顔なくじらといたみ。

 

 よく分からないが……元から感じていたアウェー感を更に水増しされた気持ちになってしまう生徒会メンバーは微妙に肩の力が抜けていく気分にさせられてしまう。

 

 

「だが都城先輩と理事長に頼まれたのは半分マジだ。

貰ったこの金でテメー等に飯でもと思ったが、生徒会と+αのせいで帰りが遅くなるって聞いたんで、さっさと飯が食いてぇ俺はその頼みを聞いてやろうと思ったんだよ」

 

「なるほどな……」

 

「あーらら、それはそれは……」

 

 

 しかし一誠のこの言葉に再び生徒会メンバーの表情は険しくなった。

 無謀にもめだかを無傷で捕らえ、残りのメンバーを撃退するという話は本当だったらしく、拗ねた子供を思わせる態度でそう告げるあの変態一誠とはいえ、状況が状況なのだ。

 しかし、警戒心を顕に一誠を睨む生徒会メンバーに対してくじらといたみは思った……。

 

 

「まあ、だから……マネーの為に働かせて貰うよ」

 

 

 あぁ、コイツ等これで完全に詰んだなと……。

 

 

「私を捕らえるか……霧島二年生?」

 

「霧島先輩よ、それを聞いて黙ってるとでも?」

 

「そうだ……古賀さんはスタミナ切れで動けない今、キミしか居ないんだぞ?」

 

 

 生徒会共は一誠の『イ』の字しか知らないからそう言える……くじらもいたみも再び臨戦態勢へと入る連中をある意味同情しつつ、意味すらもうない忠告をしてあげ様と口を開き掛けたが……。

 

「いや別にコイツ等が出る必要もないんだけど……まぁ良いか、そこまで言うならじゃあ遠慮無くやる――ゆーっくりね」

 

 

 その刹那、真黒を含めた生徒会メンバー――めだかをも含めた者達の視界は一誠の姿を喪い――

 

「っ!?」

 

「「「「っ――」」」」

 

 

 真黒を残し、めだかを含めた生徒会が音も無く……挙動すら悟らせない程の圧倒的な速さで沈められてしまうという前代未聞な現象が起こってしまった。

 

 

「な、なに!?」

 

 

 何が起こったかすら解らない。

 皆が何をされたのかすら認識できない。

 ただ気がつけば善吉が、高貴が、もがなが――そしてめだかまでもがその場に崩れ落ち、意識を失って倒れたという現実だけが、何にもされずに無事であった真黒の目に飛び込んできただけだった。

 

 

「ダメージ残ってる生徒会長程度なら、まぁこんなもんかな」

 

「本当オメーはオレ達の努力を軽々と越えるな……ったく、悔しくて泣きそうだぜ」

 

「……。いや名瀬ちゃん? 泣きそうって言ってるけど顔がにやけてるからね?」

 

 

 瞬きすら許さず、只気付けば全員がその場に……めだかまでもが倒れ伏すという異常事態に、唯一何故か何もされなかった真黒が恐怖も混じった驚愕の表情で、逆の懐から取り出した栄養ドリンクをいたみとくじらに渡してる一誠を見て解析しようとするも……あまりにも一瞬の出来事で異常者特有の雰囲気すら感じ取れなかったが為に『何もわからないことが解った』だけだった。

 

 

「アンタは勘弁してやる。その代わり黒神後輩ちゃん以外の子達をちゃんと連れ帰ってね?」

 

「っ、ま、待て! めだかちゃんを連れて行って何をする気だ!」

 

「さぁ? そんな事は都城先輩と理事長に聞いてくれ。俺はあくまでフラスコ計画に関わりの無い、単なる雇われだからさ」

 

 

 どんなに考えても、どんなに観察しても理解が出来ない一誠の異常性に言い知れぬ恐怖が襲い掛かる真黒は、倒れためだかの元へ近付くその前に立ち塞がり、目的を問う。

 だが一誠はあくまでも雇われであり、ただ金の為という建前で動いたに過ぎ無いので答えを聞くことは出来ず、めだかを庇おうとした真黒は非戦闘員だったが為に、呆気なく一誠に胸ぐらを掴まれ、壁際まで勢いよく投げ飛ばされてしまう。

 

 

「ぐうっ!?」

 

「軽っ……!?

華奢だなとは思ってたけど、アンタもう少し食って体重増やした方が―――――いや、中身自体がそんなボロボロだから無理なのか? コイツは失礼した」

 

「っ……ま、待て……!」

 

「待たない。俺としてもさっさと終わらせてファミレスで腹一杯食べたいんでね」

 

 

 背中から思いきり叩きつけられた真黒の願い虚しく、軽々と意識の無いめだかを抱えた一誠は戦いの影響で空いていた下に続く大穴に飛び込んで去ってしまった。

 

 

「やっぱお兄ちゃん(棒)でも解析出来なかった様だな。ま、解析をするのはオレだけだって決めてたから良かったぜ」

 

「あーぁ、結局私は負けたまんまだし、散々な日だよ今日は」

 

 

 それに続き、くじらを抱えたいたみも穴に飛び込んで行ってしまい、残された真黒は二人の妹を目の前で連れて行かれたその悔しさと、あまりにもイレギュラーな存在の強大さに膝を付きながら歯を食い縛るしか出来ずに居た。

 

 けれど真黒は更に気付けなかった。

 くじらが一誠と出会った事である意味変わっていた事を――

 

 

「で、一誠よー? 無様な真似を晒したオレに何かしねーのか? 例えオメーに抱えられて寝てる黒神にした謎の一撃のもっと強いバージョンとか」

 

「しねーよ……お前って何時からかそんな事言うようになったけどよ、何なん?」

 

「……。言わないで置こうと思ったけど、名瀬ちゃんってマゾだよね? しかもイッセーくん限定に」

 

「しかたねーだろ。何しても簡単にオレの積み重ねを捻り潰せる一誠が悪いんだよ。

古賀ちゃんも分かるだろ? いくら手を尽くしても簡単に一誠に叩き潰された時に感じる気持ちよさというか……ここら辺が疼いて疼いてヤベーんだよ」

 

「只のド変態じゃねーか!!」

 

「ごめん名瀬ちゃん……。何度も言うけど、自分のお腹に触れながらのその台詞はドン引きだよ……」

 

 

 無自覚に大事な妹の性癖がねじ曲げられていた事を……。

 多分知ったらショックで寝込むだろう現実を知らないままだった真黒はある意味運が良かったのかもしれない……。

 

 

終わり




補足

精神力なら名瀬ちゃんは一誠くんを遥かに越えてます。

それは……そう、マゾ故に。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。