都市伝説がキャラ崩壊したそうです   作:biwanosin

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たぶん続かない


トイレの花子さん

トイレの花子さん、という都市伝説をご存じだろうか。

都市伝説というよりは学校の怪談だとか七不思議だとか言う方が正しいのかもしれないけれど、なんにせよそういう存在。怪奇現象とか妖怪とか言ってもいいのかもしれない。

誰もいないはずの学校のトイレ。そこで正しい方法で呼びかけると返事が返ってくるだとか、そう言う『こちらから呼びかける』存在だったはずだ。はずなのだが・・・

 

「男子トイレにいるあなたは一体誰ですか?」

「あ、私?トイレの花子さんだけど」

「俺、呼んだり儀式めいた事したりしてないはずなんだけどな」

「やー、こっちもそんなことされてたらドンビキだって」

 

その花子さんは、なんかさらっと出てきた。

 

 

 

 ▽

 

 

 

別に、これといって特別な事情があったわけではない。来週の授業の課題のために図書室により、本を一冊借りてきた。何か一冊読んで概要をまとめる・・・とか言う、受験対策の一環だといわれた。正直大学受験でそんな知識がいるのか分からないんだけど・・・小論文、も違う何かな気がするし。

話を戻そう。

なんにせよ、そんな事情でいつもより遅くまで学校に残っていた。簡単に書けそうなの無いかなー、と思ってパラパラと読んでは戻しを繰り返した結果、もう校舎内にはほとんど人がいない。で、家まで遠いし、と思ってトイレに立ち寄ったら・・・

 

「わたしに会った、と」

「そうなりますね」

「それはそれは、偶然とはいえ災難だったねー」

「その災難本人に言われると、何と言っていいのやら・・・」

 

トイレの花子さん(それ)は、なんとも朗らかにそう言いながら逆さ向きの笑顔を見せてくる。これで相手が地面に立っていたらただの変な人認定をして家に帰ったところなんだが、宙に浮かんでさかさまになっているんだからどうしようもない。人間やめてることは疑う余地がなかった。

 

「えっと、それでこの後俺はどうなるんでしょう?よく聞き話だと呪い殺されたりトイレの便器で溺死させられたり首絞められたりするんですけども」

「あー、あるある。花子業界では定番の三つだねー」

「そんな業界滅んでしまえ」

 

おっと、つい口調が。

 

「まあでも、安心していいよ。私はまだ新米だから。そーゆーの競ってないし」

「・・・競う?」

「うん。数とか手際とか、月一でトップ決めてるんだよねー、花子業界」

「や、さすがにそれは・・・そんなペースで人が死んでたら、ニュースになるって」

「それがびっくり仰天、花子に限らず都市伝説で死んだ人は全ての記憶、データから消えてしまうのです!」

 

愉快そうに言ってるけど、こっちにしてみれば愉快さの欠片もないのですが。むしろ自分の今の状況がかなりの大ピンチなのですが。

 

「えーっと、改めて質問です。俺、どうなっちゃうの?」

「え、どうもしないけど?」

「出られなくしてる人の意見ではないと思うのです」

 

あ、今更だけど俺、トイレから出られません。走って逃げようとしたら、見えない壁にぶつかりました。

 

「えー、いいジャン別に。これといって被害があるわけでもないんだしさ」

「閉じ込められていることが被害じゃないと?」

「・・・ま、まあ、命までは取らないよ、うん」

 

そこをつかれると弱いのか、目を逸らしてくる花子さん。しかし逃がしてはくれない。もうなんなのさ。

とはいえこのままされるがままでいるつもりもないため、勇気を振り絞って一歩踏み込み、少しでも優位に立てるよう頑張ってみる。

 

「他に何か取るものがある、と?」

「というか、現在進行形で取ってるものがある、と言いますか・・・生気を、いただいてるといいますか・・・」

「呪い殺される―!!!」

 

慌てて距離を取った。しかし、すぐに入り口の壁にぶつかる。所詮トイレだもの、狭いものさ。

 

「ちょ、ちょっと待って!弁明!弁明の機会をください!」

「何を弁明するってのさ!?生気ってあれだろ!?生きる力とか命の源とかそんなんだろ!?それを取られてることを『呪い殺される』って言って何が間違ってるというのさ!」

「そ、その言い方をされると確かにその通りではあるのだけれど・・・そんな、死ぬほどもらってはいないから!」

 

・・・何やら必死な様子だし、一応聞いておくだけ聞いてみよう。

 

「えっと、結論から申させていただきますと、あり余ってる部分をいただいております」

「有り余ってる?」

「はい。ほら、夜寝る時とか気絶するようには寝ないですよね?試合だとかセ○クスだとかなにかよっぽど体を酷使する案件でもない限り、人は毎日生気を余らせてるわけなのよ」

「オイこの花子今規制案件な単語を言いやがったぞ」

 

花子ってこう、もっと野暮ったいイメージなんだけど。おかっぱ頭のイメージなんだけど。そう言えばこの花子、茶髪ロングだな・・・花子のイメージ絶賛ぶっ飛んでいってるんだけど。

 

「なんにせよそう言う余ってる分をいただきたいなー、と」

「はいはーい。それ、実害的なものはないんですかー?」

「ちょっとわたしとのつながりが強化されます」

「憑りつかれる―!」

「うっ・・・ちょっと否定できない・・・」

 

否定できないのかよ。さっきみたく否定してくれると信じてふざけてみたのに否定してくれないのかよ。一気に不安になるんだけど。これまで以上に不安で不安で不安になるんだけど。

 

「ま、まあでも大丈夫。さすがに憑りつくレベルですいとるにはほら、色々あるじゃん?」

「いや知らねえよ。そんな幽霊界の常識を知ってる前提で言ってくるんじゃねえよ」

「幽霊界じゃないよ。地縛霊界だよ」

「大差ねえって」

 

むしろ狭まってるってそれ。や、広くても分からないけどさ、どうせ。

 

「それで、えっと・・・俺はいつまで捕まってるのさ」

「あ、もうしばらく待って。ここのトイレ中々人来ないからさ、吸える機会ないんだよね。さすがに授業前に吸い取らせてもらうのはあれじゃん?時間かかるし」

「時間かかるのか」

「一気に吸い取ろうとすると加減が出来なくて死んじゃうしね」

 

もうちょっと器用になってください、お願いですから。そうしてくれれば俺も今すぐにでも帰れるんじゃないかと思うんですが。

 

「そう言うわけで今頑張ってギリギリの線を探りながら吸い取ってるから。たまに人間の生気すっておかないといつか消えちゃう身だしね、こっち」

「あ、そんな感じなんだ」

「うん。人を殺しちゃえー、って言うのも一人分纏めてパクっとするためだし」

「なのにアンタはやらないんだ」

「生前あったしねー」

 

ふむ、なるほど。まあ、そう言う話を聞かされると何となく残ってもいいんじゃないかなー、って思えてくる。死にたくないなー、って言う気持ちは俺にもわかるし。というか絶賛思ってたところだし。

 

「というわけで、しばらくお話してよ。ほとんどだれも来ないし、人と話すこともないしさー」

「といわれてもなぁ・・・俺、一応家に帰ってやらないといけない課題とかあるんだけど」

「課題?これでも一応卒業寸前に死んじゃった身だから教えられるかもよ?」

「勉強的なものならとても頼もしい限りなんだけど、残念なことにこの本の概要を簡潔にまとめないとなんだよね」

 

そう言いながら鞄を探り、本を取り出す。程よい短さで簡単そうなのを探し出した自身の一冊を見せると、花子さんがおーって顔をする。

 

「懐かしいなー、それ。昔読んだことあるよそれ」

「あ、これそんな昔からある作品なんだ」

「昔からあるかなりの人気作だよこれ。概要まとめるのが宿題ならわたしがまとめてあげよっか?」

「あ、ちょい待ち。ノート取り出すから」

 

思わぬところで棚ぼた。ひとまずまとめてだしさえすれば怒られはしないだろうから、花子さんが言うことをそのまま全部メモって提出してしまおう。

 

 

 

 ▽

 

 

 

「あ、どもー花子さん。昨日ぶりー」

「いると知ってて二度目に訪れたのは君が初めてだよ」

 

次の日、俺は再び図書館棟の地下の奥の奥の方のトイレを訪れ、出てきていた花子さんに朗らかに挨拶をする。足を抱えて浮いてる花子さんがどこか驚いた様子だけど、まあ気にしない気にしない。

 

「やー、昨日花子さんが言ってたのをそのまま提出したら無茶苦茶評価されてさー。助かったからお礼に来たんだよ。あ、これお菓子」

「うん、まさかホントにその日あったばかりの怪しさ満点な幽霊の言うことを信じるとは思ってもみなかったよ」

「だってめんどくさかったし」

「君ってよくわからないところで大物だね。あ、生気もらってもいい?あとお菓子も」

「どーぞどーぞ」

 

元々それを込みでお礼に来たんだ。生気を吸われることにも否はない。実際昨日はあの後もなんともなかったし。つまり、これといった実害はない。

 

「それで、今日はどうやって時間を潰すつもりなのかな?昨日は君しっかり寝たりでもしたのかより余ってるし、時間もかかるよ?」

「あ、明日提出の数学の課題と小テスト対策。教えて」

「マジかこの子。花子さんを家庭教師扱いかよ」

 

おっそろしいわー、とか言いながら個室の一つを開ける。昨日はこの時便座を机がわりにさせられるのかとか思ってたんだけど、なんかその先には部屋があった。物理的法則とかどこに投げ捨てちゃったのかと思うようなサイズの、普通に部屋だった。キッチン付き1LDKだった。真ん中にはちゃぶ台がある。

 

「じゃ、もらったお茶菓子と一緒にお茶も出すから、その間に勉強道具出しといて―」

「はーい」

 

お湯を沸かして紅茶を入れている花子さんを見てから、鞄をさばくって教科書とノート、問題集を取り出す。さて、これで準備完了。

 

「で、小テストってのはどこの範囲なの?」

「数学Ⅲの三角関数関連」

「おー、君理系クラスだったんだ。じゃあ、1年2年の三角関数は大体理解できてるって前提で行けるよね?」

「あ、数学1、2、A、B全滅だから、俺」

「1から全部!?なんで理系に進んだのさ君!」

「何となくカッコいいじゃん?理系」

「そんなテキトーな理由で進むんじゃないよ!というか本格的になんで三年生になれたの君!?」

「・・・学校の先生も、留年されるとめんどくさいんだよね」

「知りたくない裏側の世界だよ・・・」

 

この後、授業が終わった17時30分からガチってる部活が終了して完全に学校が閉ざされる20時までの間、みっちりガッツリ教わった。

 

で、次の日。

 

「おかげで小テスト満点でカンニングすら疑われたー。というわけで今日は化学と物理を教えてー」

「三日連続とか、君本気で未知に恐れないねぇ」

 

目指せ秀才!

 

 

 

 ▽

 

 

 

「やっほー」

「おー、今日は何を抱えてきたのかな?」

「赤本」

「君、一応私が大学受験する前に逝っちゃってることを把握してるのかな?」

 

出会いは五月、今は一月。おもっくそ受験期というか、目指してる私立大学の受験日はもう一月もない。基本的な部分についてはこの九か月で花子さんに教えてもらった。だがしかし、大学受験というものはそれだけでクリアできるものではないらしく、その大学独自の問題系統みたいなものがあるらしい。と、言うわけで。

 

「この赤本のこの学部の問題、全部教えてほしい」

「よーし、それを全部解説するのにどれだけ時間がかかるのかを考えてみようか」

 

笑顔でやんわりと拒否られた感がある。

 

「まあさすがに冗談だけど。ちゃんと一回通りこの中の問題を全部といてきたから、解けなかったものだけで」

「あー、それなら、まあ・・・」

 

と、絶対に見たこともないのに受諾してくれる花子さん。この九か月で分かったことだけど、この人無茶苦茶頭いい。なんで学校の地縛霊してるのかと聞きたいレベルで頭がいい。何があってこうなったのか・・・ま、いっか。

 

「あー、にしてもそうか。もう受験期か。ってことは、来月の今頃には卒業?」

「さすがにそこまで早くはないって。プラス一週間はある」

「大差ないよねー、それは」

 

まあ、うん。確かにそこまでの差はないのかもしれない。

 

「となるともうここで会うこともできなくなっちゃうわけか・・・うーむ、これはあの計画を実行に移すべきか?」

「あの計画?」

 

なんか言い出した花子さんに聞き返しながら間違えた問題を再びといていると、花子さんも「アプロ―チおかしいよ」と注意してくれながら、しかし話してはくれない。

 

「ねえねえ、計画って何なの。あ、あとどういうアプローチすれば?」

「やー、やっていいのかどうか、花子さん的に少し悩んでるんだよねー・・・あ、ひとまず図を書いてみなさい」

 

なんだかお悩み中っぽいのでその話題に触れるのは止めて、問題に取り掛かる。図を書けといわれたので円と直線を書いて、にらめっこして・・・あ、そうか。

少しのにらめっこで分かった、というか何となく見えたことがあるので、そこを重点にして手を動かしてみる。花子さんから教わった一番大切なこと、『とりあえず思い付きに手を動かしてみる』というのは、全く見えない問題でも案外解けるようになる。数学なら部分点ももらえる。あきらめちゃいけないんだね!

・・・はぁ、テンション上げると疲れる。もうやめよう。

そして、しばらくの後。それから結構たって何年分か解き終わったころ。花子さんから一言。

 

「ねえ、君」

「なんですか、花子さん」

「ついていっていい?」

「やー、憑りつかれる―!」

「あ、うん。そのベクトル」

 

あ、マジだった。出会った時のネタを繰りかえすのかと思ってたのに、マジなやーつだった。

 

「えっと、もしかしてほぼ毎日俺から生気を吸ってても足りないとか、そう言う話だったりする?で、ついに、みたいな?」

「あ、そう言うのじゃないよ。わたしは一応、『誰も殺さない』って方向性でいってるから」

 

うん、なんかそんな感じの話を聞いた気がする。どっかで。

 

「じゃあ、なんで?」

「ほら、君がここ卒業したら誰も来なくなりそうだし、そうなるといつか消えちゃうしね」

「そんな状態でこれまでどうやってきたのさ。こんなところ人来ないだろうし、来たとしても次以降来ないでしょ」

「あ、一人からその日の余剰分をもらえば一年は持つよ」

 

それなら、俺からこの九か月でもらった分で無茶苦茶持つじゃん。270年は持つじゃん。

 

「あと、退屈な日常に戻りたくない」

「正直だなオイ」

 

うん、知ってたけどこの人自由だ。

 

「けど、四六時中一緒にいられると思春期な男の子としては恥ずかしい限りなんだけど」

「あー、だよねー。自慰とか」

「出来れば最初に着替えとかトイレとかお風呂とかが出てきてほしいものだなぁ」

 

その辺りオープンだよなぁ、この人。いつか「ヤらせて」って言ったらヤラせてくれるんじゃねえのか?・・・幽霊とヤれるのかな、そもそも。

 

「お、そうだトイレ。一回君に憑りついて、家に帰ったら君の家のトイレに憑りつこう!」

「俺のプライバシーは!?ねえ、色々と問題だらけなんだけど!?」

 

なお、俺は最初の時から今までにかけてこのトイレで排泄作業はしていない。一度は学校ですること自体を考えたんだけど、『このトイレ』に憑りついているという話だったのでまあいいか、となっていたのだ。

まあ、それは置いといて。

 

「うーん・・・ならあれだ。君の家に憑りつこう」

「いつでもどこでも見られている恐怖を考えてくださいお願いします・・・マジ?」

「うん」

「その心は?」

「案外楽しかった」

 

おーう、この人てっきとーだー・・・はぁ。

 

「分かりました分かりました・・・ではどうぞご勝手に。考えてみたら俺、教えてもらわないと大学一年目から留年しそうだし」

「待って、私は私で習ってないよそれ」

「ノートだけは全部取って帰る」

「一から勉強しろと!?」

 

というか、トイレの花子さんがトイレから離れるって・・・いいのか、それは・・・

 




そして続かない
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