あぁー、早く見つけなきゃ……
「ご、ごほんっ、ま、まあなんていうかさ、早くここから出なきゃ! いつまたあの変なのに襲われるか分かんないし!」
「そうだね……とりあえず最初の場所に戻ってみよう」
「って、言っても……ここどこだか分かんねえじゃん!」
ここから出ようと決めたものの、でたらめに走っていたせいで現在地の場所が分からない。
しかしながら動かなければしょうがないと、一同はその場から離れる事となったのだった。
「おぉ……何かあっさり着いちゃったよ。有里、全部覚えてるってマジだったんだな」
「うん……頭いいんだねぇ!」
「…………別に」
「あ~っ、やっと来たクマ!」
歩き始めてから少し。苦労することなく、元の場所へ辿りつけた三人。
どうやら湊が大体の道筋を覚えていたようだ。そのお蔭で、三人はほぼタイムロス無く出る事が出来た。
そして始まりの場所には、どこか見た事のある影がある。
霧で良く見えない陽介や千枝と違い、不思議なメガネのお蔭で鮮明な視界を持った湊は、それが一体何なのか誰より早く理解していた。
その影ははデフォルメされたナニカ、名前はクマと言ったナニカよく分からない生き物。先程少しだけ言葉を交わした相手だった。
「あー!! あんた! さっきの!」
「そういやこいつ……何か知ってそうだったよな?」
シャドウに比べたら、まだなんとか見れる姿だからか、二人は強気な態度でクマを睨む。
「し、知ってて悪いクマか! ずっと住んでる所の事くらい、知ってて当たり前クマ! そ、それよりもキミ達、シャドウをどうしたクマ!」
「シャドウって……あっ、あのお化けの事? やっぱり何か知ってるんだ」
「それ、それクマ。一体どうしたクマー?」
何かを知っている様子のクマ。そんなクマを見て何かにピンときた様子の陽介が、語気を荒げ詰め寄ろうとする。しかしそれは湊によって止められた。
「おい、もしかして……!」
「えっ……何何? 何か気づいたの?」
「……いや、それは無いよ。真っ先に逃げてったし。一応考えておいた方がいいとは思うけど……これ、着けてみて」
「ちょっ、ちょっと二人とも無視しないでよー!」
そう言って自分のメガネを陽介に渡す湊。因みに千枝の事は、話が長くなるからか無視している。
早くここから出たいのだろう。
渡されたブルーメタルのメガネを着けた陽介。
「これは……! すげえハッキリ見える! 何なんだよこれ!」
「これ、クマ……から貰った奴。だから(一先ずは)疑う必要は無いと思う」
「疑う……誰を?」
「疑う……もしかしてクマの事クマか!? し、しっつれいな! そもそも、キミ達こそ質問に答えてないクマ! もしかして、ここに人を放り込んでるのも、キミ達クマか!? クマ、ものすごく迷惑してるクマよ!」
千枝はいつも通り、?を幾つも頭に浮かべ、クマはどうやら誰が疑われていたのかを勘付いたようで、ムキーっと井枡を浮かべて怒っている。
しかしその言葉の中に、見過ごせない言葉があった。
湊は眉を顰めて、聞き返す。
「人を、放り込む……?」
「そうクマ! ……キミ達じゃないクマか?」
「そんな事するわけねえだろっ!」
「そ、そうだよ! アタシ達だって、有里君が居なかったら、どうなってたか……」
そう言って、ぶるりと震えて湊を見る千枝。
陽介もシャドウの事を思い出したのだろう。その顔色は悪く、今にも倒れてしまいそうだ。
そしてその一同の反応に、クマは勢いを削がれたように相槌を打つ。
どうやらシャドウから命からがら逃げだしたと勘違いしたようだった。
「そうクマか大変だったクマー……って、そうじゃないクマ! もう! 早く出ていってくれクマ! クマは忙しいクマだクマ!」
しかしハッとすると、足でピコと音を鳴らし踏みしめる。
すると白煙と共に重ねられた、アナログじみた大きな箱型テレビが現れた。
そして三人をぐいぐいと押していく。
「さあ、帰るクマ! ここに入れば帰れるクマ! さあ、さあ!」
「ちょ、ちょっと心の準備が……」
「や、ヤメロってば! ホントにここから帰れんのかよ!?」
「まだ聞きたいことが、今ここに……」
三人はその箱型テレビを見ており、クマに不意を打たた形になってテレビへと倒れこんでいく。
湊は身体を捻って手を伸ばし、未だ聞いてない事を口にしようとするが、それが全て口から出る前にテレビへと沈みこんでしまうのであった。
青の色が視界を通り抜けていく。
ここに入って来た時のモノクロとは違う色が、巡っていく。
遠くからこちらへ眩い光が迫ってくる。やがて光は湊を包み、湊の意識は浮上していった。
ガシャリと、何かが閉まる音がした。
「こ、こは……?」
湊はいつの間にか椅子に座っていた。
茫洋とした意識で周りを見渡せば、まず目に入るのは部屋を染める青一色。そして主のいない椅子と、占いに使うような青いクロスが掛けられた丸テーブル。傍らには微かな光を灯すライトスタンドがあった。天井は高く、青い両壁には幾つも青白い布が掛けられた扉が立っている。
天井からは薄い灯りのライトが部屋を照らし、湊の前方には金属細工の――向こう側が隙間から見える装飾染みた――壁。その上方には青銀と銀、金で
壁の向こうは時折光がちらつき、その光は下から上へ流れていく。
どうやら湊のいるこの箱は、何処ともしれぬ場所へ降りて行っているようだった。
「……一体?」
湊は呟く。段々とはっきりしてきた意識の中、クマとかいう着ぐるみに三人一緒にテレビへと押された事を思い出した。
(そうだ……二人は何処に)
「ようこそ。ベルベットルームへ――」
そんな湊の鼓膜を叩くのは、錆びた蝶番の軋むような甲高い声。
「……っ!?」
ふらりと彷徨わせていた意識を瞬く間に覚醒させ、湊は声の主へと温度の無い鋭い視線を向ける。
それはこの異常事態に対する防衛本能の表れだったのかもしれない。湊に重なり、幾つもの影が揺らめいていた。
しかしそれにすら動じない声の主。その姿は醜い異形と呼べるモノであった。
耳は長い。まるでおとぎ話の中のエルフのようだ。しかしそれはそのような美しく儚いモノなどでは無かった。
その大きな眼は白目の中に、小さく黒い瞳が置かれた異常なほどに気持ちの悪い三白眼。白目には幾筋もの血管が浮き上がり、ぎょろぎょろしたその瞳に見つめられると背筋に怖気が走る程に気色悪い眼。
禿げ上がった頭、そして笑顔を知らない魔物が、無理やり真似たかのような皮肉気な笑み。服装はまるで紳士が着るようなタキシードと、胸元のハンカチーフ、手に付けられた白い手袋。どれも見事な高級品である事を窺わせるが、その魔物のような体躯にはまるで似合っていなかった。
最も特徴的なのは長いはな。鷲鼻を更に長く太く高くしたような鼻は、見る物に眼前の異形が人ではないと知らしめている。
湊は無表情を装ったまま、その警戒を更に高めた。先程のシャドウとは違う、確かな知性を感じさせ、更に言えばその存在感は今までにない程に重く強く。底がまるで見えないのだ。
そして何とも言えない既視感も相まって、湊は混乱の極致にあった。何故なら、湊は何故かこの異形に親近感を抱いてしまっているのだ。
一筋の汗が頬を流れていく。
「――ここは、何かの形のみで契約を果たされた方のみが訪れる部屋。貴方は『力』の現象を果たされたのです。それは当然の、事ですが……」
「え……?」
そんな異形の傍らから声が響く。今の今まで全く気付いてはいなかったが、異形の脇に佇むように立つ人間離れした美女。
煌めくウェーブする銀糸は青のカチューシャらしきもので纏められ、瞳は猫目石のような光を放っている。横顔からしか分からないが、目や鼻、唇まで全てが神に造られたように整えられ、その清楚な雰囲気の中に神々しさを加えている。幻想的で妖精のような見事な容姿だった。
青の上下服。身体のラインが分かる服は、そのスタイルの良さを分からせてくれる。スカートからすらりと伸びる足は黒のストッキングに包まれ、足先は青のハイヒールで決められていた。
脇には百科事典のような物を抱え、それが放つ異様な気配はそれがただの辞典ではない事を教えてくれる。
湊はしかしこの美女に対し、違和感を感じていた。
そこに居るべき何か。それが違うと告げていた。
湊のこめかみからまた一筋の汗が垂れる。自分はおかしくなってしまったのではないかと、思ったのだ。この美女に対し違和感を感じ、異形に対し親近感を感じる。
有り得てはならない事であった。
そんな湊の感覚を把握していたのかもしれない。銀と青の美女の雰囲気はは、その容貌の如く冷たく鋭い。視線すらも向けない事から、その感情の激しさが分かるという物だろう。
ただなんなのだろうか、単純に湊の考えを読んだだけでは余りに激しすぎる感情にも思えた。
「
「……マーガレットでございます」
イゴールは何処か懐かしそうに、マーガレットはこちらへ視線を合わす事無く、名前を名乗る。
湊は何が何だかよく分からないが、自身の名を名乗ることにした。
「……有里湊、です」
そう名乗った瞬間。
イゴールは慈しみを込めた、マーガレットは氷のような冷たさを持った視線を。互いに全く違う視線をよこした事に、湊は気づきはしなかった。
さて、少しずつ原作から乖離していく事になりそうです。
ここからが頑張りどころ。みなさん話に矛盾があったら教えて下さると嬉しいです!