おお、何だか物凄いオリジナルルートに突っ走っているではないですか……!
これはジュンゴ死なないかな?
次回が楽しみです!
店の中は、薄暗かった。淡い蛍光灯の光が今にも消えてしまいそうに点滅している。
二人は慎重に足を進める。
狭い店内にも霧は満ちていて、先ほどよりも心なしか濃い霧が漂っている。二人を包む空気は更に質量をましたように身体へと纏わりついてきており、まるで泥の沼を掻き分けて進んでいるような億劫さと、息苦しさが二人を襲っていた。
そんな二人の目前、すぐさま目についたのは、店の奥。恐らくは居住用のスペースが広がっているのだろう、段差の向こう。障子を隔てた場所の明かり。
そこからは光と共に、話し声が漏れてきていた。
女性の声だ。
「――花村。あそこ。……慎重にね」
「ああ。分かってる」
湊は口に指を当て、静かに、そして慎重に動くようジェスチャーをした。そして陽介の声を聞き、二人はそちらへと近寄っていく。
そして少しづつハッキリしてくる女性の声。それはどこかテレビ画面の向こう側から響くような、無機質で遠い印象であった。
「な、何でそんな事言うのよ!? 違う、私は!」
僅かに空いた障子から中を覗くと、そこに居たのは小西早紀。一人で宙を睨み、耳を塞ぎ、
とてもまともな状態とは言えない早紀の様子。
堪らず駆け寄ろうとする陽介。
「こ。小西センパウブッ」
「静かに。動かないで」
しかしそれを予見していたように、湊が陽介を抑える。
陽介は離せともがくが、その細い身体のどこにそんな力があるのか、全くビクともしない。陽介は諦め、しかし視線で湊を睨む。
助けに来たのに、なぜ邪魔をするのかと。
そして湊は険しい表情で、その視線を受け止めた。
そして僅かに逡巡した後、その理由を語り始める。その間も、早紀は二人には届かぬ声に悲痛な叫び声を上げていた。
「僕は、小西センパイがクマの言っていた、ここに『人を放り込む犯人』だと思ってる」
「っ!? っ! っ!!」
「暴れないで。説明するから。状況がいつ変わるか分からないから、短く話すよ」
「っ! っ!!」
湊の言葉にも暴れるのを止めない陽介。それは当然だ。仄かな想いを寄せる相手を、よりにもよって人をここに放り込む、つまりは殺人犯も同然だとのたまったのだから。
そのような相手の事をどうして信じられようか。そして陽介は灼熱した思考で結論づけた。早紀を助けることが出来るのは自分だけだと。目の前の男は、当てにならない。それどころか逆に害をなすかもしれない。
そんな陽介の様子に、湊は店前での陽介を思い出した。
しかしここでペルソナを出すわけにはいかない。早紀に気づかれるわけにはいかないからだ。
幸い早紀は狂乱しており、更に言えば障子のこちらと向こうで何かがずれていて、少々の事では気づかれることも無い。しかしペルソナのような力を行使すれば、気づかれることは必然。
だからこそ、湊は陽介を押さえつけたまま言葉を続ける。
「死体が発見された甘い香りを感じた。甘ったるくて身体と心がざわざわする、気持ちの悪い香りだった。その時は何なのか分からなかった」
「っ!! っっ!!」
「次の日、同じ香りを漂わせる人がいた。小西センパイだ」
「っ!?」
「色々考えてて、それは第一死体発見者だから。そう思った。でも思い出したんだ。死体発見場所にずっといたはずの堂島さんからはそんな香りしなかった。帰ってくるすぐ前までそこにいたはずなのに」
「…………」
「それなのに、一日経って、しかも短時間しかその場所にいなかった筈の小西センパイからは、濃い香りが嫌というほどにしたんだ。そしてそれは」
「……?」
「このテレビの中、そして何よりもシャドウの香りに酷似していた」
「!!」
「それから疑ってたんだ。小西センパイの事。マヨナカテレビに映ったのも、この世界に関係しているから? もしかしたら小西センパイもこの世界に入れるのか? だったら同じような力を持ってるんじゃ? テレビから出た後そんな事ずっと考えてた。もしかしたら小西センパイが、犯人なのかもしれない。そう思ったんだ」
「! !!」
「だから」
『ウザいよねぇ、全部』
続けようとした声は。
障子の向こうの声に阻まれた。それは小西センパイではない、エコーがかった誰かの声だ。
余りに不吉な感じのさせるその声に、二人は思わず障子のムコウへと目を向けた。
「!?」
「!?」
すると、信じがたい光景が飛び込んで来る。蹲る早紀の前に、もう一人の早紀が居た。
良く見れば、その瞳が金色に染まっている事に気付いただろうが、そんな事は些細な事だっただろう。未だこの非常識な世界に慣れてない二人にとって、目の前の光景は信じがたく、そして思考が混乱してしまうのには十分な出来事であった。
二人が驚愕し、混乱している間にも、次々に場面は流れていく。
『近所の人は、鬱憤晴らしにネタにしてさ。何の努力もしてない奴等に言われたくないっての。貴方もそう思うでしょ? 金だ、男だってさ』
「ぁ、ぁぁ」
『親は荒れて、当り散らすばかりだし。しかも近所の連中と同じで、金か、男かって、毎日毎日毎日! 弟もどこか蔑んだような眼だし、ホンットにウザいよねぇ? ジュネスで働いてる理由も何も知りもしない癖に』
「そ、そんな、そんなこと」
『それよりもなによりも、ジュネス! あんなのさえ来なければ、この小さな田舎って世界でのんびり暮らせたかもしれないのにねぇ。で・も? ジュネスのせいで平和は壊れて、どうにもならなくなった。だから少しでも親の為に、お金を稼ごうとした。最初はあの大学生の誘い文句に乗って、酷い目に遭うところだったよねぇ? ホント、途中の電車で逃げられてよかったね?』
「……ぁ、何で」
『何で、知ってるのかって? それはそうよ、
「ぁ、……ぁ」
『どこかここじゃないところに逃げたかった! 皆が
「ち……が……そ、れは……そんな」
もはや早紀の様子は見るに堪えない状態であった。茫然とし、焦点は合わず、恐怖に顔を歪め、ただ時々声を漏らす。
そんな早紀の心を更に抉るように、金色の瞳を持ったもう一人の早紀は、荒々しく叫び続ける。道端の花を足蹴にして折るように、容赦なく心を傷つけていく。
真実が、人を救うとは限らない。誰しもが仮面を着け換え、上手く生を渡ろうとするのだ。
「セン………パイィッ…………! っ、離せぇっ!」
陽介は想いを抱いている人の悲痛な姿に、堪らず湊の腕を振りほどく。とても堪えられはしなかった。傷つき憔悴していく、早紀の姿に。
誰だって、そう思うのだ。それが人なのだと、そう伝えたいと思った。
陽介は世界の境界であった障子を、開け放とうと掴む。
止める暇はなかった。湊の意識の隙間を突いた動き。それはあっさりと彼我の隔たりを無くしてしまうかと思われた。
しかし、それは陽介を拒絶されるように動かない。微塵も動きはしなかったのだ。
それどころか、大声を上げた陽介にも気づかずに、早紀の心を裂く言葉が続けられる。
陽介は必死になって障子を開けようとする。しかし、少しの隙間を開けているまま、全く開く気配は無かった。
そして。もう一人の早紀から、早紀と、そして陽介の心を切り裂く言葉が発せられた。
『だから、利用したんだよねぇ? 花ちゃんを』
深く深く心を突き刺し、じわりじわりと裂く言葉が。
ぬるりとした空気を震わせた。
ここら辺は本当に難産ですね……
しかしながら、少しづつ進めていくので、これからもよろしくお願いします!
さあ……王子ふるぼっこフィーバータイムだ……!