P3inP4   作:ふゆゆ

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お久しぶりです!
忙しかったのもあるんですが、純粋に構成に悩みこんなにも遅れてしまいました……
申し訳ありません!




心喰らう風

 赤く、黒い霧が凄まじい勢いで渦巻き、収束してゆく。

 

 けたけたと笑う二つの影が、金の瞳を光らせていた。

 

 

「…………」

 

 

「っぅああ……!」

 

「っ……!」

 

 風が嵐のように吹き荒れ、雨の代わりに崩れゆく家の破片が凶器となって荒れ狂う。

 丁度と言っていいのか。蹲る湊へ、早紀と陽介が飛ばされてきた。

 蹲り、顔を庇っていた湊は、見づらい視界で二人の状況を把握した。

 避ける事は出来ない。一般人である二人。特に、長くこの場所にいたのか気絶してしまっている早紀などは、体が衰弱してしまっているだろう。それを考えたら何とか受け止めなければならない。

 

 しかし。

 

「く、くそ……っ! 花村っ! センパイを掴むんだっ!」

 

「っ!?」

 

 未だ完全に回復したわけでもない湊に、二人の人間を受け止めるのは無茶であった。湊も強風に煽られ、共に飛ばされ転がっていく。

 しかし湊の声に反応した陽介が、早紀を抱く事で危険な落ち方をせずにすんだ。そのぶん陽介に衝撃が来たようで、陽介もそのまま気を失ってしまう。

 

 湊はその意思の強さ故か、それとも生来の頑丈さ故か、身体の至る所の痛みに呻きながらも身体を起こす。

 映る視界に店や商店街は消え、障害物の無い広大な正四角形が広がっていた。ふらふらと首を振れば、湊の後方に陽介が早紀を抱きしめ、倒れこんでいる。

 遠くはないが、声が何とか届くくらいの距離だ。

 

 

「は……花村」

 

 湊の震える声に、陽介は反応しない。

 陽介は頭を打ったのか血を流し、気絶していたのだ。制服も飛来物によってかぼろぼろで、血が滲み、素肌が出ている部分も多く見られた。反して、早紀は気絶しているものの、怪我はない。それは例えどのように思われようとも、早紀の事を想っていた証であったように思われた。少なくとも湊はそう思えた。

 

 あのもう一人のナニカ達の言う事はまるっきり嘘ではないものの、全てを信じるには余りにも歪み過ぎているように思ったからだ。

 

 

「……ぐ、ぐぁっ」

 

 何にせよ、今動けるのは湊一人。相手は二人。他にシャドウがいないのは、あの余りに深い奈落の如き影のせいだろうか。意識をあちらこちらに飛ばしながら、動かぬ身体を再度起こしてゆく。

 

 二つの赤黒い霧の渦は、瞬く間に収束していき中の影を表そうとしているのだ。

 立たなければ、後ろの二人を守る事も出来ない……!

 

 そう心を奮い立たせ立ち上がる。ぎしりぎしりと鳴る身体に鞭打って、口から洩れる呻きを噛み締め耐えて、湊の内を叩く鼓動に脂汗を流しながら。

 

 

“何故こんなことする必要がある?”

 

 

 そんな声が聞こえた。ような気がした。

 幻聴だろう。余りに過剰なダメージ、余りに圧倒的な戦力差、そんな負の要因に自分の本能が囁いているのだ。迫る死から逃れる為に。

 

 湊は幻聴に応えない。

 

 

(……)

 

 

 湊は片手をつき、両膝をつきながらも上半身を起こす。

 吹き付ける風を受け、髪がたなびいていた。

 

 

“他人じゃないか。花村も、キミの事なんて何とも思ってないかもしれない”

 

 

(…………)

 

 

 手が地面より離れ、片膝が立てられる。

 立てられた膝に、湊の手が置かれた。

 

 

“死の昏き世界……キミは誰より知ってるだろう?”

 

 

(……絆)

 

 

 膝に当てられた手に力を入れ、一息に立ち上がろうとする。

 湊を唆してくる幻聴に、答えながら。

 何故逃げないのか。その理由を、自分の中で確かなものとしながら。

 

 

“絆?”

 

 

(ここに来て、少しだけ築いた絆を)

 

 

 ふらつき、中腰になり両膝に手を置き、肩を落とす。

 ぽたりぽたりと血が地面へと零れていった。

 

 

“……”

 

 

(守る事……それが、僕の選択)

 

 

 

 ぐっと息を吸い、再度しっかりと立ち上がる。

 立ち上がり、二つの影を見据え、手を前方に伸ばした。

 

 

 

 

「来いっ……ペルソナ……!」

 

 いつしか声は聞こえなくなって。

 自問自答に終わりを告げた時、不思議と鼓動は収まっていた。あの声は、湊の弱さのような物だったのだろうか。それともあの二つの影のせいだったのか。湊には分かりはしなかった。

 

 けれど答える事で、心が決まったからだろう。

 今ならペルソナを召喚できると、不思議と理解していた。

 

 

 赤黒い渦と対になるように、湊の周囲を青の光が渦を巻き形を成していく。

 現れるはペルソナ。幽玄の奏者オルフェウス。

 

 湊はペルソナが現象すると同時、未だ吹き荒れる赤い渦に力ある言葉を告げる。

 

 

 

 

 

「オルフェウス! 『マハラギ』!」

 

 手を開き向けられた二つの渦へ、かき鳴らされる琴の音。

 鮮やかな赤い旋律が、濁った赤の霧に混ざったかと思うと一瞬の煌めきの後、連鎖するように火焔を吐きだした。

 

 先ほど小物のシャドウに放った時よりも遥かに強力な威力。立ち上る二つの火焔は、赤黒い渦を包み燃え尽くさんとして、轟轟と唸りを立てている。

 

 この一撃で終わった。普通ならばそう思っても可笑しくは無い一撃であった。

 

 

「は、はあっ、はっ、はあ……ピクシー、『ディア』」

 

 しかし湊は素早く違うペルソナを呼び出し、満身創痍の自身の身体を癒す。

 

 淡い光が湊を包む。光りが収まると、傷が少し癒えた湊が現れた。

 痛みが鈍くなった、しかし全快はしなかった腕で、目に入り込もうとする血を拭う。ねとりと音を立て、制服の裾の黒が濃くなる代わりに、視界は良好になる。

 

 そして再度、『ディア』を唱えようとした瞬間。

 

 湊に影が落ちる。

 

 

「! くぅっ!」

 

 

 湊は上を見る事なく、瞬時にその場から後ろへ飛びずさった。

 一歩、二歩と大股に、少なくない距離を後退した。次の瞬間、湊の目前に、上空から四足を持ったカエルのような下半身と、二腕を持つ人型が下半身から生えた化け物が落ちてきた。

 

 

 その質量は凄まじく、着地の衝撃で地が揺れ暴風が巻き起こった。もしあの場にいたなら湊は一溜まりも無かっただろう。

 湊は油断なく身構え、思考を巡らし始めた。

 

 

 そんな湊に、そいつ――陽介の影は、上半身を揺らしながら見下すように声を落とす。

 相変わらずエコーのかかった、不明瞭な声だった。

 

 

『おいおい、いきなり随分な真似してくれんじゃねえか。ああ?』

 

 

 やはり効かなかったのだ。それとも避けたのか。どちらにしろ、効いているようには見えない。湊は内心で舌打ちをする。

 そんな陽介の影の後方、火焔が完全に収まったのが見えた。

 

 

 火焔が収まった後には剣のような葉を持ち、連なるように色鮮やかな花を咲かせる早紀の影が居た。頂上の花の花弁の中心に、腕を交差させ耳を塞ぎ、目を瞑る早紀の影本体が居る。こちらもどうやら全く効いていないようだった。

 早紀の影はその金色の眼を開き、湊――湊の後ろの二人を見て、悲しそうに微笑んだ後、もう一度目を瞑り、そして早紀の影は閉じていく花弁に包まれ見えなくなった。

 

 

『大丈夫よ……全部忘れさせてあげるから……』

 

 

 そう言葉を残して。

 

 

 

「……」

 

 

 湊は二つの影を睨む。正直に言って状況は最悪だ。使えるペルソナの中で最強の規模と総合威力を持つ魔法攻撃スキル『マハラギ』ですらも、二つの影に対し何ら痛痒を与えられていないのだから。

 

 その事実に、湊は内心で舌打ちをする。特に早紀の影は、植物の癖に何故燃えないのかと声を大にして問いかけたいところであった。

 

 しかしながら弱音は吐いていられない。何故か早紀の影は動く気配が無いようだ。ならばまずは陽介の影から倒すべきだろう。勿論早紀の影への警戒は怠れないが、二対一などまっぴらごめんである。

 

 湊は陽介の影を倒す為、すぐさま動き出した。

 

 

「オルフェウス! 『ラクンダ』!」

 

 

 おどろおどろしい旋律が奏でられ、毒々しい光が陽介の影を包む。ゆらゆら揺れていた陽介の影は、戸惑ったようにその巨体をたじろがせる。

 

 湊はその隙にオルフェウスを先行させ、自身もそのすぐ後ろを走った。

 

 

『ちっ、また妙な真似しやがって……そこどけよ! そいつを殺して、俺は本当の俺になるんだ!』

 

 

 そして陽介の影が動こうとした刹那、力ある言葉を告げる。

 規模は『マハラギ』に劣り、総合的には最強とは言えないが、単一威力では『マハラギ』に勝る魔法攻撃スキル――

 

「――『アギラオ』!」

 

 

 瞬間、陽介の影を滅さんと、より凝縮され昇華された火焔が巻き起こる。

 

 

 

 

 火焔の中央は青く燃え盛り、無駄な余波は無く陽介の影だけに多大な影響を与えていた。先程とは違い陽介の影を呑んだ火焔は、酸素を取り込むように空気を巻き込む強い風が起きている。つまり陽介の影へと風が収束しているのだ。

 

 

『お、おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 

 

「オルフェウス!」

 

 

 『アギラオ』は望む通りの結果を湊に齎した。『タルンダ』で相手の耐性を下げていた事も大きな要因だったのだろう。陽介の影は、燃え尽くされる苦しみに、怨嗟の吠え声を上げていた。

 

 湊はその声に顔を顰めながら、オルフェウスへと声を掛ける。オルフェウスは湊の意思通り、風の波に乗るように勢いをつけて、燃えていない陽介の影の上半身へと『突撃』していく。

 

 

『ぐ、ぐうっ!!』

 

 

「オルフェウス! こっちだ!」

 

 狙いあたわず。オルフェウスの無駄に堅そうな金属の琴に打ち据えられ、陽介の影は苦悶の声を漏らす。

 そして湊の声にオルフェウスは反転し、湊の前方中空に留まり足場となった。

 

 湊はオルフェウスを足場に、陽介の影へと飛び掛かる。そして苦悶の声を上げる陽介の影の上半身。その顔を思い切り殴りつけた。

 

 

『ぐぁっ! て、テメエ! 人間如きが生意気なぁぁぁぁっ!!』

 

 

 殴りつけた反動で、すぐさま飛び下り離脱しオルフェウスの下へと後退する湊。

 そんな湊に対し、所々を焦がした陽介の影が怒りの咆哮を浴びせた。

 

 しかし湊の無表情はなんら変化を見せはしない。

 影の怒りを柳のように受け流し、生き残る為の取捨選択の判断を頭の中で考えていく。

 

 

(いける……!)

 

 

 早紀の影は蕾となり、閉じこもったままだ。今の所動きもしない。陽介の影をサポートする動きも無い。

 そして陽介の影に湊の攻撃は効いている。しかも陽介の影は熱くなっているようで、容易に湊のペースへと引き込めそうだった。しかも目の前の邪魔を優先するつもりなのか、湊の方へと目が向いている。

 

 湊が後ろの二人を庇っている事にも気づいていないようだった。

 

 

 しかし。

 

 

「……ぅ、うぅ。痛い……頭が痛い…………こ、ここは」

 

 

 陽介の腕に包まれた早紀が目覚め、湊は一瞬それに気を取られてしまった。

 湊の警戒は、陽介の影だけに向けられ早紀の影から逸れてしまった。陽介の影を牽制しようと、力ある言葉を紡ごうとした瞬間。

 

 

『なぁーんつって』

 

 

 にたり。そんな擬音の出そうな言葉を残し、陽介の影は地を蹴り宙に飛ぶ。

 そして陽介の影が居た空間の向こう。湊の視界に映ったものは。

 

 

「……!」

 

『――《忘却の風》に身を任せなさい』

 

 

 赤黒いオーラ纏う早紀の影。いつの間にか蕾は開き、金の瞳と腕を開いた天へ腕伸ばす早紀の影の姿と。 

 赤黒いオーラの消失と言葉を合図に放たれた、優しく柔らかい緑の風だった。

 

 




デビサバ2の録画がたまっています……
日曜日に全部見るとしましょう!

そういえば、この小説を紹介して下さっているサイト様を見つけました。
とても嬉しかったです!


期待を裏切らないよう、頑張ってこうと思いました!
これからもよろしくお願いします!
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