P3inP4   作:ふゆゆ

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シェリー酒の香り

 時間が流れて放課後。

 

 今日は昨日のように何かあるわけでもなく。用事があるという雪子と別れ、湊、陽介、千枝の三人でジュネスへ来ていた。

 菜々子が好きな歌が流れていたCMのデパートだ。

 

 そして三人が訪れたのは、屋上にある憩いの場、らしき場所。

 晴れならばさぞ景色も良く、気分もいいのだろうが、あいにく今日は曇りである。そして天気同様に陽介の懐も曇っているらしい。

 

 

「ちょっ! 何これぇ! ビフテキじゃないじゃーん!」

「ぃや、二人分だと肉は無理だっつーのー!」

 

 三人の前にあるのは、発泡スチロールの皿に佇むたこ焼き。湯気が立ち、とても美味しそうだ。しかしそれは断じてビフテキではない。

 

 

 そしてたこ焼きが選ばれる事になった理由は、つまり陽介の言葉の通りなのだろう。陽介の懐事情がよく分かるという物だ。

 

 しかし湊は然程気にせず、たこ焼きを次々に頬張っている。どことなく顔も緩んでいるように見えた。

 

(うん。うまい)

 

 

「信じらんないっ! 今完璧肉の口になってたのにー!」

 

「に、肉の口ってなんだよ……」

 

「肉の口は肉の口よっ!」

 

(だから肉の口ってなんなんだ)

 

 

 

 口には出さないものの、かなり珍しい湊の心のツッコミは兎も角。たこ焼きは美味かった。これより美味いたこ焼きを食べたような気もするのだが、どうにも思い出せない。

 疑問に思ったものの、湊は目の前のたこ焼きの前に、すぐさまその疑問を飲み込んだ。

 

 

 騒ぐ二人を余所に、早くもたこ焼きを食べ終わる湊。更には足りぬ腹の足しに何か頼もうと、店へと視線をやりふらふらと視線を彷徨わせる。

 

 すると、露店の中に置いてあるテレビから、昨日の事件についてのニュースが流れている事に気づく。

 

『――遺体で見つかったのは、地元テレビ局のアナウンサー山野真由美さん。27歳と分かりました。稲羽警察署の調べでは――』

 

 

 

 湊の視線と、割と大きなニュースの内容に気づいた千枝は、湊へと話しかけた。横では陽介が、いかにも熱そうにたこ焼きを頬張っている。どうやらたこ焼きにて手打ちになったようだ。

 

 

「あっ、これ昨日の事件でしょ?」

 

「近所でこんなヤバい事件起きるなんてなっ。その辺に犯人とかいたりして!」

 

「や、やめてよ! 気持ち悪い!」

 

「えっへへ。じょーだんだってー!」

 

 にへらにへらと笑う陽介。身近に起きた事件だとはいえ、知り合いが被害に合ったわけでもないのだ。陽介の反応も別段可笑しくは無いのだろう。

 それは湊にしても同じであり、少し何か引っかかるものの気のせいだとスルーしていた。

 

 ただ千枝はこの話題が嫌なようだ。そこは転校して来た二人と、八十稲羽が地元である千枝の違いなのかもしれない。冗談でも嫌で嫌で堪らないといった表情をしている。

 

 顔を顰め、話題を変えよう声を出す。

 

 

「ぅー、もっと楽しい話しよーよー! あ、ねえ、そうだ。最近噂になってるマヨナカテレビって知ってる?」

 

「深夜番組?」

 

「深夜? ……ちっ、ちがーう! 有里君それ、女の子に言うセリフじゃないから!」

 

「お、お前勇気あんなぁ、おい」

 

 話をずらそうとした話題は、どうやら今噂になっているらしいマヨナカテレビとかいう話。しかし何を勘違いしたのか、それともわざとなのか。どちらともつかない湊のボケに、千枝はついつい突っ込んでしまう。

 

 純情なのだろう。すぐには意味に気づかず、気づいた今、顔は真っ赤だ。

 陽介はなにやら漢を見るように湊を見つめていた。こちらの反応も、湊と同じでどこかずれているようだった。

 

 

 

 

 

 

「ご、ごほんっ。あれだろ? 午前零時に消えてるテレビを一人で見るって奴だろ?」

 

「う、うん。画面に誰か映ったら、それが」

 

「運命の相手。ってやつ?」

 

「え、う、うん。なーに、有里君知ってんじゃん! やめてよねー、全くもう!」

 

「話してるの聞こえて来たから……それで、それ、やってみよう。って話?」

 

「お、おお。結構乗り気なのな、お前! そういうの興味ないかと思ってたぜ! なんか外見は神秘っつうか、クール系なのに、飯の事と言いギャップあんよな、有里ってさ」

 

 

 ちょ、ちょっと話を聞いてよぉ~! と慌てる千枝を置き去りに、話を続ける湊と、陽介。

 湊へどのようなイメージを持っていたのか、陽介は未だ湊への接し方を掴み切れていないようだった。

 

 自分を放って、盛り上がる二人? に何を思ったのか、千枝は怒ったように頬を膨らまし、腕を組み大きな声で話に割り込んできた。

 あたし怒っています。と身体全体で表現している千枝。

 

「ふ、ふん! そんな幼稚な事で盛り上がるとかー!」

 

「おいおい、お前が話し始めたんだろーが。まったく里中はこれだから」

 

「……里中さんも、やりたいんだ?」

 

「そ、それは……あ、有里君。君ってやつはぁ……なぁんか調子狂うなぁ。もう」

 

「ふー、お前さぁ、そんな事で拗ねてっから彼氏もできねえんだよ。まったく」

 

「な、何だとー! このぉー!」

 

「わ、わりいぃ! いぃすぎましたぁ~!」

 

 

 しかしながら、その言葉は自爆に近い。陽介には呆れられ、湊にはマイペースに返される。

 そして話はいつしか千枝の彼氏の話題になり、陽介の失言から千枝と陽介の二人がまた騒ぎ始めた。何も陽介だけで無く、湊にも多少は原因はあったはずだが、我関せずと呑気に紙コップに入った水を飲んでいる辺り何ともマイペースである。

 更に言えば 脇にはいつの間にか、たこ焼きのパックが幾つも重なっていた。一体いつの間に食べたのだろうか。

 

 そんな湊は置いておいて。悲鳴をあげる陽介が、千枝に掴み掛られながらも、湊の背後を見て顔を輝かせる。瞬間、パッと立ち上がり声を上げ、ぶんぶんと手を振った。

 

 湊も紙コップを置き、目をぱちくりとさせる千枝と二人で、そちらへと視線を移す。

 

「あっ! 小西センパイ! センパァーイ!」

 

「あっ。花ちゃん……」

 

 

 

 陽介が声を掛けた人。それは巻かれた長髪の大人らしさを漂わせた女の人であった。ジュネスで働いているのだろう、地味なエプロンらしき制服を着ている。

 陽介の言葉から、彼女が小西だと言う名前だと言う事が分かった。

 

 陽介は湊がこの短い間で把握した更に十割増し程の慌ただしさで、ばたばたと小西へと近寄っていく。喜色満面な陽介に比べ、小西がどこか複雑そうな事に湊は気づく。

 

 

「お疲れーっすぅ!」

 

「お疲れ……」

 

「ん、あぁ。な、何か……元気ない?」

 

「ん、んーん。ちょっと、疲れてるだけ……」

 

 

 疲れているだけ。でもなさそうな声、そして表情。どこか何かを気づいて欲しそうな、そんな雰囲気だった。多分無意識なのだろうが。しかし陽介はそれに気づいていない。

 恐らくは陽介に気づいて欲しいのだろうにも関わらず。

 

 湊は、何となく気になって小西を静かに見つめていた。どこか自分の身近なモノの気配が、小西から漂っているような気がしたのだ。

 

 そんな湊とこちらを見つめる千枝に気づいたのだろう、小西は先ほどまでの弱弱しい素振りを捨て去って、こちらへと話しかけてくる。そこには先ほどまでの影は見えなかった。

 

「ねえ、君。転校生なんだって?」

 

 頷きだけで返した湊をまるで気にする事もなく、どこか意外そうに陽介と湊を見比べる。

 

 

「へー。何か花ちゃんの友達っぽくないかも……あ、変な意味じゃなくってね、ほら花ちゃんっておせっかいでいい奴だけど、たまにウザいから、君みたいに静かな子は合わないんじゃないかなって思ったんだよね」

 

「えぇっ!?」

 

「……毎朝通学路で体当たり芸、笑いを取りつづける辺り、なかなか愉快な人じゃないかな」

 

「えぇっ!? 笑いって何だよっ!」

 

「はははっ、何だか外見や雰囲気と違って面白いんだね、君。芸ってどんな芸?」

 

「自転車でこけて、電柱に股間ぶつけたり。こけたままお尻で喋り続けたり、自転車で」

 

「だ、だぁあああ! 止めろっつーの、てか、止めてください! それ芸じゃないからぁ~」

 

 

 彼女は年上らしい落ち着いた雰囲気で、湊に話しかける。今の会話の限りだと、一見陽介には何の含みはなく思えた。それでも湊は、やはり何かが引っかかっていた。

 

 

 とはいえ、そのことを抜きにしても、中々距離感の保ち方というのが上手く、湊もストレスなく話すことが出来た。ただその内容が陽介には厳しかったのか、陽介からは泣きが入ったのだが。

 因みに千枝は、最初はうんうん頷いていて、湊の暴露話あたりは大口開けて爆笑していた。女の子としては小西とは正反対な千枝であった。

 

 

「花ちゃん自転車ネタを繰り返すのはダメなんじゃないかな?」

 

「だぁ、もう、勘弁してくださいよぉ」

 

「ふふ。じゃ、そろそろ戻らないと……またね」

 

「っ、あっ、センパイ、こないだの話」

 

「ああ。うん。いいよ! 今度暇な時連絡するね」

 

 

「よっ、よっしゃあああああああああああ!」

 

 そう言って、まだ仕事があるのだろう、手を振りながら去っていく。当然話が何なのか湊達には分からないが、今の陽介の様子から、言葉からデートか何かの話だろう。

 何とも青春しているものだ。湊はそう思った。

 

 しかしそれよりも、ずっと感じていたナニカの気配と、小西の今すぐに消えてしまいそうな儚さ。

 それらがどうにも気になってしょうがなかった。自分の中のナニカがその違和感に対してずくずくと疼いているような。そんな感覚。

 それはあのガソリンスタンドで感じたものと似たような感覚だった。

 

 

「なになに、どうしたの? って、あぁそゆこと……」

 

 

 

 

 疑問に思った千枝も、陽介の取り出したものを見て納得した。

 それは何かの映画、多分ラブロマンス映画のチケット。陽介のブイサインが、どれほどに喜んでいるのかをよく伝えてくれる。

 湊はそれでも無表情を崩さない。視線は小西の後姿を追っている。

 そんな湊を余所に、二人は騒ぎ続ける。

 

 ――その無表情に、僅かだが険しい色があった事に気づいた者はいなかった。

 

 




 あとがき小ネタ。


「なんか俺ばっか好きな人ばれてんじゃん! お前らもそういうの何か教えろよ!」

「えぇ~、今別に恋愛とか興味ないしー」

「くぅっ。だよな……」

「だよなってなによ! 調子づいちゃって! 花村の癖に!」

「おわわっ! 悪かったって! あ、有里の好みってどんなんなんだ!?」

「話ずらそうとしてー……でも、あたしも興味あるかも? ね、ね、そこんとこどうなのさ?」

「なんでもいい」

「えっ……」

「えっ……」


 湊は何でもいいようです。



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