P3inP4   作:ふゆゆ

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ご無沙汰しております、十日振りの新話投稿です。
一応直しが終わったので、急いで仕上げました!
あぁ。映画が早く見たいです。


覚醒

 宙を這いずり、三人に追いすがる三体の異形、『シャドウ』。

 泥と肉の生々しさを連想させる黒と赤が縞となり波紋し、放射状に広がっていく空。現実に有り得ないそれも、階段を下り駆ける三人の精神をより削っていく。

 それでも足は止めない。止められる筈がない。

 

 疲労等よりも、死の方が恐ろしいのだから。

 

 

 しかし逃げ続け建物を外に出て、大きな駐車場でついに。

 

 

「きゃぁっ!」

 

 

 シャドウに捉えられた。

 恐らくは初めから捕えることなど容易かったのだろう。広い空間に出た瞬間、ぬるりと三人の前に回り込んできた。

 

 それだけではない。まるでこちらを嘲笑うかのように、千枝の顔をその汚らしい舌でべろりと舐めたのだ。そこで殺す事も出来たろうに。それはまるで猫が獲物を嬲る様に似ていた。

 

 

 シャドウは宙を這いずり、三人の周りを囲み動かない。

 彼我の関係を示しているように思えた。

 

 即ち、捕食者と、被食者。

 

 

「さ、さとなかぁっ! うおわっ!」

 

「…………っ!」

 

 

 千枝は舌で舐められ、気絶してしまったのか倒れ臥している。

 陽介は馬鹿にするように宙を舐めるシャドウを避けた拍子に、尻餅をついてしまう。

 そして湊は右手を左太ももに彷徨わせ、そこに何もない事に舌打ちをしていた。

 

 

 何故そこで舌打ちが出るのか分からない。

 

 けれど、無ければ(・・・・)いけないものが(・・・・・・・)無い(・・)

 

 という感覚が湊を焦らせていた。

 

 

 

「も、もう……! ダメだ……」

 

「……っ。くそ!」

 

 

 しかしシャドウは、そんな湊の事など気遣ってくれる訳も無く、三人を喰らわんと、動き出す。

 

 湊は三人の末路を幻視した。

 

 光のない瞳。脱力した身体。精神が死んでしまった、生ける屍。十字架に架けられた、罪人の如き人影。

 

 

 

 

「ァ……ああああっぁぁあぁあああああああ!!!」

 

 

 

 

 湊は。

 

 

 

 自分の中で、何かが弾けるのを、  

 ――感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 ――イメージが流れ込む。いや呼び起される。ノイズがかった映像が浮かんでは消えていく。

 

 

 緑の空。

 血にまみれた床。

 異常なほどに近く大きい、不気味な月。

 

 

 

(――……なんだ、これは)

 

 

 

 足元の血だまりに転がった、拳銃――死の象徴。

 這いずる大きな影。百手と夥しい仮面。

 

 

 

(知って、いる?)

 

 

 

 

 そう、迫る大きな影。――それはシャドウだ。

 

 

 

(思い出せない……でも)

 

 

 

 

 脅威に、拳銃を手に取り、こめかみに押し付けた自分。

 死など何とも思わない自分が、死の前に汗を垂らし、そして――

 

 

 

(何となく、分かった。ここに来てから騒ぐ、自分の中のナニカ。それは死の影に対する――)

 

 

 

 そこでイメージが途切れ。

 そして現実が迫りくる。

 ゆっくりと訪れる、死を齎す影。

 三体のシャドウ。

 

 

 

 しかし湊は焦らない。

 覚えてはいない、でも知っているから。

 

 

 

“――揺れ動く自分を見つめるためにも、

 人は生死について思いを馳せる必要がある”

 

 

 

 どこかで聞いたフレーズが、湊の中を通り過ぎて行った――

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと腕を前に、伸ばす。

 

 

 ――音が消えた。

 

 

 代わりに優しい言葉が聞こえる。

 自身の内から。

 

 

『さあ。今こそもう一度始めよう。アルカナの旅を。――けれど、そう。その結果は、きっと違うモノになる』

 

 

 

 

 青い蝶が虚空より何匹も、手の内へひらひらと舞い降りる。

 

 

 ――影だけを見つめ。

 

 

 寂しそうな声が、内に響く。

 心を叩く。

 

 

『そう。今はもう、残滓にしか過ぎない僕だけど。今度こそは、君が幸せになれるように――』

 

 

 

 

 青い蝶――青い燐光が集まり、形を成した。

 それは鈍くぎらついた拳銃。

 

 

 ――そして影を、死を受け入れ、自らを見つめ。

 

 

 慈愛に満ちた声が。

 湊の背中を押してくれる。

 

 

『さあ。始まるよ。世界を賭けたデスゲームなんかじゃない。真に自由な世界が、広がっている……』

 

 

 

 

 

 それを、自らのこめかみへと持っていく。

 もう必要は無いと分かってはいるけれど。

 

 ――ドクリと心が脈動し、緊張に汗が額をつたう。そして瞳は閉じられる。

 

 

 

 名残惜しそうに、声が響く。

 忘れないで、と。

 

 

『僕はいつだって、君を見守っているよ。頑張って。いつかまた会おう――』

 “僕のトモダチ”

 

 

 

 

 これは覚悟の証。そして絆の、証。

 だから拳銃を右手に、こめかみへとより押し付ける。

 

 ――脈動は早まり、震えを抑え、荒く息を吸う。

 

 

 

 

 声はもう、聞こえない。

 ただきっと、いつか聞いたのだろう声が、心へ湧き出てくる。

 

 

『――力を手に入れたみたいだね』

 

 

 

『それもちょっと変わった“力”みたいだ』

 

 

 

『何にでも変われるけど』

 

 

 

『何にも属さない“力”』

 

 

 

『それはやがて“切り札”にもなる力だ』

 

 

 

『……君の在り方次第でね――』

 

 

 

 

 これは多分、いつかの言葉。彼の言葉。

 そしてそれはきっと間違いでは無かった。多分その筈だ。そう魂が教えてくれる。

 

 

 だから、きっと。今度だって、間違いなんて言っていない。

 

 

 

 

 

 他人なんてどうでもいい自分だけど、その言葉は信じられた。

 思い出せなくても、信じられた。

 

 

 

 

 

 

 そして息を吐く。

 覚悟はもう、決めた。 

 

 だから薄笑いを浮かべて、引き金を――

 

 

 

 

 

 

“ペ”

 

 

 

 

 

“ル”

 

 

 

 

 

“ソ”

 

 

 

 

 

“ナ”

 

 

 

 

 

 

 引いた――

 

 

 

 

 

 

 

 ――ダアァァァン……!

 

 

 

 

 

 

 

 命を叩く衝撃が、湊という存在を貫いた。

 

 空色の破片が湊を取り巻き、拳銃の先から煙がたなびき渦をつくる。前ボタンを留めていない、ルーズに着られた制服は揺らめいて、深青の髪から覗く湊の瞳が蒼い光を湛えて光る。

 

 

 そして、それは現れた。

 

 

 

 

 ――我は汝。

 

 ――汝は我。

 

 ――我は汝の心の海より(いで)しモノ。

 

 

 ――幽玄の紡ぎ手。オルフェウス也……!

 

 

 

 

 蒼き光が少しづつ収まっていく。

 機械染みた全身。胴は赤く染められ、灰色のマフラーを首に纏い、白銀の髪を揺らめかせている。

 竪琴を背負い、異様な空を背に目を赤く光らせて、それは異界にて再誕の雄たけびを上げた。

 

 

 湊は、懐かしいその感覚に、にやりと口角を釣り上げている。

 それは無意識の微笑。

 

 

 

 

 

 

「うぇぇえええ!? な、何だよそれぇ!」

 

 

 

 

 陽介は尻餅をついたまま、唖然としたように叫び。

 三体のシャドウは怯えたように、身を竦ませキィキィと耳障りな鳴き声を上げている。どこか戸惑ったように鳴いている。それは被食者だった筈の者が、自身などより遥かに強き者と感じてしまったから。

 

 

 そして光が消え去り、湊の背後に『オルフェウス』が佇んでいるのを見て、陽介は思わずといったように湊の名前を呟いた。

 

 

  

 

「有里……お前」

 

 

 

 それは、何だ。

 

 そう続きそうな陽介の言葉は、痺れを切らしたシャドウにより遮られる。

 耐え切れなくなった一体が、湊へと飛び掛かったのだ。それは自分達が強者であるという意識が僅かに残っていた故か。

 

 

 

 

 

 湊は、自らのペルソナに指示を出した。

 

 

「いけ……っ!」

 

 

 

 力ある言葉に呼応して、オルフェウスが意思を汲み竪琴をかき鳴らすと、竪琴は赤く染まる。

 そして音色が空間に響いた瞬間、シャドウが炎に包まれた。

 

 燃えたシャドウは地面に崩れ、キィキィと泣きながら、どろどろに溶け地へと染み込んでいく。

 

 

(これで一体……)

 

 

 それを見て、湊は笑いを深めていく。三日月のような笑い。

 

 そのまま勢いのままに、オルフェウスを従えて、未だ躊躇するように威嚇の鳴き声を上げる二体のシャドウへ駆けていく。

 青き瞳から溢れる光と、オルフェウスの眼から流れる赤。二つの光が尾を引きながら、シャドウへと瞬く間に光の線を描く。

 

 

「ハハッ、『ラクンダ』っ!」

 

 

 竦む片方のシャドウを、驚くほどの速さのまま疾走した勢いをつけたまま、素手で殴りつける湊。

 

 後方のオルフェウスが、湊の言葉を受け竪琴をかき鳴らせば、妖しい光がもう片方のシャドウを包み、シャドウは戸惑いに動きを鈍らせる。

 そしてもう一度鳴らされた竪琴の音色に魅入られて、タルンダを受けたシャドウはより大きく燃え盛る。

 

 先程燃やされたシャドウよりも早く、煙を上げて消え去っていくシャドウ。地面に溶ける間もなく、空中で消え去った。

 

 

 

(二体っ……!)

 

 

 湊が殴りつけたシャドウが地面に叩きつけられ、キィキィと泣く。

 湊が興奮か、息を荒げ、手の平を握り何かを確認している間。

 その最後のシャドウは、宙を這い、煙に紛れ逃げようとしていた。

 

 

 が。

 

 

 

「……『アギ』っ!」

 

 

 湊はゆらりと光を引き、振り向いた。そしてそちらへ手を向け、ゆっくり握りしめながら力持つ言葉を告げる。

 

 湊の思うままに竪琴の音色を鳴らしたオルフェウス。それにより現象した炎からは逃れられず、シャドウは例に漏れず、大きな火に(まみ)れていった。

 

 

 そうして最後のシャドウも、ぐしゃりと音を立て地面へと零れて消えたのだった。

 

 

 

「終わり……だ」

 

 

 

 瞬く間の出来事であった。圧倒的な蹂躙劇であった。

 湊はまるで戦い慣れているかのように淀み無く動き、シャドウという化け物を全く躊躇う事無く消し尽くしていったのだ。

 

 

「…………」

 

 湊の神秘的な雰囲気と、それにそぐわない現実的で肉感的な音と光景が交差し、知らず陽介は息をするのも忘れていた。

 

 

 

 

 戦い、いや一方的な蹂躙を終え、湊の手から青い光滴となり拳銃が消えていく。

 それに伴って、背後のオルフェウスも淡い青光となり少しづつ薄れていった。

 

 

 オルフェウスが消える間際、湊が振り返り、何事かを口にする。

 

 

「―――」

 

 

 

 それはオルフェウスに向けてなのか、オルフェウスを通した誰かへの言葉だったのか。

 湊にすらも分かっていないのかもしれない、衝動的に口をついて出た言葉。

 

 

 その言葉はきっと、目的の誰かに届いたことだろう。

 

 

 

 

 

 ポロン――……

 

 

 

 

 

 オルフェウスが消える寸前、聞こえた竪琴の音が。

 返事をしてくれた。

 

 

 ちゃんと、届いたと。

 教えてくれたのだ。

 

 

 湊の満面の笑顔が、その事を何よりも物語っていた。




これかもよろしくお願いします!
ゼロの使い魔の方は亀更新ですが、こちらもよかったら見てあげてください!
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