「どういう状況だこれは?」
寮から学園に戻ってくると掲示板の前にやたらと人だかりが出来ており、コロシアムの方に走っていく生徒も多くいた。動揺する人だかりを掻き分け掲示板の前まで行くと、
『噂の新転校生、不良グループと対決!?』
と大きな文字で書かれた新聞が目に入った。
「なんだこりゃ、いつの間に…あの時に俺達以外にあの会話を聞いてた奴がいたってことか?」
確か新聞は報道部ってとこが発行しているってエレンが言ってたな、近くに潜んでたのか…余計な事しやがって…
~遡ること四時間前、報道部部室~
「部長!特ダネゲットしてきました!」
と部室に駆け込んできたのは変わった髪飾りを付けたツインテールの少女、岸田夏海。本人曰く報道部ゴシップネタ班らしい。その報告を聞いた部長と呼ばれる少女、遊佐鳴子は、
「今回はどんなネタを持ってきたんだい?」
と夏海に聞き返す。
「最近話題の新転校生が学園の不良グループと対抗戦するんですよ!それも、一人で!」
鳴子の言葉に嬉々として返す夏海。しかし、
「残念だけどその情報は既に僕も知ってるよ」
とあっさり返された。それを聞き落胆した夏海だったが、
「でも、新しい転校生はまだまだ謎が多い。生徒達も彼の活躍は噂程度でしか聞いていない。だから今回はいい機会だ。夏海、記事を書いてくれ。それも注目を集めるような記事をね」
「い、いいんですか部長!?」
思わぬ部長の言葉に驚いた。自分に記事を書けと部長が言ったのだ。こうなったら飛びっきりの記事を書くしかない。と夏海は心に決めた。
そして現在に至る。
「仕方ねぇ、さっさと終わらせるか」
とコロシアムに向かおうとしたとき、
「黒塚さん!」
と呼び止められた。振り返ってみると、そこにいたのは転校生だった。
「どうした転校生?分かってると思うが俺は今から対抗戦だ。用があるなら手短に済ませてくれ」
という俺の言葉に対し転校生は、
「本当に一人でやるんですか?」
と聞いてきた。俺はそれに対し、
「当たり前だ。なーに心配すんな。あんな不良ども何人束になってかかってこようが、魔物よりは弱い」
と答えた。
「黒塚さんがそう言うなら…信じてみます」
「そうかい」
そう言い残し俺はコロシアムへと向かった。
~コロシアム控室~
控室へと入った俺は入念な準備運動をしつつ室内から会場の雰囲気を感じていた。新聞の効果は大きくかなりの人数がここに集まっている。
「さて、いよいよ試合開始か。魔法使いになって初の対人戦か、色々と試すいい機会になりそうだ」
余裕そうに構える零士の傍らではドラゴが「早く暴れさせろ」と言わんばかりに飛び回っていた。
「よし、そんじゃ行きますか」
控室のドアを開け会場に入ったその瞬間、一斉に歓声が沸き起こった。なにもそこまで興奮するほどの事でもないだろうに…暇なのか?反対側を見てみると、離れてはいるがこの状況が気にくわないのか不機嫌そうな顔を浮かべている対戦相手達が見える。戦闘服のデザインはバラバラだが特攻服だったり長ランだったり、昔の漫画に出てきそうな不良の格好だった。おまけに武器はメリケン、釘バット、挙げ句の果てには鎖鎌なんて奴もいる。
あれじゃあ、どうぞ対策してくださいって言ってるようなもんじゃねぇか…
~その頃の観客席~
「黒塚さん、本当に大丈夫なのかなぁ…」
転校生は不安そうに黒塚を見つめていた。やはり心配する位ならあの時自分もやると言っておけばと転校生は考えていた。すると誰かに後ろから声をかけられた。
「安心しろ、お前も見ていたろ。モンスターと融合した奴の強さを」
その声の正体はエレンさんだった。確かにあの時の黒塚さんは強かった、でも1つだけ気になることがある。
「エレンさん、黒塚さんは魔法が得意なんですか?」
そう、彼の魔法の腕だ。確かにあの時は魔法を組み合わせて物凄い速さで攻撃をしていた。でも、あくまであれは補助的な魔法。メインとなる攻撃の魔法はあるのだろうか…
それに対し意外な答えが返ってきた。
「すまんな、転校生。実の所私もよく分からない。なにせ私も奴が魔法を使うところを見たのは今日のクエストの時が始めてだからな」
「ということは…」
「ああ、奴の魔法の腕は未知数だ」
なんと、あのエレンさんでさえ彼の魔法の腕に関して知らないという。本当に彼は勝てるのか…と考えているとまた別の声がした。
「大丈夫だよ、転校生くん。零士さん強いもん!」
その声の主は同じクラスの浦白さんだった。でもどうして浦白さんが黒塚さんのことを?疑問に思っているところに浦白さんが続ける。
「零士さんが軍にいた時に魔法隊の人と手合わせをしたことがあったの。その時は私まだ零士さんのことよく知らなかったんだけど、すごく強い軍人だってことは知ってたの」
どうやら彼は覚醒する前からかなり強かったらしい。さらに浦白さんが続ける。
「それでね、手合わせの時に零士さんが『二人纏めてかかってこい。一人じゃすぐ終わっちまう』って言ったの。あの時は流石にびっくりしたよ。しかもそれで勝っちゃったんだよ!」
するとその話を聞いていたエレンさんが、
「そんなことがあったのか…そういえば派遣されてきた時もそんなこと言って喧嘩売ってたな…」
と言った。それに浦白さんの話から推測するに彼は未覚醒の状態で魔法使い、それも二人に勝ったことになる。それなら仮に攻撃用の魔法が無くても勝てるんじゃないか?
~再び会場~
「対抗戦…」
という審判の声で会場が一気に静まり返る。そして、
「始め!」
の声で先に動き出したのは、
「先手必勝だおらぁ!!」
不良グループの下っ端らしきメリケンの2人。その様子を見た俺は慌てること無く腰から1本のサバイバルナイフを抜く。それを逆手持ちで構えて炎の魔法をかけ、そのまま走り出しお互いに距離を詰める。
ガキン!と音がし、1人のメリケンとナイフがぶつかる。だが向こうにはもう片方の手、さらにはもう1人残っている。追撃を避けるべく後ろに飛び退き着地したその瞬間、
「何?」
両腕に鎖が巻き付けられた。鎖鎌の2人によるものだ。
なるほど思ったよりやるな…すると絶好のチャンスとばかりに目の前の2人が突っ込んで来る。普通の奴ならここで2人の攻撃をモロに受けるだろう。だが、相手が悪かった。
「「な、なんだありゃ!?」」
向かってくる2人が突然驚いた。その訳は、
目の前の相手の腹に大きな口があったからだ。
「残念だったな」
と言い俺は腹部に表れた口から極大レーザーを放った。突っ込んで来ていた2人にそれは避けれるはずもなく、
コロシアムの壁に激突し、気絶した。
一瞬の静寂の後、観客席からは大きな歓声が湧き上がった。さっきの技は試合開始と同時にドラゴをコートの内側に待機させ、俺の腹部をドラゴの頭部と融合させたのだ。だがまだ終わりじゃない。後3人残ってる。依然として俺の腕は鎖に繋がれたまま、となればドラゴの出番だ。
「よし、思いっきり暴れろ。あ、手加減はしろよ?」
そういい俺の目の前にドラゴを俺と同じ大きさで出現させた。すると観客席からどよめきが起こった。
「あれが、噂のモンスター?」
「見るからに凶暴そう…」
などと言った声も聞こえる。対戦相手の奴らも、
「なんだ…ありゃ…?」
「魔物じゃないのか?」
「なんだよあれ、聞いてねぇよ…」
驚きを隠せない。その隙をついてドラゴが行動にでた。まずは、俺の右手を拘束していた鎖を強引に引きちぎり、そのまま鎖の持ち主を殴り飛ばす。そいつは先程の2人と同様に壁に打ち付けられ気絶した。残り2人。
これ以上は俺を拘束できないと踏んだのか、残っていた鎖鎌の野郎は鎖鎌を諦め、残っているもう一人、釘バットの野郎の側に行った。俺は手放された鎖鎌を腕から離し、残った二人に目をやる。そしてドラゴも俺の隣に立ち奴らを見る。数でみれば2対2だが、圧倒的に質が違う。勝利を確信し、コートの内側から大剣を取り出した、まさにその瞬間。
「うぐっ!?」
背部から何者かによる攻撃を喰らった。背後を確認してみると、どこから出てきたのか不良グループの奴等と似た格好の男子生徒がいる。おまけに周囲を見渡すとさらに3人の男子生徒が会場に降り立っている。そうか、確かこの試合ルール無効だっけか…
~試合開始10分前~
「ルール無効!?」
「そうだ、審判にも話はつけてある。どうせまともにやりあう気はないだろうから最初っからルールなんて無い方がいいだろ」
そう、相手が不良のグループだからどんな手を使ってくるのか予想できないため、最初からルールなんて無い方がいいと言ったのだ。それがまさかこんな形でくるとはな…これで数は2対6。向こうが本気で俺を潰そうとしてるなら…
俺も本気で奴らを潰すとしよう。
続く
さてルール無用の対抗戦。相手の乱入に零士はどう対応するのか。次回、魔物相手並みに大暴れします。お楽しみに。