ワンパンマンと過負荷な弟   作:キャー、サイタマー

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後編

「俺様は貝を食べすぎて怪人になったカイランテ様だ!」

 

人間大の大きな貝から手足が生えている。

元は人間だから、手足以外が貝に変化したと言うべきか。

名や口上から察する限り、量産型の怪人に違いない。

この貝の怪人から逃げたので、周辺から人々は去っていた。

無人の住宅地にいるのは僕と兄の2人だ。

 

『あれと戦ってみようか、おにーさん』

「死んだら頼むわ」

 

今の兄は僕と同じになった最弱状態のままだ。

この状態になってから1年ほど経っている。

本来ならば一生かかっても、このスキルは解除できない。

劣化している状態のスキルを才能のある者に使っても、30年は解けない最悪の過負荷だ。

正確に言うと30年を待てば解除されるのではなく、30年も解除する努力が必要となる。

 

「これで止めだ、マジ殴り!」

「カ、カイイイィィィ!!」

 

兄の拳によって、貝の中身は飛び散った。

しかし今の兄は、僕と同じ肉体強度しかない。

すると当然、反動によって兄の腕はグチャグチャになる。

皮は裂け、肉は潰れ、内側から骨が飛び出ていた。

見ている方こそショックで気を失う光景だ。

 

「いってー、頼むわ」

『その大怪我に対する反応が薄すぎて、僕はドン引きだよ』

 

「ミンチにされてた頃よりはマシだろ。ちゃんと怪人を倒せるようになったし」

『おにーさんの育て方を、僕は間違ったのかな』

 

兄の怪我をなかった事にする。

ついでに怪人の暴れた跡もなかった事にした。

怪人の死体を除けば、すべて元通りだ。

その時、キュポンと変な音が聞こえた。

兄の服から、マイナス・ネジが転がり落ちる。

 

「お、抜けた」

『そんなバカな』

 

兄の体から抜けたネジは、サラサラと崩れて消える。

人外の安心院さんじゃあるまいし、こんなに早く抜ける訳はない。

僕の刺したネジが抜けた事で、抑えられていた兄の力は元に戻る。

白かった髪は元の黒に戻り……と思ったら、なぜか抜け始めた。

止める間もなく毛は抜けて、兄の頭はツルツルになる。

 

「俺の髪がー!?」

『え、これって僕のせい?』

 

「おまえの力で無かった事にしてくれよ!」

『もちろん、おやすい御用だよ!』

 

とは言ったものの無理でした。

寿命で死んだ人を蘇らせても、すぐに死ぬ現象と同じだ。

僕が無かった事にしても、兄の毛根は死滅する。

そうして兄は毛根を失った代わりに、最強の肉体を得た。

怪人を一撃で粉砕するワンパンマンとなった。

 

「また服がダメになった」

『僕がいなかったら、おにーさんは警察に捕まってるよ』

 

兄の肉体は傷付かないけれど、そんな強度は服に期待できない。

僕はスキルで無かった事にして、兄の破れた服を元に戻した。

『ワンパンマン』のヒーロースーツは、どこへ行ったのか。

どうやら僕らは、ヒーロースーツのイベントを取り逃したらしい。

あのヒーロースーツは、おにーさんの手作りなのだろうか。

 

『これはチャンスだね』『おにーさんのヒーロースーツは僕の手で作る!』

 

怪人と戦うのだから、下手な素材は使えない。

ならば怪人から取れた素材を使えば頑丈だろう。

素材ならば、兄の倒した怪人から剥ぎ取れる。

しかし、頑丈な素材であるために僕は行き詰まった。

素材を加工しよう思ったものの、ノコギリもハンマーも硬くて通じない。

 

『こうなったら、お金の力に頼るしかないね』

 

怪人素材の加工を他人に依頼する。

僕と同じになっていた頃ではなく、ワンパンマンとなった後の素材だ。

上から数えて2番目な災害レベル『竜』だった怪人、その一部となる。

強弱はあるものの、災害レベル『竜』は単体のS級のヒーローを超える強さだ。

複数のS級ヒーローで袋叩きにすれば勝てないこともない。

 

災害レベル『竜』の下に『鬼』もある。

『鬼』の素材ならば、加工を依頼できる施設も多いだろう。

しかし、兄のヒーロースーツとなれば最高の物を目指したかった。

『竜』の素材を加工できる施設は限られ、その料金も高額になる。

そのために僕は銀行強盗を行って、非合法な金を稼いだ。

 

そうして1年ほど時間をかけて、兄のスーツは完成する。

学生服をモデルにしたので『ワンパンマン』と異なるデザインだ。

僕とお揃いになるように、デザイナーに設計してもらった。

ボタンやファスナーは危ないので、前開きのない形となっている。

手を保護するグローブの素材も、もちろん『竜』から作られていた。

 

『どうかな、おにーさん』『1億円の着心地は!』

「良いけど、高すぎだろ。破れても弁償できねーからな」

 

『無かった事にすれば元通りだよ』

「おまえの気持ちが重すぎて吐きそう」

 

カニランテと戦ってから2年も経つ。

この頃の兄は強すぎて、戦いに飽きていた。

あらゆる怪人を一撃で倒すので、単調な作業と変わりない。

ヒーローとして悪役を倒す行為こそ目的ではあるものの、それでは足りないらしい。

兄は戦いに興奮を求めていた。

 

「おまえのネジで、俺の力を抑えられないか?」

 

どうしよう、兄がドMになりました。

そんな事を言い出すなんて、神ならぬ僕は予想できなかった。

僕のモデルである『球磨川禊』は、とある人外を封印した事がある。

僕のスキルで及ぶ力の範囲内ならば、兄の力を抑える使い方も出来るだろう。

でも、それはもはや『ワンパンマン』ではない。

 

『じゃあ、やってみようか』

 

とは言っても兄の頼みだ。

怪人に殺されても蘇生できるので、断る理由はない。

僕はマイナスネジを、兄の背中に何個も打ち込んだ。

この『却本作り』のマイナスネジは幻覚だ。

なので兄の防御力は無視できる上に、内臓の機能に問題も起こらない。

 

「私は人間どもが環境汚染を繰り返すことによって生まれたワクチンマンだ!」

「俺は趣味でヒーローをやっているものだ」

 

あれから1年後に現れたワクチンマンは、人型から凶悪な獸へ変身する。

兄は軽々と殴り飛ばされ、地平線の山まて飛んでいった。

その様子を見ていた僕へ、ワクチンマンの殺意は向けられる。

ワクチンマンから放たれた光弾を、僕は目で追うことすらできない。

当然の結果として、僕は跡形も残らず消滅した。

 

「地球の意思によって生み出された私を止める事など、誰にも出来はしない!」

『おいおい』『まさか1回殺した程度で、僕を倒したつもりなのかよ』

 

「蘇ったか。それならば死に絶えるまで何度でも、おまえを殺してやろう」

『そんな暇はないよ』『ほら、おにーさんがやってくる』

 

「ーーリミッター、外れちまったぜ」

 

マイナスネジの一本が、サラサラと崩れて消える。

そうして封じられていた兄の力は、一段階ほど解放された。

しかし、ワクチンマンの攻撃で受けたダメージは回復していない。

学生服のようなヒーロースーツは、兄の血を吸っていた。

そんな怪我に構わず、兄はワクチンマンへ向かっていく。

 

「今度こそ息の根を止めてやろう」

「やってみろよ」

 

ワクチンマンの放った光弾の雨を、兄は必死に避ける。

必殺の威力を有する雨を抜けた兄は、ワクチンマンを殴り付けた。

しかし一撃で倒れるほど、ワクチンマンは容易な相手ではない。

ワクチンマンにダメージを与えた代償として、兄は片腕を消し飛ばされた。

兄は筋肉を締めて、傷口から溢れ出る血を止める。

 

「俺の腕を持っていくとは、やるな。おまえには、もう一段階ほど上の力を見せる必要があるようだ」

「ふん、余力を残しているのは私も同じだ。次の変態で止めを刺してやろう」

 

兄とワクチンマンの戦いは激しかった。

戦闘に巻き込まれた女の子は、気絶したまま消し飛ばされた。

先にワクチンマンと戦って負けたヒーローたちも、余波に巻き込まれて消えていく。

A市と呼ばれていた土地は穴だらけとなり、瓦礫の山すら残らなかった。

やがて両腕を失った兄は、その状態でもワクチンマンに頭突きを食らわせて勝利する。

 

まさにギリギリの戦いだった。

いつも通りにギリギリの戦いだった。

ボロボロになった兄の命は、今にも燃え尽きそうだ。

そんな様でも兄は、とても楽しそうだった。

でも、そのまま起き上がらなくて、兄に触れてみれば死んでいた。

 

『バカなんじゃないかな』

 

兄を大好きな僕も、さすがに庇い切れない。

一撃でも何でも、それで勝てれば良いじゃないか。

余った時間は恋愛物や日常物に使えばいい。

どうして男の子はバトルに全振りするのか。

こんなの『ワンパンマン』じゃない。

 

それでも兄の望んだ事だから、僕は叶えよう。

無惨に死んだ女の子を、

無様に死んだヒーローを、

無駄に破壊されたA市の全てを、

そして最愛の兄が死んだという事実をーー無かったことにする。

 

『あっ』『それでは皆さん、ご唱和ください』『It´s All Fiction!』

 

 

 

【おまけ】

 

狂ったサイボーグは、俺の住んでいた町を壊し尽くした。

家族を失った俺は博士に頼み、サイボーグへ改造してもらう。

それから俺は旅を続け、狂サイボーグを探していた。

しかし、狂サイボーグに繋がる手掛かりは全く掴めない。

いつしか俺は狂サイボーグの姿を重ね、悪に立ち向かっていた。

 

『銀行強盗です』『金を出せ!』

 

ATM の列に並んでいると、そんな声が聞こえた。

まさかと思って見れば、学生らしき少年が受付で声を上げている。

しかし、その手に武器らしき物は見当たらなかった。

受付の女性も困った様子で、まったく慌てていない。

とは言え、銀行強盗と名乗る彼を放っては置けなかった。

 

『まさか銀行強盗と信じてもらえないなんて』『猫先生も爆笑だよ』

「おい、そこの学生。警察が来るまで大人しくしておけ」

 

『あれ、ジェノスくん』『こんな所で会うなんて奇遇だね!』

「おまえと会った記憶はない。なぜ俺の名を知っている」

 

『丁度いいや』『僕の踏み台になってよ』

 

俺はバランスを失って床に倒れる。

その体を支えるべき手も足も失われていた。

まるで最初から無かったように、手足の接合部を晒している。

少年の放った長大なネジによって、俺の体は床に縫い止められた。

そんな俺の有り様を見た人々は、少年の危険性に気付く。

 

『もう一度、言うよ』『銀行強盗です』『金を出せ!』

 

まったく攻撃を捉えられなかった。

この少年は外見に似合わない実力者のようだ。

俺はエンジンを起動して、すぐ側にいる少年へ熱を解き放つ。

高熱によって少年は融解し、赤熱する灰へ焼却された。

俺の寄った銀行で強盗を行うとは、運の悪い少年だった。

 

『何をするんだ!』『室内で火炎放射器を使うなんて』『周りの迷惑も考えなよ』

 

俺のセンサーで生体反応を確認できる事から虚像ではない。

俺の放熱によって間違いなく死んだ少年は、亡霊のように姿を現した。

超スピードで回避された訳でも、強固な肉体で防がれた訳でもない。

おそらく超能力に分類される力で、死を覆したのか。

俺の手足を取り除いたのも、その力で行ったのだろうか。

 

『お金を詰め終わったら言ってね』『その間、彼にお仕置きしよう』

『あっ、急がなくてもいいよ!』『その分、彼に痛い思いをしてもらうから』

 

少年は長大なネジを、俺の後頭部に突き刺す。

俺はサイボーグで、体の大部分を機械で補っている。

たとえ手足を失っても、バーツを交換すれば済む。

しかし、それは脳を破壊されていない場合だ。

今まさにネジを押し当てられている脳を破壊されれば、機械で代用できない。

 

『話をしよう』『全てを失ってサイボーグとなった彼の話だ』

『彼は15の頃まで生身の人間だった』『家族と共に幸せに暮らしていた』

『しかし』『ある日、狂ったサイボーグによって全てを奪われた』

『懐かしい故郷を、思い出の詰まった家を』『そして大切な家族を失った』

『奇跡的に生き残った彼は、正義の科学者に救われる』

『彼は狂ったサイボーグを破壊するために、自身もサイボーグへ改造してもらった』

『こうして彼、ジェノスくんは旅を続けている』

 

たしかに、その通りだ。

特に間違っている部分も見当たらない。

俺が博士に頼み、サイボーグへ改造してもらった。

その事情を公開された所で、俺に恥じる点はない。

問題は、この少年の発言ではなく、その知識にある。

 

「ーーなぜ、そこまで俺のことを知っている」

『もちろん、ずっとジェノスくんの事を見ていたからだよ』

 

「おまえは、狂サイボーグを知っているのか」

『受付さん、お金の用意はできたかな』『僕、もう飽きちゃった』

 

「おい、答えろ。おまえは狂サイボーグを知っているのか」

『えー、知ってる訳ないじゃん』『もしかして本当に信じてたの?』『恥ずかしー』

 

「ーー殺す」

『あはは』『そんな昆虫の標本みたいな状態で、なにか出来るのかな』

『ジェノスくんの嫌いな狂サイボーグみたいに』『罪もない市民を巻き込んで』『自爆してみようか』

『こんな正義ごっこなんてしてるから』『いつまで経っても狂サイボーグは見つからないんだよ』

『それとも狂サイボーグは口実で』『悲劇の主人公を気取って正義ごっこしたいのかな』

『ねっ』『そうなんでしょ、ジェノスくん!』

 

そう言いながら少年はネジで、俺の頭をゴンゴンと叩く。

ゼロ距離にいる少年に対して俺は、使用可能な武装の全てを行使した。

背中から撃ち出されたミサイルは、同じように背中から放射された熱で誘爆する。

撒き散らされた金属片と高熱は、学生服の少年を四散させた。

その衝撃に俺も巻き込まれ、体を縫い止めていたネジも外れる。

 

『なんてことだ』『無関係な市民も巻き込むなんて許さないぞ』『この狂ったサイボーグめ!』

「おまえが長々と話している間に、爆発の影響する範囲は計算していた。かすり傷も負わせていない」

 

『あーあ』『せっかく詰めてくれたのに、お金が灰になっちゃった』

「それほど金が欲しいのなら、もう一度詰めてもらえ」

 

『ジェノスくんで遊べたから、もう十分だよ』

「この銀行は取り囲まれている。ヒーローや警察から、逃げ切れると思っているのか」

 

少年は俺の体を引きずる。

サイボーグなので機械としての重さがある。

非力な少年にとって、俺を運ぶのは重労働だった。

銀行の外へ出ると少年は、俺を地面に下ろす。

俺のセンサーで事前に検知した通り、警官に取り囲まれていた。

 

『犯人は、このサイボーグです』『僕はC級ヒーローのマイナス』『正義を執行しました!』

「あの学生服を着ている方が犯人だ! 人質を救出! 犯人を確保しろ!」

 

『最初から疑ってかかるなんて』『人として最低の行為だぞ!』

 

シールドを持った警官が押し寄せ、ショックバトンを降り下ろす。

俺は警官に回収され、その場から引き離された。

しかし次の瞬間、警官たちはネジで地面に縫い止められる。

銃弾を中てても殺し切れず、少年は逃走を始めた。

やがて俺のセンサーても、その生体反応は捉えられなくなった。

 

俺の会った奴はB級賞金首、本名不明、仮にスクール螺子と呼ばれている。

俺はサイボーグなのでパーツの交換で済んだものの、生身の手足を奪われた者もいる。

体に触れないまま肉体の一部を奪う危険な超能力者だ。

犯罪行為は銀行強盗に限られ、活動した時期は半年もない。

この賞金首の最も厄介な所は映像記録や捜査記録から、その存在が消える事にあった。

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