リザードマンと決戦の日、湿地帯の決戦地は充分な水分を吸ってぬかるんでいた。
ゆっくりと前進するコキュートスは気を抜いている。
リザードマンのレベルは高いものでレベル20前後、レベル
正々堂々とした戦いは望むところではあったが、相手に歯ごたえが無さ過ぎる。
デミウルゴスが立てた策に不満があったわけではなく、友人の策には絶大な信頼を寄せている。主の勅命でない以上、無為な惨殺という概念は捨てきれなかった。完全武装する気にもならなかったので、武器は戦斧一本だけだ。
そして青銅の
大量の視線がこちらを見ているのを感じた。
「決戦ノ時間ダ」
彼に答えるように集落の正門が開き、族長とみられる戦士が4匹、背後から首が4本しかない奇形のヒュドラに乗った族長が2匹。合計6匹のリザードマンと1匹のヒュドラが、時間をかけてコキュートスの前に立った。
命懸けの戦いに臨む者が持つ、良い目だった。
コキュートスは彼らの気迫に当てられて気を引き締めた。
人差し指をたてて挑発をする。
「命ヲ懸ケテ、カカッテコイ」
「俺たちは死ぬつもりはない」
「吠え面かくなよ!」
「行くぞ、侵略者が。クルシュ! 始めろ!」
「《
地面から蔦が生え、コキュートスの体に巻き付き、召喚された低級狼がコキュートスに襲い掛った。コキュートスがそちらの相手をしていると、一匹の族長が咆えた。
「行くぞおおお!」
それが開戦の合図となった。
四人の戦士が距離を詰め過ぎずに前衛、後衛の二匹はヒュドラに跨り周囲から遠距離射撃と援護魔法。
「無駄ダ」
伸ばされた蔦を薙ぎ払い、一歩前に出た。
「やれ!」
腕を振ったのを合図に、集落から投石が始まった。所詮は石でしかない。飛び道具耐性のあるコキュートスの体に傷一つつけることはできない。クルシュは追加で獣を召喚する。
戦士四匹が近寄ってこないため、戦況が進展せずにコキュートスは苛立つ。技を繰り出すと殺し過ぎてしまうので、今回は肉弾戦のみと指定があった。故に、ある程度の距離を詰めないと攻撃が届かない。
大きく一歩を踏み出す。
「近寄ッテ来ナイノナラ、コチラカラ行クゾ」
「そうだな、蟲の武人。今度はこちらから行くぞ」
前衛四匹は一列になって突進を始めた。
(ホウ……何カノ策ナノカ?)
死戦の空気で心が躍った。期待を込めて、最前の厚い鎧を装備した蜥蜴を薙ぎ払おうと戦斧を振った。戦斧は手ごたえが無く、空を切った。
彼らは地に伏せ、攻撃を避けたが、躱せたのは奇跡と言えた。
「いけ!」
誰かが叫んだ。
モモンの作戦によると、至宝の鎧は敵の一撃を耐えられない可能性が高い。盾になるのは絶対に避け、突っ込むのであれば盾になると相手に思わせ、敵の一撃は必ず避けろと指示が出ている。
その作戦は功を奏し、刹那の隙ができた。
ゼンベルは前進を初めコキュートスの足元に滑り込む。そのゼンベルを踏み台にしてザリュースが飛び上がり、
「ヌ!」
飛びかかるザリュースを薙ぎ払おうとした武器が重かった。前衛三匹が武器の柄を必死で掴んでいた。
「《
シャースーリューの援護魔法が発動し、武器に蔦が絡みつく。
彼らは初めから攻撃をするために近寄ったのではなく、コキュートスが持っている一本の武器を手放させるために近寄ったのだ。良い結果には至らなかったが、
確認行為で意識が逸れたコキュートスは、次の攻撃を直撃してしまう。
「
鉄と鉄がぶつかる耳障りな音がして、渾身の一撃は外殻に弾かれた。まともに食らったのだが、レベルの差は明らかだ。
コキュートスは即座に反撃に移り、戦斧を力任せに振った。
「ぐああ!」
いとも簡単に振り回され、武器を掴む族長たちは飛ばされた。族長一匹の腕の切断に成功したが、彼らは慌てて後退していく。
「後退しろぉぉ! 急げ!」
「逃ガサン!」
武器を手放し戦士達は走って戻っていく。ここに来て逃亡という戦況に失望しながら、追撃のためにコキュートスは前進する。
「今よ!早く!」
後ろから叫ぶクルシュの声と同時に、コキュートスの足元の地面が落ちた。
初めからそれが本命だった。
(オ……落トシ穴……?)
周辺の泥中から、武器を手にしたリザードマン達が現れる。伏兵として地面に潜っていた。引いていった族長の戦士達も踵を返し戻ってくる。
「やれ!」
「うおおおお!」
腰まで埋まったコキュートスの周りに、命の咆哮を上げるリザードマンが蟻のように群がった。コキュートスにダメージを負った形跡がなくても、彼らは怯まずに立ち向かっていく。
「舐メルナヨ」
コキュートスの戦斧が、右側のリザードマン達を薙ぎ払った。一撃で倒れていく右側の伏兵達。未だ敵の力衰えず、
かくして舞台は整い、漆黒の英雄が現れる。
◆
泥から飛び出して早々、モモンの視界は恐ろしく悪かった。
鎧の頭部に付着した泥に含まれる水分量が多く、視界のほとんどが真っ暗闇だ。片目の泥を払って戦況を確認すると、リザードマンは敵に群がっていた。武器は右手に構えているため、敵の死角は左側だろうか。
モモンは渾身の一撃を叩きこむため、飛び上がって二本の剣で斬りかかった。
「はあぁっ!」
落とし穴から這い出ようと暴れるコキュートスは、モモンの剣をあっさり弾いた。視界が悪く、体重を上手く乗せられなかったので大剣は酷く軽かった。
モモンは絶好の機会である不意打ちを生かせなかった。
やがて、敵が穴から這い出る気配がする。
「全員下がれ! 敵の射程圏内から出るんだ!」
敵が単身なのは間違いない。
自らも射程圏内から離れ、視界を塞ぐ泥を払った。
コキュートスも穴から出て、新たな強敵を視野に入れた。
「あ……」
「ア……」
コキュートスとモモンの目が合った。
モモンは相手がコキュートスと知ってパニックを起こした。自らの手で大事な部下に、しかも全力で切りかかってしまった。その事がパニックをより増大させていた。
遠巻きに見守るリザードマン達に囲まれ、二人は無言で対峙した。
同様にコキュートスもパニックを起こしていた。
円滑な情報共有システムにより、アインズが剣士として冒険者をやっている情報は知っていた。忠誠を誓う主君が、情報通りの姿で突然に目の前に現れ、敵として対峙している。
誰一人としてこの展開を予想出来ず、守護者達の臨時拠点でも同じように大騒ぎとなっていた。
シャルティアとアウラが大喧嘩を始め、マーレは椅子から転げ落ち、デミウルゴスは思考し続けて固まったと、後の報告で知った。
モモンは鎧の中の髑髏に脂汗が流れている。
(あ、コキュートスにメッセージが来てる)
コキュートスは額に指をあて、誰かと話をしているようだ。静寂の中、リザードマン達の唾を飲む音が聞こえた気がした。
「お前が私の敵か?」
様子を見ながら、次に繋げやすい言葉を投げかけた。
「ナザリックノ御方トオ見受ケシタガ、間違イナイカ?」
(ここで名乗れということか?)
このあたりでモモンの思考は酷く鈍った。
(戦いが終わった後でフォローしよう……)
何かの作戦を邪魔してしまい、親に怒られると決まった子供の心境だ。
「その名を知るのか。その通りだ! 私はナザリックの王、アインズ・ウール・ゴウン!」
「手合ワセネガイタイ」
「いいだろう。その挑戦を受けよう。リザードマン諸君、ここからは1対1の死合いにつき、手出し無用だ」
リザードマン達はモモンに促されて、集落近くまで離れていった。
「名前を聞いておこう」
「私ハコキュートス、遠遊ノ
(なるほど、そういう設定なのか)
「では、行くぞ、コキュートス!」
泥に汚れた二人の武人は激突した。
先に仕掛けたのはモモンだった。二本の剣を打ち込むがコキュートスの戦斧が弾く。弾かれた勢いを利用し、体を回転させて追撃に入る。コキュートスは更にその剣を弾く。延々とそれだけの繰り返しだが、二人の周辺には巻き込まれたら体がバラバラになるほどの剣風の嵐が吹き荒れた。
近寄ったら死ぬと、周りの
周りからはそう見えた。
モモンから見て、コキュートスは明らかに手を抜いていた。申し訳ない気持ちになりながらも、真剣勝負をしている振りは止められない。
一旦、後退し、モモンは二振りの大剣を交差した。
「楽しかったが、そろそろ終わりにしよう、コキュートス」
「望ムトコロダ」
コキュートスのやけに大振りな一撃を弾くと、過剰に大きな隙ができた。まるでここに打ち込んでくださいと言わんばかりで、実際にその意図が感じられた。
「はあっ!」
わざとらしい掛け声で二本の剣を叩きこむと、大したダメージを負っていないのにコキュートスは膝をついた。精神の沈静化のお陰で、彼の負傷を冷静に分析できた。
(……ひどい茶番だ。守護者達になんて詫びればいいんだ)
申し訳ない気持ちで一杯だった。
モモンはコキュートスの前に歩み寄り、剣を向けた。
「さあ、どうする。退くのであれば命はとらないぞ」
「オ見事デス……私ヲ貴方ノ配下ヘオ加エクダサイ」
「分かった。私に従え、武人コキュートス」
加えるも何も初めから部下だ。
一刻も早くこの酷い茶番を終わらせたかった。
自己嫌悪が昇華して自暴自棄になったモモンは、アインズの姿に戻った。
「リザードマン達よ。私は一度、彼の拠点に顔を出す。けが人の手当ては任せるぞ」
「モモン殿!?」
「ああ、これが私の本当の姿だ」
「ア、アンデッドだったのですか?」
「安心しろ。生者を憎んでいる訳ではない。詳しい話は後でしよう。では行くぞ、コキュートス」
二人は転移ゲートに入っていった。
◆
拵えた臨時の拠点に戻ったところで、特に妙案が思いつくことはない。
パンドラとアルベドはアインズの帰還に備えてナザリックにて待機中で、臨時拠点にはいなかった。他の守護者達は跪き、アインズの言葉を待っている。
「まずはコキュートス。このポーションで回復せよ」
「ハッ、光栄ニ存ジマス」
コキュートスが回復するのを確認し、アインズは皆に声を掛けた。
「皆の者、任務御苦労だった」
跪いた守護者達に礼を述べた。
とりあえずそう言っておけば、何とかなるだろうと踏んだからだ。
「おお、流石はアインズ様。我々の浅はかな考えなど御見通しどころか、逆にそれを利用なさるとは。一体、どれほどの叡智を有してらっしゃるのでしょうか」
デミウルゴスが反応してくれた。
「うむ、私はお前たちが思っているよりも深く物事を考えているからな」
「我らの王にして絶対者。41人が一柱、ヤトノカミ様を以てしても、叡智に遠く及ばないと言わしめる至高の御方。此度の最終局面での軌道修正は、お見事でございます。このデミウルゴス、幾度となく感服を繰り返しました」
相変わらず何の事を言っているのかは不明だが、これなら彼から聞きだせる。
「と、ところでデミウルゴス。私の計画とずれていないか擦り合わせを行いたい。お前たちの考えていた計画を話せ」
「はっ。我々は王国を秘密裏に奪おうとしている御方々の力になるべく、微力ながらも守護者が独自に動こうと決意を致しました。つきましては、アインズ様が警戒をする漆黒聖典の無力化を最終目標に掲げ、その前哨戦としてリザードマンの集落を陥落させることに至ります」
(そうなの? 俺達、王国を奪おうとしていたのか? 漆黒聖典の無力化は守護者達がやるの?)
次から次へと、絶えずに浮き上がる疑問はまるで湧き水だ。
「コキュートスが彼らの族長、つまり強者を屈服させることで、流れる血が少ないままに彼らを支配下に置こうとしたのです」
「そうだな、そこまでは私の策の中だ」
「アインズ様の想定外の出現により、結果的には我々が動くよりも遥かに効率よく彼らを手に入れることができました。後はアインズ様の一押しで、彼らは陥落するかと思われます」
(一押しってなに……? モグラたたきみたいに叩けばいいのかな)
独白に現実逃避が混じった。
「アインズ様」
「なんだ、コキュートス。」
「タトエ、本気ノ死合イデハ無カッタトハイエ、主ニ剣ヲ向ケタ私ニ、ナザリックニイル資格ハアリマセン」
「コキュートス。お前はリザードマン達を相手にして、何かを学んだのではないか?」
「ソノ通リニゴザイマス。彼ラハ弱イ。デスガ、ソノ弱サヲ認メ策ヲ立テル戦イハ見事ナモノデシタ」
それはアインズが立てた策だとは言えなかった。
「ならばそこから学ぶがいい。そして更に強くなれ、コキュートスよ。私はお前の全てを許そう」
「アリガタキ幸セ……」
コキュートスは感銘を受けて震えていた。
彼が忠誠と感動を示すたび、胸の中にあった自己嫌悪が膨らんでいく気がした。
「皆も心せよ。漆黒聖典や他の未知なる存在が、我々の邪魔をするかもしれぬ。決して油断をしてはならぬ。蟻を踏み潰す時であっても、全力で踏み潰せ!」
「はっ!」
アインズはここで一息つく。
「せっかく守護者達が集まったのだ、全員でリザードマンの集落へ行くぞ。我らにとっては茶番だが、彼らにしてみれば英雄の凱旋だからな」
「はい!」
守護者達に笑顔が戻った。
可愛い部下達の笑顔をみて、アインズは安心して凱旋ができた。
◆
初めから仕組まれていたのではと疑いの目を向ける者もいたが、大多数が彼を信用しているため、疑惑の声は掻き消えた。やがて転移魔法が展開し、見たことも無い異形の者たちが現れる。
アインズはモモンに戻って勝鬨を上げた。
「リザードマン達よ、脅威は去った! 我らの勝利だ!」
モモンは右手の剣を高く掲げた。大歓声があがり、リザードマンの咆哮が木霊する。鎧を震わせる歓声に、気持ちよさを覚えると同時、自分の行動が正しかったと安堵した。
「彼は我々の軍門に下り、この地を去る。彼らが私の部下たちだ。族長達よ、こちらに来てくれ」
5匹の族長が前に出た。
「約束通り、報酬の装備を頂きたい」
「ありがとう、モモン殿」
「貴方のおかげで、我々は全滅せずに済んだ。改めて礼を言う」
至宝を差し出した2匹の
「一つ提案があるのだが、聞いて貰えるだろうか」
モモンは
「これが私の本当の姿だ」
死が形を成した姿に、
「私はナザリック地下大墳墓の支配者であるアインズ・ウール・ゴウンだ。諸君はナザリックの支配下に入らないか?」
「なんだとお? 英雄さんよ、俺は構わねえぞ」
ゼンベルだけはモモンに負けたため、素直に従うつもりだった。しかし、他の者は違う。事態の急展開についていけず、互いに顔を見合わせていた。
最初から仕組まれていたと考え始める者も出てきて、囁き声で何かを話していた。
「す、すまないが、詳しく教えてくれないか?」
「この先、彼らのような者が来ないとは限らない。その時は全軍を以て君らを守ろう。今度は君たちの援軍は、今日の敵、コキュートスだ。食料事情の解決にも尽力しよう。お前たちの中で死者が出たら、私がアンデッドとして蘇らせてやろう。これが私の条件だ」
そこまでするのは面倒だったが、デミウルゴスが立てた策を途中で失敗させる事はできなかった。好条件を出し過ぎたかなと、言い終えてから思った。
「我々がその条件を呑まなければ?」
「何もせんよ。我々はこの地を去る」
「あの、何をお望みなのでしょうか?」
白い
「魚を増やせ。大森林の南にあるカルネ村と交流せよ。新鮮な魚と作物を交換し、お互いに利益を享受せよ」
今さっき、思いついた事だ。
詳しく話すアインズの前で、跪かないリザードマン達に守護者から不満が出た。
「ねえ、ちょっとあいつら頭が高いんじゃない?」
「そうでありんす、蜥蜴の癖に跪かないなんて」
「で、でも、あの、アインズ様がお話になっているから」
「いや、これは失礼。気が付かなかったよ。卑しい蜥蜴風情が、神の御前で頭が高い、『平伏しなさい』」
5匹のリザードマンはデミウルゴスの一言により、ぬかるんだ地べたに頭を突っ込んだ。
「デミウルゴス、並びに守護者達よ。大事な会談だ、邪魔をするな」
「申し訳ありません、『楽にしなさい』」
反省した素振りはない。彼の中で示威行為は想定内で、力のある者がそっと優しく手を差し伸べてこそ意味がある。
「部下が済まない、許してくれ。そうだ、一つ教えておこう。大森林に住む魔獣達は支配下に置いた、西の魔蛇は私の部下だ」
「なっ。彼らを全て屈服させたのですか!?」
旅人であるザリュースは彼らの強さをよく知っていた。
「そうだ。森のゴブリン達もカルネ村に移動した。この森で取れる食料は好きにするがいい。魚の養殖に使えるかもしれないぞ」
「待ったぁ! 待ってください! 族長で話し合うから少し時間をください!」
斬られた腕が回復したシャースーリューが、両手を振って大声で止めた。
「構わん、好きにせよ。ところで、犠牲になった者たちの死体はこちらで弔ってもよいか?」
「はい、それは問題ありません」
彼らの考えは人間よりも爬虫類に近く、感傷深くなかった。アインズは素材が手に入って密かに喜んだ。しばらくはナザリックに籠り、実験で忙しくなりそうだ。
「シャルティア、死者をナザリック地下大墳墓へ連れていくのだ」
「畏まりました、でありんす」
シャルティアが死体を放り込み、アインズは周辺の散策や試していない魔法について、デミウルゴスと話し始めた。
族長達は集まり、囁くような打ち合わせを行っている。
「どうすればいいんだ」
「どうするって俺たちゃリザードマンだろ? 強者に従うのが筋なんじゃねえの?」
ゼンベルは豪快に笑った。
「声がでかい!」
「おまえ、そんな気楽に」
「いえ、従いましょう」
クルシェが事も無げに言った。
「ええ?」
「いや、その通りだ。このまま5つの部族に分かれて、各部族が好き勝手に生きたとしても、食糧問題は解決しない」
シャースーリューは強い目で言った。何か、重大な決意を感じさせる目だった。
「そうよ、私達はリザードマン各部族の独自な繁栄が目的ではないのよ。選ぶべきは、種そのものの存続」
「だが、彼らの目的はなんだ? 至宝とは思えん。彼らの身に着けている装備は、それよりも価値が高く見える」
「問題はそこではない。我々はこのままだと数を増やし続け、食糧問題にぶち当たる」
「その通りね。行きつく所は地獄絵図よ……」
「クルシュ……」
共食いで生き残ったクルシュは苦い顔をした。急激に温度が冷えてきたので、ゼンベルが湖に顔を向け、大声で叫んだ。
「おい! お前ら! 湖が凍ってんぞ!」
「ゼンベル、何を……そんな馬鹿な」
「湖が凍る伝説を簡単に実現できる存在か、あの方は……」
◆
「ふむ、この世界では効果範囲にも差があるのか。ブラックホールが範囲攻撃の効果を出していたからな。デミウルゴス、凍った範囲の測定だ」
「はっ、直ちに」
「ヤトに連絡をしなければ。周囲の警戒を任せるぞ」
(しかし、こんな所をツアーに見られたら喧嘩になりそうだ……)
ヤトへの緊急連絡が終わってから、
「あの、これは貴方様が?」
「そうだ。どの程度の範囲で凍るのか試してみたかったのでな」
「駄目だったかな」と不安がるアインズの思惑を外れ、リザードマン達は石を投げる感覚で湖を凍らせる彼を畏怖していた。
「偉大なるお力を持つ支配者、アインズ・ウール・ゴウン様。我々、リザードマンを支配下にお加えください。つきましては二つの申し出を受けていただけますでしょうか」
クルシェが跪き、アインズを見上げる。
「構わん、申せ」
「はい。一つは食料の安定供給へのご協力、もう一つはお時間をいただきとうございます」
「我々は5つの部族に分かれております。それら全てを纏め上げるために今しばらくのお時間を」
シャースーリューも続いて跪いた。
「わかった。10日程、時間をやろう。その後に使者を寄越す」
「ありがとうございます。全てのリザードマンをそれまでに説得いたします」
「その時は、揺るがぬ忠誠を捧げましょう」
「宜しくお願いします」
他の4匹も跪いた。
「もし部族抗争に発展し、死者が出たのならこちらで弔おう」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
初めから部族抗争の可能性は視野に入れている。アインズは大量の死体が手に入り、アンデッドの素材、スクロールの研究が捗ると密かに喜んだ。
(
支配者の内心はとても嬉しそうだ。
「我々はこの地を去る。いい返事を期待している」
一行は転移ゲートに消えた。
こうしてリザードマン達の集落は一つに纏まり、食料の供給を解決するべくナザリックの支援を受ける。だが、部族間の抗争 ― 族長含む賛成派と長老含む反対派の衝突 ― は避けられず、少なからずの死者がでた。
死体は食料と引き換えに一つ残らず回収された。
カルネ村・蛇・
作戦開始地点からコキュートスまで距離→4m
武器を手放させる確率→20% →ダイス失敗
モモンの初撃→失敗
トードマン達との戦争勝率向上→現在60%
誰かの介入→80% 成功
作戦の露見→4 実行中
ナーベとハムスケは翌日までカルネ村に放置されました。