モモンガさん、世界征服しないってよ   作:用具 操十雄

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八咫鏡-インフェルノ戦

 

 

 ”蒼の薔薇”と魂食い(ソウルイーター)の戦闘開始は、何の合図も無かった。

 

 一体が立ち上がり、目を光らせてティナに突っ込んでいく。

 

「《不動金剛盾の術》」

 

 発動した盾は突き破られたが、勢いを殺すことはできた。それを予期したティナも、少しでもダメージ量を減らそうと後ろへ飛んだ。腹部に軽減された突進を食らい、ティナは大きく飛ばされた。

 

 双子の片割れを助けるため、ティアは短距離転移をし、彼女を受け止めた。

 

「このおお! 《龍電《ドラゴン・ライトニング》》」

 

 イビルアイの放った怒りの雷撃を、避けようともしなかった。当然、直撃したが、平然とこちらを見ており、ダメージになんの感傷もないようだ。

 

「おらあ!」

 

 一体だけ離れている今こそ好機と、ガガーランが背後から戦鎚を叩きこみ、打撃耐性の低い”彼”の一部が欠け、体勢が崩れた。隙ができたところへ水神への祈りを捧げたラキュースの一撃が加わる。

 

「超技・暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)!」

 

 魔剣による無属性の衝撃波が現れ”彼”を直撃し体が削れていく。

 

「よし!」

「止まるな! 攻撃を続けろ!」

 

火球(ファイヤーボール)

 

 魂食い(ソウルイーター)は魔法を唱え、周辺に大量の火球が現れた。詠唱を重ねた火球の数は多く、周囲を焼き尽くすのに十分と言えた。

 

「ここまでの魔力があるのか。まだ奥に二匹もいるのに」

 

 彼女達が相手にしているのは三体の内、一体だけだ。

 

 離れた一匹に集中攻撃して、戦況を有利に運ぼうとしている蒼の薔薇を、残りの二体は援護することなく、静かにこちらの様子を観察していた。魂の質を値踏みされているようで、余計に不気味だった。特に奥で座り込む一体は、体から立ち上る黄色い霧が他に比べると遥かに濃く、大きい。強い魔力を帯びて、目を離すと何をされるかわからない。

 

浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)、みんなを守りなさい!」

 

 放たれた火球の大半が防がれ、残りは個別に身を躱す。射撃精度が低かったのは唯一の救いと言えた。

 

「《水晶騎士槍(クリスタルランス)》!」

 

 透き通る槍が放たれた。完璧なタイミングで、完全に死角を突いた攻撃だったにも拘らず、後ろ蹴りで弾かれた。

 

「うおおおお!」

 

 ガガーランの戦鎚はイビルアイの槍を蹴飛ばした足に直撃し、打撃に弱い魂食い(ソウルイーター)の脚を一本砕いた。後ろ足を失ってバランスを崩し、尻もちをついた。

 

「《獅子ごとき心(ライオンズ・ハート)》」

 

 ラキュースの支援魔法により、全員の覇気が高まる。未だ起き上がれない敵へ、全力で畳みかけた。ガガーランが一歩引き、戦闘に復帰したティアとティナの忍術による爆発がおきる。視界の悪い中、最強の一撃はラキュースの魔剣だ。

 

「ラキュース!」

暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)おおおお!」

 

 爆炎に放たれた衝撃波に続き、飛び上がったガガーランは背後から戦鎚を叩きこんだ。

 

 魂食い(ソウルイーター)は彼女らの攻撃を全て受け、前足をバタつかせてもがき苦しんでいる。”彼”の後ろ半身は破壊されたが、まだ生きていた。骨で出来た馬に追撃を加えれば一体は殺せていたが、聞いた者の鳥肌を立たせ、恐怖に慄かせる悲鳴が首位に轟いた。

 

《キュオオオオオン!》

 

 金属の摩擦音は、黒板を鉤爪で擦るように耳障りで不快だ。

 

「《火球(ファイヤーボール)》」

 

 恐らく三体のリーダーであろう魂食い(ソウルイーター)。魔法詠唱で生み出した火球の数は先ほどの比ではない。空中の火球が動き出したと同時、傍にいた一体がこちら目がけて全力で駆け出した。どちらを躱してもどちらかが命中する不利な戦況で、司令塔のイビルアイに鳥肌が立った。

 

「全員撤退!」

 

 走る馬の後方から一直線に隕石のような火球が飛んできていた。気が付いたら火球は目の前まで迫っている。それでも、魂食い(ソウルイーター)の渾身の頭突きを受けるよりはダメージが低い気がした。

 

「危ない!」

 

 手前にいたイビルアイに二つ、ティアに一つが当たり、体を炎で包み込む。火球で燃え上がる二人は、巨大な火の玉となって後方へ飛ばされた。

 

「イビルアイ! ティア!」

 

 飛ばされた二人の支援に、ラキュースは駆け出した。

 

「《大瀑布の術》」

 

 忍術により水が現れて鎮火したが、出来たばかりの火傷が痛々しい。二人に駆け寄り、回復魔法を詠唱した。

 

 火球を躱したガガーランとティナも、瀕死の魂食い(ソウルイーター)に追い込まれている。

 

「《魔法の矢(マジック・アロー)》」

 

 地でもがく魂食い(ソウルイーター)の魔法詠唱により、橙色に輝く弓が召喚された。迫りくる火球を避けようと気を取られていたガガーランとティナを、精度の低い弓の射撃が襲った。ガガーランの腹部に一本、ティナの左大腿部と左腕に計三本の弓が突き立った。

 

 痛みを堪え、ガガーランは口を歪めた。

 

「油断したぜ、この野郎……砕けろや!」

「ガガーラン、こいつを先に殺す」

「おう!」

 

 ガガーランとティナは動けない魂食い(ソウルイーター)に、何度も何度も武器を振り下ろした。

 

 暴れまわる二本の前足が、蹄でダメージを与えた。肋骨、鎖骨、腕骨に直撃しようと、打撲で多大な痛みを負おうと関係なかった。ここで潰しておかなければ魔法の援護射撃は止められないのだ。魂食い(ソウルイーター)が絶命し、立ち込めていた黄色い霧が消える。

 

「《不動金剛盾の術》」

 

 痛みを堪えて短距離転移したティアが、追加の火球を防ぐ防御障壁を呼び出した。だが、突進してくる魂食い(ソウルイーター)との距離は充分に詰まっており、故意に頭から突っ込む”彼”により壁は破壊された。痛み体を動かして突進は避けられたが、障害物が無くなってから火球が入り込み、双子に直撃する。

 

「《大瀑布の術》」

 

 再び多量の水が湧き上がり二人の炎は鎮火された。

 

 二度の火だるまにより負った火傷の痕は、今もじくじくと体液を滴らせていたが、そんなことに構っていられなかった。新手の魂食い(ソウルイーター)は、既に彼女達の前へ到着している。

 

 ぼんやりと光る馬の目が不気味だ。

 

 ラキュースとイビルアイは、奥にいた魂食い(ソウルイーター)から目が離せない。彼ら三体のボスであろう魂食い(ソウルイーター)は、ゆっくりと緩慢な動作でこちらへ歩み寄っている。三体のうち、あれは別格だ。

 

「イビルアイ! あちらを支援しなさい!」

「わかってる! くそぉおおおお!」

 

 仲間が魂を食われる危機感で、イビルアイは全力で駆けだした。こちらの方が危険だと分かっていても、目の前にある危機を放っておけない。

 

 双子とガガーランの前に立つ魂食い(ソウルイーター)は、値踏みするように皆を一瞥した。

 

「二人とも、動けるか?」

「多少は動ける」

「覚悟はできてる」

「俺もあと少しだけだな。弓だけじゃなく、あんなバタバタしただけの蹴りで足が動かねぇ」

 

 全力で走ってくるイビルアイは、間に合いそうにない。

 

 間に合ったところで、勝てる気もしなかった。

 

 

 魂食い(ソウルイーター)は魔法を唱えず、最も近くにいたティアの肩を優しくくわえた。ラキュースに近寄っていく魂食い(ソウルイーター)へ、全力で放り投げる。

 

「この糞があ!」

「離せ」

 

 必死で抵抗する彼女達の攻撃を意に介さない。

 

「《水晶騎士槍(クリスタルランス)》! 《結晶散弾(シャード・バックショット)》!」

 

 イビルアイの魔法も直撃したが、怯んだ様子はない。リーダー格へ今夜の晩餐、2品目が放り投げられた。ティアは魂食い(ソウルイーター)の前に着地した。

 

 火球二つが直撃し半身が火傷、くわえられた肩が脱臼した彼女は、まともに歩くのが難しく、逃げようにも足が言うことを聞いてくれない。魂食い(ソウルイーター)は彼女を静かに見つめていた。

 

「やめろおおおお!」

 

 状況を察したラキュースが駆けだすが、充分に距離は空いていた。

 

 ティアの魂を食べられる時間はある。

 

「《不動金剛盾の術》」

 

 盾が現れたが、高く掲げた前脚を振り下ろして突き破り、ティアの心臓に届くまで力を緩めなかった。

 

 ゼロの魂を食べ、一時的に大幅強化されている敵は、ティアへ甚大な被害を与えた。心臓を強打されて頭から後ろへ倒れ、口から泡立った血を吐く。命は虫の息だ。”彼”の前で仰向けに横たわるティナは、まな板の上の鯉でしかない。

 

 後は貪られるのを待つしかない。

 

 ティアに顔を近づける“彼”の動作は慈悲深かった。彼女は大切な食料なのだ、粗末に扱えない。初めから”食事”をするために、部下に放り投げさせたのだ。

 

 そして、彼は食事を始めた。

 

 血を吐くティアの動きは完全に止まった。走るラキュースは間に合わず、ティアの魂まで食べた魂食い(ソウルイーター)は、立ち上る霧をいっそう濃く、大きくした。

 

 怒りで冷静さを失っているラキュースが、冷静さを取り戻すほど魔力が上がった。

 

「この不死生物(アンデッド)が……」

 

 食事を終えた魂食い(ソウルイーター)がこちらに目を向けた。

 

 主食(メインディッシュ)を見る態度で、ゆっくりと近づき始めた。

 

 相手との実力差を把握し、更に頭の奥が冷えた。

 

(ティアがやられた、私はもう死ねない。味方援軍まで、後どれくらいかかる)

 

 それを期待して時間を稼げる程、距離は離れていない。

 

 接触まで幾ばくも無い彼我の距離は徐々に詰められ、ラキュースは魔剣を構えた。

 

 

 

 

「畜生……」

「……大丈夫、今は目の前の奴に集中を」

「わかっている!」

 

 三人の前に立つ魂食い(ソウルイーター)は、ただ彼女達を見ていた。動いたら魔法詠唱をするつもりだ。受けた指示は彼女達をこの場に縛り付ける事で、それは彼女たちも分かっていた。隙を見せない相手には、隙を作ってやるしかない。

 

「イビルアイ! 走れ!」

「リーダー、生きてれば蘇生可能」

「……死ぬなよ!」

 

 ガガーランとティナはイビルアイの逃走を援護した。

 

「影分身の術!」

「《不落要塞》! おら、かかってこいや!」

 

 ラキュースが死んでしまえば、全てが終わりだ。”蒼の薔薇”は全滅し、王都のアダマンタイト級が一つ減り、王都は壊滅的な被害を負う。

 

 死ぬ覚悟を持ちながら、絶対に死んで堪るかと、二人は立ち上がった。

 

 

 

 

 ラキュースに近寄る魂食い(ソウルイーター)は考えた。どの程度まで痛めつけていいのだろうか、と。

 

《この女……聖なる匂い……生命の輝き》

 

 蛙人(トードマン)部落周辺の生物を原料として創造された中位アンデッド。ゼロとエドストレームの魂を食らった彼は、生まれ変わってから人の魂が大好物に変わった。特に神官・巫女などの聖職・神職に殉ずる魂には、強烈に惹かれるものがあった。

 

 ラキュースの命の輝きは神官戦士が持つ特有の者で、不死者の憎悪を駆り立て、生者を食らうものの食欲をそそった。彼は創造主の指示と同様の重要さとして、彼女の魂を食べたかった。砂漠を踏破している者の前へ、突然にオアシスが現れたかのような、強烈な聖と生への渇望と憎悪、魂を食って力が溢れる高揚感。

 

《主は魔法を限定し、アレは殺すなとは言われた……殺さなければ……魂は食べても……》

 

 リーダーの彼は待機している魂食い(ソウルイーター)に指示を出した。邪魔をさせるなと言われた魂食い(ソウルイーター)は、全力でイビルアイを追う。ガガーランと飛び上がったティナの武器は空を切った。二人は青筋を立てて怒りを露わにする。

 

「どこまでも舐めやがってぇ! ティナ、立てるか?」

「仲間を守る。寝てられない」

「違えねえ! 行くぞ!」

 

 二人は痛みを無視して後を追った。走るたびに出血し、痛みで体が悲鳴を上げたが構っていられなかった。ティナが《闇渡り》を使って影から飛び出し、クナイを投げ打つが魂食い(ソウルイーター)は意に介さない。

 

「イビルアイ! 急げ! 砕けやああ!」

 

 戦鎚が腰をかすったが、イビルアイへの突進は止まらない。

 

「邪魔するなあああ!」

 

 接近を阻止するために突進する魂食い(ソウルイーター)を、イビルアイは必死で避けていた。距離を考えるとどう考えても間に合わない。魂食い(ソウルイーター)に殺す指示は出されていないが、状況を考えると魂を食われるとしか思えない。

 

 ラキュースは震える自分を鼓舞し、手に力を籠めてまだ剣が握れると確認した。

 

浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)!」

 

 座ったまま剣を振るが、相手は一歩下がった。

 

 魂食い(ソウルイーター)は周囲を漂う目障りな剣を、馬の後ろ蹴りで一本一本を丁寧に粉砕していく。美味しそうな”食事”を邪魔されたくない。その隙を逃さず、MP全てをつぎ込んだ一撃を放った。

 

暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)!」

 

 全力の一撃は、MPの下限を振り切って生命力まで消費した。

 

 命を削って放った衝撃波は、当たった箇所の骨を削っただけだった。

 

 敵は残りの浮遊している剣を砕き続け、重大な負傷をした様子はない。

 

 砕かれた剣の金粉が宙を舞い、彼女の心に絶望が影を差した。武器を造作も無く破壊し、全力の一撃で殺せない相手に、どう立ち向かえというのだ。MPだけではなく、溢れる生命力の一部まで注ぎ込んだ彼女は、普段では考えられない弱気になった。

 

 敵が目前に居なければ、へたり込んだまま動かなかった。

 

「あ……あ……」

 

 自分が死んだら誰も仲間を復活できないことは、自らの死よりも恐ろしかった。追い詰められ、這って逃げ出そうとする。

 

(私が死んだらティアが……ティアが助からない……)

 

 彼女の激しい消耗による敗北感で、予定調和の勝敗が決した。

 

(私はどうなってもいいから……誰か……助けて)

 

 彼女の脳裏に”大嫌い”と罵った男性が浮かんだ。

 

 剣を破壊し終えた魂食い(ソウルイーター)はラキュースの背後に迫る。

 

 両足を砕き彼女の動きを止めてから、ゆっくり食べるつもりだった。

 

 ラキュースの背後で、骨の馬が前足を高く掲げられる。

 

 ”彼女の”英雄は近くまで迫っていた。

 

 

 





死亡率1d% ダメージ量に直結
ラキュース→0% 失敗
ガガーラン→30% 失敗
ティア→60% 死亡ダイス成功
ティナ→70% 失敗
イビルアイ→40% 失敗


モモン登場まで倒せる数 → 2
最後のラキュース好感度1d20→ 20 

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