”蒼の薔薇”と
一体が立ち上がり、目を光らせてティナに突っ込んでいく。
「《不動金剛盾の術》」
発動した盾は突き破られたが、勢いを殺すことはできた。それを予期したティナも、少しでもダメージ量を減らそうと後ろへ飛んだ。腹部に軽減された突進を食らい、ティナは大きく飛ばされた。
双子の片割れを助けるため、ティアは短距離転移をし、彼女を受け止めた。
「このおお! 《龍電《ドラゴン・ライトニング》》」
イビルアイの放った怒りの雷撃を、避けようともしなかった。当然、直撃したが、平然とこちらを見ており、ダメージになんの感傷もないようだ。
「おらあ!」
一体だけ離れている今こそ好機と、ガガーランが背後から戦鎚を叩きこみ、打撃耐性の低い”彼”の一部が欠け、体勢が崩れた。隙ができたところへ水神への祈りを捧げたラキュースの一撃が加わる。
「超技・
魔剣による無属性の衝撃波が現れ”彼”を直撃し体が削れていく。
「よし!」
「止まるな! 攻撃を続けろ!」
《
「ここまでの魔力があるのか。まだ奥に二匹もいるのに」
彼女達が相手にしているのは三体の内、一体だけだ。
離れた一匹に集中攻撃して、戦況を有利に運ぼうとしている蒼の薔薇を、残りの二体は援護することなく、静かにこちらの様子を観察していた。魂の質を値踏みされているようで、余計に不気味だった。特に奥で座り込む一体は、体から立ち上る黄色い霧が他に比べると遥かに濃く、大きい。強い魔力を帯びて、目を離すと何をされるかわからない。
「
放たれた火球の大半が防がれ、残りは個別に身を躱す。射撃精度が低かったのは唯一の救いと言えた。
「《
透き通る槍が放たれた。完璧なタイミングで、完全に死角を突いた攻撃だったにも拘らず、後ろ蹴りで弾かれた。
「うおおおお!」
ガガーランの戦鎚はイビルアイの槍を蹴飛ばした足に直撃し、打撃に弱い
「《
ラキュースの支援魔法により、全員の覇気が高まる。未だ起き上がれない敵へ、全力で畳みかけた。ガガーランが一歩引き、戦闘に復帰したティアとティナの忍術による爆発がおきる。視界の悪い中、最強の一撃はラキュースの魔剣だ。
「ラキュース!」
「
爆炎に放たれた衝撃波に続き、飛び上がったガガーランは背後から戦鎚を叩きこんだ。
《キュオオオオオン!》
金属の摩擦音は、黒板を鉤爪で擦るように耳障りで不快だ。
「《
恐らく三体のリーダーであろう
「全員撤退!」
走る馬の後方から一直線に隕石のような火球が飛んできていた。気が付いたら火球は目の前まで迫っている。それでも、
「危ない!」
手前にいたイビルアイに二つ、ティアに一つが当たり、体を炎で包み込む。火球で燃え上がる二人は、巨大な火の玉となって後方へ飛ばされた。
「イビルアイ! ティア!」
飛ばされた二人の支援に、ラキュースは駆け出した。
「《大瀑布の術》」
忍術により水が現れて鎮火したが、出来たばかりの火傷が痛々しい。二人に駆け寄り、回復魔法を詠唱した。
火球を躱したガガーランとティナも、瀕死の
「《
地でもがく
痛みを堪え、ガガーランは口を歪めた。
「油断したぜ、この野郎……砕けろや!」
「ガガーラン、こいつを先に殺す」
「おう!」
ガガーランとティナは動けない
暴れまわる二本の前足が、蹄でダメージを与えた。肋骨、鎖骨、腕骨に直撃しようと、打撲で多大な痛みを負おうと関係なかった。ここで潰しておかなければ魔法の援護射撃は止められないのだ。
「《不動金剛盾の術》」
痛みを堪えて短距離転移したティアが、追加の火球を防ぐ防御障壁を呼び出した。だが、突進してくる
「《大瀑布の術》」
再び多量の水が湧き上がり二人の炎は鎮火された。
二度の火だるまにより負った火傷の痕は、今もじくじくと体液を滴らせていたが、そんなことに構っていられなかった。新手の
ぼんやりと光る馬の目が不気味だ。
ラキュースとイビルアイは、奥にいた
「イビルアイ! あちらを支援しなさい!」
「わかってる! くそぉおおおお!」
仲間が魂を食われる危機感で、イビルアイは全力で駆けだした。こちらの方が危険だと分かっていても、目の前にある危機を放っておけない。
双子とガガーランの前に立つ
「二人とも、動けるか?」
「多少は動ける」
「覚悟はできてる」
「俺もあと少しだけだな。弓だけじゃなく、あんなバタバタしただけの蹴りで足が動かねぇ」
全力で走ってくるイビルアイは、間に合いそうにない。
間に合ったところで、勝てる気もしなかった。
「この糞があ!」
「離せ」
必死で抵抗する彼女達の攻撃を意に介さない。
「《
イビルアイの魔法も直撃したが、怯んだ様子はない。リーダー格へ今夜の晩餐、2品目が放り投げられた。ティアは
火球二つが直撃し半身が火傷、くわえられた肩が脱臼した彼女は、まともに歩くのが難しく、逃げようにも足が言うことを聞いてくれない。
「やめろおおおお!」
状況を察したラキュースが駆けだすが、充分に距離は空いていた。
ティアの魂を食べられる時間はある。
「《不動金剛盾の術》」
盾が現れたが、高く掲げた前脚を振り下ろして突き破り、ティアの心臓に届くまで力を緩めなかった。
ゼロの魂を食べ、一時的に大幅強化されている敵は、ティアへ甚大な被害を与えた。心臓を強打されて頭から後ろへ倒れ、口から泡立った血を吐く。命は虫の息だ。”彼”の前で仰向けに横たわるティナは、まな板の上の鯉でしかない。
後は貪られるのを待つしかない。
ティアに顔を近づける“彼”の動作は慈悲深かった。彼女は大切な食料なのだ、粗末に扱えない。初めから”食事”をするために、部下に放り投げさせたのだ。
そして、彼は食事を始めた。
血を吐くティアの動きは完全に止まった。走るラキュースは間に合わず、ティアの魂まで食べた
怒りで冷静さを失っているラキュースが、冷静さを取り戻すほど魔力が上がった。
「この
食事を終えた
相手との実力差を把握し、更に頭の奥が冷えた。
(ティアがやられた、私はもう死ねない。味方援軍まで、後どれくらいかかる)
それを期待して時間を稼げる程、距離は離れていない。
接触まで幾ばくも無い彼我の距離は徐々に詰められ、ラキュースは魔剣を構えた。
◆
「畜生……」
「……大丈夫、今は目の前の奴に集中を」
「わかっている!」
三人の前に立つ
「イビルアイ! 走れ!」
「リーダー、生きてれば蘇生可能」
「……死ぬなよ!」
ガガーランとティナはイビルアイの逃走を援護した。
「影分身の術!」
「《不落要塞》! おら、かかってこいや!」
ラキュースが死んでしまえば、全てが終わりだ。”蒼の薔薇”は全滅し、王都のアダマンタイト級が一つ減り、王都は壊滅的な被害を負う。
死ぬ覚悟を持ちながら、絶対に死んで堪るかと、二人は立ち上がった。
◆
ラキュースに近寄る
《この女……聖なる匂い……生命の輝き》
ラキュースの命の輝きは神官戦士が持つ特有の者で、不死者の憎悪を駆り立て、生者を食らうものの食欲をそそった。彼は創造主の指示と同様の重要さとして、彼女の魂を食べたかった。砂漠を踏破している者の前へ、突然にオアシスが現れたかのような、強烈な聖と生への渇望と憎悪、魂を食って力が溢れる高揚感。
《主は魔法を限定し、アレは殺すなとは言われた……殺さなければ……魂は食べても……》
リーダーの彼は待機している
「どこまでも舐めやがってぇ! ティナ、立てるか?」
「仲間を守る。寝てられない」
「違えねえ! 行くぞ!」
二人は痛みを無視して後を追った。走るたびに出血し、痛みで体が悲鳴を上げたが構っていられなかった。ティナが《闇渡り》を使って影から飛び出し、クナイを投げ打つが
「イビルアイ! 急げ! 砕けやああ!」
戦鎚が腰をかすったが、イビルアイへの突進は止まらない。
「邪魔するなあああ!」
接近を阻止するために突進する
ラキュースは震える自分を鼓舞し、手に力を籠めてまだ剣が握れると確認した。
「
座ったまま剣を振るが、相手は一歩下がった。
「
全力の一撃は、MPの下限を振り切って生命力まで消費した。
命を削って放った衝撃波は、当たった箇所の骨を削っただけだった。
敵は残りの浮遊している剣を砕き続け、重大な負傷をした様子はない。
砕かれた剣の金粉が宙を舞い、彼女の心に絶望が影を差した。武器を造作も無く破壊し、全力の一撃で殺せない相手に、どう立ち向かえというのだ。MPだけではなく、溢れる生命力の一部まで注ぎ込んだ彼女は、普段では考えられない弱気になった。
敵が目前に居なければ、へたり込んだまま動かなかった。
「あ……あ……」
自分が死んだら誰も仲間を復活できないことは、自らの死よりも恐ろしかった。追い詰められ、這って逃げ出そうとする。
(私が死んだらティアが……ティアが助からない……)
彼女の激しい消耗による敗北感で、予定調和の勝敗が決した。
(私はどうなってもいいから……誰か……助けて)
彼女の脳裏に”大嫌い”と罵った男性が浮かんだ。
剣を破壊し終えた
両足を砕き彼女の動きを止めてから、ゆっくり食べるつもりだった。
ラキュースの背後で、骨の馬が前足を高く掲げられる。
”彼女の”英雄は近くまで迫っていた。
死亡率1d% ダメージ量に直結
ラキュース→0% 失敗
ガガーラン→30% 失敗
ティア→60% 死亡ダイス成功
ティナ→70% 失敗
イビルアイ→40% 失敗
モモン登場まで倒せる数 → 2
最後のラキュース好感度1d20→ 20