魔法世界グルメ紀行   作:キノコ飼育委員

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……あ、あの、お久しぶりです…。
お久しぶりですが、読者を置いていく展開です。
あ!待って!石投げないで!!後々使うんです許してください!!何でもしないから!


第十九話・ある人間の肖像

エヴァンジェリンは狭い通路に立っていた。

 

天井は低く、壁には圧迫感を感じる。

 

「ここは……どこだ?」

 

のっぺりとした壁、見たことのない材質だ。強いて言うなら石だろうか?

 

天井の光源は、光を棒状に固めたかのような物が二列になって続いている。

 

「なんだここは?私はいつここに……ッ!!」

 

と、エヴァンジェリンはサッと振り返った。

 

コツン、コツン、と、廊下の奥から誰かが近づいてきていた。

 

「止まれ!貴様は何者だ!!」

 

だがそいつは、何も聞こえていないかのように歩調を緩めない。

 

それを見たエヴァンジェリンは、威嚇のために『魔法の矢』を放とうとし――――――

 

「くっ、この!……なっ?!」

 

使えないことを悟った。

 

思わず自分の手を見た。

 

そして再び視線を上げた時、そいつは目の前にいた。

 

動揺する暇もない。

 

見たことのない様式の服だ。

緑と茶色、黒を斑点のように組み合わせた服と、黒くて重厚なブーツをはいている。

 

つばのある帽子を被りっており、その顔は……わからない。

黒のクレヨンで顔周辺を塗り潰したかのように、グシャグシャの影で真っ黒だ。

 

そして、『手』。

 

長袖から覗く両の手、それが漆黒の金属で覆われている。

小手だろうか?

 

「チッ!」

 

舌打ちひとつ、即攻撃に移る。

 

敵かどうかはわからない。

 

しかし未知の場所、未知の存在、未知の状況とくれば、彼女の追われてきた経験上制圧しといて損はなかった。

 

とりあえず相手は素手、ライフから学んだ宇宙CQCとやらをかけるため、その手を掴もうとし―――

 

「なぁ?!」

 

す、る、ん―――――と手がすり抜けた。

 

いや手だけではない。エヴァンジェリンが動揺している間も歩調を緩めなかったそいつの身体そのもの(・・・・)が、エヴァンジェリンの身体をするりとすり抜けた。

 

「な?な?……はぁ?」

 

感触は無かった。

 

エヴァンジェリンは、そいつか、もしくは自分が幽霊であるかのような奇妙な気分を味わった。

 

そいつはそのまま何事もなく、エヴァンジェリンに背を向けて歩き去っていく。

 

「ま、まて!!」

 

エヴァンジェリンはソイツを追いかけた。追いかけねばならない気がしたのだ。

 

 

その後も話しかけたり、本気のパンチを放ったりしたが、いずれも無視されすり抜ける。

 

どうやら本当に彼女を認識していないようだ。

 

その間にもソイツは、廊下を曲がったり階段を上がったりとかなり複雑な道を進んでいた。

 

もちろん、その過程でいくつかの扉があり、その度にエヴァンジェリンは開こうと試みるものの、どれもが開かなかった。

吸血鬼としてのフルパワーでドアノブごとねじ切るつもりで掴んでも無駄だった。

 

と、廊下の先、右側の壁に入口らしき場所が。

 

そこからは暖かな光と、複数人による喧噪と、かぐわしい美味そうな匂いが漂ってきていた。

 

「なんだ、食堂か?」

 

と、ソイツの歩調がやや強まった。どうやらソイツの目指す場所もそこのようだ。

 

「ッ!!?」

 

エヴァンジェリンは息をのんだ。

 

そこは確かに食堂で、確かに楽しげな喧噪に溢れており、皆が長いテーブルに座ってうまそうに食事を食らっていた。

 

だが、そこに座っていた奴らが問題だった。

 

「魔族、だと?!」

 

異形。

 

あるものは両腕が胴に比べ巨大、あるものは頭部がボールのように丸く、また顔もない。

 

あるものは足がスカートのように膨らんでおり、背中には二本の柱を背負っていた。

 

あるものは服を着ており、あるものは一部のみ身に着けている。

 

これはほんの一部であり、そんな異形が部屋に密集していたのだ。

 

ではここは噂に聞いた『魔界』とやらか?

 

が、よくよく見ると、その異形たちには奇妙な共通点があった。

 

全員が一様に黒く、金属の光沢を放っている。

 

そして魔族特有の魔力を感じない、どころか魔力をまったく感じ取れない。

 

「……魔族ではない?ではなんだこいつらは?……っ!!」

 

と、その異形たちが一斉にこちらを見た。

 

そしてすぐさま全員立ち上がった。

 

さてはこいつらは自分が見えているのか!

 

そう思い、一歩エヴァンジェリンは入口に近寄り、身構えた。

 

しかし違った。

 

彼らは、今しがた入室したソイツを見ているのだ。

 

と、ソイツが喋りだした。

 

「やぁやぁ諸君!食ってるかい?飲んでるかい?楽しい楽しい昼食だ!しかも今日は金曜日!陸軍だってのにカレーの日だよ!!」

 

それは、よく通る声だった。

 

ふと、どこかで聞いたような声だと、エヴァンジェリンは思った。

 

それがどこだったか思い出す前に、エヴァンジェリンは凄まじい雄たけびにたまらず耳をふさぐ。

 

『『『『Yeeeaaaaaaaarr!!!』』』』

『『『『урааааааааа!!』』』』

『『『『ばんざぁぁあああああい!!!』』』』

 

『はっはっは、国際色豊かだねぇ!でも国籍が四つは足りないよね?てかそれBFかCoDの掛け声適当にやってるだけだろオイ』

『『『『『『『『『『『『はい!!』』』』』』』』』』』』

 

『素直でよろしい。楽にしていいぞ。ほら、おかわりしたい奴はさっさと食わんと、私が残り全部食っちまうぞ!』

 

その一言で彼らは食事を再開した。

 

だが食べているのは……なんとも食欲を削る色合いの、汚物のような茶色いナニカだ。

それを彼らはがっつくようにスプーンで貪っている。

 

「あ、頭がおかしいのかこいつら……!?」

 

その光景に戦慄を禁じ得ないエヴァンジェリン。

 

確かに食欲をそそる香りだが、実物を見て食べたいという人間は皆無だろう。

 

と、誰かがそいつに呼びかけているのに気付き、意識を戻す。

 

『あ、隊長殿ー!こちらへどうぞ!』

 

『あぁマイケル君、いつもすまないね』

 

『いえいえ、隊長の食事の用意も、ここじゃ副官の仕事ですよ』

 

そいつが促されて座った席にも、その茶色の料理?が置かれていた。

よく見ると、白いナニカが茶色の下にある。

ソイツは席に座り、帽子を外して机に置いた。

そしてソイツの頭は―――見えなくなった。

一瞬で影が頭も覆ってしまい、髪形すらわからない。

 

そしてソイツの隣に座る、マイケルと呼ばれた男。

こいつもソイツによく似た格好をしていたが、両目、右腕がおかしかった。

目に鉄とガラスを組み合わせたかのようなモノを埋め込んでいる。

右腕は服の袖がなく、代わりに異常に大きい鋼鉄の腕が生えていた。

 

ソイツに視線を戻すと、ちょうどスプーンで掬った料理?を口に運ぶところだった。

 

スプーンを顔の影に突っ込み、引っこ抜く。もしゃもしゃと咀嚼するのに合わせて影も動く。

 

微妙に人間の肌らしきものが垣間見えるのがもどかしい。

 

やがて飲み込むと、そいつはふぅと一息ついて言った。

 

『やはり食べるのは好きです。命を実感できる……戦争なんてさっさと終わればいいのに』

 

『仕方ありませんよ。お偉いさん方はまだまだやるつもりですし、境界を閉じる方法もわかっていませんからね……』

 

『ハァ……まったく、あちらもこちらも、頭が欲深いと碌なことにならない。振り回される手足の身にもなってほしいです』

 

『まったくです。……しかし意外ですな。隊長殿のことです、私はてっきり、クリーク!クリーク!言いながら嬉々として戦っているのかと』

 

『冗談はよしてくれよキミ……私は三度の飯より飯が好きなんだ。戦争なんて、美食の大敵だよ。何よりアメリカの軍用糧食(レーション)はクソまずい。連合軍なんだから大人しく日本の奴を採用すればいいものを、利権がどうだで結局コレだよ。金曜のカレーは私の癒しさ』

 

『隊長、失礼ながら一言言わせてください。我が国のレーションはクソ以下です』

 

『はっはっはっ!』

『HAHAHA!!』

 

二人の会話を間近で聞いていたエヴァンジェリは、完全に置いてきぼりにされ、仕方なく

 

「なんだこの会話……」

 

とぼやくのが精いっぱいだった。

 

と、その時だ。

 

低く、高く、唸るような、奇妙で不安を煽る音が周囲に鳴り響く。

 

「ッ! な、なんだいきなり?!」

 

思わず胸を押さえてしまったエヴァンジェリン。

何というか、足元が崩れるかのような不安を覚えたのだ。

 

と、席に座っていたソイツが立ち上がった。

 

いや、室内にいる異形たち全てが一斉に立ち上がり、ソイツ一人を見る。

 

彼らは先ほどの陽気な様子からガラリと変わり、代わりに不死の吸血鬼であるエヴァンジェリンですら鳥肌が立つような、冷たく、凶暴な、殺意を発していた。

 

遠くで不気味な音が続く中、ソイツがよく通る声で言葉をつむぐ。

 

『まったく……食事を邪魔されるのは実に不愉快です。さっさと片付けるとしましょう』

 

『『『『『ハッ!!』』』』』

 

彼らが一斉に返事を返す。

 

ソイツは帽子を被り、気勢をあげる。

 

『では諸君、出撃前にいつものアレだ!隊則その一!』

 

『『『『『何が何でも生き延びる!!』』』』』

 

『隊則その二!!』

 

『『『『『勝利は二の次、生きて殺すことが最優先!!』』』』』

 

『隊則その三!!!!』

 

『『『『『クソッタレの異界人に死を!我々には生を!!』』』』』

 

『よろしい!では出撃だ!!「第一鬼械化歩兵大隊」総員出撃!!あのクソどもを皆殺しにせよ!!!!』

 

『『『『『ウオオオォォオォオオオオオオオ!!!!!!!!!!』』』』』

 

雄叫び上げる修羅ども、その腹の底に響く声を聞いたエヴァンジェリンは―――――――

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

ぱちり。

 

「…………」

 

エヴァンジェリンは、ゆっくりと身を起こした。

 

時刻は夜中、辺りは暗いが、吸血鬼の彼女には周囲の様子がはっきりと見てとれる。

 

彼女は今、深い森の中、少しだけ開けた場所で野営を行っていた。どこからかリーリーという虫の声が聞こえる。

 

「おや、眠れないのですか?」

 

かけられた声に振り向けば、ライフが突き出した岩の上に座っていた。

 

手にはどこから調達したのか、葡萄酒の入ったエヴァンジェリンが入れそうなくらいの酒樽が。

風に乗って、少しの酒気がエヴァンジェリンにも届いていた。

 

見上げれば、今宵は新月。普段は目立たない星々が、鬱憤を晴らすように輝いている。

 

「……奇妙な夢を見た。それだけだ」

 

奇妙、とは言っても、すでにその内容はおぼろ気だ。

 

頭を軽く振り、その妙な感覚を振り払っているエヴァンジェリンに、ライフがのんきな様子で声をかける。

 

「明日は早いですよ。それにエヴァちゃん、明日はちょーっと特別なことをする予定ですので、お楽しみに」

 

「またぞろ碌でもないことを思いついたのだろう。何をする気だ?」

 

「ふっふっふーん、ひ・み・ちゅ(はあと」

 

ライフのその絶妙にイラつく仕種(ウインクのおまけつき)に、エヴァンジェリンはビキィとこめかみを引き攣らせたが、鋼の心で平静を保った。

大人になったものである。

 

「もう寝る。邪魔をするなよ」

 

そう言って草原に寝ころび、目を閉じた。

 

「邪魔なんかしてないじゃないですかヤダー……」

 

そんな声を聴きながら、少女は再び眠りについた。

 

 

 

 

 

少女の穏やかな寝息を耳にしながら、ライフは夜空を見上げた。

 

満天の星空、その輝き一つ一つに見入りながら、ライフは呟いた。

 

「……諸君、私は、まだ生きているよ…」

 

その言葉には、複雑な、本当に複雑な思いが込められていた。

 

 

と、その時だ。

 

ライフは空から視線を外し、地上を、森の中を、その暗闇を、その先を、そのさらにさらに遥か先を見た、耳にした。

 

そして、小さな声で囁いた。

 

「おっとそこまでです。そう焦るものではないですよハンターさん……あと一日、いや半日だけ、その辺で遊んでてくれませんか。んああ、おっしゃらないで。あなたがそれ以上近づかないなら、もうダム破壊なんてしませんし、土壌汚染はそこ以外しません。でも今来るなら……あぁ、話の分かる方で安心しました。では、おやすみなさい。いい夜を…」

 

そして口をつぐみ、樽から葡萄酒をぐいっと。

 

ワインの香しい酒気が鼻をくすぐる中、ライフは気軽な様子で呟いた。

 

「……あ~ぁ、これは駄目かも知れませんねぇ…生き残れるかどうか……はっはっはっ」

 

そんなライフの顔は、とても楽しげなものだった。




とまぁ誰かの過去話。
この話が直接絡むのは、最終章あたり?(汗

それにしても、本当にお待たせしました!!
いろいろ浮気したり忙しかったりとなかなか書けなかったんです。
あまりに書けないからちょうどいいとして今回の過去話を挿入しました。

そうです、書けなかったのは次なんです。

つまり、シリアス回。

だからこのままいくと……たぶん来月……?


でも必ず完結させますから!何しても完結はさせますから!!(死なない限りは

では次回、第二十話でお会いしましょう!
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