魔法世界グルメ紀行   作:キノコ飼育委員

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閑話・追跡者

鬱蒼と茂る森の中、その静寂の中に木を蹴る音と、それに伴って枝葉のこすれる音が混ざる。

音の主である、黒いフードを目深に被った5人が森の中を駆ける。

前を走る4人の顔には焦りが見える。

だが一番後ろの男の顔には何も浮かんでいない。

ただ黙々と進んでいる。

先頭の女性が一番後ろの男に声をかける。

「先生!急ぐであります!!早くしないとまた逃げられるであります!」

だが後ろを走る男(声からすると初老ぐらいか)は、

 

「黙れクソガキ。もう手遅れだろうが少しは静かに走れ。てめぇらの走りは5キロ先のカメだって逃げ出すようなものだ」

そういう彼の走りは実に無音だった。スルスルスルーと滑るように走っている。

「しかしこうで「それとな」も?」

「前を向いて走れ」

 

次の瞬間、森に大きくて鈍い音が響いた。

哀れ彼女は木に正面から激突した。

それを見た3人は立ち止まり、慌てて助け起こしに戻る。

が、初老の男は振り返りもせずに走り抜けていく。

彼の鼻は感じ取っていた。

血の臭いだ。

それもおびただしい量だ。

彼の名はジョー・ジョーンズ。

魔法世界でハンターをしている。

ほとんど隠者のような生活をしていた。

そんな彼が呼び出されたのは一週間ほど前だ。

なんでも次元が突発的に歪んで魔法世界と旧世界のごく一部の土地が入れ替わったらしい。

なんだそりゃ、というのが彼の感想だ。

だがそれの何が問題なのか。

ひっじょ~~~に運の悪いことにそこはザグリズリーの巣だったのだ。

 

肉食で気性が荒く非常に凶暴。

毛並みは明るい緑だが、まれに赤色の個体が現れることがあり、その個体は格段に強い。

そんな生物が群れで旧世界に現れたら生態系が崩壊する。

ので早急に討伐隊が組まれた。

そして彼は魔法生物狩猟の専門家として呼ばれた。

ろくに追跡術すら使えないガキのお守りは面倒だったので彼はきっぱりと断った。

が、結局長年の友人の胃と髪の毛のために受けることにしたのだ。

そして、一週間を費やして巣を発見。罠を用いて殲滅した。

だがそこにリーダーの赤いザグリズリーがいなかった。

どうやらかなりの距離を移動していることがわかり、後始末を本隊に任せ、急いで追跡していたのだ。

 

赤いザグリズリーは正面から戦ったら並みの魔法使いならばまず勝てない相手だ。

 

が、ハンターである彼はいわばプロだ。

 

実際のところ彼一人でも行けたのだが、そこは任務がうんたらメンツがどうたらと付いてきた部隊が彼女たちだ。

 

やれやれだな、とは彼の談である。

 

 

そしてその三日後、彼らは赤いザグリズリーに迫っていた。

(……おかしい)

周りに漂う血の臭いが明らかに多すぎる。

 

そして森が静か過ぎる。

確かにザグリズリーは肉食。進路上に獲物がいれば食い殺すだろう。

(だが、これはまるで……ここらの生物を皆殺しにしたような……)

嫌な予感を胸に彼は急いだ。

と、急に森が開け―――――――

そこには血の水溜まりと、僅かな骨、球状にキレイにくりぬかれたクレーターがあった。

周りが随分明るい。

と、思って上を見ると木の半分から上がこれまたキレイに球状に無くなっている。

茫然としていると、残りの四人が追い付いてきた。

「先生!!何か見つけましたか!」

さっき木に激突した彼女、ムー隊長が聞く(元気なことだ)。

「ああ、ヤツを見つけた。」

「なっ!!ど、どこでありますか!?」

「落ち着けバカタレ。」

ゴチンと彼女の頭に拳骨を落とす。

「っ~~~~~~!!!」

頭を押さえて蹲っている。

そんな彼女達に

「ほれ、そこだ」

と、その光景を指差す。

「え?なっこれは!?」

ジョーは静かにその光景に足を踏み入れる。

そのままゆっくりと周りを観察する。

「せっ先生、これはいったい……?ザグリズリーはどこでありますか?」

ジョーはため息を吐くと、それだそれ、と僅かに残った骨を指差す。

「……?どういう意味でありますか?」

「やれやれだな……その骨が赤いザグリズリーのなれの果てだ」

 

「こ、これが……?」

 

 

「おっと不味いな。結界を張れ。戦闘用意だ。不意打ちに備えろよ」

4人に緊張が走り、背中合わせになるように杖を抜く。

ジョーは無手のままだ。

「……どうされたでありますか?」

 

「こいつはさっき喰われたばかりだ」

 

「なぜそう思うでありますか?」

 

「よく見ろ。ずいぶん口が大きなヤツらしい。唾液がまだ乾いていない」

 

確かにジョーの視線の先にはてらてらと光る液体(・・)がある。

 

「……いったいどんな生物でありますか?」

 

「まだ断定はできんが……大きさは人と同じくらいでその割に口は大きい、二足歩行、非常に高い知性と強靭な肉体、優れた動体視力を持つ」

 

「なっ!!どうしてそこまでわかるでありますか!?」

 

「さっきまで雨が降っていた(・・・・・・・)。見ろ、そっちがザグリズリーのだ。そしてそっちが、謎の生物……アンノウンのだ」

 

 

そう言われた彼女が見ると、確かにそこには熊の足跡と別の何かの足跡がある。

 

 

「その足跡は二足歩行の特徴が出ている。次に信じられないことだが、レッド・ザグリズリーは一撃で葬られている。……そんな顔をするな、今説明する。まずこいつの左腕、粉砕され、貫通している。甲の部分から内側に向けてだ。で、こっちの骨片はあばらの骨だが……見ろ、これは左胸のあばら骨だ。で、これらを一撃でやっている。ザグリズリーとアンノウンが立ち回った形跡がないから恐らく瞬殺だ。であそことあそこの線とあと比較的細い線がいくつかあるのがわかるな?あれはザグリズリーが唯一できた抵抗のあとだ。

……おそらくアンノウンは最初の光線をかわし、次弾を上に跳び、あそこ、木がへっこんでるだろ?あそこを蹴って接近、そこにザグリズリーは拡散光線を発射、が、これもかわしてザグリズリーの懐に飛び込み何かしらの攻撃を繰り出す。ザグリズリーは防御しようと左腕を出すがそれごと心臓を貫通。で喰われた残骸がそれだ」

と、ジョーは骨の残骸を指差す。

「……見てたんでありますか?」

「状況証拠とそこからくる論理的な推理、あとは経験と勘だ」

世捨て人の狩人は鋭い眼光で周りを見渡す。

「では、あのクレーターはなんでありますか?」

「わからん」

「ふえ?」

一瞬呆けるムー。

「俺も初めてみる。だがおそらく魔力による攻撃だ……」

「ではなぜザグリズリーに対して使わなかったのでありますか?」

「……パッと思い付く可能性はアンノウンが生まれたばかりの個体だということだ。……だが逃げ回ったような跡が……しかしあそこで突然止まって…?」

彼はぶつぶつ呟きながら足跡を辿る。

「そしてここでいきなり跳躍……」

と同時に自分も跳躍。足跡の深さと長年の勘から地面を蹴った距離と方向を導き、それを追う。

「ま、待つであります!」

 

いきなり置いてきぼりをくらう面々。

そこから少し離れたところで立ち止まり、辺りを見渡す。

そこは完全に地形が変わっていた。

削り取られた地面、断面が丸い樹、開けた景色にはまともな地面がない。

その光景をざっと見渡すとさらに足跡を追跡する。

「やはりあれは練習の跡……ということは生まれたばかりか?……そしてここからゆっくりと移動…」

彼も歩く。その生物の考えをなぞるかのように。

先を進むごとに血の臭いが濃く深く漂ってくる。

だが進めど進めど生き物の気配はない。

と、またも開けた空間に出た。

何かが蘇ったような人型の穴。

そこから続く足跡は血痕を乗り越え森の中に入り込み、自分の後ろからここに戻ってきている。

血の臭い。

だがここは巣ではない。

しばらく歩き回りながらある一点を何度も通っている。

そこには何かを埋めたあと。

「……」

 

ジョーは無言で近づき、素手でそこを堀り始めた。

「ここに居られましたか!ジョー殿、向こうにおびただしい血の跡がありました。そこもやはり同じ足跡がありました」

ジョーは穴を掘り返しながら、

 

「……アンノウンのだいたいの情報だ。『体型、大きさ共に人並、ただし筋力はザグリズリーよりも上。さらにコイツは動物じゃねぇ、知的生命体(・・・・・)だ。おまけに正体不明の魔法を使う。性格は不明、だが喰うことに対して非常に貪欲。森ひとつから生き物が全て消えるレベルである』」

 

ここでジョーは振り向き、

 

「……至急、本国に連絡を入れに戻れ。そして調査隊を編成しここを徹底的に調べろ。とくにこの穴だ。ついでにそこ、誰かの遺品と思われるものが埋まっていた。持ち主を探せ」

「なっ!?謎の生物は追わなくていいんでありますか?」

「ここからは俺一人で追う。素人は帰れ」

「しっしかし自分には任「ザグリズリー討伐任務は完了している。それにこいつは強ぇ、お前らは足手まといだ。」ぐ……」

ジョーは両手を握りしめ、腰だめに構える。

 

途端、空気が破裂するほどの勢いでジョーから黄金に輝く膨大なエネルギーが溢れる。

 

ジョーは崖に向かって歩き、前を向いたままこう言った。

「これも伝えろ、『ヤツは人の味を覚えたぞ(・・・・・・・・・・・)』とな」

それを最後に、彼は崖を飛び越えて行った。

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