マッハサーガExtra ハイスピード・フォトグラファーズ   作:千思万考

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この小説は『東方project』と『仮面ライダードライブ』を題材とした二次創作です。
この手のクロスオーバーが苦手な方も居ると思いますので、お読みの際は注意してください。
また、この小説は最近発売された『小説 仮面ライダードライブ マッハサーガ』のネタバレを大きく含みます。仮面ライダードライブのテレビ本編は視聴したが小説は読んでいない、と言う方はご注意を。


高速の写真家達はなぜ出会ったのか

 一面に広がる緑、流れる水の清い青。奥深い渓谷が大地の力強さを無言で主張する、そんな大自然。

 

 

 「やっぱ、生まれの国ってのは良いよなー」

 

 

 力強さを感じさせるアメリカの広大な地も、もちろん捨てがたいが。

カメラマンとして、そして日本人としては、この国の誇る四季の美しさも誇らなくては名が廃る……心躍らせながら、俺こと詩島剛は構えたカメラのシャッターを切る。

 

 今は5月。冬に行われた姉ちゃんの結婚パーティーと、それに関わる一連の事件が終息してから初めて迎えた春だ。

俺は冬に起こった事件の後、暫く日本に留まっていた。姉ちゃんと進兄さん……いや、もう進『義兄さん』か、の二人や共に戦った特条課のみんなと別れるのが名残惜しかったからだ。とは言え、ずっとそうして止まっている訳にもいかない。俺の国籍は今やアメリカに在り、帰るべき場所はそこだ。そもそも、動かないのは性分じゃない。

そろそろ帰らなくちゃな、と言ったときの姉ちゃんと進義兄さんの顔は複雑そうだったが、お二人をこれ以上邪魔する訳にもいかないしと茶化すと笑ってくれた。つられて姉ちゃんに抱かれた小さい英志も笑っていた。やっぱり、あの家族は笑顔が良い画だね。

 

 

 「さーてと。あらかた撮り尽くしたかな」

 

 

 抜けるような青空をバックに写した奥深い渓谷をフィルムに収め、満足して呟く。日本に戻ってきたせっかくの機会に、良い画を写せるだけ写しておく……そんな俺の細やかな計画は達成された。今回の来日、その最後の思い出として、自分ひとりの撮影旅行を計画したのだ。

最後の写真は我ながら会心の一枚だった。スマートフォンのカメラ機能でも同じ場所を撮っておき、特状課の共有SNSにアップロードしておく。そろそろ、この場所は終わりだな。俺はここまでのアシに使ったオフロードバイクへ跨り、みんなの下へ帰るべく疾る。その、筈だった。

 

 

 「……なんか、雰囲気が変だな?」

 

 

 バイクに乗って、ゆるゆると動き始めた所までは確かに何も違和感は無かった。しかし数分が経ち、見える光景が鬱蒼とした木々ばかりになって、俺は嫌な予感と共にバイクを止める。

 

 

 「迷った、なんて洒落にならないぞ」

 

 

 目の前に広がる光景は、見覚えが無い物。これでも広大に過ぎるアメリカの大地を旅してきた身だ、来た道すら引き返せないようでは今頃死んでいる。

心では迷ったなんて認めたくないが、そうして意味の無い意地を張る事こそ愚かだと言うのは知っているつもりだ。悪態を吐きつつも冷静にスマートフォンを取り出し、GPSを呼び出して現在位置を照会する。この付近一帯はGPSが十分に機能してくれると言う事は予めリサーチ済みだ。しかし。

 

 

 「ちょっ、おい! 圏外って、そんなバカな!」

 

 

 取り出したスマートフォンは、無情にも圏外……電波の届かない位置である、と主張してくれるのみ。

どんなに迷ったって、そもそも最後に写真を撮った地点から数分も移動していないのだ。その時に良好な電波環境だと示していたスマートフォンが、こんな短距離で急に機能不全に陥るなんて事は無い筈だ!

ふつふつと危機感が込み上げてくるが、ここで焦るよりは行動した方が良いに決まっている。確実にスマートフォンが動作していた最後の場所、あの渓谷が見える地点までバイクで引き返そうとした俺を待ち受けていたのは、途方に暮れる光景だった。

 

 

 「おいおい……つい十分前まで、こんな場所じゃなかったろ」

 

 

 言いつつ、無意識にシャッターを切ってしまう自分が恨めしい。

バイクを直線的に移動させた為に迷いようも無い、たった数分で辿り着く地点。そこから見下ろせたのは奥深い渓谷ではなく……どこか牧歌的な雰囲気を漂わせる、集落の遠景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変わり映えしない、いつもの幻想郷。ネタは常に転がっているけれど、どんな新聞も似たようなスクープばかり取り上げていてはいずれ飽きられてしまう物で。

やや癪ではある物の、つかの間の冷却期間と言う事で方々への取材を小休止していた私こと射命丸文。暇つぶしに誰かをからかってこようかしらと言う考えから、息抜きとして友人の下を訪れていた。

 

 

 「で、にとり。今度はそんなガラクタ弄ってどうした訳?」

 

 「いつもながら失礼な奴だな……これからガラクタじゃなくなるんだよ、私の技術力によってね」

 

 

 ま、天狗にはちょっと難しいかもしれないけど、なんて言いながらこれ見よがしに謎の鉄くずを掲げる河童、河城にとり。一応は交友のある、山の仲間だ。

 

 

 「どうでもいいわ、そんなゴミ。どうせ適当に弄ったら口先八寸で人間に売りつけるんでしょ?」

 

 「認識に誤解が有るようだね。我々河童が盟友である人間に『売りつける』なんてする筈ないじゃないか。ただ、必要性を理解してもらって『買って頂く』だけさ」

 

 「……あんたも良い性格してるわよね、ホント」

 

 

 そもそも妖怪の勢力圏で行うバザーに好き好んで訪れる人間がまともな訳は無い、なんて思ったけれど。最近は人里にも割と姿を見せ始めているのよね。もしかしたら、そっちで稼ぐつもりなのかもしれない。

 

 

 「最近も、人間を装って行商に行ったら良いカモ……ごほん、目の付け所が良いお客様が居てね。修理した『ぱーそなるこんぴゅーた』なる物をご購入頂いた」

 

 「ぱーそ……何か、どっかで聞いたわね。香霖堂だったかしら?」

 

 「ああ、あそこは外界からの拾い物を売ってるからね。多分、合ってるよ」

 

 「あそこの店主は、プログラムって言う式神を使役出来るって言ってたけど」

 

 「凡そ正しいけど、多分あいつは意味を正確には理解してないと思うな……我々でも、命令する言語を一から理解するのは手間がかかる。正直、手に余るんだよね」

 

 

 だから神を降ろす縁起物としてでっち上げて売りつけたよ、なんて笑うにとり。買って頂く、のでは無かったのだろうか。

 

 

 「他の河童は知らないけど、少なくとも私は機械弄りこそが趣味だからね。

  あの『ぱーそなるこんぴゅーた』はすぐに直せちゃったし、あんまり執着も無いよ。その点、今度のコレは中々手応えのある機械だ。久しぶりに腕が鳴るってもんさ」

 

 

 そう言うとにとりは鉄くずを愛おし気に撫でる。反射で青く光り、確かに綺麗ではある。磨いて形を整えれば、宝飾品として売り出せない事もないかもしれない。別に欲しくはないが。

 

 

 「そうだ、あんたの新聞でこれの事を書いてくれない? 広告費を出せば、そっちだって得になるでしょ?」

 

 「遠慮させていただくわ。作る段階で金が絡むと、書きたい物を書けなくなってしまいますから」

 

 「ちぇー。別に私物化しようだなんて考えてないんだけどなあ」

 

 

 にとりは口でこそそう言うが、果たして本当はどうなのか怪しい。この友人は中々がめつく、理屈で利益をもぎ取っていく。河童全体にそのような傾向が有るから、種族の特徴なのだろうけど。

 

 ともかく、これ以上ここに居ても面白い事は無さそうだ。息抜きは出来たし、違う場所に行こう。久し振りに、新聞記事を考えずに無心で写真を撮るのも良いかもしれない。

即断即決、速さこそ至上と言うのが私の信条である。一度道が決まれば後はそれに向かって飛ぶだけだ。まだ何か話したそうにしているにとりを適当に流し、相棒のカメラを胸に構えつつ山へと飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おかしいよなあ……」

 

 

 ぼやきながらもバイクを走らせる。森での撮影と言う事でオフロードバイクを持ってきていて良かった、多少の不整地も何のそのだ。

道が分からないので下手に森へ踏み込む訳にはいかず、先ほど見えた集落が視界に捉えられる状況を確保しながら崖のギリギリを下っていく。勿論速度を出す訳にはいかない。急がば回れって言葉は有るけど、見える物に対してゆっくりとしか近付けないのは中々フラストレーションが溜まる。

 

 

 「あー、止めだ止め! 休憩!」

 

 

 そこそこ神経を使う作業を何度も繰り返した事も有って、集中力が切れてしまった。

丁度良くそこそこの広さを持った平地に着いたので、気分転換にとカメラを取り出して周囲の風景を写していく。まったく、憎々しいくらい綺麗な場所だ。

一縷の希望を託して再びスマートフォンを確認してみるも、やっぱり表示は圏外のまま。ここまで開けた場所だ、地形的に電波が届いていないと言うのも考えにくい。

 

 

 「でも事実として圏外だからなー、動くしか無いんだよなあ」

 

 

 スマートフォンをポケットに戻し、カメラはバイクのシートバッグに入れる。

動くしか無いとは言ったが、流石に疲れ気味だ。少しくらいは休み、今の状況に考えを巡らせても悪くは無いだろう。その内に事態が動くような何かが起これば儲けものだ。

 

 

 「あやややや。山に居ながらにしてその危機感の薄さ、珍妙な服装、謎の道具。もしかしなくても外来人ね?」

 

 「うわっ!?」

 

 

 ……『何か』は唐突に現れた。突然上から聞こえてきた少女の声に驚き、その方向を見ると。

 

 

 「お、女の子が飛んで……っ!? まさか、ロイミュード!」

 

 「はい? 何ですか、その……ろい、むーど? そんな訳の分からないものと一緒にしないでくださいよ」

 

 

 思わず反射的にロイミュード……かつて存在した怪人、基本108体の機械生命体の名を叫んでしまうが、すぐに考えにくいと思い直す。

まず、ロイミュードの魂にして命たるコアは俺達の戦いの果てに全て破壊され、撲滅が完了していると言う大前提。冬の事件では破壊された筈のナンバー005が蘇生してはいたが、それは例外だろう。あれはあいつ自身が倒される前から綿密に用意して、それでも長い時間と数多くの人間の悪意を必要とした2年越しの復活劇だ。そうそう同じ手段を取れたロイミュードが居たとは思えない。

それではこの少女は何なのか。実はもう一つ、心当たりもある。

 

 

 「またゴースト絡みの事件か? 幽霊退治はもう良いんだけどな」

 

 「……誇り高き鴉天狗であるこの私を、あろうことか幽霊呼ばわりとは。外来人は流石に無知ですねえ」

 

 

 ……どうやら、違うみたいだ。幽霊と言われた事が気に障ったらしく、元々友好的とは言い難かった態度が更に露骨な物に変化する。でも、天狗? 幽霊と同じくらいには変な奴と関わってしまった。

 

 

 「残念ね。今の私は記者ではなく、山の妖怪。身の程知らずの侵入者にはそれ相応の末路を辿って頂くわ」

 

 「……なっ」

 

 

 少女が掌を俺に向けると、風と共に謎のエネルギーがそこに渦巻いていく。不味い!

間髪入れず放たれたエネルギー弾を、何とか横っ飛びで回避。続く残りの弾も冷静に見切り、側転とバク転のコンビネーションで避ける。天狗だかなんだか知らないが、化物と戦った回数は数えきれない程にある。このくらいの攻撃なら、ロイミュード相手に何度だって経験してきた!

 

 

 「おお、人間にしては何と身軽な。一分くらいは遊べそうね」

 

 

 天狗と名乗った化物は、そこでようやく俺へ興味を抱いたかのように呟く。潰した筈の虫がまだ生きていた、とでも言わんばかりの視線だが。

 

 

 「さあさあ、手加減はしてあげるから全力で避けてみなさい? もしかしたら私の気が変わるかもしれませんよ」

 

 「くそっ、馬鹿にして……!」

 

 

 天狗は明らかに手を抜いた様子で、先程のエネルギー弾を連射してくる。躱せない事はない。無いが、絶え間なく続くこの攻撃を相手に俺の体力がいつまで持つか……!

 

 

 「ぐっ……!?」

 

 

 破綻は容赦なく訪れる。右へ左へと不規則に動かされたせいで疲労が溜まってしまったのか、回避行動に脚力が追い付かず、足は地面を蹴りきれずに無情にも横滑りする。

咄嗟に体勢を立て直したが、その間の数秒はあまりにも大きかった。動いても避けきれない距離にまで、エネルギー弾は迫っている! 最早、ここまでか。脳裏に過る諦めの感情を必死に振り払いながら、最後まで足掻こうと身構えた瞬間。

 

 

 「痛っ! な、なんですかコレ!」

 

 「……シグナルチェイサー!」

 

 

 俺のパーカージャケットのポケットから、掌サイズの黒いミニバイクが飛び出してエネルギー弾を突き破る。今は亡きダチ、チェイスが俺に残してくれた相棒。超駆動機関を有した意思持つバイク、『シグナルチェイサー』だ!

そうして俺の窮地を救ったシグナルチェイサーは勢いそのままに天狗へ突き進んでいき、その腕に突撃して意趣返しを行う。天狗は予期せぬ反撃に狼狽え、攻撃を止めた。その隙に俺は離れてしまっていたバイクまで一気に走り、一息にエンジンを吹かして離脱を試みる。同時にシグナルチェイサーもその小ささと速度を活かして天狗を翻弄し、撤退を始めた。

 

 

 「これで……!」

 

 「逃げられる、なんて事は有りませんよ。速度で私を出し抜こうなど、千年は早いのです」

 

 「っ!?」

 

 

 横から聞こえてきた声に、驚愕で思わずバイクを止めてしまう。いくらトップスピードには程遠いとは言え、50キロは出ていたバイクに後から一瞬で追いつき、声までかけられると言うとんでもない速さ。くそっ、シグナルチェイサーにもう一度無理をしてもらうしかないのか……!

 

 

 「まあまあ、そんな怖い顔しないでくださいよお。貴方は勝負に勝ったのですから」

 

 「は? 勝った……って、どう言う風の吹き回しだよ」

 

 「貴方は私の弾幕を避け、そして使い魔で私に一撃を入れる事に成功した。要は、貴方は私達の間で広まっている決闘法の勝利条件を満たしたのです」

 

 

 戻ってきたシグナルチェイサーに意識を向けながら一か八かの賭けをしようとすると、天狗は先程までとは打って変わった胡散臭い笑顔を浮かべながら喋りかけてくる。

正直、信用できない。しかし再び攻撃が始まれば不利になるのは俺だけだ。バイクでも逃げ切れないと言う事実が突きつけられてしまったし、ここは刺激しないように大人しく話を聞くしかないだろう。楽観的に考えれば、突然の遭難からようやく他人に会えたとも言えるし。

 

 

 「いやあ、いくら少しもやる気を出していなかったとは言え、ただの人間に一杯食わされるとは思いもしませんでしたよ。おかげですっかり退屈な気分が消えました!」

 

 「そりゃ良かった。で、君は何なんだ? さっき天狗とか言ってたけど、それって妖怪の一種のアレだろ?」

 

 「……外来人にしては妙に物分かりが良いですね。殆どの外来人は、眼の前で飛んで見せても術を使っても私達妖怪を頑なに信じないのが一般的なんですが」

 

 

 俺が冷静なのが不思議でならないのか、首を傾げる天狗。俺も、4年くらい前にこの状況に放り出されていたら情けなく喚いて途方に暮れていただろう、と思う。

しかし3年前にアメリカで遭遇した二体のロイミュードを皮切りに、人を超えた化物なんて沢山見てきた。機械生命体も幽霊も実在するのだから、天狗が居ても何もおかしくはない。

 

 

 「まあ、話が早いのは助かりますね。私は妖怪で、天狗ですよ。射命丸文、と申します」

 

 「文ちゃんか。俺は詩島剛、見ての通り人間だ。……気になってたんだけど、外来人って何なんだ?」

 

 

 名前を呼んだ瞬間、何故か文ちゃんは吹き出した。初対面の女の子を名前で呼ぶのは馴れ馴れしかったか?

アメリカ暮らしが板についたせいか、どうも人との距離感が近すぎると言われがちなのだ。個人的には、これくらい勢いのある方が性に合っているんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は詩島剛と名乗った人間に、幻想郷の事を軽く説明してやった。

話を聞く限り、忘れ去られて幻想入りしたのではなく、何処かに開いた結界の綻びから迷い込んでしまったと言う所だろう。稀に居るのだ、そんな運の悪い人間が。

 

 

 「妖怪の住む異世界、幻想郷か。中々面白そうな所に来てたんだな」

 

 「私の話聞いてました? 確かに詩島さんは普通の人間にしては機敏ですし、中々良い使い魔も従えているようですが、所詮その程度です。本気で妖怪に襲われればお陀仏ですよ」

 

 「危険が大好物なんだよ」

 

 

 どうもこの男は危機感が薄いと言うか……飄々としている。

その態度が完全な虚勢ではないと言う事は知ったが、妖怪が殺す気でかかったらその余裕もいつまで持つやら。誰もかれもが、私のように適当な所で落としどころを見出してくれる訳ではないのに。……もしかしたら、力関係を把握した上で敢えてこの振る舞いをしているのかもしれない。弱みを見せない為に。そう考えると、中々にいじらしいではないか。そのような小細工と言うか涙ぐましい努力は、嫌いでは無い。

 

 

 「食べ過ぎて腹を壊しても知りませんからね。……説明した通り、博麗神社の巫女に事情を言えばいつでも帰れます。

  巫女の気分次第では数日待たされるかもしれませんが、それは誤差でしょう。生きて辿り着きさえすれば、もう帰れたも同然です」

 

 「あー、それなんだけど。あそこの集落って、人間が住んでるんだよな? そこにちょっと滞在するってのは無理かな」

 

 

 そうして詩島剛が指したのは、遠くに見える人里だった。……確かに、博麗神社を目指して移動するのであれば今夜は嫌でも人里に寝泊まりしなくては命が危ないのだが。

 

 

 「その言い方だと数日以上留まりたいって感じですね。人里は比較的安全ですけど、妖怪が居る以上絶対なんて事は有りませんよ。変な事に巻き込まれる前に帰った方が賢明だと思うのですが」

 

 「せっかくこんなに自然溢れる世界に来たんだ、良い画を撮っておきたいだろ? いつでも帰れるって言うなら、尚更だ」

 

 

 そう言って、詩島剛は鉄の馬『バイク』に括り付けた袋からカメラを取り出す。……え、カメラ?

 

 

 「おおっ、随分と立派な物をお持ちで。もしかして、詩島さんも記者だったりするのですか?」

 

 「記者? いや、俺はどちらかと言うとフリーカメラマン……詩島さん『も』? 文ちゃん、君は記者なのか?」

 

 

 相変わらずの文ちゃん呼ばわりには笑いが込み上げてくるが、放置しておく。妖怪の生態から、天狗である私の歳に思い至った時の反応が楽しみだ。

それはともかく、カメラを扱う者と言われると途端に興味が湧いてくる。記者では無いとの事だが、それを差し引いても外来人の写真家と言うのは非常に珍しい。

 

 

 「ええ、幻想郷最速の記者、清く正しい射命丸文とは正に私のこと。そしてこちらが私の新聞、幻想郷の真実を伝える『文々。新聞』ですよ!」

 

 

 愛用のカメラを見せながら、常に一部以上持ち歩いている最新号を無料配布する。外来人だから継続的な講読者としては見込めないが、私の新聞に感銘を受けてもらえれば満足だ。

 

 

 「……へえ、よく撮れてるなあ。この写真なんか、遠景の具合から見てかなりの高速で動いてる最中の筈なのに被写体はブレてない」

 

 「やはり中々語れますねえ、詩島さん。そうでしょう、これが幻想郷最速を誇る私の撮影技術。

  決定的瞬間と言うのは待ってくれませんからね、此方から追いかけていくくらいでないと。写真、ひいては新聞は速度こそ命ですよ」

 

 

 出来れば本文の方にも触れてほしかったが、写真家と言うなら私の撮った写真の方に目が向くのは仕方無い事だろう。地味ながら通な自慢所を突いてくれたのも私の自尊心をくすぐる。

 

 

 「スピード命の写真家か。なんか親近感湧くねえ」

 

 「あ、詩島さんもやっぱり速さを重視するのですか? 外界でもこれは不変の真実なのですねえ」

 

 「まあね。……遅かったら、良い画も守りたいものも逃がしちゃうからな」

 

 

 詩島剛が小声で呟いた言葉は、どこか噛み締めるような響きを伴っていた。

見るからにお調子者と言った様子の男だが、それが全ての浅い人間でも無さそうだ。そもそも、口先だけの浅い人間であれば仮にも私に一撃を加える事など出来る筈もない。どれ程やる気が無くとも、弱き者に噛みつかれるほど落ちぶれてはいない。

 

 

 「そうだ、せっかくだし俺の写真も見てくれよ。何枚かは持ち歩いてるんだ」

 

 「どれどれ……おお。風景写真ですか、これは中々迫力のあること」

 

 

 雰囲気を誤魔化すように明るい調子で写真を差し出してくる詩島剛。受け取り、目を落とすと、思わず感嘆の声が漏れてしまう。

写っていたのは外界の名所とおぼしき風景。狭い幻想郷では、どうしても風景写真は似たり寄ったりな物ばかりになってしまう。そこを創意工夫するのが写真家の腕前ではあるのだが、目標の絶対数が限られていると言うのは如何ともしがたい。

そこへ来て、この写真は私に新鮮な驚きを与えた。赤錆色の大地と巨大な岩盤が威容を誇る風景、急な崖とその下に広がる美しい翡翠色の湖、どこか寂しさを感じさせる広大な丘と草原の夕景。勿論、題材の良さが感動へ大きく影響している事は否定できない。しかし、何と言うか……この写真からは、大いなる自然に対し正面から向き合った者の強い意思が感じられる。

それを、この男が撮った訳だ。

 

 

 「……断言しましょう。貴方はいつか絶対に、写真家として大成しますよ」

 

 「お、嬉しいねえ。記者さんにそう褒められると自信が付くな」

 

 

 お世辞や冗談では無い。心からそう思う。……私を負かした義理で見逃してやり、事情を説明したら後は放り出そうと思っていたけど。実は相当に面白い人と会えたのかもしれない。

 

 

 「……人里に行きたいんでしたよね? 私も時間は有りますし、案内しますよ。取材を受けてもらえるなら、ですが」

 

 「取材か、俺は大歓迎だぜ? その上更に案内してくれるってんなら、断る理由はどこにもないよ」

 

 「その思い切りの良さは好印象ですよ、詩島さん! それでは着いて来てください、その間にでもさっきの写真についてお話してくれませんか?」

 

 

 この男、詩島さんが外界に帰るまでの数日間。退屈する事は無いかもしれない。私は楽しそうな予感を抱きながら、ゆるりと飛び上がった。

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