マッハサーガExtra ハイスピード・フォトグラファーズ   作:千思万考

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高速の写真家が写した光景はなにか

 俺が幻想郷に迷い込み、文ちゃんに連れられて集落……『人里』を訪れてから数日が経つ。

あの色々と衝撃的な出会いから意気投合した俺たち。人里で暫く写真を撮りたいと言う俺に理解を示してくれた文ちゃんは、数日程度なら付き合いますよと自分も人里に留まってくれた。今は、互いに得が有ると言う事で同僚の記者として行動している。

 

 

 「ふむふむ、ご協力ありがとうございます。良い記事が書けそうです!」

 

 「ありがとうねー、兄さん!」

 

 

 その文ちゃんは、人里に入る直前で不思議な力を使いジャーナリスト然とした服装に格好を変えていた。それ以後も人里に居る時は、『社会派ルポライター』を名乗り人間のフリをしている。なんでも、妖怪としての本性を隠さないで接すると相手が怯えて取材にならないらしい。ロイミュードが基本的には人間態で活動していたのと同じような理由かな。

 

 人里向けの記事を用意したいと言う文ちゃんを手伝い、往来で適当に目星を付けた青年からここ最近身の回りで起こった妙な出来事を聞き出していたが、大体情報は出尽くしたようだ。礼を言って取材を切り上げ、その場を立ち去る。

 

 

 「いやー、噂が実現するなんて凄い話だね。こうして改めて聞くと、実感も湧くよなあ」

 

 

 青年の話では、最近の人里では噂が形を持って実体化すると言う事象が頻発しているらしい。

どこの誰が流したともしれない不気味な怪談が、本当に存在する物として出現する……俺的には、天狗だと言う文ちゃんよりも余程『妖怪』に近いような気がする。

勿論、こんな事を口には出さないけど。

 

 

 「つい最近は、名だたる人妖達が各々オカルトを武器にして戦っていましたね。何だか裏にキナ臭い物を感じたので、私はそちらの調査に集中していましたが」

 

 「オカルトを武器って、具体的には?」

 

 「私が把握している限りでは、そのオカルトが象徴する対象を呼び出して攻撃させたり、もしくは自らその怪異の力を体現するという感じです。

  お岩さんを呼び出して、自分で皿を割り怨念を高め呪わせたり。人体自然発火現象と言う物を体現することで、自分も相手も燃やしたり……まあこの人はオカルトなしでも炎を操れる人なんですけど」

 

 

 ……最初に人里へ辿り着いたその日から滞在し続けているので、人里の外、妖怪の勢力圏に踏み込んではいない。でも、話を聞く限り、それで正解みたいだ。

お岩さんの呪いやら、人体自然発火現象やら……そんな物が幾つも降りかかってきたら命が幾つ有っても足りない。危険は大好物だけど、死にたがりな訳じゃない。どんなに良い画が撮れても、死んでしまったら意味が無い。かつての旅で一度死にかけている俺は、確信を持って言える。

 

 

 「さて、私の方は人里での用事は済んでしまいしたね。詩島さんは何か予定有ります?」

 

 「阿求ちゃんに頼まれてた写真を渡しに行こうかと思ってた」

 

 

 俺も、人里に居る間中ずっと文ちゃんと行動していた訳じゃない。

文ちゃんから人里の事を聞かされていた俺は、その中でも名家と言って良いだろう『稗田』の家など、独自に付き合いを作っていた。

 

 

 「稗田乙女とも交友関係を作っているとは、手が早いですねえ」

 

 「変な言い方よせよ……」

 

 「あはは、これでも本当に感心しているのですよ? 人里に訪れてから数日でここまで馴染めるなんて、凄いことなのです」

 

 「客観的に見れば、どう考えても怪しい不審人物だしなー。優しい人ばかりで助かったよ」

 

 

 稗田家の当主の阿求ちゃんには懇意にしてもらっている。外来人という後ろ盾がない立場だけど、ありがたい事だよな。

 

 

 「いつまでもは居られないけどさ、出来る限り仲良くしていきたいよね」

 

 「問題を起こさないでくれるのは、妖怪としての立場からも有り難いですねえ。

  ……所で、外界に帰る日付とか考えてはいるのでしょうか? いや、催促している訳ではないのですよ」

 

 「姉ちゃんも進義兄さんも心配するだろうからなあ。どんなに長くても、一か月が限度って所だろ」

 

 

 元々は一、二週間で帰る予定だった。それから二日くらいならともかく、更に二週間以上帰らないとなると流石に不味い。スマートフォンも圏外で、連絡できないし……

 

 

 「姉、以前の取材でお聞きした泊霧子さんの事ですね?」

 

 「ああ。……いざ人からその名前を聞くと、何だか感慨深いよなあ」

 

 「結婚ですかあ。私には縁遠い概念ですね」

 

 

 ……何か言おうと思ったけど、何を言ってもセクハラになりそうな気がしたので止めた。どう反応するのが正解かなんて、俺には少し難しい。代わりに前の取材で聞かれなかった、言わなかった辺りの話で続きを誤魔化す。

 

 

 「姉ちゃんと進義兄さん、元々は仕事での相棒だったって言うのは話したよな」

 

 「ええ、お聞きしました。何でも治安維持に関わる組織で同僚だったと。

  ……規律正しき組織において同僚と結婚、いやはや身につまされますなあ。それはそれは、余人の介入する余地のない大恋愛だったのでしょうねえ」

 

 「そ、それなんだけどさ! 実は、そこにおかしい奴……俺のダチも関係してくるんだ!」

 

 

 急に文ちゃんの声が恨みとも僻みともつかない暗い声になったので、慌てて声を張り上げる。

文ちゃん属する天狗組織は、『妖怪の山』における警察のような一面も持っているらしい。厳密には、警備を担当しているのは文ちゃんのような鴉天狗ではないとの事だけど……部署の違いみたいなものか。でも、文ちゃんくらいでそんな気にする必要あるのかね。

 

 

 「おかしい奴……それにダチ? 自分の友人が姉の三角関係の一角とは中々ドロドロしていますね。是非お聞かせください!」

 

 

 急に復活した文ちゃんだけど、理由が理由なだけに複雑になる。まあ、明るさが戻ってくれたのは結果オーライだ。

 

 

 「三角関係と言っても、結局は二人の橋渡し役になったんだけどな。そいつは確かに姉ちゃんの事が好きだったんだけど、相思相愛ってことを二人に気付かせてさ」

 

 「なんと……まるでお話みたいに清廉な。そんな真摯な人間、本当に居るんですねえ」

 

 「はは、あいつは真摯って言うか堅物だったけどな。何かちょっとでも破目を外したりすれば、『これが人間のルールではないのか?』なんてさ」

 

 「いえいえ、真面目なのは美徳ですよ。真面目な私が言うと自画自賛のようになりますが」

 

 「うーん、真面目過ぎても問題あるよなあ」

 

 「……今の、ツッコむ所ですよー」

 

 

 何といってもあいつは……チェイスは、天然な上に融通が利かず、その上言葉足らず、更には直球な所が目立つ奴だった。

かつて俺がとある作戦で敵であるロイミュード側に寝返った芝居を打った時、俺を呼び出したあいつが特徴的な低く響く声で『耳の裏を見せろ』と言ってきたのは……本当に意味が分からなかった。後からロイミュード001による記憶操作の痕跡を確かめようとしていたと判明したが、そうじゃなきゃ誤解しか招かない台詞だっての。

 

 

 「ま、まあ……ルールを守るのは勿論良い事ですが、時々は暗黙の了解と言うか敢えて無視することも有りますよね。

  それにしても、『人間の』とは。随分と大きい括りで語る方なんですね、何だか自分は人間でないみたいな言い草です」

 

 

 文ちゃんは肩透かしを受けたのか調子を崩していたが、チェイスの言葉に対する違和感を指摘してくる。

確かに、普通の人間ならわざわざ『人間のルール』なんて言わないよな。さーて、どう説明したものか……

 

 

 「……あー、今更隠す事でもないか。そいつは、本当に人間じゃない。ロイミュードって言う……機械生命体だったんだ」

 

 「機械……生命体? 初耳ですね。機械で生命ってことは、命あるカラクリ人形みたいな物でしょうか」

 

 「大体、そんな感じ。カラクリ人形って言っても、本当に意思が有ったし、人間そっくりの姿にもなれたんだけどな」

 

 「それはどちらかと言うと我々妖怪に近い……付喪神の親戚みたいな種族なのでしょうか」

 

 「付喪神ってのが具体的にどんな妖怪なのか分からないからなあ。何て言うかな、人間が作り出したけど、やがて人間を超えたいと願うようになった奴らだ」

 

 

 ……ロイミュードは、最低最悪の人間にして俺の父親、蛮野天十郎が作り出した存在だ。

善意を持ち、他者を愛することも出来たロイミュードは……蛮野の愚かな欲望によって悪意だけを追求するように作られてしまい、結果的には人の悪意を具現化したような怪物となってしまう。

チェイスだけは少し特殊だ。蛮野が基本構造をデザインした108のロイミュードの前に、共同開発者であったクリム・スタインベルトが製作した『ロイミュード試作体・プロトゼロ』。後にロイミュード000、個体名チェイスとして扱われるプロトゼロは、善意と人間への奉仕の心、そして完全な正義のプログラムによって構成されていた……俺がそれを認めたのは、少し遅過ぎたけど。

 

 

 「……外界の人間は何やら妙な事をやっているようで。しかし、人間に作られながら人間を超えたいと言うのは、人間から見れば反逆ですよね? そんな方々とよく友人になれましたね」

 

 

 文ちゃんから鋭い指摘を受け、一瞬反応に困る。これはロイミュードの誕生経緯、そして人間に対する一斉蜂起である『グローバルフリーズ』事案に関わる物で、一部の者以外はその全容を知らない話なんだけど……別に良いか、幻想郷の誰かに知られて困るって訳じゃないし。俺達の世界でも、『機械生命体特措法』なんて法律が作られる程度にはロイミュード絡みの情報は広まっているし。

……チェイスって言うダチの事を、もっと多くの人に知っていてもらいたいし。

 

 

 「そいつがちょっと変わった出自だったってのも有るかもな。

  他のロイミュードは人間の感情を写し取り悪意に染まっていったけど、そいつは正義を持ち続けていたんだ。……良い奴だったぜ」

 

 「だった、ですか。不躾な事を聞くようですが、その方は今……?」

 

 「……『死んだ』よ。俺を、最低最悪の人間から守ろうとしてな。でも、俺は変な意地を張ってそいつの事を最後までダチって認めてやれなかったんだ。それは、今でも心残りだ」

 

 

 文ちゃんは、今まで俺が見た事もないような物憂げな表情になり、何を言うべきか迷っているようだった。

そんな雰囲気にしてしまったのは俺だけど、辛気臭いのは好みじゃない。敢えて大げさな身振りで、誤魔化す。

 

 

 「ま、人間なら死んだら終わりだけど、ロイミュードもそうとは限らないし? そいつの意思は今でも俺が受け継いでるから、あまり気にしてないけどなー」

 

 

 言って、ポケットからシグナルチェイサーを取り出す。かつてチェイスが仮面ライダーとして戦っていた証は、今でも俺の相棒として力を貸してくれている。こいつが居て、そして俺がチェイスの事を諦めなければ、いつかあいつはひょっこりと戻ってきてくれる筈だ。冬の事件で、人間の感情を元に復活したロイミュード005のように。

 

 

 「成程……この使い魔は、元々その方が扱っていたものなのですね? 主亡き後も主の友に仕える、中々の忠臣ではないですか」

 

 「いつかあいつが戻ってくる時は、こいつが道標になるだろうって心の支えでもあるし……色々力も貸してもらってるよ」

 

 「仮にも私のような妖怪を怯ませる程です。護身には申し分ないでしょうな」

 

 

 文ちゃんはシグナルチェイサーの真価を知らないからか、こいつが直接的に攻撃した時の事を基準に考えているみたいだ。

ネクストシステムのドライバーで力を引き出し仮面ライダーに変身すれば、護身程度では収まらない戦闘力を得られるんだけど。肝心のドライバーが無い以上説得力が無いし、誤解を解こうと説明する気にはならなかった。言っても無駄な強がりと笑われるのがオチだろうね。

 

 

 「……随分長々と話し込んでしまいましたね。私も用事が有るのでここで失礼させてもらいます。明日も、いつもの場所で合流しましょう」

 

 「りょーかい、また明日ー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ああ、今回も見事な写真をありがとうございます。部屋に飾っておきますね!」

 

 「そこまで喜んでくれるとカメラマン冥利に尽きるねえ。ま、大事にしといてよ」

 

 

 俺から写真を受け取り、文字通り花が咲いたような笑顔を浮かべてくれる女の子、阿求ちゃん。

とても可憐で、大和撫子って言葉はこの為にあるのかってくらいに可愛い子なんだけど。この子が人里における名家中の名家、稗田家の当主だと言うんだから幻想郷とは凄いものだ。

 

 

 「はい! 自分の好きな物が映っている写真、それもこうまで鮮やかな色付きとなると本当に珍しいですから……外界の写真機は、凄いのですね」

 

 「ははっ、そこは俺が凄いと言って欲しいね」

 

 

 目を輝かせる阿求ちゃんへ、冗談交じりに返す。文ちゃんのような妖怪達は別として、幻想郷では今俺が使っているような性能のカメラはとんでもない貴重品らしい。少なくとも、人里で最も財政的余裕が有るであろう稗田家でもおいそれと手を出せないくらいには。

……俺が凄いとは言ったけど、そうなると確かにカメラの性能の方が注目されてしまうのは仕方ない事かもしれない。それに文ちゃんの伝手を借りて現像設備を使わせてもらっているのだから、結局は俺だけじゃこの写真を完成させられないのだ。インスタントカメラも好きだけど、今回の旅には持ってきていなかったし。

 

 

 「勿論、剛さんも凄いですよ! 外界から来た、所謂外来人との事ですけど……一人で人里の外にも撮影に行けるだなんて尊敬します」

 

 「頼りになる相棒も居るし、もともと危険は大好物さ。……まあ、阿求ちゃんの本に書いてあった『本当に危ない場所』には近づかないようにしてる」

 

 「それが賢明ですね。幾つかは、並の妖怪にとってすら危険な区域も有りますから」

 

 

 人里の近くにはそこまで危ないロケーションは無いけど、バイクを走らせてちょっと遠出すれば幾らでも危険は待ち構えている。阿求ちゃんの執筆した本、俺にとっては幻想郷のガイドブックとも言える『幻想郷縁起』はそうした危険地帯・妖怪を予め分かりやすく警告してくれる。

文ちゃん並みの力をもった妖怪が早々居るとは思いたくないけど、もしバイクでも逃げられない速さとロイミュードのような攻撃力を持った奴が殺す気で向かってきたら、今の俺では太刀打ちできない。シグナルチェイサーだけで撃退する可能性にかけるのは、かなり分の悪い賭けだし。

 

 

 「だから今回は、人里から歩いて数分くらいの位置から山を撮ってみた。もう少し近付ければ、もっと良い画も撮れたとは思うんだけどさ」

 

 「私はこれで十分過ぎるくらい雄大な写真だと思うのですが……腕の良い写真家さんともなると求める物も高くなるのでしょうか」

 

 

 ……最初に幻想入りした場所が山の中だったから、どうしても俺の中で見比べてしまうんだよな。

阿求ちゃんに限らず、人里の皆には幻想入りして最初に居た場所が人里の近くだったって事にしてるから滅多な事は言えないけど。最初は山に居たって事になると、人里に最初に訪れた時から行動を共にしている文ちゃんにはどうしたって疑惑の視線が向けられちゃうだろうし。

 

 

 「それで、このお礼ですけど……本当に今回も、私のお話だけで宜しいのですか? 人里から出ている時点で多少なり危険なのですから、お給金でも……」

 

 「そう遠くない内に帰るんだ、あまり貰っても仕方ない。今の所、衣食住は足りてるし」

 

 

 阿求ちゃんはいつものように、俺の写真に金を払おうとする。その気持ちは有り難いんだけど、遠慮しておく。

残り一週間程度を過ごすための金は、ちょっと前の肉体労働で手に入れている……元々野宿には慣れているし、最悪サバイバルでも良い訳だ。俺達の世界で使えるお金なら少し考えたいが、結局は代替の効く物でしかない。

その点、阿求ちゃんから聞ける幻想郷の話と言うのは別だ。『幻想郷縁起』には載っていない生の情報、幻想郷では言うまでも無く重要だし、元の世界でも手に入れられるアテが無いと言う意味では貴重だろう。他の誰も知らない幻想の地の事を、俺だけが知っている……少し子供っぽいが、わくわくするぜ。

 

 

 「剛さんがそれでよいのでしたら……心変わりしたらいつでも仰ってください。この技術のためなら、数日と言わず数週間分のお給金はすぐに出せますよ」

 

 「は、ははは……」

 

 

 ……こう言う所で、阿求ちゃんも本来は経済力的に雲の上の人なんだなあと実感する。厭味は無いけど、ナチュラルに言動や立ち振る舞いが富豪のそれと言うか。

我ながら、よくこんな子と知り合えたなと思える。とあるきっかけが無ければ、ここまで短期間で親密になることは無かった。人里の有名人だから、いつかは顔を合わせることになっていただろうけど……小鈴ちゃんには感謝だな。

 

 

 「あ、そうだ。小鈴ちゃんって、最近どうしてる? この頃鈴奈庵に顔出してないから気になってさあ」

 

 「小鈴ですか? いつもの通り、呑気にしてますよ。……鈴奈庵、行ってないんですか?」

 

 「あー、深い理由は無いよ。ただ、何となく足が向かってないってだけで」

 

 

 とは言った物の、割と理由は有る。最初に俺一人で鈴奈庵に訪れた時、店番をしていた小鈴ちゃんと遊びに来ていた阿求ちゃんとで話が盛り上がって仲良くなり、それが今も続く阿求ちゃんとの交友に繋がっているんだけど。

次の日に文ちゃんと二人で鈴奈庵に向かうと、何故か小鈴ちゃんに意味深に笑いかける文ちゃん、文ちゃんを見て引きつった笑いを浮かべる小鈴ちゃんと言う有様。鈴奈庵に文ちゃんの新聞、『文々。新聞』が置かれている事から何かを察した俺は、さりげなーく鈴奈庵から足を遠ざけている。

 

 

 「そうですか。小鈴はどうも考えが軽いと言うか、失礼で軽率な所が有るので……私が付いていない間に何か剛さんにやらかしていたのかと」

 

 「ないない。あれだけ明るいなら可愛いくらいだって」

 

 「まあ、小鈴は可愛いですけど。……そう言えば最近、また妙な事に手を出していましたね」

 

 「妙な事? 前に聞いた、よく当たる占いとか?」

 

 「いえ、小説の執筆です。何でも、小鈴の父君が行商人から買ってきた神を降ろす神器から着想を得ているのだとか」

 

 

 神を降ろす、か。幻想郷的な視点から見ても、何だか凄い物だな。小鈴ちゃんの父はよっぽど儲けているのだろうか。でも、そんな凄い物を行商人が取り扱っているって有り得るんだろうか……? 実際にアイデアを出してくれるんなら、本物なのかもしれないけど。

 

 

 「最初は使い方が分からなかったそうですが、適当に弄っていたら文字が映し出されたらしいです。何やら物語らしき文章が表示されたので、それが託宣なのだとはしゃいでました」

 

 「よく分かんないけどさ、神様のお言葉を小説にしても良いの? もっと重要にしなきゃいけないんじゃない?」

 

 「その神様自身が、『これは物語である』と文章中に記していたそうですよ。

  多分、小説の神……と言うのには、私は懐疑的ですけどね。神降ろしなんて簡単に出来る事じゃありませんし、そこらの霊が神を名乗って代理執筆を頼んできたって所じゃないでしょうか、真相は」

 

 「阿求ちゃんの判断なら説得力あるなあ。んで、その小説って阿求ちゃんも読んだの?」

 

 「ええ、私も個人的な理由から少し気になったので」

 

 

 そこまで言うと、何かを言いたそうにムズムズした後に、咳払いをして間を取る阿求ちゃん。……何なんだろうか、今の。

 

 

 「内容としては、典型的な怪奇譚と言う所でしょうか。人間の日常に潜む妖怪が、数少ない仲間と共に成りあがっていくと言う流れで。

  私の……ごほん! 人里で人気の推理小説には到底敵わないですが。物語としてそこそこの完成度は有り、中々珍しい妖怪主体の話と言う事も手伝ってか、主に子供達向けのホラー小説として静かに人気が出ているようです」

 

 「あ、もう完全に出来上がってるんだ。俺も読んでみようかな」

 

 「小鈴のホラーも良いですけど、アガサクリスQ先生の推理小説も面白いですよ? 丁度持っているので、是非お楽しみください!」

 

 「お、おう……」

 

 

 そう言って『何故か』自信満々に一冊の本を渡してくれる阿求ちゃん。さっきからの微妙に浮ついた振る舞い、そしてこの作者名。阿求ちゃん、それで隠せているつもりなんだろうか……

 

 

 「じゃ、じゃあ今回はこのアガサクリスQ先生の小説を貰っていくよ。鈴奈庵にも帰りに寄りたいし、そろそろ行くな」

 

 「ああ、まだまだお渡しできるのに」

 

 

 これ以上居ると何だか色々と表情に出てきてしまいそうだったので、すぐさま荷物を纏めて帰る事にした。

回収・逃走・いずれもマッハ。自分の中に浮かんだ、かつて仮面ライダーとして戦っていた頃の決め台詞をもじった情けない言葉に思わず吹き出しそうになりながらも、夕日が差し始めた人里へと走り出す。

 

 時々刺激的な面が顔を見せる、どこか懐かしさを感じさせる異世界。後少しの滞在だけど、この不思議な運命の巡りで過ごす日々は掛け替えのない物だな、と思った。

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