日溜まりのような君の隣で   作:ふがふがふがしす

3 / 3
今回は台詞あるよ!


第二話

 

 

 人里から紅魔館へと続く道を、初夏の生命力溢れる植物を目で楽しみながらゆったりと歩いてきた僕。お昼を過ぎ、ぽかぽか陽気に眠気を誘われながら紅魔館に着いた僕を待っていたのは、穏やかな顔をして眠りこけている恋人の姿だった。大きく堅牢な鉄扉の横に背を預けてすぴー…すぴー…、とどこか気の抜ける可愛い寝息を立てながら眠っている。

 

 まあ、実に良くあることなのだが。僕がここを訪れると半々の確率…とまでは言わないが、結構な割合でこうしているところを見る。僕が起こす事もあれば、紅魔館のメイド長である咲夜さんが力づくで起こす(ハリセンで力一杯叩く)事もある。まあ、咲夜さんが起こす事(のハリセン)の方が多いけど。

 

 キョロキョロと辺りを見回すが、咲夜さんの姿は見えない。恐らくは紅魔館の中で掃除や洗濯等の家事をこなしているのだろう。彼女は本当に働き者だと思う。あんなに大きな屋敷の家事を、ほぼ一手に請け負ってるのだから。一応、妖精メイドを雇っているけど、お世辞にも大きな戦力になるとは思えない。僕が見た限りでは、最初の数十分はなんとか集中して与えられた仕事をこなすのだが、何か興味を引くものなんかがあると仕事そっちのけで遊び出す。まあ、もともと妖精は子供っぽく悪戯が好きなのがほとんどだ。もっとも、そんな事は百も承知でレミリアさんは雇用してるのだろうけど…。悪戯の結果とかで、むしろ掃除箇所や洗濯が多くなってるのは僕の気のせいであって欲しい。…今度、咲夜さんを労ろうかな。

 

 

 

 そんなつらつらと毒にも薬にもならない(至極どうでもよい)事を考えながら、美鈴さんに近寄る。

 

 …見れば見るほど気持ち良さそうに寝ている。本来なら起こした方が良いんだろうけど、僕にはそんなことできそうにない。このままずっと日向ぼっこしながら、美鈴さんの寝顔や流れる雲を眺めていても良いんだけど、一つ思い付いたことがあるのでやってみることにする。

 

 彼女の横に行き、地面にある大きめの小石をどける。そして彼女の横に座り、少し行儀が悪いが片膝を立ながら胡坐(あぐら)をかく。そして美鈴さんの頭を自分の胡座をかいている膝の上に乗せる。…まあ、いわゆる膝枕だ。流石に慣れているかもしれないが(慣れるほど寝てるのはマズイと思うが)、塀の石材はお世辞にも枕に向いているとは思えなかったのでこのような事をしてみた。単純にやってみたかった、というのもあるけど。

 

 彼女のさらさらと指通りの良い髪を手櫛ですきながら、笑顔をこぼす。今日はいい天気なので少し眩しそうだったから、彼女の帽子を顔に影を作るようにして置いてやる。

 

 さぁ、と吹くそよ風が気持ち良く、右膝に感じる確かな重みと温もりが心地良い。風に揺れる草花や、木立の回りを飛び交う小鳥達。耳をくすぐる美鈴さんの規則的な寝息と、草葉の擦れる音を楽しむ。これから訪れる太陽の季節に向けて青々と生い茂る葉の香りと、風が運んでくる美鈴さんの花のような甘い匂い。

 

 ああ、実に幸せだな。そう思いながらなんとなく美鈴さんの手に自分の手を添える。そうすると、手を握られる。起こしてしまったのかと思い、顔を覗き込むがそこには相変わらず…いや、少し微笑んでいる美鈴さんの寝顔。とても幸せそうで、僕の顔も思わず綻ぶ。もう少ししたら起こさないとだけどもう少し、このままで。

 

 しかし、本当にいい天気だ。暑過ぎず、時々吹く風が睡眠欲を刺激する。一つ欠伸を噛み殺し、(まなじり)に涙を浮かべながら、このまま午睡と洒落込むのもありだな、と思い立つ。そう意識すると不思議なもので、どんどん目蓋が重くなってくる。それに抗わず目を閉じ、傍らの恋人の手を存在を確かめるように握り、夢の世界へと旅立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 ……すぅ、すぅ。

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 

 

 もう幾ばくかで夕刻を迎える幻想郷。人里ではもう少しで一日が終わる時間だが、ここ紅魔館の主にとっては朝方である。そんな(にわか)に紅魔館が活気付き始める少し前のこと。侵入者を拒む堅牢な鉄扉に、少女の凛とした声が響き渡る。

 

 

「美鈴?また寝ているの?」

 

 

 そう言いながら、門の外に出てきた少女の名前は十六夜咲夜( いざよい さくや)と言う。

 

 銀糸のような髪を両サイドで小さく三つ編みにし、緑色のリボンと純白のホワイトブリムが彩る。サファイアのような透き通った青い瞳は、切れ長で少し怜悧な印象を与える。全体的に可愛いというよりは、綺麗と評されるだろう容姿をしている少女である。服装は群青色と白を主体としたいわゆるメイド服を着ている。要所要所にフリルが誂え(あつら)られており、上等な物だと推測できる。

 

 彼女はその服装が示しているように、この悪魔の館である紅魔館のメイド長を勤めている。《時間を操る程度の能力》というものを持っていて、ここ幻想郷でも特殊な人間(ぶっちゃけ人外スペック)である。

 

 過去にいろいろやんちゃしていたらしいが、とある出来事でレミリアに心酔。忠誠を誓った身である。日々献身的に紅魔館の家事を回しており、紅魔館に無くてはならない人材である。

 

 そんな彼女は所用があって、美鈴を呼びに来たのだが…。

 

 

「…あら」

 

 

 居眠り門番を探しに来た彼女の目に写ったのは、恋人である神楽の膝に頭を預け、片手を恋人繋ぎしながら幸せそうな寝顔をしている二人(バカップル)だった。

 

 すぅ…すぅ…と、ほぼ同じリズムで寝息を立てる二人。どちらもほんのりと微笑んでおり、見てる側もつい顔を綻ばしてしまう程に平和な姿である。

 

 

「……」

 

 

 その光景を見た咲夜は(おもむろ)にスカートのポケットから月の意匠が施されたカメラ(パチュリー印の魔導カメラ)を取り出す。そして、数秒かけピントを合わせ…カシャリ、とシャッターを切る。良い手応えを感じたのか、頬の端をつり上げながらカメラを仕舞う。

 

 

「さて、可哀想だけど起こさないといけないわね…。お説教はどうしようかしら?」

 

 

 お説教という言葉が聞こえた瞬間、美鈴の身体に一瞬震えが走ったように見えたが恐らく気のせいだろう。美鈴に近付きながらスカートの中から一つのモノを取り出す。射程範囲に入った所で、それを美鈴(駄門番)の頭に向けて━━━━━一閃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スッパァァァァァアアアンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 夕焼けに染まりつつある幻想郷に、清々しい快音(ハリセンの音)が響き渡った。

 

 

 …幻想郷は本日も平和なようです。

 

 

 




台詞はあった。(しかし会話文はない)
まさかの初台詞が主人公やヒロイン(のはずの)美鈴ではなく咲夜さんでした。
どうしてこうなった。

お読み頂きありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。