型月産ワカメは転生者である(仮題)   作:ヒレ酒

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波濤の獣を重ねた結果、なんかカッコよく見えてきた(錯乱
ついでに厄落としも兼ねて公開。どうか酒呑ちゃんが出ますように。


本編
第一話


 間桐(まとう)慎二(しんじ)

 冬木の魔術界隈において御三家と呼ばれる家系の長子でありながら、魔術の才を持たぬ凡人。

 そして物語においては噛ませ犬にしてド三流の道化。

 

 魔術の才に嫉妬して、義妹に全年齢では言えないようなことまでヤっちゃって。

 幼女に殺されたり、聖杯の憑代にされたり、そのヤっちゃった妹に殺されたり。

 碌な未来が存在しない型月産の海産物こと、間桐慎二(ワカメ)

 

 

 

 そんな間桐慎二は転生者である。

 今なら特典がどうのと神様的なサムシングに唆されて、型月世界に転生してきた。

 日本人はセールやら特典といった言葉に弱い。古事記にもそう書いてある。

 

 けれども騙されたのか。慎二は原作通りの凡骨であった。

 特典なんてありはしない。勿論だが魔術回路もない。

 だから慎二は極力原作と関わらぬように生きてきた。

 

 間桐の秘奥に一切関わらず、桜に非道を働かず。

 その二点さえ守っていれば、物語のような最期だけは迎えずに済むだろう。

 要するに魔術のことなんて一切忘れて、良いお兄ちゃんしてろ。そういうことだ。

 そうすれば資産家の長子として、平凡な幸せを手にすることができる。

 

 平凡万歳。魔術なんてクソ喰らえ。

 内心ではそう豪語してやまなかった、間桐慎二。

 

 

 

 そんな彼が、なぜか間桐の当主である臓硯を追い詰めていた。

 蒼銀の鎧を身に纏い、死棘の朱槍を携えて。

 無様に這いつくばりながら逃げようとする臓硯を見下ろしている。

 

「なぜだ……なぜこうなった!」

 

 耳障りな声で鳴く臓硯に、慎二は仮面(バイザー)の下で叫んだ。

 そんなことは、こっちが聞きてぇよ馬鹿野郎と。

 

 

 

 

 

 

 事の始まりは第四次聖杯戦争の開始直前にまで遡る。

 冬木の地で行われる、魔術師と英霊による戦争。

 それに巻き込まれぬようにと、慎二は海外留学という名の避難をすることになった。

 “間桐の中では比較的に良心派”と評判の父、鶴野による提案である。

 

 騎士王がビーム撃ったり、金ピカが宝具乱射したり、モリモリマッチョが軍勢引き連れたり。

 そんな事件に巻き込まれたいなんて露ほども思っていない慎二は、父の提案に二つ返事で了承。

 戦争開始の一週間前には、ファーストクラスで優雅な空の旅を楽しんでいた。

 

 このまま何事もなく、自分と関係のないところで戦争が終わってくれれば良い。

 さて、避難先についたら何をしようか。やはり観光だろうか。

 サービスのキャビアに舌鼓をうちながら、このまま何事もありませんようにと祈っていた。

 

 けれどまぁ、そうは問屋が卸さなかったわけで。

 いや、卸さなったのは神様だろうか。

 

 現地に到着した慎二を待っていたのは美人のツアーガイドではなく、黒い覆面を被った男。

 肉体的には平凡な子供であり、魔術の素養もない慎二はアッサリと誘拐された。

 

 

 

 誘拐先で行われていたのは非道な実験。

 どうも魔術師の子弟ばかりを集めていたようで、慎二の他にも同じような子供が何人も居た。

 首には脱走防止用の魔術礼装が嵌められ、どうにも逃げられる雰囲気ではない。

 一人、また一人と子供が減っていき、ついに最後の、慎二の番がやってきた。

 

 怪しげなベッドに寝かされ、四肢を拘束される。

 ああ、僕の人生ここで終わりか、短かったな。

 辞世の句を考えながら目を瞑っていると、周囲の魔術師達は何やら困惑した様子。

 外国語で意味はわからなかったが、慎二に魔術の素養がないことに今更気が付いたらしい。

 なら逃がしてくれよと隣に居た魔術師に懇願の視線を向けてみるが、そっと目を逸らされた。

 

 まぁとりあえずヤってみようぜ! 最後の一人だし、モノは試しだ!

 そんなアメリカンホームドラマみたいな軽いノリで開始された実験。

 やたら蛍光色な薬剤を注入されたり、体中に魔術的なナニカをされたり。

 色々とアレなコレを続けること数日。

 どんな天文学的確率なのかはわからないが、何故か実験は大成功。

 

 で、結果的に誕生しちゃったのがコレだ。

 有機的な蒼銀の強化外骨格を身に纏った、ナニカ。

 慎二である。どこからどう見ても慎二に見えないが慎二である。

 

 というかアレじゃね。これって人型版、波濤の獣(クリード)じゃね。

 いわゆるガチャの外れ枠ですね、本当にありがとうございました。

 

 周りでは魔術師達が歓声を上げている。

 まるでサッカーのクラブチームが優勝した瞬間のようだ。

 そうか、そんなに成功が嬉しかったのか。

 

 ならもう、この世に未練はないよね。

 

 身体を改造されていく中で、本能的に“力”の使い方は理解していた。

 手始めとばかりに、首に嵌められた魔術礼装を力任せに引き千切る。これで自由だ。

 

 いつぞや助けを求め、目を逸らした魔術師と目が合った。

 無言で顔面にパンチ。首から上が吹き飛ぶ。

 歓声が一瞬にして悲鳴と怒号に変わる。

 火に雷、ついでに氷。大量の魔術が飛来するが、この身体にそんなモノは通用しない。

 蒼銀(クリード)の鎧が下位の神秘を棄却し、無効化する。

 

 右手を前に出せば、朱色の槍が具現化。

 これこそがこの身に埋め込まれた力の象徴だ。

 朱槍を放り投げ、そして真名を唱える。

 

爆散しろ、死棘の槍(ゲイ・ボルク)

 

 空中で爆散した死棘は三十の鏃に変化し、魔術師達を貫き殺していく。

 ケルト式ショットガン。なるほど便利なものだ。

 咲き乱れる血飛沫を眺めつつ、そんなことを考えていた。

 

 当たり所が悪かったのか。全身から血を流しながらも逃げようとする魔術師が居た。

 当然だが逃がさない。服の裾を引っ掴み、強引に壁へと叩き付ける。

 

 魔術師が何やら外国語で話しかけてきた。

 多分、助けてとか逃がしてくれとか、そんな意味だと思う。

 この状況で言うことなんて、万国共通のはずだ。

 これが「くっ、殺せ!」とかなら、それはそれで面白いが。

 

 魔術師なら自分達の研究成果に殺されるくらい本望だろうに。

 だからほら、スマイルを忘れちゃダメよ、魔術師さん。

 

 とは言ったものの、当然ながら日本語が通じるはずもなく。

 ギャアギャアと喚いて、ついに泣き出してしまった魔術師。

 可愛そうだね。そんな君には心臓に槍をプレゼント。

 魔術師、死すべし。慈悲はない。工房ごと壊滅させておいた。

 

 それ以来。慎二は波濤の獣に変身できるようになった。

 多分だがコレが神様的なサムシングの言っていた“特典”なのだろう。

 こんな代物なら要らなかったなぁ、というのが感想だ。

 

 

 

 そんなこんなで異国を満喫した慎二は無事に? 帰国の途に就いた。

 勿論席は、行きと同じファーストクラス。

 サービスのチーズに舌鼓を打ちつつ、故郷である冬木を思い――そして思い至った。

 

 このまま帰ったら自分はどうなるのか。

 異形と化したこの身では、最早平凡な一生は望めまい。

 いっそ過剰なまでに距離を取っていた神秘の世界に、片足どころか全身浸かってしまった。

 

 さて、どうしたものかと考えて、思いついたのが冒頭のアレだ。

 もう面倒だから、邪魔な臓硯ぶっ殺して間桐家乗っ取っちゃおうぜ。

 つまりはそういうこと。

 

 冬木へと帰って来た慎二は、間桐家へと直行。

 すると義妹である桜が出迎えてくれた。

 ちなみに親父殿は心を病んで入院中らしい。アレだ、切嗣(ケリィ)に拷問されたせいだ。

 

 そのことを無表情で語る桜を見て、そういえばと思い出す。

 この娘の体内には、臓硯の刻印蟲が巣食っているのだったか。

 ついでだ、駆逐しておこう。朱槍を顕現、桜に向かって投げつける。

 

蟲だけ殺せ、死棘の槍(ゲイ・ボルク)

 

 ゲイ・ボルクは万能。古事記にも書かれているかもしれない。

 三十の鏃は桜の体内に巣食う蟲を一瞬にして駆逐した。

 が、ついでに全身を貫かれた桜も倒れ伏すことになった。

 あれだ、コラテラルダメージってやつだ。

 致命傷は避けているから、使えるようになった魔術で治せば問題ない。

 

 ちちんぷいぷい。

 慎二の思考に合わせて自動形成されたルーンが、桜の体を癒していく。

 はい、元通りのカワイイ桜ちゃんだ。服が血塗れスプラッターなのは我慢してほしい。

 

 そのまま蒼銀仮面(クリード)に変身。

 間桐家の魔術的なアレコレを力尽くに破壊して進み、臓硯を発見。

 で、冒頭に戻るわけである。

 

 

 

 

 

 

「なぜだ……キサマに何があったァ……慎二ィ!」

「だからこっちが聞きてぇよ、そんなこと」

 

 海外留学したと思ったら、魔術結社に誘拐されて怪人になっていた。

 何を言っているかわからないと思うが、僕も何をされたのかわからない。

 とりあえず本郷イズムなアレが起こったのだけは確かだ。

 

 ま、とりあえず。

 この蟲爺を殺す方法を手に入れたことだし、サクッと間桐を征服してしまおう。

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)

 

 魔術師、死すべし。慈悲はない。

 放たれた因果逆転の朱槍が、臓硯の本体である矮小な蟲を正確に貫き殺す。

 やはりゲイ・ボルクは万能だ。

 

「マキリの……儂の悲願が――」

 

 これが最期の言葉だった。

 老人の姿が崩れ、無数の蟲だけがまるで残骸のようにそこに残った。

 蟲達は、文字通り蜘蛛の子を散らすようにして屋敷のあちこちへと逃げていく。

 あれだ、後でバル○ンでも焚こう。魔術で強化してやれば臓硯の蟲にも効くだろう。

 こうして間桐家の歴史はアッサリと幕を閉じた。

 

 

 

 間桐慎二は改造人間である。

 彼を改造したのは世界制覇を企んだりしていない、ただの魔術結社だった!

 慎二は自分の欲望と、その時の気分で魔術師と戦うのだ!

 

 

 

 


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