型月産ワカメは転生者である(仮題)   作:ヒレ酒

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別SSの最新話を、本稿の最新話として誤って投稿してしまった。

上記、不具合修正のお詫びといたしまして、対象のお客様へ以下の対応をさせていただきます。

【対象】
11月16日(水) 19:00時点で「ハーメルン」を閲覧されているすべてのお客様

【対応内容】
第十一話

【配布方法】
ハーメルン様にて配信

【配布期間】
2016年11月16日(木) PM11:00~

ご利用のお客様には、大変ご迷惑をお掛けいたしました。ご協力ありがとうございました。


第十一話

 ランサーの怨嗟の声が蟲蔵に響き渡る。

 生きながらにして地獄に落とされたかのような、そんな絶叫だった。

 

「くっ……殺せェ! いっそ殺せェ!」

「いいや、ダメだね。僕が受けた辱めはこんなもんじゃない!」

 

 まるで狂気に憑かれたかのように慎二が笑う。

 処女の恨みはジッサイ、オソロシイ。

 蟲蔵にこびりついた怨念めいたアトモスフィアが、慎二を祝福しているようだ。

 普段は不気味なそれが、今日だけは何故か心強かった。

 

「ほぅら、今度のは太いぞ、耐えられるかな!?」

「やめろ……ヤメロォー!」

 

 

 

 

 

 

 時が遡ること数時間前。間桐家の食卓にて。

 家長の席に鎮座する慎二が静かに口を開いた。

 

「それでは第一回、ランサー対策会議を始めようと思う」

 

 イカした会議のメンバーを紹介するぜ。

 慎二、桜、ライダー。以上だ。要するにいつもの面子である。

 ピッと無駄に綺麗な姿勢で桜が挙手をした。

 

「はい、桜君どうぞ」

「どうやってランサーをハメるつもりなんですか、兄さん!」

「……なんでオマエはそんなノリノリなんだい?」

 

 嫌な予感がする。

 具体的にはライダーが恥ずかしげに、もじもじしている辺りから。

 こういう場合は大抵、桜が想定を突き抜けていく。それも下方向に全開で。

 

「それはもう……男同士の熱い戦いですから。ねぇ、ライダー?」

「そ、そこで、私に振るんですかサクラ!?」

「ふふ、知ってるのよ、ライダー。あなたの書棚の一番上の段――」

「わかりましたから! ですからそれ以上はどうか! 後生、後生ですサクラ!」

「仕方がないわね、武士の情けよ、ライダー」

 

 コホン、と桜が小さく咳払いをした。

 

「そういうわけで安心してください、私たちは男の人同士に理解があります」

「兄としては出来れば理解して欲しくない領域だったなぁ!?」

 

 純真無垢だったあの桜を、一体誰がこんなゲドインにした。

 ついでにライダーもだ。誰がここまでサブカル漬けにした。

 えぇい、時臣(トッキー)時臣(トッキー)の霊を連れてこい。

 なに? 私は知らないだと? そんな無責任が許されると思っているのか。

 

「で、だね。対ランサーの話に戻すけど」

「露骨に話題を逸らしましたね、兄さん」

「話を戻すけどォ!」

 

 気を取り直して話の続きをしよう。

 この聖杯戦争において、ランサーは最も行動が読めない存在だ。

 同時に、どのルートにも何らかの形で関わって来る重要なファクターでもある。

 そんな彼を初期の段階で落とせれば、いくつかのルートを事前に潰すことができる。

 運命は収束する。けれど収束する先を、ある程度まで誘導することは可能だ。

 

「僕達には絶対的なアドバンテージが一つある」

 

 それは――情報。

 慎二の脳内にインプットされた各陣営の詳細なステータス。

 聖杯戦争においてその情報は、時に鬼札となり得るほどの価値を持つ。

 特に重要なのが真名だ。

 英霊という超常の存在を紐解く上で、真名というファクターは外せない。

 

「光の御子、クー・フーリン。伝説を読み解くに、確かに彼は凄まじい戦士だ」

 

 逸話を並べていくと、この聖杯戦争でも上位に値する英霊であることがわかる。

 幸い知名度補正の関係で、バケモノ染みたことにはなっていない。

 それでも安定した性能を持っているという辺りが、素のポテンシャルを伺わせる。

 

「でも華々しい戦果を挙げる反面、その弱点も際立っている」

 

 慎二はニヤリと、それはそれは、あくどい笑みを浮かべた。

 大切なモノを失った男にしか出来ない、そんな苦い表情だった。

 

 

 

 数時間後。衛宮邸上空にて。

 慎二はランサー襲撃の瞬間を、今か今かと待ち構えていた。

 蒼銀の鎧は完全に修復され、一点の曇りすらない。

 けれど疼くのだ。ランサーのせいで抉られたソコが、疼くのだ。

 

 衛宮士郎が帰宅。次いでランサーの襲撃。セイバーの召喚を確認。

 遠坂凛が衛宮邸に接近中。ランサーが真名解放。外した。

 ここまでは原作通りだ。となれば、次にランサーが取る行動は一つ。

 

「そう、逃走だよな」

 

 衛宮邸から飛び出したランサーを捕捉。

 波濤センサーがロックオンを開始。標的を追跡する。

 

「さてランサー。楽しい追いかけっこの時間だ」

 

 作戦開始だ。

 上空で待機していた慎二は、スラスターを全開に。

 まるで猛禽類のような急降下、三次元的な機動でランサーへと迫る。

 

「リベンジマッチに来たぞ、ランサー!」

「……チッ、この間のガキか! つくづくツイてねぇなぁ今日は!」

 

 朱槍を顕現させ、チクチクと削るようにヒット&アウェイを繰り返す。

 慎二がランサーに勝っているのは、飛行能力を生かした三次元的な機動力だけだ。

 それを活かし、常に一定の間合いを保ったままランサーを攻撃していく。

 

「傷は癒えたようだな」

「いいや違うねランサー。僕の傷は癒えてなんかいないさ!」

 

 垂直急降下。空中で朱槍と朱槍がぶつかり合い、夜闇に火の花が咲いた。

 錐もみ回転した両者は、近くにあった公園に墜落。正面から睨み合う形になる。

 

「疼くんだよ。オマエの顔を見る度に疼くんだ……!」

 

 ギュッと朱槍を握り締める。同時に何かがキュッとなる。

 怒りにまかせてコイツを叩き付けたい衝動に駆られるが、それをぐっと抑える。

 今回の目標は勝利ではない。あくまでも英霊をハメ殺すだけの“作業”だ。

 私情を挟む余地なんてない。ただただ機械的に、この男を誘導するのが慎二の役目。

 

「魔力スラスター……全ッ開!」

 

 全身から迸る魔力によって、真紅の魔弾と化した慎二がランサーに迫る。

 そして衝突の間際、慎二は朱槍をランサーに向かって投げつけた。

 真名解放すらない、ただの投擲。けれどランサーの動きを一瞬遅らせるには充分。

 その一瞬の隙を狙い、ランサーへと組みついた。

 

 拳に形成した鍵爪がランサーの脇腹を抉る。

 体内で死棘の返しを形成したそれは、慎二とランサーを繋ぐ楔となった。

 

「くそっ……離しやがれ!」

「会場まで空のドライブと洒落込もうじゃないか。なぁに一瞬さ!」

 

 スラスターを全開に。後は目的地まで飛んでいくだけだ。

 目的地は間桐邸。そこへ向かってコイツを押し込む。それだけでいい。

 

 亜音速の旅は本当に一瞬だった。飛翔を開始した次の瞬間には下降している。

 いや、それは下降というよりも、ミサイルの落下と言ったほうが正しいだろうか。

 慎二はランサーを抱えたまま、庭の中心に着弾。

 着弾点には巨大なクレーターが形成され、土埃が舞い上がった。

 

「……ここで再戦ってわけか?」

 

 いち早く大勢を立て直したランサーが尋ねる。

 この程度の衝撃ではビクともしないらしい。流石は英霊というべきか。

 

「悪いけどね、ランサー。僕はもう戦わない」

「なに?」

 

 ランサーが訝しげに目を細める。狙いがあまりに不明に過ぎた。

 

「だったら相手はあの大女か?」

「ライダーのことかい? それも違う」

 

 慎二が鎧を解除する。戦わないというのは本気であるらしい。

 

「オマエをここへ連れて来る。それだけで僕達の勝利条件は達成されているのさ」

「そりゃあ……どういう意味だ?」

 

 庭に鎮座していたのは、一台のトレーラーだった。

 このトレーラー。正式名称はステージカーという。

 音響機能が集約された、移動式のステージだ。

 慎二の合図と共に荷台の側面が開き、上へと持ち上がっていく。

 

 漏れ出たのは大量に炊かれたスモーク。

 その中をバックライトが照らせば、二つの影が浮かび上がった。

 

「まさか本当にこんな馬鹿げた案を実行するとは思いませんでした……」

「何を言っているのライダー。兄さんはアレで普段から真面目よ」

「そうでしたねサクラ。マジメにボケているから質が悪いんでしたね」

 

 バニーガール。

 男の浪漫とも言える衣装に身を包んだ二人が、スモークの中から現れた。

 

「……これがどうしたってんだ? 見せ物にしちゃあ三流もいいとこだが」

「まだ、わからないのかい?」

「何ィ?」

「彼女たちが手に持っているものを、よく見てみなよ」

「持っているもの? いや、あれは――まさかッ!」

 

 桜はギターを。ライダーはマイクをそれぞれ装備していた。

 ここまで来れば、察しの悪いランサーもようやく気が付いたらしい。

 

「戦士の……戦士としての誇りはないのか!」

「はっ……そんなものは犬に食わせてやったよ」

「――キサマァ!」

 

 激昂するランサーだったが、もう遅い。

 この庭へと来てしまった時点で、既に詰んでいるのだから。

 

「さぁ、ミュージックスタートだ」

 

 桜が爪弾く頓珍漢なギターに合わせて、ライダーが歌い始める。

 決して上手い演奏ではなかったが、その意味を知るランサーは憤怒の表情を浮かべた。

 

 詩人の言葉に逆らわない。

 これはクー・フーリンが立てた誓い(ゲッシュ)の一つだ。

 力を得る代わりに立てられた、絶対順守の誓い。それが誓い(ゲッシュ)だ。

 どんな理不尽な状況であろうが、クー・フーリンは誓いを遵守しなければならない。

 ライダーの無駄なまでに美しい声が響き渡った。

 

「そ、そういうわけで~ランサーは~槍を捨ててくださーい?」

 

 ランサーが心底業腹だと言わんばかりに、乱暴に朱槍を地面へ叩き付けた。

 もう、わかるだろう。

 桜とライダーを詩人に仕立て、ランサーの誓い(ゲッシュ)を発動させる。

 これが慎二の作戦だった。

 古代の詩人ではなく、現代の詩人でゴリ押したのは少し心配ではあったが。

 イマイチ基準のわからない詩人判定を通り抜け、無事に成功したようで何よりである。

 

「ねぇランサー。どんな気持ち? 生前と同じ方法で武器を奪われて、どんな気持ち?」

 

 聖杯戦争において、英霊が真名を知られてはいけない理由がこれだ。

 彼らは生前における武勇だけでなく、こうした理不尽な制約までもを引き継いでいる。

 いくら屈強な英霊といえども、そこを突くだけでこうして簡単に制圧できてしまう。

 

「そう固くなるなよ。そうだなぁ、まずはゆっくり食事でもしようじゃないか」

 

 まさか断らないだろう。オマエが断れるはずがないだろう。

 これもクー・フーリンの誓い(ゲッシュ)だ。目下の者からの食事を断れない。

 

「いいぜ、ここまで来たんだ。最後まで付き合ってやるよ」

「そうか、それはいいことを聞いたよ」

 

 それじゃあ案内しよう。

 犬が食事をするのに丁度いい場所を用意してあるんだ。

 暗くて、陰湿で、じめじめしていて。それはもう最高の場所さ。

 

 

 

 蟲蔵には、いくつかのテーブルが並べられている。

 その上に鎮座するのは、大量のパンとソーセージ。

 どれも最高級の一品だった。犬の餌にしてしまうのが勿体ない。

 

「ランサー、オマエには今からこれを食べて貰う」

「……ただのパンと腸詰じゃねぇか。これがどうしたって――」

「そう焦るなよ、ランサーこれはまだ完成じゃあないんだ」

 

 慎二はパンにソーセージを挟みこむと、ケチャップとマスタードをかける。

 それぞれ単体では意味がない。二つを組み合わせ、これでようやく完成だ。

 

「喜べよ、ランサー。最高級品を用意してある」

「……御託はいい、さっさと食わせろ」

「勿論、食わせてやるともさ。そら、味わって食べるといい」

 

 ランサーがパンでソーセージを挟んだソレに齧り付いた。

 もしゃもしゃと咀嚼する音が聞こえる。そして、飲み込んだ。

 

「ああ、食ったか。食っちゃっか」

「……これが何だってんだ」

「いやね、別に特に深い意味はないんだけどね」

 

 慎二はその瞳を愉悦に染めると、弾むような声でランサーに真実を告げた。

 

「それ、ホットドッグっていうんだよね」

「ホット……ドッグ?」

「そう、ドッグだ。つまり、犬だ」

 

 ピシリ、とランサーが固まった。

 そしてガクリ、とその場で膝をついた。

 

「テメェ、俺に……犬を……!」

「おやぁ、本当に動けなくなるんだね、たかがホットドッグなのに」

 

 これも誓い(ゲッシュ)の一つだ。犬の肉を食べない。

 それを破らされたことで、どうやら半身が痺れて動けなくなっているらしい。

 実際にホットドッグが犬の肉に定義されるのかは微妙なところだ。

 でも効いているようだし、この世界的にホットドッグは犬肉判定なのだろう。

 

「くそっ……体に力が入らねぇ……!」

 

 弱々しい姿だ。今のランサーなら倒すことも簡単なように思える。

 けれど慎二は油断しない。

 伝承によれば、ランサーはこの状態のまま暴れ回ったというのだから。

 

「念には念を入れて、だ」

「……今度は……何をさせる気だ……!」

「……喜べランサー、おかわりもいいぞ」

「おか、わり……?」

「そう、おかわりだ。遠慮するな、今までの分食え」

 

 慎二が指さす先にあったのは、まるで塔の如く積み上げられたホットドッグタワー。

 完食するまでにどれほどかかるだろうか。

 少なくともランサーにとっては地獄のような時間であることに違いはない。

 けれどランサーは断れない。

 

「なぁ、ランサー。断ったりしないよな?」

「くっ……殺せェ! いっそ殺せェ!」

「ダメだよランサー。殺すのはオマエが最大限、弱り切ってからだ」

 

 それまでは、このままだ。さぁ、食事を続けよう。

 慎二の言葉に、ランサーはハッキリと絶望の表情を浮かべた。

 

 




そんなわけで爆死はしていないけれども、ミスでご迷惑をおかけしたので、詫び投稿です。

ランサーには失意と絶望の中で消えて行って欲しい(4次並みの感想

この度は御迷惑をおかけしました。
カルナさんがピックアップ漏れしたと思って許してください、なんでも(ry




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