型月産ワカメは転生者である(仮題)   作:ヒレ酒

12 / 21
イシュタ凛ちゃん実装につき、(爆死)予約投稿します。
先んじて投稿すれば、厄が落ちて出るとどっかで聞いた。

ところでサラスヴァティちゃんはマダなんですかね?


ワカメの能力についての説明回です。


第十二話

「で、ランサー」

 

 太いの(ホットドッグ)を更にもう何本かランサーにぶち込んだ後。

 慎二は次弾をパンに挟みつつ尋ねた。

 

「オマエに聞きたいことがあるんだ」

「こ、この期に及んで……何が聞きたいってんだ」

 

 全身をビクビクと痙攣させつつ、ランサーが虚ろな目を向ける。

 まるで酷い拷問を受けた後のようだった。

 誰がこんなことをしたんだ。こんなの人間のやることじゃない。外道だ外道。

 

 まぁ――少しだけ悪いことをしたかな、と思わないでもない。思わないでもない、が。

 しかし処女(うしろ)の恨みはマリアナ海溝よりも深いのだ。古事記にもそう書いてある。

 つまりそういうわけで、慎二はホットドッグを捻り込む手を止める気はなかった。

 君が、泣くまで、ホットドッグを食わせるのを、やめない。

 

「前に戦った時、言ってたじゃないか。僕の槍はゲイ・ボルクじゃないって」

「……あぁ、そんなことも言ったっけな」

「あれってどういう意味だったんだい?」

 

 少なくとも慎二は、あの朱槍をゲイ・ボルクとして扱ってきた。

 実際、因果逆転の呪いは備えているし、逸話よろしく無数の鏃へと分裂もする。

 これがゲイ・ボルクでなくて何だというのか。むしろそのものではないか。

 

 しかしだ。本家本元であるランサーは、あれがゲイ・ボルクではないと言う。

 ならばアレは一体なんなのか。慎二はその疑問の答えをずっと探していた。

 

「なんだ、そんなことかよ」

「オマエにとっては“そんなこと”でも、僕にとっては死活問題なんだよ」

 

 この身体になってからもう十年がたつが、慎二は自身のことを何一つ理解していなかった。

 知ろうと思ったことさえない。

 けれど今回の聖杯戦争、手札を全て切らずに勝てるほど甘くはない。

 この辺りで真実を知るべきなのかもしれないと、慎二は考えていた。

 

「……一応聞くが小僧」

「なんだい?」

「テメェ、魔術師だよな?」

 

 ランサーは、どこか呆れたような様子だった。

 どうしてそんなことがわからないのかと、出来の悪い教え子を見るような目だった。

 

「見てわかるだろ? 僕は魔術師に――」

 

 決まっている、と答えようとして慎二は逡巡する。

 果たして己は魔術師なのだろうか。

 その問に対する答えを慎二は持ち合わせていなかった。

 

 確かに魔術は使う。けれど根源への到達なんていう壮大な目標はもっていない。

 しかし魔術使いなのかと問われれば、それも否だ。なにしろ慎二には魔術の知識がない。

 初歩中の初歩を桜に教授する程度の知識はある。

 だがそれ以上でも以下でもない。そんな中途半端なものだ。

 

 間桐家の長子でありながら、なぜそんなことになったのか。

 それは慎二という存在が、魔術を使うという点において極めて特異な存在であるためだ。

 

 そもそもの話、慎二は生まれてこの方、自力で魔術を使ったことがない。

 魔術を発動させているのは慎二ではなく、彼の中に組み込まれた“システム”だ。

 “システム”は慎二のイメージを元に魔力を生成し、自動でルーンを組み上げ魔術を発動させる。

 そんな便利な機能を付加されている慎二が、魔術を学ぶ必要性などどこにもない。

 

 普通の魔術師ならば解明に乗り出しそうなものだが、そこは慎二クオリティ。

 よくわからないが、使えるのなら問題なかろうの精神である。

 そもそも己の体に施された改造からして意味不明なのだ。

 考えたってわかるわけがないと最初の段階から匙を放り投げていた。

 

「……魔術師でなかったら、何か問題があるのかな?」

 

 慎二の返答に、ランサーが口の端を歪めた。

 

「なるほどなぁ、だったらテメェが知らねぇのも頷ける話だぜ」

 

 一人だけ納得したように、くつくつと腹の底から笑いを漏らすランサー。

 なんだかイラっとしたので、特別に太いのを口に捻じ込む。

 

「オラ、これが欲しいんだろ。好きなだけ食えよ」

「なっ……テメェ、やめ――うごっ……うぐぉぉぉぉぉ!」

 

 静かになった。

 生意気な犬にはキッチリと躾をしてやらなければならない。

 

「しっかし困ったなぁ……謎は深まるばかりだ」

 

 肝心のランサーは答えそうにないし、自分で解明できる気もしない。

 どうしたものかと腕を組んでいると、答えは意外なところからやってきた。

 

「ああ、アレのことですか」

 

 桜だった。

 苦しむランサーの前に座り、実に美味そうな様子でホットドッグを頬張っている。

 絶妙にランサーの間合いの外に居座っているのが実に彼女らしい。

 

「知っているのか桜!」

「えっと……むしろ知らなかったんですか?」

 

 信じられないようなものを見るように、桜が慎二を見やった。

 そのアホの子を見るような目はやめなさい、お兄ちゃん地味に傷つくからやめなさい。

 

「教えてくれ桜。大切なことなんだ」

「仕方ありませんねぇ」

 

 桜はナプキンで軽く口元を拭うと、小さく咳ばらいをして居住まいを正す。

 どこから話すべきなのか――暫し逡巡した末に桜は語り始めた。

 

「まずは兄さんを改造した組織のことから話さなければなりません」

 

 遡ること数年前。具体的には卒業事件の数か月前のこと。

 桜は慎二の肉体の謎を知るため、単身北欧へと向かった。

 

「僕をハメるために、まさかそこまでしてたとは……」

「……いつまで経っても据え膳に手を出さなかった兄さんが悪いんです」

 

 少しだけ唇を尖らせ、頬を染めながらそっぽを向く桜。

 なんというかその仕草、お兄ちゃん的には凄くグッドだ。

 

「いやまぁ、その件に関してはすまなかったと思ってるけど……それで?」

「えっとですね――」

 

 因果逆転の呪いは原因と結果を逆転させる力だ。

 結果が成立した後に、原因となる事象が追従する。

 この逆転現象を他の目的に転用できないかと考えた集団が居た。

 

「それが兄さんを誘拐し、改造した集団です」

 

 例えばゲイ・ボルクの場合。

 因果逆転の呪いは、心臓を穿つという結果を先に発生させる。

 そしてその後、原因を発生させるため、心臓へ向かう必中の刺突が繰り出される。

 

「そこで彼らは考えたわけです」

 

 もしこの因果逆転の呪いが他へ転用できれば。

 例えば結果の値に、心臓を穿つ以外の――“別の現象”を代入可能であるならば。

 

「もしかしてその、代入しようとしていた値っていうのは……」

「はい、兄さんの考える通り――根源への到達です」

 

 根源への到達を結果として代入、因果逆転の呪いを発動させる。

 その際に発生する原因と過程を、ルーンという形に押し込めて観測。

 そうすれば根源への到達方法がわかる。いわば根源へと至るルーンだ。

 彼等はその偉大なる目的のために行動を起こし始めた。

 

「必要だったのは才気ある器でした」

 

 いくら因果逆転の呪いといっても万能ではない。

 例えば刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)に“刺突が届く範囲”という射程限界があるように。

 設定された結果が引き起こせない状態であるなら、呪いは不発に終わってしまう。

 つまり根源到達の観測には、それを成し得る可能性のある素体が必要であった。

 そこで彼等が集めたのが、優秀な血を引く魔術師の子弟だ。

 

「それにたまたま兄さんが引っかかったわけですね」

「……魔術の才能なんて欠片もなかったんだけどなぁ」

「血筋だけ見れば優秀ですからね、兄さんは」

 

 世界中から集めた子弟に対し、波濤の獣をベースにした因子による改造措置が行われた。

 そしてその結果、万に一つの可能性を拾い上げて適合に成功してしまったのが慎二であった。

 

「どうして僕だけが成功したんだ? 他に優秀な奴は一杯いたはずだろ?」

「それはおそらく、魂の問題でしょう」

「魂?」

 

 間桐慎二は転生者である。当然ながらその魂はこの世界のものではない。

 この世界全体を二次元として観測できる、さらに上の次元から“堕ちてきた”魂だ。

 言うなれば魂の強度が違う。他と比べれば、それこそ次元単位で隔絶している。

 だからこそ神代の魔獣の因子を埋め込む、なんて無茶な改造に耐えられた。

 

「なるほど……それでその実験がどう関係してくるんだい?」

「端的に言うと、兄さんはイメージだけで魔術を発動させられる、ということです」

 

 ルーンが自動生成されてから魔術が発動するのではない。

 むしろその逆で、魔術が発動した後に観測用のルーンが生成される。

 これが慎二の操る魔術システム、その正体であった。

 

「ちなみにだけど……代入する値が魔法とかでもOKなわけ?」

「ええ、問題ありません。兄さんの持つ可能性の限り、という条件付きですけど」

 

 その昔、燕返し習得のためにTSUBAMEを追いかけ山に籠っていた頃。

 やけに簡単に斬撃を増やせたことを不思議に思っていたが、なるほど。

 あれは眠っていた才能が開花したとかそういうことではなかったのだ。

 全てはシステムが起動した結果だった、そういうことだ。

 斬撃が二つまでしか出せなかったのは、そこが慎二の限界ということなのだろう。

 

「それで槍のほうに話が戻るわけなんですが」

「そうそう、一番大事なことだよ。あれは何なんだい?」

「ただの槍です」

「なるほど、ただの槍……ただの槍ィ!?」

 

 そんな馬鹿な。必中したり分裂したり、色々と機能が盛りだくさんじゃないか。

 これがただの槍であるはずがない。あってたまるものか。

 

「そもそも兄さんは勘違いをしているんですよ」

「勘違い?」

「あの力は槍の権能ではなくて、兄さんが発動させた魔術によるものなんです」

 

 つまり何か。因果逆転の呪いも、鏃となって分裂する力も。

 その全てがシステムよってもたらされた魔術の力だということなのか。

 海産物的アトモスフィアな何かだと思っていたが、そういうわけではないらしい。

 

 しかしなるほど。ランサーが断言したのも頷ける。

 確かにあの朱槍はゲイ・ボルクではない。似てはいるが別の代物だ。

 

 いくら外見や機能が似ていても、所詮アレは慎二が持つ可能性の具現に過ぎない。

 影の国で鍛えられた朱槍(ゲイ・ボルク)と、慎二の魔術である朱槍(ゲイ・ボルク)

 そこには天と地ほどの差がある。砕けたのは当然の帰結だった。

 

「まさか本当に知らないとは思いませんでした……」

 

 迂闊だった、と桜が溜息を吐く。

 すまない。知らなかったんだ。本当にすまない。

 使えてるしこのままでも大丈夫だろうと思って、知ろうとさえしていなかったんだ。

 

「でもまぁ、なるほどね。そうとわかれば、もう少しやりようもある」

「何か思いつきましたか?」

「ああ、とびっきりの奴がね。勝ったよ桜。この戦い――」

 

 我々の勝利だ。

 慎二は実に優雅な笑みを浮かべてみせた。

 

 

 

 それからもう二本ほど、ついでとばかりにランサーに太くて熱いのを捻り込み。

 軽く首を鳴らしつつ、慎二はゆっくりと腰を上げた。

 

「さて、そろそろ次のお仕事に行かないとね」

 

 今のルートはおそらくUBW。

 タイミング的には神父さんが教会で愉悦ムーヴをしている頃だろう。

 となるとこの後に発生するイベントは――バーサーカー陣営による襲撃だ。

 

「バーサーカーのマスター……とらせて貰うよ」

 

 彼女は聖杯戦争において、非常に重要なキーアイテムを持っている。

 奪える機会があるのならば、是非とも奪っておきたい。

 

「ライダーはどうしてる?」

「兄さんの指示通りに教会付近で待機させています」

「完璧だね……それじゃあ桜、後は手筈通りに」

「了解です兄さん、ご武運を」

 

 場は整った。後は自分が上手くやるだけだ。

 小さな覚悟と共にグッと拳を握り締めた慎二は、一人蟲蔵を後にした。

 未だに痙攣を続けるランサーと――そして桜を置いて。

 

 

 

 





なんて理由をつけてはみたものの、実際は礼装一覧で並んでた波濤の獣と偽臣の書を見て適当にでっち上げただけです。
実際、因果逆転の呪いでここまで出来るんだろうか。その辺りまで含めての万能説タグだったんだけれども。

魔法でも代入可能(代入できるだけで発動するとは言ってない

ワカメの能力についてはこんな感じ。
自分で読んでて分かり辛いと感じたので、折を見て修正予定(こう言って修正したためしがない

因果逆転を文章として説明するのがここまで難しいとは思わなかった。
やはり菌糸類先生は偉大であるなと実感した所存。


これでイシュタル来てくれるって、オラ信じてる(課金して待機中


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。