型月産ワカメは転生者である(仮題)   作:ヒレ酒

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最終決戦前なので連続投稿なのです2016/12/20


最初に言っておきますが、というか大体の人は承知だと思いますが。
このSSは間桐家以外は基本的に幸せになれない、そんなルートです。

アンチ・ヘイトは念のためでもなんでもありません。
間桐家以外に救いはありません(無情

ちょっとだけ加筆修正。
あとがきもちょっと追加。


第十四話

 手刀をイリヤスフィールに向かって突き出した――はずだった。

 

「――あの娘を守れ! セイバーッ!」

「なにィ!?」

 

 しかし寸での所で、士郎の声と共に現れたセイバーに弾かれる。

 信じられない、あの野郎。セイバーに二画目の令呪を使いやがった。

 若干やるんじゃないかな、なんて気はしていたけれど、本当に使うとは。

 貴重な令呪を開始一日目で二画も使うなんて、どうかしている。

 

「衛宮ァ! なんのつもりだい!?」

「それはこっちの台詞だ間桐! オマエこそ何をしようとしていた!?」

 

 んなもんイリヤちゃんのハートキャッチに決まってんだろチクショウ。

 見てわからないのかコイツは。いや、わかっているからこそ令呪を使ったのか。

 どちらにしろ面倒なことをしてくれた。

 

「ハァッ!」

 

 間髪入れずにセイバーが、聖剣を振り下ろす。

 風王結界(インビジブル・エア)によって不可視となった聖剣。

 なるほど、相手にしてみると厄介な代物だ。間合いが測れない。

 

「くそっ!」

 

 悪態を吐きつつ後方に向かって全力で跳躍。

 透明化して間合いのわからない相手に対して、接近戦を続けるのは愚策だ。

 ここは一旦、距離を取るのがベターだろう。

 アサシンくらいの達人ならば見切れるのだろうが、慎二にそこまでの技量はない。

 

「なんなの衛宮! オマエどっちの味方なの!?」

「俺の前で誰も死なせたりしない!」

「やめてよねぇ! そういう正義面に虫唾が走るんだよ僕はぁ!」

 

 セイバーと正面から向かい合う。

 相手は騎士王。最優のサーヴァント。

 いくらマスター補正で弱体化しているとはいっても、相手としては最悪だ。

 

 チラリとバーサーカーに視線を移せば、死棘の拘束もそろそろ破られる頃合い。

 セイバーの守りを抜けつつ、バーサーカー復帰までの間にハートキャッチ。

 なるほど、無理ゲーにも程がある。

 

「でもここで諦めるわけには……いかないんだよねぇ、残念ながら」

 

 このタイミングを逃すと、イリヤスフィールは城から出てこなくなる。

 直接の襲撃を受けているのだから、それは尚更だろう。

 そうなればこちらから攻めるしかないが、それは考えられる限り最悪のパターンだ。

 敵の本拠地たるアインツベルンの城で、万全のバーサーカーと戦うなど悪夢。

 つまり今をおいて他に、慎二が聖杯の核を手にするチャンスはない。

 

 再び右腕に魔力を集束。

 死棘(ゲイ・ボルク)の間合いにさえ入れば、後はなんとでもなる。

 スラスターを全開に。真紅の魔力が溢れ出す。

 

 じりじりと間合いを計る。あまり時間はない。

 バーサーカーが復活するまで、あと数十秒といったところか。

 どうやってこの膠着状態を打開しよう。

 慎二が策を巡らせていた、その時だった。

 膨大な魔力の奔流が、遠く離れたビルの屋上から放たれた。

 

「な、何の光ィ!?」

 

 慎二は思わず叫んでいた。

 その場に居た全員の視線が、一瞬だけ遥か彼方に釘付けになる。

 莫大なまでの光が収まった後、最初に声を上げたのは――凛だった。

 

「う、嘘……そんな……」

 

 二画の令呪がまるで溶けるようにして、凛の右手から消えていく。

 それが意味することは――凛が呆然と呟いた。

 

「アーチャーが……やられた……?」

「えっ」

 

 どういうことなの。なんでこのタイミングでアーチャーが脱落するの。

 そんなの聞いてませんよ、慎二君の段取りにはありませんでしたよ。

 丁度そのタイミングで波濤の耳(クリード・イヤー)に通信が入った。

 

『シンジ、大変です!』

「ライダーか、何があった!」

 

 いつになく焦った様子のライダー。

 相当にマズい事態が起こったに違いない。

 考えられるのは他のサーヴァントによる強襲か。

 となると誰だ。キャスターか、それとも英雄王か。

 しかしライダーの答えは予想の斜め上を行く。

 

『サクラがやらかしました!』

「はぁ!?」

『と、とにかくこちらに合流してください!』

 

 チラリとイリヤスフィールを見やる。

 タイミングは今しかない。今しかない――が。

 

「く、くそう! 覚えてろよ! 絶対に諦めないからな!」

 

 とにもかくにも、桜達が心配でならなかった。

 スラスターを全開に。

 空中に飛び立った慎二は、合流地点である間桐邸へと退却したのだった。

 

 

 

 

 

 

「で、何があったワケ?」

 

 間桐邸のリビングにて。

 ソファに腰掛ける慎二が、正座をした桜とライダーに尋ねる。

 桜がやらかした、なんて言うから慌てて駆け付けたのに。

 当の本人たちは気まずい顔をするばかりで、ケロッとしたご様子。

 

 ちなみにライダーは未だにバニー姿だった。

 なんだ、気に入ったのかソレ。

 なるほど、反省会にはそぐわないが、眼福だから着ておきなさい。家長命令です。

 

「そ、そのう……なんといいますか……」

 

 なんとも言い辛そうに口籠る桜。

 彼女の右手からは、令呪が一画失われていた。

 

「アーチャーの顔を見たら、こう……イラっと来てしまいまして」

「イラっと」

「生理的に無理というか、なんというか……そんな感じでして」

「生理的に無理」

「気付いたらライダーにその……命令していたというか、なんというか」

「……なるほどねぇ……」

 

 そういやこの桜ちゃん。

 昔の一件以来、士郎のことを毛嫌いしていた気がする。

 そんな奴が未来(エミヤ)の姿で現れたとなると、その反応もわからなくはない。

 

「ちなみにライダー。何かあるかい?」

 

 一応だ。一応こちらの弁明も聞いてやろう。

 十中の十くらいは有罪(ギルティ)な気がするけれども、機会はやろう。

 

「き、気付いた時には騎英の手綱(ベルレフォーン)を使っていました」

 

 魔眼で動きを止めてからの騎英の手綱(ベルレフォーン)コンボ。

 超スピードとかそんなチャチじゃない速度だった。抵抗する間もなかった。

 以上がライダーさんの証言である。

 

「そうか……そうか」

 

 つまりなんだ。この駄妹は、その場の勢いでアーチャーを殺った、と。

 令呪を一画消費し、挙句にさらに貴重な英雄王(ギルガメッシュ)対策を消した。そういうことか。

 

「どうすんだよコレェ!」

「ひぅっ」

 

 桜がちょっと可愛らしい悲鳴を上げたが、あえて無視した。

 本当にどうするんだ、どうすればいいんだコレは。

 UBWルートじゃなかったのか、これじゃフラグがバッキバキじゃないか。

 

 慎二が持つアドバンテージは、原作知識を使った先回り。

 それが潰されてしまったというのは致命的だ。

 

 しかも倒してしまったのがアーチャー(エミヤーン)、というのが更に悪い。

 慎二はアーチャーを英雄王対策に充てようと画策していた。

 その目論見が完全に潰された形になる。

 

 次善策として士郎を向かわせる案もあったが、それにしたってアーチャーは必須だ。

 他に英雄王を相手に出来るサーヴァントなんて――サーヴァントなんて――

 

「そうだ、とっておきのが居るじゃないか」

 

 英雄王相手に半日持ちこたえるだけの力を持った、強力な英霊。

 それが慎二の手元には居るではないか。

 ランサーだ、アイツを味方につけるのだ。

 

 いくら英雄王といえども、英霊二騎と波濤仮面の同時攻撃は捌き切れまい。

 幸いなことにランサーを鞍替えさせるための手札はある。

 元マスター(バゼット)辺りの情報をチラつかせれば食いつくに違いない。

 彼としても麻婆に従っている現状は業腹なはず。勝機は充分にある。

 

「蟲蔵じゃ、蟲蔵に向かうぞ!」

 

 慎二が立ち上がり叫ぶ。

 しかしその目的を察したらしい桜が、何故かそれを留めようとする。

 

「ま、待ってください兄さん! ダメです!」

「今は一刻の猶予すら惜しい、話は後だ!」

「いえ、そうではなくて……そうではなくて……とにかくダメなんです!」

 

 普段ならばまぁ聞いてやらないこともない。

 けれども今は一刻の猶予すら争う事態だ。桜の話を聞いている暇はない。

 

「いざ行かん、ランサーの下へ!」

 

 そうして慎二は桜の制止を振り切り、ランサーを捕えた蟲蔵へと向かった。

 

 

 

 へっ、俺みたいな負け犬に今更何の用だ、坊主。

 ランサーならきっと、そんな憎まれ口を叩きつつ出迎えてくれる。

 そう思っていた――思っていたのに。

 

 蟲蔵に到着した慎二を待っていたのは、壮絶なる光景であった。

 そこにあったのは、文字通り山となった犬の餌(ドッグフード)の袋。

 まさかそれを全て平らげたのか、ランサーの腹は極限にまで膨れていた。

 

「あ……ああ……まだ……残ってる……食わねぇと……食わねぇと……」

 

 誓約(ゲッシュ)を破らされて、痺れているであろう体を引き摺り。

 今もなお犬の餌(ドッグフード)を貪るその姿には悲壮感すら感じられる。

 慎二が呆然とその名を呼んだ。

 

「ら……ランサー?」

 

 その声に反応したランサーが、ゆっくりとこちらを見やった。

 生気がない。まるで生ける屍のような瞳だった。

 ランサーの喉から掠れたような声が絞り出される。

 

「……あぁ……坊主、か……」

 

 その一言で力尽きたのか。

 ランサーは石畳の上に突っ伏してしまった。

 慎二は慌てて駆け寄ると、その体を抱き起す。

 全身から犬の餌(ドッグフード)の香りがした。有体に言えば臭かった。

 

「ランサー、しっかりしろ! いったい誰がこんな……!」

 

 ランサーの誓約(ゲッシュ)をいいことに、限界まで犬の餌(ドッグフード)を食わせた奴が居る。

 誰だ。一体誰がこんな惨状を作り上げた。

 ランサーが震える指先で、しかし力を振り絞って一点を指し示す。

 その先に居たのは――案の定と言うべきかなんというか。桜だった。

 

「気を、つけろ……アイツは……あく、ま……」

 

 それが最期の力だったのか。

 ランサーから急速に生気が失われていく。

 同時にその身体が光となり、大気に溶け出した。

 

「……ランサー? 死ぬな、ランサー!」

 

 ここでアンタが死んじゃったら、英雄王との戦いはどうなっちゃうの?

 頑張ってランサー。魔力はまだ残ってる!

 

「……オマエとの戦い……悪く、なかった、ぜ……」

 

 しかしそんな慎二の願い虚しく、ランサーは消滅していく。

 後には何も――塵一つ残らなかった。これが英霊の最期だ。

 

「ランサーが……ランサーが死んだ!」

 

 ええぃ、誰だ。人でなしは誰だ。

 いや、わかっている。わかっているけど認めたくない一線というものがある。

 

「……だからダメって言ったのに……」

「桜……どうして……どうしてこんな……!」

 

 わからない。お兄ちゃん本気でわからない。

 どうして桜がこんなことをしたのか、全くわからない。

 困惑する慎二をよそに、くすくす、くすくすと桜は狂ったように笑う。

 

「だってアイツは……兄さんを傷つけたんですよ?」

 

 許せるはずがない。地獄すら生温い。そう言わんばかりの表情だった。

 全ての尊厳を踏みにじり、凌辱し尽し。それでもって殺さねば気が済まない。

 桜の瞳が、そう語っていた。

 

 桜ルートは回避したと思っていたのに、現実はさらに酷い有様になっていた。

 誰だ。一体誰が、あの可愛らしい桜をこんな娘にした。

 

 慎二はそう叫ぼうとして、小さく頭を振った。

 いや、わかってるんだ。桜がこんなことになったのは、自分のせいだって。

 ごめんな、時臣(トッキー)。娘さん、こんなことになっちゃった。

 ちゃんと最後まで面倒は見るから、草葉の陰から見守っていて欲しい。

 

「にしても……ホントどうしよう……」

 

 アーチャーもダメ。ランサーもダメ。

 この状態で聖杯戦争を乗り切るなんて、無謀にもほどがある。

 桜の笑い声が木霊する蟲蔵で、慎二は静かに頭を抱えた。

 

 聖杯戦争、初日。

 この一日だけで、二騎の英霊が脱落することとなった。

 慎二はこの戦争の行く末に、暗雲が立ち込めているように思えてならなかった。

 

 

 

 

 

 




こんな序盤でアーチャーとランサーが消えるSSも珍しいのでは。
桜ちゃんと士郎が水と油になってるから仕方ないね。

何度も言いますが、僕は槍ニキが大好きです。
最初は共闘してたらカッコいいかな、と思ってたのに、気付いたら桜ちゃんが殺してたんや。
だから僕はワルクナイ。

黒化しつつある桜ちゃんの明日はどっちだ!
そんな桜ちゃんに好かれたワカメの明日もどっちだ!

この後の顛末については次話あたりで書ければいいな、と思う所存。




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