型月産ワカメは転生者である(仮題)   作:ヒレ酒

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教えてくれリップ……俺はあと何回ガチャを回せばいい(カード6枚目

いやぁ、こんなSS書いてて回さないわけがないよね(是非もない


追記 2017/05/16
前にも一度、前書きやら感想への返信辺りで書いたような気がしますが。
評価のほうの一言コメにて凸って来られる方が度々いらっしゃるので、改めて。
ついでに最近になって拙作を読み始めてくれた、という方にも。

この作品の警告タグは念のためではありません。
いいですか、念のためじゃないんです。

このSSはアンチ・ヘイト要素の塊です、地雷が置いてあります。
前々からお知らせしている通り、登場人物の一部しか幸せになれません。
それでも宜しければ、完結までお付き合い頂ければ幸いです。



第十七話

 衛宮の胸に満開の(死棘)が咲く。

 鮮血が濃厚な鉄の香りと共に辺りへと飛び散った。

 

「――え?」

 

 そんな間の抜けた声を漏らしたのは衛宮か、それとも遠坂か。

 

「衛宮君!?」

「ぐっ――あっ――」

 

 衛宮が呻いている。どうやら致命傷は避けたようだ。

 いや、致命傷だが鞘のおかげで助かっただけかもしれない。

 どちらでもいい。とにかく衛宮は“まだ”生きている。

 慎二はそんなことを考えつつ、ゆっくりと振り返った。

 

 今の弾道、間違いない。

 間桐家特製の特殊弾頭、MATO弾だ。

 簡略版ゲイ・ボルクとも言えるそれは、間違っても人に撃っていいアレではない。

 人に向けて撃ってはいけません。

 オモチャの説明書にも、よく書いてある。

 

「ざぁんねん……どうやら仕留め損なったみたいですね」

「桜ァ、オマエどういうつもりだ!?」

 

 少女に似合わぬ無骨なリボルバー片手にマジキチスマイルを浮かべる桜。

 明らかに正気ではない。

 いや、桜が正気である時など絶無に等しいのだが、とにかく正気ではない。

 ゾワリ、と慎二の背中に悪寒が走る。

 口から咄嗟に出たのは、敵である二人への警告だった。

 

「逃げろ衛宮ァ、遠坂ァ!」

「逃がすと思いましたか?」

 

 慎二の必死の叫び虚しく、パチンと桜がその細い指を鳴らした。

 屋敷の魔術が発動し、開け放たれていた門が固く閉ざされる。

 外敵を阻む結界が檻へと変貌する。

 どうやら逃がすつもりはないらしい。

 

「ライダー、衛宮士郎(アレ)を轢き千切りなさい」

 

 桜が指揮をするように腕を振り下ろす。

 瞬間、弾丸の如くライダーが飛び出した。

 

「チィッ!」

 

 舌打ちと共にコンマ一秒で変身。肉体が蒼銀の鎧に包まれる。

 スラスターを展開、急加速。

 衛宮達の前に立ち塞がり、空中でライダーの突貫を受け止めた。

 

「やめろライダー! こんなことをして何になるっていうんだ!」

「ごめんなさい、ごめんなさいシンジ……でも……!」

 

 本気で申し訳なさそうに、ライダーが呟く。

 

「やっぱり令呪には勝てませんでした……!」

「おのれ桜ァ!」

 

 またなのか。また令呪を使ったのか。

 衛宮に対する殺意高過ぎィ!

 まさかの二画目である。慎二、信じられない。

 

「どうしてなんだ桜! どうしてそこまで衛宮を殺そうとするっ!?」

「顔を合わせる度に“間桐慎二から離れろ”だの“奴は悪党”だの……いい加減に鬱陶しかったので」

「衛宮オマエ馬鹿なの? 自殺願望者なの!?」

 

 あかん衛宮、それ地雷やねん。踏んだらあかんやつやねん。

 慎二自身、最初から桜が間桐に染まることを良しとしたわけではない。

 実際、そのために少しだけ間桐から遠ざけた時期だってある。

 だから衛宮の言わんとすることはなんとなくわかるつもりだ。

 

 間桐家は決して清廉潔白な組織ではない。

 冬木の支配者として、時には後ろ暗いこともやってきた。

 特定指定暴力団、藤村組との抗争などその最たるものだ。

 

 その関係で藤村(タイガー)さん家と色々やらかしたのが、衛宮的にはアウトだったのかもしれない。

 しれないが、それはともかくとしてだ。

 それを桜に面と向かって指摘してはいけない。

 いけないのだ。なぜなら“いけないこと”になるから。

 ちなみに慎二の場合、薬を盛られたうえでの三日三晩監禁コースだった。

 お薬(おくしゅり)キメられて気持ちよくされた挙句にダブルピースだ。トラウマである。

 経口摂取による薬物への耐性をつけようと決意した瞬間でもあった。

 

「ハァ! トゥ! ヘァ!」

 

 慎二の拳とライダーの鎖が衝突し、火花が散る。

 スピードは僅かに慎二のほうが上。

 けれど悲しいかな。出力が違い過ぎた。

 霊基を強化したライダーの力は伊達ではない。

 

「くっそう! ライダーの馬鹿力め!」

「なっ……人が気にしていることを!」

「ちょっ、やめっ……本気を出すのはヤメロォー!」

 

 やめてよね! 本気を出されたらライダーに敵うはずがないじゃないか!

 しかし時間は稼げたはずだ。

 この隙に遠坂辺りが門を破り、脱出の手筈を整えて――

 

「そんな! ライダーのマスターは間桐じゃなかったのか!?」

「どうやらそのようね衛宮君……あの様子だと真のマスターは……桜よ!」

「いやオマエらさぁ! 呑気に分析してないで逃げろよォ!」

 

 誰のために時間稼ぎをしていると思っているんだコイツらは。

 

「逃げてよ! お願いだから逃げてよ!」

 

 ここは“慎二に任せて逃げる”という選択肢を選ぶ所だ。

 間違っても“慎二を信じて見守る”なんて選択肢を選んではいけない。

 なぜなら――それは死亡ルートだから――!

 

「ライダー! 多少手荒にシても構いません!」

「くっ――シンジ、御免!」

「――うぐっ!」

 

 桜の指示によりライダーの拳が慎二の鳩尾にめり込む。

 呼吸が一拍止まると同時に、心臓部の魔力炉にノイズが走る。

 肉体への魔力出力が一時停止、慎二は重力に任せて落下した。

 

「間桐!?」

「――シンジの心配をしている暇などありませんよ、エミヤシロウ」

「なっ――ぐぁっ!」

 

 ライダーの鎖が衛宮の四肢を絡めとり、さらに剛腕によって宙高く打ち上げられる。

 

「せめて痛みを知らずに安らかに死になさい――」

 

 ライダーの周囲に血の色をした紅い魔法陣が浮かび――そして宣告される。

 

騎英の手綱(ベルレフォーン)――!」

 

 莫大な魔力の奔流となったライダーが自由落下を始めた衛宮へと向かっていく。

 その様を慎二は地面を這ったまま見ているしか出来なかった。

 

 閃光――そして爆熱。

 

 一瞬の後、ドシャリと肉の塊が地面に落ちる音がした。

 ソレは虚ろな視線を宙に向けたままピクリとも動かない。

 当然ながら呼吸も止まっている。誰がどう見ても即死だった。

 

「嘘だろ……?」

 

 だって衛宮(主人公)なんだぜ?

 宝具一発で死ぬような柔な生物じゃあないはずだ。

 

「おい、冗談だろ? 起きろよ……起きろよ衛宮ァ!」

 

 お願い、死なないで衛宮。

 あんたがここで死んだら切嗣(ケリィ)との約束はどうなっちゃうの?

 聖剣の鞘はまだ残ってる。

 肉体を再生させれば生き返れるんだから。

 

 なに?

 身体が半分吹き飛んでも平気なのはお前くらいだ?

 普通の人間は死ぬ?

 むしろ即死?

 そうだね、そうだったね。忘れてたよ。

 

 なんでや、なんで型月の主人公すぐ死んでしまうん。

 死亡フラグが多すぎる、この世界は生き辛い。

 慎二は諦め肩を落とすと、深く溜息を吐いた。

 そして今回の――もとい今回“も”下手人である彼女へと視線を向けた。

 

「やりましたよ兄さん! 第五次、完です!」

 

 畜生の如く笑う桜。

 その更に後ろには、申し訳なさそうに合掌するライダーの姿が。

 とりあえず、アレだ。この場でやることは一つ。

 

「ライダー……確保しろ」

「いえっさー!」

「ちょっ……ライダー!? 裏切るんですか!?」

「ごめんなさいサクラ! シンジの命令には逆らえないんですッ!」

 

 ライダーが桜へと問答無用で飛びかかった。

 令呪での縛りさえなければ、間桐家内での順位は慎二のほうが上なのである。

 ほどなくして鎖で雁字搦めにされた桜が出来上がったとさ。

 

 

 

 

 

 

 で、所変わって間桐家のリビング。

 荒縄で縛り上げられた遠坂が絨毯の上に転がされていた。

 当然の如く亀甲縛りであるが、縛ったのはライダーだから文句はそっちに言って欲しい。

 同じく縄で縛り直された桜がくすくすと笑いながら遠坂を煽る。

 

「ざまぁないですねぇ、遠坂先輩!」

「くっ……!」

「敵の本拠地までノコノコとやって来た挙句に仲間は殺され、自分は捕まって晒し者にされてどんな気持ちですか? ねぇ、どんな気持ちですか?」

 

 いっそ殺せ、と言わんばかりに桜を睨む遠坂。

 なるほどコレがかの有名な“くっころ”なのか。

 すっげぇワクワクする表情だ。さぞ薄い本が厚くなることだろう。

 

「ところで兄さん」

「なんだい、桜」

「どうして私まで縛られてるんですか?」

 

 本気でわからないといった様子で首を傾げる桜。

 その辺りの思考が外道なんだよ。

 慎二が同意を求めるかの如くライダーへ視線を向けると、彼女は無言で頷いた。

 どうやら保護者サイド(こっち側)の見解は一致しているようだ。

 

「だってオマエ、放って置くと何するかわからないだろ?」

 

 ランサー、アーチャーに続き今回の衛宮。

 前科三犯である。情状酌量の余地はない。

 

「不当な拘束です! 弁護士を要求します!」

「拘束は妥当だし、要求は却下する」

「ライダー! 私の弁護を!」

「ごめんなさいサクラ、三回目ともなると流石に……」

「そんな……! 私に味方は居ないんですか!?」

「居るわけないだろ、ちょっとは考えろよ」

 

 信じられないと言わんばかりの桜であったが、どう考えても自業自得である。

 これに懲りたら、そろそろ自重することも覚えて欲しい。

 十中八九無理だろうと諦めているが、努力する姿勢くらい見せてくれてもいいだろう。

 コホン、と咳払いをした慎二が桜に尋ねた。

 

「それで、どうして衛宮を殺ったんだい?」

 

 返答次第ではお仕置きコース一直線である。

 今度は容赦しない。ライダーも交えてじっくりねっとりとヤる所存だ。

 いっそ遠坂を入れてみても良いかもしれない。

 姉妹丼――夢は広がるばかりだ。

 

「逆に聞きますけど、アレを生かしておくメリットがありましたか?」

「そりゃあ仮にも衛宮(主人公)なんだし多少は――」

 

 あれ、おかしいなと慎二は首を傾げた。

 しゃぶるなら骨までしゃぶれ。

 魔神柱(バルバトス)事件の折に生まれた間桐家家訓である。

 うま味があるなら、ぺんぺん草すら残さず刈りつくすのが基本戦術だ。

 しかしあの衛宮(主人公)にしゃぶるだけの(価値)がまだあっただろうか。

 

「ないな、うん」

 

 アーチャーが脱落し、セイバーを奪われた現状における衛宮の価値は恐ろしく低い。

 セイバーと共闘し、英雄王を倒すことは最早叶わず。

 かと言って無限の剣製による単身での英雄王打倒もフラグが折れて不可能だ。

 肉壁程度の価値すらない。むしろ足手纏いと言っていい。

 

 家族(1)を生かすためなら大多数(100)すらも躊躇なく切り捨てる。

 それが慎二の戦い方だ。

 衛宮とはどこまで行ったとしても相容れることはなかっただろう。

 生かしたところで確実に戦いの邪魔になっていたに違いなかった。

 

「ご理解いただけましたか兄さん?」

「ああ、よくわかったよ」

「でしたらこの縄を――」

「それとこれとは話が別なので却下する」

 

 罰として縛っているのではない。

 何を仕出かすかわからないから拘束しているのだ。

 

「さて、次の議題だ」

「ちょっと待ってください! このままなんですか私!?」

「――次の議題だ」

 

 わんわんと喚く桜は置いておいて。

 慎二は縛られたまま大人しくしている遠坂へと視線を向けた。

 

「なによ?」

 

 やんのかやんのか、とこちらを威嚇している遠坂を見下ろす。

 これといった利用価値があるわけでもないが、かといって処分するわけにもいかない。

 非常に面倒なモノを捕まえてしまったな、と慎二は嘆息する。

 

「いっそ調教して兄さんの肉奴隷にでもすればいいんじゃないですか?」

「ここで調教とか肉奴隷とかいう発想がさらっと出て来る辺りがなぁ……」

 

 どうしてこんな外道染みた思考回路を持つようになってしまったのだろうか。

 遠坂もマジかよコイツ信じらんねぇ、と言わんばかりの視線を桜に向けている。

 

「……ねぇ、間桐君」

「なんだい遠坂」

「あの純真無垢だった桜はどこへ行ってしまったの?」

「僕も聞きたい。あの綺麗だった桜はどこへ行ってしまったんだろう」

 

 小鳥の雛のように、チョコチョコと後ろをついて歩いていた頃の桜が懐かしい。

 今の桜を見ろ。

 

「ちょっとなんですか? この超絶カワイイ桜ちゃんに向かってその言い草は」

 

 あの幼き日の桜はもう居ない。ここに居るのは十八禁の化身である。

 何度も言うが、文句は時臣(トッキー)に言って欲しい。

 諸悪の根源は桜を間桐家なんぞに預けてしまった時臣である。

 

「それにしても……奴隷か」

「な、なによ。絶対に屈したりなんかしないんだからね!?」

「はいはい、くっころくっころ」

 

 こやつエロゲのヒロインみたいなこと言いおってからに。

 いや実際にエロゲのヒロインなんだけども、それはさておき。

 

 遠坂家を手に入れる、というのは存外に容易いことだ。

 奴隷云々はともかくとして、こちらには遠坂家の次女である桜が居る。

 長子である凛を排除してしまえば、当主の座は自動的に転がり込んでくるのだ。

 けれども慎二にその気は全くなかった。

 なぜなら現在の遠坂家に、全く価値を見出すことができないからだ。

 

 そもそも、遠坂家を乗っ取ったところで得られるものはそう多くない。

 有用そうなのは魔術刻印と、セカンドオーナーという肩書きくらいだ。

 むしろ取り込むことで負債を抱え込むデメリットのほうが大きい。

 

 原作とは違い、遠坂の資産の殆どは慎二によって毟り尽されている。

 そのくせ宝石魔術を捨てきれず、多額の借金までこさえているのが現状だ。

 正直、下部組織扱いにして生かさず殺さず飼っているほうが都合がいい。

 

「そんなわけで、遠坂家なんて不良債権は要らないんだよ」

「ふ、不良債権……? 要らない……?」

 

 なんか遠坂がショックを受けているが、一先ず置いておいて。

 慎二は間桐家最後の良心ことライダーに尋ねた。

 

「で、コイツどうすればいいと思う?」

「ここで私に振りますか」

 

 ライダーが勘弁してくれとばかりに肩をすくめる。

 仕方がないじゃない。だって桜に振ったら碌なことにならないんだもの。

 

「肉奴隷云々はともかくとして」

 

 ライダーはその魔眼で遠坂を舐めまわすように見つめ。

 

「とりあえず首輪をつけることを提言します」

「ふむ、その心は?」

「拘束しておくのも手間ですが、勝手に動き回られるのはもっと手間ですから」

「なるほど、いっそのこと子飼いにでもしておけ、ということだね」

 

 ふぅむ、と慎二もライダーリスペクトな視線で舐めまわすように遠坂を見つめ。

 

「ところでアナタ達……どうしてそう、視線がいやらしいのかしら」

「僕は単純に女好き。ライダーは両刀……オーケー?」

「桜も実にグッドでしたが、姉というだけあってこちらも……じゅるり」

「オーケーじゃないわ! き、危機よ! 私の貞操の危機よ!」

「ふむ……貞操、ねぇ?」

「な、なによ」

 

 遠坂を見る。

 亀甲縛りによって多少強調されているものの――なんというかアレだ、慎ましい。

 桜とライダーを見る。

 大満足なボリューム。飽きのこない手触り――圧倒的ではないか我が軍は。

 

「――ふっ」

「ちょっと待ちなさい間桐君、今どこを見て笑ったの!?」

「どこってそりゃあ……わかるだろ?」

「あらあら、どうやら私の勝ちみたいですねぇ遠坂先輩。具体的にどこが、とは言いませんけど」

 

 ぷーくすくす、と桜が遠坂を煽る。とにかく煽る。

 涙目になってきた遠坂が流石にかわいそうなので、彼女の良い所を探してみる。

 強いて言えば。強いて言うならば。

 

「ふーむ……脚のラインは遠坂に軍配が上がるか……?」

 

 慎二は遠坂の肢体をつぶさに観察する。

 なるほどボリュームはないが、スラリと引き締まった体は中々にそそるものがある。

 特に脚だ。脚のラインがエロい。

 ニーソックスの食い込み部分など、まさに神が作り上げたかのような造形美だ。

 

「どれどれ」

 

 試しにとばかりに、そっと太ももを撫でてみる。

 ニーソックスの滑らかな肌触りがたまらない。

 

「ちょっと、なにを――」

 

 遠坂が抗議の声を上げるが、無視してそのまま絶対領域へ。

 雪のように白い肌を、絶妙な力加減で撫で上げる。

 

「くっ……なに? なんなのこれは……!」

 

 遠坂の瞳が徐々に蕩け、頬が上気していく。

 ほら、これがええんじゃろ、ええんじゃろ。

 絶妙に物足りないであろうラインで指を這わせる。

 

「わ、私がこの程度で……んぅ!」

 

 我慢ができなくなってきたのか、遠坂がモジモジと身をよじった。

 もっと欲しければおねだりしてみろ、にゃーんと鳴いてみろ。

 

「屈しない……私は屈したりしないんだからぁ……」

 

 即落ち二コマ並の速度でメスの顔を晒す遠坂。

 桜がうわぁ、とドン引きしている。

 

「チョロそうだなとは思ってましたけど、まさかこれほどとは……」

 

 何か変な魔術でも使っているのかと桜に聞かれたが、勿論答えはNOだ。

 これは純然たる慎二の実力、名付けるなら間桐ゴッドハンド。

 まぁエロゲの世界だからね、多少はね。

 

「くくくっ! このまま快楽漬けにして原作知識による調教を施してやろう!」

「――負けない! 負けないわ!」

 

 慎二VS遠坂。

 熱い戦いが幕を開けたのだった。

 で、そんなことがあって数分後。

 

「聖杯君が泥だらけでラスボスは麻婆――ついでに正義の味方は邪魔だったんだよ!」

「な、なんですって! そういうことだったのね……!」

 

 即落ち二コマで理解した遠坂。

 もはや何も言うまいと残り二名が呆れたように見ているがそれはさておき。

 

「いや僕が自分で言っておいてアレだけどさぁ」

 

 これで納得していいのか遠坂よ。

 特にアレだ。言峰は胡散臭いし良しとしても、衛宮のくだりだ。

 仮にも共闘した相手をこうも簡単に諦められるのだろうか。

 死んでるんだから諦める他にないのだけれども。

 

「……これからの戦いで衛宮君が足手纏い――邪魔になるのは理解できたわ」

 

 衛宮の破滅的とも言える正義の味方願望については、散々に貶しながら説明しておいた。

 慎二ゴッドハンドの力も使いながらねっとりとだ。理解して貰わなければ困る。

 それに、と少し不満そうに遠坂が続けた。

 

「冬木市の危機なんて言われちゃ仕方ないじゃない」

 

 協力するしか選択肢がない、とそっぽを向いた遠坂。

 選択肢を奪っておいてアレだが――うん、アレだ。

 善人だな、と慎二は心からそう思った。

 眩しい。眩しすぎる。もう尊いと言ってもよいのではなかろうか。

 どっかの穢れに穢れたゲドインとはわけが違う。

 

「ちょっと兄さん、私に何か文句でも?」

「いや、なんでもない……なんでもないんだ桜」

 

 不覚にも目からしょっぺぇ水が零れた。

 ごめんな時臣(トッキー)

 姉妹でも環境だけでこうも変わってしまうものらしい。本当にごめんな。

 

「むしろ私が気になるのは桜のほうよ」

「……私がなにか?」

「アンタ、衛宮君のこと慕ってたんじゃなかったの?」

「遠坂先輩がなにを言っているのかよくわからないんですが……失礼ですが何か危ない薬でもキメていらっしゃるんですか? 元姉妹のよしみで忠告しますが、薬はほどほどにしたほうが良いですよ」

 

 ほらコイツこの調子なんだぜ、信じられるか?

 そんな視線が遠坂から向けられる。

 なお薬をキメられているのは主に慎二だ。

 

「そういうことらしいし、衛宮君についてはもういいのよ」

「すまない、本当にすまない」

 

 慎二が時臣(トッキー)の墓に向かって五体投地する日も近いだろう。

 遠坂がこんな勘違いをするのも仕方がないのだ。

 慎二は原作通りに事を運ばせるため、桜を衛宮の所に送り込んでいた。

 衛宮邸にまで行かせはしなかったが、部活では良き先輩後輩だったに違いない。

 具体的には掃除を押し付けられても衛宮が文句を言わない程度には。

 少なくとも表面上はそうだった。表面上は、だ。

 内心がどうだったかは知らない。というか怖くて聞けない。

 

「それはそうとして間桐君」

「なんだい遠坂?」

「キャスターの所へ行くわよ。すぐにでも交渉を始めなきゃいけないもの」

 

 やだ、頼もしい。

 やはり持つべきは頼りになる味方である。

 どこかの誰かとは違う。具体的に誰とは言わないが。

 慎二は力強く頷き、遠坂を縛っていた縄を手刀で叩き切る。

 

「よし、行こうか」

「ええ、行きましょう」

 

 そういうことになった。

 

「え、兄さん? 私は放置ですか?」

 

 そういうことになったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 で、数十分後。

 慎二と遠坂の姿は、冬木市郊外の教会にあった。

 なお暴走する危険のある桜については、保護者(ライダー)の監視付きで留守番だ。

 交渉の場に火種を持ち込むほど慎二も馬鹿ではない。

 それに遠坂だけならば、いざという時でも慎二が抱えて逃げられる。

 戦闘もできる遠坂と、移動型魔力タンクである桜の差は大きい。

 

「なによ、これ……」

 

 バイクのタンデムシートに乗った遠坂が絶句している。

 無理もない、慎二も自分一人でここに来ていたなら無様にも膝を折っていただろう。

 

「どうやら一足遅かったみたいだね」

 

 ヘルメットを脱いだ慎二はそう吐き捨てながらバイクを降りた。

 教会は無残にも破壊しつくされていた。

 最早、瓦礫の山と呼称しても違いないほどの有様だ。

 明らかに人の業ではない。

 もっと上位の存在――英霊の所業に違いなかった。

 慎二が強化された嗅覚で魔力の残滓を嗅ぎ取る。

 

「これは……うん、間違いない。奴の仕業だ」

「知っているの間桐君?」

「ああ、こんなことが出来る奴は一人だけだ」

 

 慎二は遠坂へと大仰に頷いてみせた。

 その時だった。

 濃厚な魔力の残滓立ち込める真夜中の教会に、高らかな笑い声が。

 

「フハハハ! 久しいな慎二よ!」

 

 予想通りと言うべきか。

 無駄に高いテンションで現れたのは黄金としか形容のできない男。

 遠坂がまるでゲテモノかの如く指さした。

 

「なによアレ……知り合い?」

「……アイツこそ冬木の最速王(スピードキング)

 

 黒いライダージャケットを着込み、こちらを見下ろす男。

 毎夜の如く冬木の峠道を競う好敵手にして、間桐家最大の取引先。

 

「その名も、そう――」

 

 英雄王、ギルガメッシュ。

 最後にして最強の敵が、瓦礫の山から慎二達を見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 




ちょっと手直ししてたら遅くなったんやで(すまんな
傷口に手を突っ込んで、直接鞘を抉り出す桜ちゃんはサイコ過ぎたので(NGシーン

久しぶりに大爆死したので、近日中に次話投稿予定。
ペース次第では完結まで行くかもしれぬ(書き上げるとは言ってない


あまりにも凛ちゃんチョロ過ぎない? と書いてて思ったのでちょっとだけ補足しておくと。
このSSだとアーチャー召喚から今回の一件まで数日しか経ってない設定になっています。
凛ちゃんは衛宮邸に入り浸ってすらない状態なので、士郎君への好感度は低いです。
そもそもの好感度が低いので、冬木市の危機>衛宮君状態になってます。

あとこのSSの凛ちゃんは最初からチョロい設定です(やっぱりチョロい




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