型月産ワカメは転生者である(仮題)   作:ヒレ酒

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まだ(投稿が)続くんじゃよ。
爆死したからね、仕方ないね。


前話に引き続き注意文を乗せておくので、ご一読ください。

前にも一度、前書きやら感想への返信辺りで書いたような気がしますが。
評価のほうの一言コメにて凸って来られる方が度々いらっしゃるので、改めて。
ついでに最近になって拙作を読み始めてくれた、という方にも。

この作品の警告タグは念のためではありません。
いいですか、念のためじゃないんです。

これはアンチ・ヘイト作品です、地雷が置いてあります。
前々からお知らせしている通り、登場人物の一部しか幸せになれません。
それでも宜しければ、完結までお付き合い頂ければ幸いです。


第十八話

「ちょっと待って間桐――いやこの際だから呼び捨てにするわよ、慎二」

「なんだい遠坂――もとい凛ちゃん」

「りんちゃ――まぁいいわ。あれって英雄王なのよね? 最後の敵なのよね?」

「そうだね」

「……知り合いなの?」

「そうだよ?」

 

 何を当たり前のことを言っている。

 冬木で企業拡大を続けるためにぶつからざるを得ない相手、それが英雄王だ。

 慎二も日頃から色々とお世話になっている。

 

「毎度ご愛顧頂きましてありがとうございます、ギルガメッシュ様!」

「フハハ! 苦しゅうない、苦しゅうないぞ慎二!」

「えぇ……?」

 

 遠坂もとい遠坂が、マジかよコイツとばかりに慎二を見やる。

 

「……最速王(スピードキング)っていうのは?」

「取引先で会った時にちょっとね」

 

 それは幾度目かになる営業中の事。

 話題提供の意味でバイクの話をしたのだが、思っていたよりも食いつきがよく。

 いつの間にか毎夜の如く峠をバイクでチェイスしてゴーする関係に。

 有象無象から道化へと小さなランクアップをした瞬間である。全然嬉しくない。

 

「ごめんなさい、ちょっと理解が追い付かないの。営業先に英霊? 峠でレース?」

「有体に言っても世紀末だけど……ところがどっこい、これが現実さ」

 

 慎二とて人生に疑問を感じたりもしたが、型月世界なんてそんなもんである。

 むしろ死徒が混入していてパンデミックしなかっただけマシだろう。

 英雄王は危険物だが、危険度的に言えば比較的マシな部類だ。

 この世界にはもっとヤバイのが沢山いるのだ。ほんとに沢山いるのだ。

 

「遠坂……深山町にこの間できたスーパー、知ってるかい?」

「あの卵が安い、金色の?」

「そう、アレだ。アレも英雄王――ウルク資本だ」

「嘘でしょう……!?」

 

 ところがどっこい、悲しいかな本当なんだなコレが。

 英雄王は冬木の財政基盤と深く結びついている。

 揺り籠から棺桶まで。

 最早、彼無しでは冬木の財界は回らないと言って良い。

 そんなこんなで、財界と関わりの深い間桐と英雄王の付き合いも長いのだ。

 

「それで英雄王、アンタに聞きたいことがあるんだけど」

「ふむ、申してみよ」

「……ここに居たはずのキャスター知らない?」

「フゥン……あの女狐か」

 

 英雄王は退屈そうに、瓦礫の山へと目を向けた。

 もういい、もうわかった。その先は言わないでくれ。

 

「我が宝物の錆にしてやったわ、フハハハハ!」

「そうだと思ったよチクショウ!」

 

 ちょっと山で猪狩ってきたんだぜ、みたいな軽い調子で英雄王が笑う。

 キャスターが英雄王に勝てるわけないだろ、いい加減にしろ。

 

「ところで慎二よ、不敬にも我を仰ぎ見るその雑種はなんだ?」

「ざ、雑種? 私のこと!?」

「おい目を合わせるな! 頭を垂れるんだよ遠坂!」

 

 殺されても知らんぞ、何をやっている。

 遠坂の頭を上からプッシュ、プッシュ、プッシュ。

 縮め、地に頭を擦りつける必要がないくらいに縮め。

 オマエが勝手に自爆しようが知ったことではない。

 けれどこちらまで巻き込むのは止めて貰おう。

 しかし英雄王は掌をこちらに向けると、よい、と一言。

 

「今は少しばかり気分が良い、多少の無礼は許そうではないか」

 

 この時点で嫌な予感しかしない。

 英雄王の気分がいいなんて、天変地異の前触れみたいなものだ。

 小声で遠坂へと指示を出す。

 

「いいか遠坂。寄るな、触るな、近づくな、だ」

 

 もっというなら相手の視界にすら入るな。

 奴は歩く危険物。

 下手に扱うと火傷どころじゃ済まない。最悪、街が吹き飛ぶ。

 殺るなら一瞬で、それも確実にが鉄則だ。

 いっそのことアサシンの親分でも出てきてくれないだろうか。

 

 すてい、すてい、となんとか遠坂を宥めていると。

 英雄王が瓦礫の山から天の鎖で雁字搦めにされたナニカを引き摺りだす。

 ソレを見た遠坂が叫んだ。

 

「セイバー!」

 

 明らかに死に体で意識もないが間違いない、騎士王サマだ。

 キャスターの趣味なのか、可憐なドレスを着ている。

 実に良い趣味だ。

 存命ならさぞ美味い酒が一緒に飲めたろうに、残念だよキャスター。

 

「興が乗らぬ戦いゆえ“あちらの我”に任せようかとも思っていたが」

 

 英雄王がクツクツと地獄の窯のような声で笑う。

 この世の愉悦を煮詰めたような笑顔だ。流石は愉悦部主将。

 

「まさか“コレ”と再び相見えようとはなァ!」

「セイバーッ! くっ、放して慎二! セイバーが!」

「ええぃ遠坂! すていだ、すてい!」

 

 飛び出そうとする遠坂を羽交い絞めにする。

 セイバーを生贄にすれば冬木が助かるというなら、喜んで捧げよう。

 というかアレだ。

 英雄王の財宝ならセイバーの願いだってきっと叶えられる。

 選定のやり直しだったか。その程度のことならお茶の子さいさいだろう。

 だから英雄王のモノになるっていうのは幸せなことなんだよ。

 

「以上、慎二君の主張でした! オラ反論できるならしてみろ!」

「その畜生の如き思考、一周回って見事なものよな慎二」

 

 ふん、と興味を失ったかのように英雄王が鼻を鳴らす。

 要するに英雄王は慎二のことを人間として見ていないのだ。

 目障りにならないのであれば飼ってやってもいい。

 そういう認識の下に、慎二は今日まで生きている。

 まさに雑種。ミックスドックの精神。全身全霊で腹を見せて媚びを売る所存だ。

 

「……なんなの? 私がおかしいの?」

「いいかい、遠坂」

 

 こっちはセイバーを生贄にしてでも冬木を救いたい。

 そして遠坂も冬木を救いたい。

 ほら、そこに何の違いもありはしないだろう?

 優しく言葉に魔力をミックスしつつ語れば、不承不承に遠坂が頷いた。

 

「そう、なのかしら……?」

「そうなんだよ」

 

 だから悪いことは言わない。黙って大人しくしていろ。

 セイバーのことは忘れるんだ。

 というか現状だと対抗手段が存在しないから放っておくしかない。

 そういうわけだ、帰ろう。

 そっと遠坂の背を押す慎二を、英雄王が呼び止めた。

 

「ときに慎二よ」

「……なにかな英雄王」

「我はこのセイバーを妻とする心積もりであるのだがな」

「……それは目出たいね、祝福するよ」

「うむ、であろう」

 

 うむうむ、と満足そうに頷く英雄王。

 帰りたい。はやく、おうちにかえりたいよ。

 しんじ、おうちかえる。

 ライダーの太ももに顔を埋めてオギャりたい。

 

「で、だ。この我の式となれば、それはもう盛大に執り行うしかあるまい?」

「そりゃあ英雄王の結婚式となれば当然だろうね。派手じゃなきゃね」

 

 そこで、と英雄王が大仰に両腕を広げてみせた。

 

「ひとつ、この我が手ずから余興を用意しよう」

「やめろ、聞きたくない」

「冬木を灰燼に帰してやろうではないか。聖杯の降誕をもってな!」

「聞きたくないって言っただろォ!?」

 

 くっそ迷惑な余興である。むしろそっちが本編だろう。

 火の海になった冬木をバックに挙式か。

 発想が狂ってやがる。桜だってそんなことしないぞ。

 

「綺礼もそれは素晴らしいと諸手を挙げて喝采していたとも!」

「だろうねぇ! アイツなら歓喜するだろうね!」

 

 これには言峰君もニッコリ。

 きっと満面の愉悦スマイルを見せてくれたことだろう。

 くそう、こんな時に主人公は何をやってるんだ。

 

 はやくきてー、衛宮はやくきてー。

 なに? オマエんとこの義妹が殺した?

 そうだ、もう勝負はついてる。

 メイン盾、もといメイン鞘はもう来ない。知ってるんだそんなこと。

 

 英雄王の背後が黄金に揺らめき、そこから薄い何かが発射された。

 半ば反射的に、慎二はそれを掴み取る。

 一目でわかるほど上等な紙に深紅の封蝋がされたそれは――

 

「フハハ! 招待状だ!」

 

 要らない。本気で要らない。むしろ破り捨てたい。

 遠坂が気の毒そうにこっちを見ている。

 やめろ、本気で憐れむのはやめろ。

 

 じっと手元の招待状を見つめる。

 ところでふとした疑問なのだが、他に誰が来るんだろうか。

 神父役で言峰は固いだろうが、コイツ他に知り合い居たっけか。

 実は英雄王って高次元なボッチなのでは――

 

「おい」

 

 英雄王が低い声を発すると同時に、慎二の真横を黄金の煌きが通り過ぎていく。

 次の瞬間、爆発が起きた。

 熱風が慎二の背中を焼く。明らかにヤバい宝具が射出されていた。

 

「今なにか……そう、不敬なことを考えなかったか」

「めっそうもないヨ、ホントだヨ?」

 

 慎二、嘘つかない。

 じっとりと背筋に嫌な汗が流れていく。

 今のは死んでいた。当たったら――掠っても木端微塵だ。

 

「も、もっと穏便な余興に切り替えるってのは――その、ないんですかね?」

「聖杯以上の余興をキサマが提供できるというなら話は別だが?」

「――」

 

 なんか言えよ、とばかりに遠坂の視線が刺さる。

 むしろオマエがなんか言えよと視線を返してみる。

 

「……」

「……」

「慎二、アンタ何か面白いことしなさい」

「聖杯以上に面白いってどういう概念だよ、もうわけわかんないよ」

 

 無理だ。万能たる願望機を笑いで超えるなど不可能だ。

 英雄王の問いに対して、我々はあまりにも無力だった。

 

「ふん、そういうことだ」

 

 英雄王は宝物庫から黄金のスポーツバイクを射出。

 タンデムシートにセイバーを括りつけ、自身もそれに跨った。

 

「――さらばだ慎二よ。待っているぞ!」

 

 フハハ、と高笑いと共に甲高いエンジン音が遠ざかっていく。

 完全にそれが聞こえなくなってから、ガクリと慎二は膝をついた。

 

「……どうすんのよ」

 

 静寂が訪れた教会跡、遠坂の呟きがやけに染みる。

 

「どうすんのよコレ! あんなの相手にしなきゃいけないの!?」

「そうだよ! だから僕は嫌だったんだよォ!」

 

 だから回りくどい手まで使って、衛宮を奴とぶつけようとした。

 奴の危険性を知っていたからこそ、わざわざ桜に芝居まで打たせた。

 一目でわかる。英霊として、生物としての格が違う。

 

 考えろよ、あんなのと何年も付き合ってきた慎二の気持ちを考えろよ。

 薄氷の上を渡るかの如く、あいつに死んで貰うための努力をしてきたんだ。

 はっきり言おう、胃がいくつあっても足りない。

 いや生物的な意味での胃なんてとっくにないけど、それはさておき。

 

「どうするの? キャスターが倒れた以上、アイツに対抗できるのは慎二――アンタだけよ」

「わかってる……わかってるんだそんなことは」

 

 わかってはいるが、方法が思いつかないだけなんだ。

 手詰まりと言っても良い。

 

「とりあえず帰ろう遠坂。二人で悩んでたって仕方がない」

「……そうね、二人で知恵を絞るより、四人のほうがマシだものね」

 

 どこか諦めたかのように遠坂が言い捨てる。

 アイツらを数に数えたところで、事態が好転すると思えない。

 

 圧倒的に暗い空気のまま、二人は間桐邸へと戻るのだった。

 気付けば空は白み始めていた。

 

 

 

 

 

 

 慎二は自室に引き籠っていた。

 そして一心不乱にノートのページをめくっている。

 原作ノート。

 慎二がそう名付けた記録だった。

 

 英雄王ギルガメッシュ。

 古代ウルクの王にして、最古の王。

 

 とにかく厄介なのが宝具の射出だ。

 アレだけでサーヴァント界のトップを張れる性能をしている。

 それに加えて乖離剣だ。

 なんなんだ、ぼくのかんがえたさいきょうのさーう゛ぁんとなのかアイツは。

 

 痛んできたこめかみを押さえ、背もたれへと体重を預ける。

 改造人間にされ、臓硯を殺し――そして勢い余って衛宮まで殺ってしまった。

 思えば遠い所まで来たものだ、と慎二は薄い笑みを浮かべる。

 そもそもの始まりは――そう、臓硯を殺すなんていう欲をかいたせいだ。

 あの時点で全てを捨てて逃げていれば、きっとこんなことにはならなかった。

 

 でも、と自分に問う。できたのだろうか。

 あの時、桜を見捨てて逃げるような真似ができたのだろうか。

 

 否だ。

 慎二は自他共に認める畜生だけれど。

 けれど家族に対してだけは真摯であり続けた。

 それだけだ。それだけは本物だ。

 

「となるとアレだな、元凶は臓硯ってことだな!」

 

 アイツさえマトモならこんなことにはならなんだ。

 慎二は責任転嫁が得意な畜生であった。

 そう、臓硯。臓硯のせい――

 

「いや待てよ、臓硯?」

 

 なにか引っかかるような――そう、見落としがあるような。

 思い出せ。

 必死になってノートのページをめくる。

 桜が“ああなって”しまったせいで考えもしなかった。

 けれどこの場を打開できる可能性のある一手がそこに――

 

「ある――あるぞ」

 

 英雄王を殺す方法が一つだけ、ある。

 しかしそのためには、慎二も相応のリスクを覚悟しなければならない。

 間桐慎二、一世一代の大博打である。

 

「できるのか……? チキンで海産物の僕に……できるのか?」

 

 はっきり言って、勝算は限りなく低い。

 砂漠に紛れた一粒の金を探すような行為、と言ってもいい。

 けれど、あるのだ。

 英雄王を――ギルガメッシュを殺す方法が、ある。

 

 懐から招待状を取り出し、そっと封を切る。

 日取りは今夜、式場は柳洞寺。

 そこで英雄王は聖杯を降誕させるつもりだ。

 

「くッ……くはッ!」

 

 なんて素晴らしいんだろう。

 天は慎二に味方しているに違いない。

 いい、実にいい。

 なにがいいって、その日取りと場所がいい。

 

「いいだろう、殺ってやるよ」

 

 殺して、殺して、殺してここまで来た。

 だったら最古の王くらい、サックリと殺してやろうじゃないか。

 

「あれだけは使うまいと思っていたけど……仕方がない」

 

 命には代えられぬ。

 いのちをだいじに。慎二が聖杯戦争当初から掲げていた作戦だ。

 慎二はベッドの下に手を入れ、小さな宝石箱を取り出す。

 

 そっとその蓋を開く。

 祝福するかのように、朝日がそこに差し込んだ。

 

 

 

 




次話で決着に行けるといいな、と思う所存。
ただ戦闘シーン挟むとボリュームが増えるので、二分割するかもしれぬ。



前書きみたいなことは正直したくなかった。
でも警告タグすり抜けて地雷踏んじゃう方も結構いるので、防止柵ということで一つご容赦を。
一回や二回ならまだしも、これで三回目なので。

これからも冒頭のような文を載せるかどうかは検討中です。

ところで警告タグに含まれる内容を評価基準に含めるのはガイドライン違反だった気がするんじゃが、どうなんだろう。





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