型月産ワカメは転生者である(仮題)   作:ヒレ酒

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案の定というべきか文字数が嵩んだので分割。


引き続き簡単に注意文。
このSSにはアンチ・ヘイト要素が含まれます。
念のためでもなんでもなく、本当にアンチ・ヘイトなので注意してください。

あとR-15です(大事


第十九話

 まるで天の杯へと続く階段のようだ。

 柳洞寺の階段、その階下から慎二が空を見上げた。

 

「準備は万端、さぁ行こうか」

「なにが……なにが準備は万端よ!」

 

 遠坂がぷるぷると拳を震わせた。

 頬は真っ赤に染まっている。

 

「殆ど丸一日かけて(さか)ってただけじゃない!」

「盛るとか言うなよ! 魔力供給って言え!」

 

 決戦に合わせて、ライダーとのパスをより強固に繋ぎ直したのだ。

 やましい気持ちはない。ほんの少ししかない。

 全くなかったとは言わない。慎二は聖人君主ではない。

 けれど、けれでも。アレは必要なことだったのだ。

 最終決戦前の魔力供給は基本。

 古事記にもそう書いてある。

 

「素晴らしかったです、シンジ」

「やめろライダー、そんなんだから遠坂が邪推するんだ」

「この件が片付いたら、またシましょうね兄さん」

「桜ァ!?」

 

 なんなんだコイツら、緊張感がまるでない。

 わかってるのか、失敗したら冬木が滅ぶんだぞ。

 ちなみに慎二はいざとなったら全員抱えて逃げる所存である。

 逃げれば勝てる。

 平安時代の詩人にして剣豪、ミヤモト・マサシの言葉だ。

 

「とにかく問題はこの階段――もといその先にある山門だ」

 

 慎二が鋭い視線で階段を見上げる。

 遠坂が首を傾げた。

 

「なにもないじゃない」

「いいや、ある。居ると言ったほうがいいかな」

 

 それがこの作戦のキモだ。

 居る。居てくれなければ困る。

 ジッと目を凝らせば――そうら、お出ましだ。

 

「ふっ……誰かと思えば、いつぞやの小童か」

 

 ゆらり、とまるで蜃気楼が如く亡霊が現れた。

 遠坂が警戒のためか、一歩だけ後ずさった。

 

「アイツは? サーヴァントみたいだけど」

「アサシンさ」

「どう見ても侍じゃない、どこがアサシンなのよ」

「違うよ遠坂、侍じゃない、SAMURAIだ」

「同じでしょう?」

「違うのだ!」

 

 奴がアサシンの枠に押し込まれているだけの侍ならば。

 それならば前回の戦いで慎二の拳で打倒できていただろう。

 けれど違う、違うのだ。

 奴は幻想種TSUBAMEに匹敵する怪物、SAMURAIなのだ。

 

「ここは僕に任せて先に行け!」

「兄さん、それは俗に言う死亡フラグ――」

「違うからな! 断じて違うからな桜!」

 

 フラグ的な話をするならば、物語としてはむしろこっちがメイン。

 心配なのは先行させる桜達のほうだった。

 

「英雄王の足止めは頼んだぞ、ライダー!」

「そうは言いますが、別に倒してしまっても構わないのでしょう?」

「やめろ! この局面でその台詞はやめろ!」

 

 不穏な台詞を残して山門をくぐる桜達。

 どうしよう、不安しかない。早く追いつかないと。

 ジリジリと間合いを計りながら、慎二がアサシンに尋ねる。

 

「よかったのかい? アイツらを見逃して」

「守るべき主も最早おらぬのでな」

 

 アサシンがフッと、今にも消えそうな儚い笑みを浮かべた。

 いや実際に今にも消えそうなのは間違いない。

 この魔力残量では、明日の朝日はどう足掻いても拝めないだろう。

 

「あとは強敵と切り結び、果てられれば本望というものよ」

「そうかよ」

 

 こいつ、どうしてアサシンなんてやってんだろう。

 セイバーとして召喚されていれば、もう少しマシな霊基で戦えていただろう。

 キャスターが召喚を試みた当初はセイバー枠だって残っていたはずなのだ。

 とはいえコイツがセイバーになって暴れるなんて悪夢だ。

 だからこれはこれでよかったのかもしれない。

 

「さて、ここに至って問答は無用だな? いくぞ小童」

 

 アサシンが鯉口を切り、そしてその長大な刀を抜き放つ。

 合わせるように慎二が鎧を装着、拳へと魔力を集束させる。

 

「ああ、無用さ。いくぞ佐々木ィ!」

「応よ!」

 

 拳と銀閃が赤い火花を散らせた。

 ガリガリと金属音を立てながら、拳と刀で鍔迫り合いをする。

 今度は斬られない。

 魔力を集束させ強化すれば、これくらいの硬度にはなる。

 

「ほぅ、此度は拳なのか」

「ああ、オマエ相手に槍なんて悪手だからね!」

 

 前回のように槍は使わない。

 コイツを相手に必要なのは、小回りと速度だ。

 鋭く、もっと鋭く、切り込むようなジャブを。

 慎二の右拳から無数のジャブが放たれる。

 

「そのような豆鉄砲、届くものかよ!」

 

 細かくスラスターを制御する。

 拳一発を加速させるために、脚から腰へ、肩から腕へ。

 連鎖的な加速によって拳は神速の領域に手をかける。

 

「うぉぉぉ! 海獣(クリード)、流星拳!」

「ぬ? おおお!」

 

 ここに来て初めてアサシンが後退する。

 しかしダメだ、追撃できない。

 この技は発動後の隙が大きすぎる。

 慎二は舌打ちを零した。

 

「アサシン、一つ提案があるんだけど」

「なんだ、申してみるがよい」

「次で決めよう」

 

 あまり時間はかけていられない。

 早期決着が望ましい。

 そしてそれはアサシンも同じこと。

 彼が全力で戦い続けられる時間は、そう長くはない。

 

「フッ、互いに時間はないということか」

「そういうことさ」

「もう少しこの斬り合いを楽しんでいたかったが……仕方があるまい」

 

 ところで話は変わるが、剣道三倍段という言葉がある。

 剣を持った相手と相対すには、三倍の段位が必要だという意味だ。

 今の慎二とアサシンの関係がまさにそれと言えるだろう。

 圧倒的なアサシンのリーチに攻めあぐねる慎二が、ポツリと呟いた。

 

「アサシン――オマエ、ウォーズマン理論というものを知っているかい?」

「うぉーず、まん? また随分と面妖な名前よな」

 

 いつもの二倍のジャンプし、三倍の回転を加える。

 そうすればアサシンを上回る拳法六倍――完璧な理論だ。

 

「そういうわけで……行くぞォ!」

 

 スラスターを全開に、跳躍、回転、急降下。

 慎二は赤き閃光の矢となった。

 

「ハァァァァン!」

「ならばこちらも相応の技を以って迎え撃つまでよ!」

 

 アサシンが構える。彼の魔剣である燕返しの構えだ。

 燕返しは剣閃を三つに増やす技――つまり剣道三倍からさらに六倍。

 アサシンの戦力は十八倍だ。

 

「まだだ! 燕返し(ゲイ・ボルク)!」

 

 慎二の右拳が――二つに増えた。

 これで慎二側はさらに二倍、十二倍だ。

 火花を散らし、慎二の拳がアサシンの剣閃とぶつかり合う。

 

「甘い、燕返しの剣閃は三つ!」

「そんなこと知ってるさ、だから!」

 

 そうだ、まだ足りない。

 慎二は向かってくる最後の剣閃に左拳を構えた。

 

「もう一度! 燕返し(ゲイ・ボルク)!」

 

 幻の左が唸る。

 両腕による四つの拳。

 全てを合計すると――慎二の戦力は二十四倍だ。

 

「くらえよォ!」

「ぐっ!」

「発勁ィ!」

「おおおッ!」

 

 慎二の左拳が、アサシンの鳩尾にめり込んだ。

 その体勢のまま、二人はピタリと固まった。

 魔力発勁による魔力衝撃が魔力伝搬し、アサシンの霊基が崩壊を始める。

 マジカルだ。マジカルパワーこそが全てを制すのだ。

 

「フッ……随分と泥臭い幕切れであったが、なるほどこれも悪くはない」

 

 満足そうに涼やかな笑みを浮かべて消えていくアサシン。

 剣士として立ち合いの末に散る。

 彼としては満足のいく最期なのだろう。

 だがしかし、しかしだ。そうは問屋が卸さない。

 

「誰がこれで終わり、だなんて言った?」

「……なに?」

「僕はね、存在する資材(リソース)は全て使い倒すつもりなんだよ!」

 

 握った拳をさらに抉り込ませる。

 疑似魔力回路展開――詠唱開始(プログラム・スタート)

 さぁ、ここからが本番だ。最後まで付き合って貰うぞ、アサシン。

 

 

 

 

 

 

 アサシンを打倒し作戦目標の半分を終えた慎二が山門をくぐる。

 するとそこには信じられない光景が広がっていた。

 いや、信じられないモノが立っていたというべきか。

 

「フッ――遅かったな慎二、我を待たせるなど不敬であるぞ」

英雄、王(ギルガ、メッシュ)?」

 

 そこには仁王立ちで慎二を待ち構える英雄王が居た。

 どうなっているんだ、どういう状況なんだ。慎二の脳内を疑問が駆け巡る。

 ライダー達は確かに戦闘を行っている。

 慎二から抜け出ていく魔力が、それを如実に物語っている。

 しかし敵の本丸たる英雄王はここに居る。ここに居るのだ。

 

「ライダー達は……いったい誰と戦っている!?」

 

 残っているのはそれこそ言峰くらいだが、奴にそれほどの戦闘力はない。

 いくらマジカル八極拳でも限界はある。

 強化されているライダーと戦えるのは、それこそ英霊クラスだけだ。

 そしてその答えはすぐにわかった。

 柳洞寺にある大池の方角から、黒い極光が天に放たれたからだ。

 

「あの光はエクスカリバー? ……まさかセイバーなのか?」

 

 嘘だろセイバー、嘘だと言ってくれ。

 チョロい、あまりにもチョロ過ぎる。

 たった一日で悪堕ちなんて、どこのメーカーの姫騎士さんなんだ。

 凌辱ゲーのヒロインだってもう少し粘るぞ。

 

「少し泥に浸してやったのだがな、途端にあの有様よ」

 

 もう興味など失せたとばかりの平坦な声だった。

 飽きるの早すぎるんだよ。

 サーヴァントは玩具じゃないんだぞ、飼うなら責任持てよ。

 

 しかしセイバーめ、やっぱり聖杯君には勝てなかったか。

 英雄王の口ぶりだと割と即堕ち気味であったらしい。

 騎士王即堕ち二コマ。薄い本にありそうな展開である。

 

「それにしても、まさか本当に我が首を狙いに来るとはな」

「……当然だろ、冬木の危機なんだ」

「いや、我はその可能性は低いと見ていた」

「なに?」

「ここに辿り着くが一割、尻尾を巻いて逃げるが八割といったところか」

 

 正確過ぎる分析に涙が出そうだった。

 その通りだ。八割の確率で慎二は冬木から逃げ出していただろう。

 

「ちなみに残りの一割はなんなんだい?」

「山門の亡霊に斬り殺されるオチだな。見せ物としては及第点といったところか」

「な、なるほどね!」

 

 読みが的確過ぎて涙が出そうだ。

 千里眼を使わずともこの状況を読み切れる英雄王が偉大なのか。

 それとも慎二には簡単に読み切れる程度の器しかないのか。

 やめよう考えるのは、悲しくなってくる。

 

「普段ならばその首を疾く自らの手で刎ねよ、と言うところだが」

 

 英雄王はふむ、と頷き嗜虐的な笑みを浮かべた。

 

「キサマとの付き合いも長い。最期の足掻きだけは許してやろう」

「それは……光栄なんだろうか?」

 

 この王様と話していると、価値観が色々とおかしくなってくる。

 英雄王が腕を組んだまま、小さく顎を上にやる。

 その背後に宝物庫の扉が開き、数多の宝具の切っ先が慎二に向けられた。

 

「せめてその散り様で我を興じさせるが良い!」

 

 会話フェイズは終了、ここからは腕で語れということか。

 あれが一斉に射出されらば、それこそ慎二は一瞬でミンチより酷いことになるだろう。

 けれど、だからこそ、慎二は不敵に笑って見せるのだ。

 

「ふっ……甘いね英雄王」

「なに?」

「この僕がなんの対策もせず、オマエの前に出て来るとでも?」

 

 あえて強がり、自信満々に言い放ってやった。

 僅かばかりの喜色を滲ませながら英雄王が口の端を吊り上げる。

 

「ならば見せてみよ、キサマの言う対策とやらを」

「いいだろう、見せて――いや、見せつけてやるよ」

 

 慎二が懐から取り出したのは、黒い光を発する金属片のようなものだった。

 英雄王が少しだけ興味深げにほぅ、と息を吐いた。

 これは前回の聖杯戦争の際に回収された、聖杯の欠片。

 それを機能はそのままに、ベルトのバックルの形に再形成したものだ。

 

「元々はライダーのバックアップ用だったんだけどね」

 

 もし不慮の事故でライダーが脱落してしまったら。

 そんな場合に備えての安全装置(セーフティ)がコレだった。

 間桐家と紐づけされたサーヴァントが脱落した際にその霊基を保管する機能がある。

 

「しかしライダーはまだ落ちてはいまい?」

「その通りさ、だからコイツに保管されているのは別の霊基パターンだよ」

 

 ライダー以外に一騎だけ居るのだ。

 間桐家の最奥とも言える蟲蔵跡地で、無残にもその命を落としたサーヴァントが。

 あれは、悲しい、事故だった。

 事件ではない、事故なのだ。いいね?

 

「できればコレだけは使いたくなかった。僕の尊厳を粉々に破壊する代物だからね」

 

 だがここに至っては、慎二のプライドなど安いもの。

 バーゲン価格だ、好きなだけ持っていくがいい。

 

「よっしゃ、イクぞォォォ!」

 

 慎二が雄叫びと共にベルトを装着する。

 背面から尻尾のような端子が生え、接続部(コネクタ)へと突き刺さった。

 接続部(コネクタ)がどこかなんて口に出すのも憚られる話題だ。

 けれど慎二の肉体において、外部からの接続を可能とする部位は一つしかない。

 慎二の喉から苦悶の声が漏れる。

 

「ぐっ……イクぞ兄貴(ランサー)ァ! 僕に力を貸してくれェ!」

 

 慎二の声に呼応するかの如く、端子がヴヴヴと微振動を始める。

 もう説明は必要あるまい。つまりコレはそういうモノだ。

 

「こいッ……全呪解放だァ!」

 

 瞬間、接続部(コネクタ)から眩い光が放出。

 目を焼くような赤い閃光が収まると、そこには更なる異形と化した慎二が居た。

 

「これが最終形態(ファイナルフォーム)噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)……!」

 

 蒼銀の鎧を覆う漆黒の追加装甲。

 これこそがランサーの霊基によって完成した噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)

 凄まじい感覚だった。一種の全能感と言い換えてもいい。

 接続部(コネクタ)からランサーの熱い情熱(リビドー)が流れ込んでくるかのようだ。

 

「さァ、イクぞ英雄王。宝具の貯蔵は充分かい?」

「ぬかせ慎二。その下劣極まる力でどこまで進めるか――やってみるがいい!」

 

 

 

 

 

 




色々と仕込んであるんだけども、ネタバレは次話まで待ってほしい(懇願

ランサーね、嫌な事件だったね。

感想欄にも書きましたが、役目を終えたキャラはサックリ退場させる方針です。




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