型月産ワカメは転生者である(仮題)   作:ヒレ酒

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とりあえず30連したけど、酒呑ちゃんは出ませんでした(半ギレ
更なる厄落としのために投稿。

誤字報告ありがとうございました!


第二話

 冬木の西端。柳洞寺の地下、大空洞にて。

 蒼銀(クリード)仮面に変身した慎二はつま先で軽く地面を蹴り、調子を確認する。

 右よし、左よし、ついでに下もよし。本日も好調ナリ。

 

「さて、やるか」

 

 必要なのは最高の破壊力。次に破壊力。最後に破壊力だ。

 とにもかくにも破壊だ。全て壊すんだくらいの勢いで。

 

 死棘の槍(ゲイ・ボルク)を顕現させ、助走開始。

 鎧の各部にあるスラスターが展開、深紅の魔力が放出され推進力に変わる。

 

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!」

 

 真名解放。

 放たれたケルト式ホーミングミサイルが、標的である大聖杯に音速を超えて飛翔。

 完璧な一投だった。しかし――慎二は舌打ちを零す。

 

 着弾の直前。見えない壁に弾かれるようにして、朱槍の飛翔が停止。

 弾かれた朱槍は地に落ち、そして手元へと戻って来る。

 

「ダメか。じゃあ二投目いってみよう」

 

 再び助走。

 スラスター解放、魔力全開。ここまではさっきと同じ。

 だがここからは違う。これより放つは更なる発展形だ。

 砲身たる右腕を展開したルーンで強化、強化、強化。

 腕の装甲が耐えきれずに崩壊していくが構わない。到達点はその先にある。

 

抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)!」

 

 人外の膂力によって発射された魔槍が、一直線に聖杯へと迫る。

 今度こそやったと思った――が、思えばそれがフラグだったのか。

 案の定弾かれた。で、戻って来た。

 

「まだだ! 頼むから抉り穿ってくれ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)!!」

 

 また弾かれた。帰って来た。でも慎二、めげない。

 

「もいっちょオマケに、抉り穿つまで帰ってくんな鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)!!!」

 

 

 

 で、それから通算八投。

 結局全てが同様の結果だった。流石にそろそろ魔力がキツイ。

 ついでに言えば破壊と再生を繰り返している腕が痛すぎて笑えない。

 数撃ちゃ当たるの理論で解決するかと思ったが、そんなことはなかった。

 撃てば撃つだけ無駄に魔力を消費するだけだ。

 

 結論。

 大聖杯の破壊は現状では不可能である。

 

 慎二は面倒ごとが嫌いだ。だから面倒ごとは先に潰す。

 今回もその理論に従い、先んじてモノを潰しに来た。

 大聖杯がなければ聖杯戦争は起きない。なら壊せばいいじゃない。

 

 しかし結果はこのザマ。ハッキリ言って、聖杯君を舐めていた。

 地脈から直接に吸い上げた魔力というのは伊達ではない。

 ケルト式改造人間の力をもってしても簡単に対処できる代物ではなかった。

 というか地脈相手に個人で対抗しようとしたのが間違いだ。

 

 幸いにして、切嗣(ケリィ)が施したとみられる解体術式を確認している。

 放っておけば聖杯の解体は進む。第五次は仕方ないとしても、その次はないだろう。

 最悪の場合、時計塔の先生と赤い悪魔に丸投げすればいい。

 そうだ、それがいい。そうしよう。

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

「あ……お帰りなさい、兄さん」

 

 で、さっさと諦めて帰宅した慎二を、桜が淡い笑顔で出迎えてくれた。

 花の水やりでもしていたのか、手にはジョウロを持っている。

 流石はヒロイン。可愛さの格が違う。ペロペロしてやりたいくらいだ。

 びーくーる、びーくーる。冷静になれよ慎二。ヤっちまったら事案だぜ。

 

「けど僕は我慢しない! 抱き締めるくらいはやってのけるさ!」

「あっ……に、兄さん……?」

 

 ギュッと抱き締めると、桜は困惑しつつも恥ずかしげに口元を綻ばせる。

 仄かに香る花の香りに、慎二のアレやコレが色々と辛抱堪らなかった。

 

 股間の御立派様が訴える。

 いいのかい慎二。目の前にいるのは極上の幼女。何もしなくていいのかい?

 脳内で紡がれる悪魔のような囁き。

 

 でも我慢、我慢だ慎二。これはあくまで、兄妹間のスキンシップなのだから。

 昂る脳内思考をルーンの力でリセット。訪れるのはナニをした後のような全能感。

 理性と欲望の戦いは、今回も理性の勝ちで終わったようだ。

 

 

 

 変態(それ)はさておき。

 間桐の屋敷は、あれから随分と様変わりした。

 家中の魔術防御を取り去って、ごくごく普通の屋敷に改造。

 放置されていた庭木や生垣を整備し、花壇も作った。

 

 臓硯の蟲はどうしたかって? 魔術式燻煙殺虫剤(バル○ン)で一発だった。

 火事と間違われる勢いで焚きまくった結果、どうも全滅したらしい。

 

 そんなこんなで。

 間桐邸も今では素敵なお屋敷だ。幽霊屋敷なんてもう言わせない。

 ハウスキーパーさんも雇って、今では家事すらフリー。

 ちなみに花壇の世話だけは桜の仕事だ。情操教育の一環である。

 

 とはいえ、ここまで来るのに何の苦労もなかったわけではない。

 特に問題となったのは、桜との関係だ。

 

 今では考えられないが当時、慎二と桜の関係はギクシャクとしていた。

 ヒロイン助けたら円満解決。そんな簡単な話ではなかったらしい。

 

 臓硯の束縛からは解放されたが、凌辱によって感情が死滅していた桜。

 これはまだ良い。魔術式洗脳療法(マジカルパワー)でなんとでもなった。

 魔術万歳。改造されてから魔術の扱いが軽すぎて困る。

 

 問題はその後だ。恩でも感じたのか、どうにかしてそれを返そうとする桜。

 そしてそれを不要と切り捨てる慎二。

 自分達は家族だ。家族の間に、恩とか貸し借りとか、そんなものは必要ない。

 

 というかぶっちゃけ、恩とか感じられても困る。

 そもそもアレは万事が万事、自分のためにやったこと。

 結果的に桜を助けることになっただけで、それが目的であったわけではない。

 

 で、こういう時の解決法だが、何かしらの対価を貰ってチャラにするに限る。

 そうやって恩を相殺するのだ。

 

 とはいえ幼い桜に払える対価などない。

 だから悩んだ末、大きくなったら揉ませてくれ、とだけ言っておいた。

 何がとは言っていない。男ならわかるだろう。浪漫だもの。

 それから桜との関係は随分と良くなった。中の良い兄妹だと近所でも評判だ。

 

 余談だが。

 以降、何やら張り切って牛乳を飲む桜を目撃するようになった。

 大丈夫だ、安心しなさい。そんなことしなくてもボインボインになるから。

 それを見た赤い悪魔(本当の姉)がどう思うか、今から見物である。

 

 

 

「で、桜。ホントに行かなくて良いのかい?」

「……いいの。私は間桐の子だから」

 

 ちなみに本日は第四次聖杯戦争から約半年後。

 要するに桜の実父、時臣(トッキー)の葬儀の日である。

 

 一応は実の父なのだし、お別れくらいはしてきたらどうかと提案はした。

 けれども桜はこの調子で、頑として行こうとはしない。

 

 とはいえ桜にしてみれば、今更トッキーに家族の情は抱けないのかもしれない。

 何しろ送り出された先がコレ(マキリ)だ。

 待っていたのは希望ではなく絶望。繰り返される凌辱の日々。

 一般的な感性を持つ桜にとって、それは地獄だったろう。

 むしろ過剰な憎悪を抱かなかっただけマシだ。

 慎二としては無理強いすることでもないし、それはそれでいいかと判断している。

 

 ただ一つ残念なことがある。

 外道麻婆(言峰)が凛ちゃんにアゾット剣を渡す名シーンが見られないことだ。

 間桐と遠坂は基本的に不可侵。

 だから桜という名目がなければ、慎二が葬儀の場に入ることは不可能。

 

 愉悦部部員がどんな顔で剣を渡すのか、非常に興味をそそられる。

 どうしよう。使い魔でも立てて、その瞬間だけ見に行こうか。

 

「……兄さんが悪い顔してる」

 

 言われてしまった。

 しかし愉悦部仮部員の身としては、光栄の至りである。

 

 行かないにしてもとりあえず、トッキーの冥福だけは祈っておこう。

 娘さんは自分が責任をもって幸せにします。

 姉のほうは知らん。放っておいても逞しく生きていくだろう。

 

 なんまんだーなんまんだー、ぎゃーてーぎゃーてー。

 墓の方角に向かって、桜と一緒に適当な念仏を唱える。

 

 え? トッキーはキリスト教徒?

 知らん。可愛い桜ちゃんに念仏唱えて貰えるだけありがたく思え。

 

「それじゃあ桜、そろそろお昼にしようか」

「はい……兄さん」

「今日はそうだな……桜は何が食べたい?」

 

 慎二は何気なく尋ねたつもりだったが、桜は首を傾げて本格的に悩み始める。

 そこまで深刻に考えるほどの質問だったか?

 尋ねた慎二が逆にどうしたものかと悩み始めた頃、桜はおずおずと希望を口にした。

 

「えと、その……兄さんの卵焼き……甘いやつがいい」

「よぅし、兄さん頑張っちゃうぞ!」

 

 前世合わせりゃいい大人。料理くらいは出来てナンボである。

 それが上手いか下手かはさておいて。

 

 慎二は桜の手を引き、二人仲良く台所へと向かう。

 小さな力だが、しっかりと握り返された手の感触。

 後を歩く桜には見えなかっただろうが、慎二の口元は少しだけ緩んでいた。

 

 

 

 ともかくだ。

 そんな感じで間桐慎二は、束の間の平和を満喫するのだった。

 

 

 

 

 


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