型月産ワカメは転生者である(仮題)   作:ヒレ酒

20 / 21

とりあえず連日投稿は一旦終了(というか本編がこれで終了
本当に嫌な爆死だったね(真顔

例の如くアンチ・ヘイトでR-15なので注意してください。





第二十話

 黄金の宝具群が慎二に向かって放たれる。

 その一射一射の弾道を、慎二は強化された瞳と脳で読み切っていた。

 

「装甲展開――死棘の投槍(ゲイ・ボルク)!」

 

 慎二の装甲が展開し、そこから幾条もの真紅の閃光が放たれた。

 それは空中でさらに幾重にも分裂し、英雄王の宝具を撃ち落としていく。

 

「次弾形成、装填――死棘の投槍(ゲイ・ボルク)!」

 

 休む暇なんてない。

 標的の補足、弾頭の形成、発射までをまるで流れるようにこなしていく。

 

 宝具を見てから撃ち落とすのでは遅い。

 黄金の波紋、宝物庫の扉に向けて散弾のように死棘を撃ちこむ。

 

 勿論だが英雄王の猛攻はそれだけで捌き切れるほど甘くはない。

 撃ち漏らした宝具を時には避け、時には防御力にあかせて弾く。

 まるで針の目を探すように、それでも隙を見つけて進む、進む、進む。

 

 心臓代わりの魔力炉が軋みを上げる。

 演算機代わりの脳が焼き切れそうになる。

 それでも慎二は歩みを止めない。

 

「まさか慎二、キサマ……!」

「気付いたかよ、英雄王様ァ!」

 

 奴は確かに英雄王だ、それに間違いはない。

 しかし“完全な”英雄王というわけではないのだ。

 

 サーヴァント。

 人が使役できないはずの英霊を強引に使役するためのシステム。

 そのため英霊はクラスという七つの型へと強引に押し込められる。

 本来の機能を削られて、だ。

 

 つまり奴は英雄王の一側面に過ぎない、ということ。

 決して十全の英雄王というわけではない。

 奴は弓兵(アーチャー)、それ以上でも以下でもない。

 その力には上限がある。使える(リソース)には限界がある。

 

 確かに奴の宝物庫は無限に等しい。

 けれども、それを扱う英雄王自身は無限なのか。

 答えは――否。

 

「ハァ! 息が切れてきたんじゃないかな英雄王!」

「ちぃ、猪口才な!」

 

 中身は無限に等しくとも、それを撃ち出すためには魔力が必要となる。

 それを永遠に続けるなんてことは、有限である奴には不可能だ。

 なぜなら所詮、奴は一介の使い魔に過ぎないのだから。

 

 対する慎二はどうなのか。

 確かに慎二も有限だ。

 けれどその魔力量(リソース)に限ってはほぼ無限に近い。

 

 慎二の腹部に装着されたベルトが鈍く光る。

 欠片だ。ほんの小さな欠片だ。

 けれどもコレは間違いなく、紛うことなく聖杯(無限の魔力)だった。

 

 しかし源泉こそ無限に近いと言えども供給量には限界がある。

 ライダーめ、さっきから騎英の手綱(ベルレフォーン)を連発してやがる。

 視界の端でピカピカ閃光が迸る度に魔力がゴリゴリと抜けていく。

 桜との二馬力であるし、こちらの戦闘にさして影響はないのだが。

 

「宝具撃つなら一発で決めろよアイツら……!」

 

 叫びながら、向かってきた宝具を腕を振って撃ち落とす。

 慎二が持つ宝具に等しい一級の装備である波濤の鎧。

 そしてランサーの霊基を纏い手にした強化外装(クリード・コインヘン)

 ソレを同時にぶち抜く手札など、英雄王といえども何枚も持ってはいないだろう。

 

 しかし慎二もこの宝具の暴風を抜けられる手段があるわけではない。

 ならば起こるのは――そう、消耗戦だ。

 

 魔力残量を削り合うことによる消耗戦。

 これが慎二の立てた作戦(プラン)

 後は詰将棋のようなものだ。

 ジリジリと、確実に奴が消耗するまでこの戦いを続けるのみ。

 

「地獄の底まで付き合って貰うぞ英雄王!」

 

 ジリジリと前進を続ける慎二。

 英雄王との距離は少しずつ、けれど確実に縮まっていく。

 始まった極限の我慢比べ。

 先に音を上げたのは英雄王のほうだった。

 

「まさかキサマごときが我に抜かせるとはなァ! シンジィ!」

 

 英雄王は抜いた、全ての原初にして切り札たる宝具を。

 そうだ、この瞬間を待っていた。

 追い詰められた英雄王が頼るのは、彼が絶対の信を置く二つの宝具。

 その片割れたる天の鎖(エルキドゥ)が宝物庫から射出され、慎二の四肢を拘束。

 そしてもう一方たる対界宝具、乖離剣(エア)の切っ先がこちらに向けられている。

 

「目覚めろ乖離剣(エア)よ!」

 

 宝具の雨が止んだ。

 代わりに赤い、世界を断つ嵐が吹き荒れ始める。

 まだ真名は解放していない、余波だけでこれだ。

 全力が向けられたら、そう考えるだけで身体が震える。

 

「ハッ――だからなんだ、僕はそれを食い破るだけだ!」

 

 慎二の身体は、その殆どが海獣(クリード)の骨格で構成されている。

 なら――だったら。

 この身体は最早、死棘の槍(ゲイ・ボルク)と言っても過言ではない。

 

「オオオオオオ!」

 

 雄叫びと共に全身の射出孔から魔力を放出。

 ミシミシと音を立てた天の鎖が、莫大な出力に耐えられず弾け飛ぶ。

 全身から深紅の死棘が生えた。その一つ一つが宝具に等しい。

 

 死棘装填――射出準備完了。

 それと同時に英雄王が乖離剣を振り下ろす。

 

「獣狩りの時間だ! 天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!」

「狩られるのはオマエだ英雄王! 穿ち進む死棘の拳(ゲイ・ボルク)!」

 

 吹き荒れる世界を断つ嵐。

 その中を一条の槍となった慎二が進む。

 鎧が剥げ、肉が断たれる。

 それでも進む、進む、前へと進む。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ」

 

 嵐を掻き分け、そして黄金が見えた。

 あれだ、あれこそが到達点。

 食え、食い破れ。

 獣だ慎二よ、オマエは死棘の獣になるのだ。

 

「そこだァァァア!」

 

 

 

 未だ赤い暴風が吹き荒れる中で。

 真紅の双眸が、ジッとこちらを見つめていた。

 崩れていく、波濤の鎧が崩れていく。

 幼き日より慎二と共にあった、絶対の鎧が崩壊する。

 

「ふん、戦士としては及第点をくれてやろう、慎二よ」

 

 届かなかった。

 あと一歩、慎二は英雄王に届かなかった。

 押し戻されていく、世界を断つ暴風が慎二を巻き込んでいく。

 生身となった慎二の身体が世界と共に断たれていく。

 

 けれど違う、違うんだ英雄王。

 オマエは致命的な勘違いをしている。

 こっちは最初から戦士として戦ってなんていなかった。

 

 知っているぞ、英雄王。

 乖離剣には発動前と発動後、それぞれに隙があることを。

 発動前の隙は天の鎖によって潰された。

 けれど――発動後の隙までは潰せないだろう?

 

「そう、僕は――最初から戦士ではなかったんだ」

 

 だからこの手は届かなくても構わない。

 ただ最後まで、その形だけ残っていれば充分だった。

 

 装甲が剥がれ落ちた慎二の腕。

 正確には右手、その甲には――赤く輝く二画の“令呪”があった。

 

「チェックメイトだ――殺れ、アサシン」

「はい、マスター」

 

 さらに一画の令呪が消失し、英雄王の背後に白骨の仮面(アサシン)が現れる。

 戦闘の始まりから今まで、令呪を使った気配遮断で隠れさせていたのだ。

 これが切り札、慎二の最後の一手。

 

「なッ――」

 

 英雄王がその真紅の目を剥くが、もう遅い。

 乖離剣の余波で宝物庫は使えない、頼みの綱の天の鎖は引き千切った。

 隙だ、致命的な隙だった。

 その首元を――銀閃が通り過ぎた。

 

 

 

 

 

 

「マスター、ご無事ですか?」

 

 アサシン――静謐のハサンが倒れた慎二に駆け寄った。

 酷い損傷だった。無事なところを探すほうが難しい。

 特に酷いのはベルトとの接合部だ。

 粉々に砕けたベルトの接続部(コネクタ)が、体内で爆散したのだろう。

 今もドクドクと出血が続いている。

 大抵のダメージは数分で完治する慎二にとって、これは異常なことだった。

 

「フハッ……フハハハハ!」

 

 高らかな笑い声が響く。

 首を刎ねられたはずの英雄王のものだった。

 慎二を庇うようにアサシンが前に出る。

 

「英雄王、まさか首だけになっても、まだ生きて――」

「――どう見ても致命傷だ、戯け!」

 

 だよね、流石に死ぬよね。

 しかし首だけの癖に偉そうとは、これいかに。

 そんな英雄王はどこか満足げなご様子だ。

 

「キサマを戦士と括った我の失策であったな」

「……その通りさ、僕はずっとマスターとして戦っていた」

 

 これが正しい聖杯戦争の形だ。

 本命は英霊、マスターはそのバックアップ。

 慎二は基本に立ち返ったに過ぎない。

 

 間桐臓硯。

 奴が残した技の一つに、アサシンの召喚というものがある。

 小次郎を生贄にハサン先生を召喚する、真アサシンというやつだ。

 

 流石に臓硯のような遠隔召喚は、慎二達にはできない。

 だから瀕死にさせたうえで、桜特製の魔術式を体内に打ち込んでやった。

 その結果がこの静謐のハサンだ。

 無料ガチャとしては当たり枠なのではなかろうか。

 

「まぁいい、業腹なことではあるが我を殺した褒美だ、持っていけ」

「……なに?」

「我の肉体に触れる栄誉をくれてやる、後ろのポケットだ」

 

 アサシンに肩を借りながら指示通りに英雄王の体を漁る。

 確かに尻の辺りにナニか硬いモノが――。

 

「み、妙な気は起こすでないぞ! 首を刎ねる程度はまだ出来るのだからな!」

 

 肉体のほうの英雄王の中空に、黄金の波紋が浮かぶ。

 なんだよコイツ、首だけになってもまだ元気じゃないか。

 首を刎ねられた奴が首を刎ねると脅す場面か、中々にシュールだ。

 そっと、そーっとポケットからソレを取り出す。

 

「これは……鍵?」

「我が愛車の鍵だ、受け取るがいい」

 

 愛車っていうとアレか、あの趣味の悪い成金スポーツバイクか。

 しかし解せない。

 

「どうしてコレを?」

「我に打ち勝ったのだ、これくらいの褒美がなければな」

 

 英雄王はどこか確信めいた様子で言葉を続けた。

 

「キサマにはソレが必要になるだろう」

「……どういう意味だい?」

「懇切丁寧に説明してやるのも吝かではいが……ふむ」

 

 まるで泡沫のように、英雄王の体が光となって消え去っていく。

 それはどこか美しい、幻想のような光景だった。

 

「……残念だが時間切れのようだ、さらばだ慎二、フハハハハハ――」

「えっ、ちょっと待て英雄――んひぃ!」

 

 凄まじい勢いで“傷口”から血が噴き出した。

 常人なら失血死してもおかしくない量である。

 

「いけませんマスター! 興奮しては傷口が!」

「ま、待てアサシン!」

 

 慎二は尻に“手当”をしようとするアサシンを必死で止める。

 

「他の場所は構わない、けど尻はダメだ……!」

 

 静謐のハサンは非常に強い毒を全身に持っている。

 しかし慎二には薬物に対する耐性があった。

 だからこうして平気で肩を借りていられる。

 けれどダメだ、ダメなのだ。尻だけはダメなのだ。

 

「尻には……尻には耐性がないんだ……!」

「でも、そんな……どうすれば……!」

 

 慎二は力尽き、ついに地面へと倒れ伏した。

 もうダメだ、お終いだ。

 慎二は一つだけ心に決めていたことを実行しようと口を開く。

 

「……アサシン、最期の頼みだ」

「はい、マスター」

「僕に膝枕をしてくれないか」

「はい――はい?」

 

 死ぬときは美少女の膝の上で。

 そう、心に決めていた。

 困惑しつつ横座りをしたアサシンの膝の上に、ゆっくりと頭を乗せる。

 柔らかい、肉感的で良い太腿だ。

 

「我が人生に一片の悔い無し……!」

「いや、なに言ってるんですか兄さん」

 

 その声にハッと視線を向ける。

 呆れたように溜息を吐くのは、慎二の義妹(スウィートハニー)である桜だった。

 この絶対の危機に現れる辺り、ヒロイン力が限界突破している。

 

「まさかこんな間抜けなことで死にそうになっているとは……呆れましたよシンジ」

 

 信じられない、とばかりに頭を振るライダー。

 あちこちが煤で汚れているものの、どうやら無事のようだ。

 

「ホント台無しだわ」

 

 そしてついでに遠坂。

 特に説明は要らないだろう。

 なに? 凛ちゃんだけ扱いが酷い?

 最初からこうだった、気のせいだ。

 

「皆……無事だったのか」

「そういう兄さんは無事じゃないみたいですね」

 

 仕方がないにゃあ、といった様子で桜がナニかを取り出した。

 ピンク色にテカるアレは間違いない、アレだ。

 

「それは弾丸に加工されたはずじゃあ……!」

「残念でしたね、二本目ですよ」

 

 ずりずりと瀕死の体を引き摺って逃げようとする慎二。

 しかし今は悪魔()が微笑む時代なんだ。

 

「やめ……やめろォ!」

「はーい、お注射しましょうねー」

「ぐっ……うあ……うわぁぁぁぁ!」

 

 グサリ、と慎二の傷口にピンクのそれが刺し込まれた。

 むず痒い感覚と、そして僅かばかりの快感と共に傷が再生していく。

 慎二の悲しい叫びが深夜の冬木に響き渡る。

 新たな都市伝説、波濤仮面の叫びが生まれた瞬間だった。

 

 

 

「ぐっ……それでそっちの首尾はどうだったんだい?」

 

 引き続きアサシンの膝にヘッドライドしつつ慎二が尋ねる。

 こっちはこの通りだ。

 英雄王はなんとか倒した。犠牲は大きいが慎二君大勝利である。

 ライダーと遠坂の視線を受けて、桜が口を開いた。

 

「作戦目標は“ほぼ”達成された、と言っていいでしょう」

 

 セイバーは倒れ、聖杯へのルートは確保された

 なお聖杯の核は言峰神父その人であるらしい。

 なるほどオマエが聖杯(ママ)になるのか。

 ちなみに肉塊の天辺で愉悦スマイルを浮かべたオブジェになっていたとか。

 

「なるほど、聖杯は未だ健在か……どうして破壊しないんだい?」

 

 慎二の疑問に、桜達が暗く視線を落とした。

 あれ、なんかマズいこと言った?

 

「いえ、その……破壊するための火力がないんです兄さん」

「火力? そんなのライダーの宝具でいいだろ」

「シンジ、私が宝具を使用するために騎乗物が必要なのは知っていますね?」

「知ってるけど、それが?」

「ええっと、その……使い果たしてしまって」

「使い果たした? 残弾制とかそういうシステムだっけ?」

 

 ペガサスはエクスカリバーの初撃にて消失。

 ライダーのバイクは五射目まで粘ったものの爆発炎上。

 慎二のバイクはセイバーと相打ちに。

 

「なるほど、僕のバイクがセイバーと相打ち……相打ちィ!?」

 

 壊したのか、散々弄んだ挙句に壊したのか。

 ライダーがしみじみと噛みしめるように告げる。

 

「アレはいいものでした……私の無二の相棒でした」

「僕のバイクは諦めるとして、ペガサスはそれでいいのかオイ」

 

 バイク以下の扱いとはペガサスよ、さぞ無念だったろうに。

 あいつも悪い奴じゃなかった。

 事あるごとに慎二の頭髪を噛む悪癖さえなければ最高の友だった。

 

「しかしどうしたものかな」

 

 当初、聖杯は慎二が壊してもいいと考えていた。

 大聖杯はともかく、小聖杯なら壊せるだろう。

 けれど今の慎二はハッキリ言って一般人以下だ。

 聖杯どころかコップを持ち上げるだけで精一杯。

 

「なにか、なにか方法は――」

 

 その時だった。

 ふと慎二は強く握り締めていたソレに気が付いた。

 

「そうかなるほど、そういうことか」

 

 必要になるってこういうことか。

 よくわかったよ英雄王。ありがたく使わせて貰うよ。

 

「ライダー、持っていけ」

 

 無駄に豪奢なソレをライダーに投げ渡す。

 ライダーがそれを手に取ったと同時に、中空から黄金のバイクが現れた。

 無駄に演出が凝ってやがる。首だけだった癖に余裕ありすぎだろう。

 

「行けよライダー、駆け抜けてこい」

「――はい、行ってきます、シンジ!」

 

 力強く頷いたライダーは、そのバイクに颯爽と跨った。

 そして甲高いエンジンを響かせ、聖杯へと金の軌跡を描いていく。

 

騎英の(ベルレ)――手綱(フォーン)!」

 

 それは綺麗な光、だった。

 こうして長く苦しい第五次聖杯戦争は幕を降ろした。

 慎二のあちこちに消えない爪痕を残して。

 

 





くぅ(疲

聖杯戦争編(本編)が終わったので、完結済みに変更。
後は後日談をオマケで投稿して終了です。

次の投稿は爆死するか気が向いた時にでも。
それでは皆さん、お疲れ様でした。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。