型月産ワカメは転生者である(仮題)   作:ヒレ酒

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本編に入ると言ったな?
あれは嘘だ(すいません



俺の中の魂が、この話だけは書けと叫んでたんだ。


蛇足的な本編
第七話


 聖杯戦争で戦わせる英霊を呼び出す儀式――召喚(ガチャ)

 脳裏に蘇るのは在りし日の日々。

 礼装ばかりで出てこない英霊。

 外れるピックアップ。

 金鯖演出からの、すまないさん。

 

 苦い思い出も多い。

 けれど、星五が出た瞬間の喜びは忘れられない。

 あれを一度味わってしまうと、もうダメだ。

 一度嵌れば抜け出せぬ。中毒者は電子マネーを買い漁った。

 

 憑りつかれたかのように回す、回す、回す。

 回せ、回転数が全てだ。騎士王、アルトリア・ペンドラゴンの言葉である。

 

 光源、二時、フレポ、成功。色々あります召喚(ガチャ)の宗教。

 その中でも慎二は、触媒を用意して召喚(ガチャ)に挑む生粋のマスター(課金兵)であった。

 

 そしてこの世界には、本物の触媒がある。

 だから集めるのだ。

 古今東西の触媒を、ありとあらゆる手を使って。

 

 呼符一回分だけ。しかもリセマラ出来ないクソゲー仕様。

 だから少しでもレア度が上がるようにと、慎二は集め続ける。

 例えそれが、僅かばかりの可能性であったとしても。

 星の数が勝敗を分ける。慎二はそのことを知っていた。

 

 そんなこんなで、慎二は今日も聖遺物を買ってきた。

 ブツはイギリスで出土したとかいう円卓の欠片。

 それが大切に抱えたスーツケースの中に納められている。

 

 魔法陣を描き、呪文を唱え――演出からの、召喚(ガチャ)

 現実でそれを成し遂げたとき、どれほどの快感があるのだろうか。

 わからない。わからないから、試してみたい。

 

 やはり慎二だと、ライダークラスになるのだろうか。

 ライダーだとアレだ。

 征服王にケルトビッチ。太陽を落とした方なんかもいらっしゃる。

 

 中々に豪華なラインナップだ。

 どれを引いたとしても、脳内麻薬(アドレナリン)の放出待ったなしである。

 

 聖杯戦争まで半年を切った。

 そろそろ召喚(ガチャ)ってもいい頃合いだろう。

 

 慎二は軽快な足取りで屋敷へ帰参する。

 胸はまるで初恋をしたかのように高鳴っていた。

 

 

 

 玄関の扉を開けば、出迎えたのは義妹である桜。

 だけどどうしたのだろうか。妙に挙動不審である。

 

「あっ……お、お帰りなさい、兄さん!」

 

 目と目があった瞬間に気付いた。

 これアレだ。ナニかやらかして、それを隠しているときの顔だ。

 

「……ねぇ桜」

「な、なんですか兄さん?」

「何をやらかした?」

 

 昔はわからなかったが、イロイロとアレ(十八禁)した今ならわかる。

 桜が“なんだってわかる”と豪語していたのも納得だ。恋は人を進化させる。

 

「え、えーっと……そのぅ……」

 

 どう説明したものか。

 もじもじと悩む桜ちゃんもグッドだったが、問題は何をやらかしたかだ。

 

 今回やらかしたのは、おそらく特大級の失敗だろう。

 おそらく今回は慎二を以ってしても取り返しのつかない可能性が高い。

 取り返しのつく問題ならば、すぐに謝っているはずだからだ。

 

「じ、実際に会ってもらったほうが早いかもしれません……」

「……会う? 誰と? なんだ、何をしたんだ桜!?」

「そ、その……工房で色々としてたら、なんか繋がっちゃって?」

 

 この時点で嫌な予感はしていた。

 初恋のような高鳴りが、不整脈の痛みに変わる。

 

「出てきて、ライダー」

 

 ライダー。その名前を聞いた瞬間に、自然と頬が引き攣った。

 桜の隣に現れたのは――いや、実体化したのは眼帯を嵌めた黒ボンテージ。

 街を出歩けば職務質問待ったなしのお姉さん。

 

 ライダーのクラスで召喚された彼女の名はメドゥーサ。

 原作で桜に召喚されたサーヴァントにして、生存ルートが一つしかない不遇枠。

 少しだけ親近感を覚えたのはナイショである。

 

 慎二はショックのあまり、持っていたケースを取り落とした。

 楽しみに取っておいたプリンを食べられてしまったような絶望感。

 いや実際はそれよりも酷い。このために数年がかりで準備してきた。それなのに。

 ライダーがそっと手を差し出した。握手のつもりだろうか。

 

「アナタがシンジ、ですね。サクラから聞いています。よろしく――」

「――ない。これはない」

「――はい?」

 

 慎二はその手を取ることなく、わなわなと身を震わせる。

 サーヴァントとマスターの兄。その会話の第一声がコレだ。

 

「星三つとかないわ! せめて金鯖呼べよ、金鯖ァ!」

「えっ? ほし? きんさば?」

「三つとかアレだよね。フレポでも出るハズレ枠だよね」

「は……ハズレ!? ハズレって言いましたか今!?」

 

 言ったさ。

 だってハズレなんだもん。

 自分が星三なことは棚に上げて、酷い言い様であった。

 

「これでさぁ! 主力になれるくらいの性能してんだったらわかるよ!?」

 

 具体的には童話作家さんとか、今回は出番なさそうな山翁さんとか。

 でも黒ボンテージ。てめーはダメだ。てめーの居場所は間桐家(カルデア)にねぇから。

 ガクリ、とライダーが膝をつく。

 

「黒ボンテージ……居場所がない……」

「やめてください兄さん! ライダーの精神力(ライフ)はもうゼロです!」

「止めるな桜! 課金兵(マスター)にとって一番辛いのはなぁ! 大枚叩いた後の爆死なんだよ!」

 

 桜の制止を振り払い、慎二は叫びを上げながら工房こと旧蟲蔵へ走る。

 そして床に刻み込まれた召喚陣の前に立ち、呪文を唱え始めた。

 

「素に銀と鉄、礎に石と契約の大公」

 

 もう原作とか知ったことじゃない。

 アレだ。まだマスター枠に空きはあるのだから、慎二も召喚すればいいのだ。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)!」

 

 バーサーカーとライダーは埋まっているが、他のクラスなら呼べるはず。

 回さないくらいなら、理想(クレカ)を抱いて溺死(破産)しろ。間桐家家訓にもそう書いてある。

 

 このしわ寄せは最後に召喚する連中に行くことだろう。

 具体的には赤いのとか正義バカ。

 彼らにはすまないと思っている。でもやめない。本当にすまない。

 

「抑止の輪より来たれ! 天秤の守り手よ!」

 

 呪文が完成、魔力の光(演出)は最高潮に達する。

 魔力が高まり、魔法陣が金色に輝く。金鯖確定演出である。

 

「勝ったぞ! この戦い(ガチャ)、僕の勝利だ!」

 

 目が眩むほど莫大な光が溢れ、そして収束していく。

 しかし――

 

「――え?」

 

 誰も居なかった。

 光が収束したその先には誰も居なかったのだ。

 

「嘘……だろ?」

 

 しん、と地下に静寂が訪れる。

 間桐慎二。敗北(ばくし)の瞬間であった。

 静かに涙を流しつつ、ゆっくりと膝をつく。

 聖杯よ。海産物(ワカメ)にはマスターの資格すらないと申すか。

 

「兄さん……」

「シンジ……」

 

 遅れてやって来た主従が、悲痛な声を漏らす。

 床についた手に、ポタポタとしょっぺぇ水が落ちた。

 

「兄さん、その……元気出してください!」

「そ、そうですシンジ。私も頑張りますから、ね?」

 

 知っているかい。桜、ライダー。

 挫折を知った男にね、下手な慰めは逆効果なんだ。

 でもどうしてだろう。しょっぺぇ水が溢れ出して止まらない。

 

 なんかもう、このまま全てを捨て去りたい。

 桜とライダーという母性の暴力&暴力に包まれて眠りたい。

 

 だが――囁くのだ。

 いいのかよ慎二。女の子の前で情けない姿見せたまんまで、いいのかよ。

 慎二の中のちっぽけな漢が囁くのだ。

 負けるな。これで終わりじゃない。まだやれることは残っている。

 そうだ。このままじゃ終われない。漢は負けっぱなしじゃ駄目なんだ。

 

「まだだ」

「で、でも兄さん……召喚は失敗して――」

「――まだ終わってない!」

 

 Never be GAME OVER.

 BADエンドにはまだ早い。

 悲しみに満ちた瞳が、僅かな闘志の炎を灯す。

 爆死はしたが、勝つ方法がないわけじゃない。

 

 聖杯戦争では基本的に、英霊達は召喚された直後の状態で戦うことになる。

 だが慎二は知っている。いくら英霊とはいえ、召喚直後は役に立たないことを。

 いくら星五のだったとしても、最初のステータスはゴミでしかない。

 種火をたらふく食わせ、再臨させ。それでやっと役割が持てるのだ。

 

 もう、これしかない。

 星三とはいえど、育てればそれなりの性能にはなる。

 

「桜ァ!」

「は、はい!?」

「再臨素材持って来い!」

「さ、さいりん?」

「モニュメントとか、宝玉とか――その辺にあるだろ! 持って来い!」

「い、いえっさー!」

 

 どこか逆らってはいけない気配を感じたのか。

 ビシリと見事な敬礼をして素材置き場へと走っていく桜。

 

「で、ライダー!」

 

 ギロリ、と慎二は血走った眼を向けた。

 明らかに正気のそれではない。

 いや、正気の課金兵(マスター)など存在しない。古事記にもそう書いてある。

 尋常ではない気迫に、ライダーが思わずたじろいだ。

 

「な、なんでしょうか?」

「喜んでいいぞ――再臨するまで食わせてやる」

「どうしてでしょうか、嫌な予感しかしません……!」

 

 その翌日。

 黒ボンテージがさらに際どくなったライダーが居たとか。

 聖杯戦争まであと半年。今日も間桐家は平常運行であった。

 

 

 




やっぱりガチャは悪い文明(最後の石を食われながら

慎二君は聖杯から資格ナシと判断された模様。
原作通りなんやで(震え

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