型月産ワカメは転生者である(仮題)   作:ヒレ酒

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Q、鬼娘三人衆が一人も出ない奴とかおるん?

A、おるんじゃよ(小声


水着ガチャと聞いてなんとかテンション盛り返した。
正直、色々と手につかんかった(本音
厄を……落としに来たぜ(フラグ


ところで間桐(まとう)波濤(はとう)って語感似てない? 似てないか。


誤字報告ありがとうございます!


第九話

 慎二は激怒した。

 必ず、かの邪知暴虐の蛇を除かねばならぬと決意した。

 夜の間桐邸に魂の慟哭が響き渡る。

 

「あんの――ハズレ鯖がァァァァ!」

 

 

 

 そんなわけで。

 間桐邸の居間で、ライダーは正座をさせられていた。

 その前に仁王立ちするのは間桐邸が大黒柱、慎二である。

 

「ライダー。僕が何を言いたいか……わかるね?」

「いえシンジ。私には何のことだか」

「本当にわからないと?」

「ええ、サッパリと」

 

 そう言って眼鏡の奥の瞳を逸らすライダー。

 この駄サーヴァントめ。この期に及んでとぼける気か。

 

「異様にすり減ったリアタイヤ」

「……な、なんのことでしょうか」

 

 ライダーが声を震わせる。

 おう、ネタは挙がってんだよ。白状しろよ。

 ガレージから持ってきたレンチでライダーの頬をペチペチと叩く。

 

「オラ、早く吐いちまえよ、楽になるぞぉ?」

「ううっ……な、なんのことかわかりません……」

 

 追い詰められた事件の犯人のように、目に見えてうろたえるライダー。

 そんな彼女に止めとばかりにつきつける。

 

「極めつけは高温で焼き色がついた外装」

「そ、それが何だって言うんですか……!?」

「魔力の香りがするんだよォ! 英騎の手綱(ベルレフォーン)使っただろオマエェ!」

「うぅ!」

「……僕のバイクを勝手に乗り回すなって、何回言ったらわかるんだよォ!」

 

 ライダーのバイクの扱いは、それはもう酷いものだ。

 貸し出したが最後、どんな乗り方をしたのか考えたくない有様になって帰って来る。

 あちこち魔術で強化されている代物をあそこまで壊すとか、どういうことなのか。

 レースとかエクストリームとか、そんなチャチなもんじゃないことだけは確かだ。

 

「ちゃんとオマエ用に新しく一台買ってやったじゃんか!」

「だって……だってぇ……!」

「しかも最新型だぞ! 僕のより良いバイクなんだぞ!?」

 

 スーパースポーツの新型モデルだ。慎二のレトロバイクとは雲泥の差がある。

 なのになんでわざわざ慎二のバイクを乗り回すのか。

 

「違うんです……違うんですよシンジ!」

「おう、何が違うのか言ってみろ!」

「あの子じゃないと満足できないんです……!」

 

 さめざめと涙を流しながら慎二の足元に縋りつくライダー。

 傍から見たら色々とアレな光景である。

 

 そんなライダーが申すには。

 あの古いエンジンの鼓動感と、無駄に大きい排気音が良いとかなんとか。

 だがしかし、そんなことは慎二だって百も承知だ。

 

「あれが名品なことはわかってんだよ! ええぃ、離せぇ!」

 

 だから慎二もわざわざ古いバイクに乗っているのだ。

 古いなりの味のようなものを楽しんでいた。それなのに。

 

「大事に乗ってれば僕も何も言わないのにさぁ! なんで毎回無茶するかなぁ!?」

「無茶だなんてそんな……今日だってちょっと未遠川を横断しただけじゃないですか!」

「河川の横断が“ちょっと”で済んでたまるか!」

 

 他人様のバイクでなんてことしやがる。

 もう絶版車で修理用のパーツも碌に手に入らないというのに。

 ホントこいつ、どうしてくれようか。

 そんな激おこエクストリーム慎二を止める声があった。

 

「まぁまぁ、兄さん。そう怒らないであげてくださいよ」

「桜……」

「ほら、ライダーも泣かないで」

「ああ……サクラ……」

 

 くっと慎二は歯噛みした。

 どうにも桜はライダーに甘過ぎるきらいがある。

 まぁライダーに甘いのは桜に限った話ではないのだが、それはさておき。

 

 流石に今回の件についてはジックリ話し合う必要がある。

 今までは見逃して来たが、今度ばかりはそうはいかない。

 徹底的に追及してやると気色ばむ慎二に、桜が静止の言葉をかける。

 それがさらなる燃料になるとも知らずに。

 

「その辺りで許してあげたらどうですか兄さん。“たかが”バイクのことでしょう?」

 

 空気が凍った。

 まるで錆びたブリキ人形のように、慎二とライダーが桜に顔を向ける。

 

「ねぇ、桜。今なんて言った?」

「サクラ、流石に今の言葉は聞き逃せません」

「えっ……えっ?」

「“たかが”なんていう悪い娘にはお仕置きしなきゃ。そうだねライダー?」

「ええ、その通りです慎二」

 

 よし、今日は一晩かけて桜にバイクの良さを教え込もう。

 にゃんにゃんしながら叩き込んでやれば、嫌でも理解するだろう。

 

 瞳だけでライダーに語りかける。

 ヤるぞ、ライダー。

 

 ライダーが口元に笑みを形作った。

 ヤりましょう、慎二。

 

 よし、最大の協力者を手に入れた。

 先程までの怒りは何処へ行ったのか。あっという間に一致団結した二人。

 

「えっ……ちょっ……兄さん? ライダー!?」

 

 桜の両脇を固め、寝室までレッツパーリィしようとした――その時だった。

 間桐邸全体に、火災報知器にも似たけたたましいベルの音が響き渡る。

 

「あ、あの……兄さん、これは……」

「ああ、我が家に唯一残る防御結界が発動した音!」

「解説ありがとうございますシンジ……!」

 

 高位の霊体が侵入した際にのみ発動する防御。

 それが発動したということは、つまり――

 

「いくぞライダー。どうやら敵らしい」

「はい、シンジ!」

 

 ちなみに。

 桜があからさまに安堵の表情を浮かべていたのはナイショである。

 

 

 

 

 

 

 庭で待ち構えていたのは一人の男――否、漢だった。

 肩にはどこか見覚えのある深紅の朱槍を担いでいる。

 知っている。慎二は彼を、知っている。

 

「ついに出たな……! 怪人青タイツ……!」

「誰が青タイツだ、オイ」

 

 青タイツの額に青筋が浮かぶ。

 そう、彼こそ聖杯戦争を戦うサーヴァントが一騎。

 ランサーの兄貴、略して槍ニキである。

 

「そっちに居る大女……サーヴァントだろう? 悪いが一手お付き合い願おうか」

「……大女?」

 

 ピシリ、と空気が凍る――もとい石化する音がした。

 

「フフフ……大女、ですか……人が気にしていることを……!」

 

 あかんねん兄貴。それ地雷やねん。

 とりあえずステイ、ライダーステイ。

 いつの間にか怒れるボンテージと化していたライダーを羽交い絞めにする。

 

「あ、あんな奴の言うこと気にしちゃダメだぞライダー!」

「……どうせ、どうせ私は図体が大きいばかりの木偶の坊ですよ……!」

「そこまで言われてないから! 大丈夫、ライダーは可愛いから大丈夫!」

「……」

「……」

 

 僅かばかりの沈黙。

 どうだ、説得は成功したのか、どうなんだ。

 チラっと。チラッと表情を伺う。

 

「……そ、そうでしょうか?」

 

 頬に手を当て照れるライダー。

 どうやらなんとかなったらしい。

 ふぅ、チョロイ仕事だったぜ。

 

「と、とにかく落ち着けよ、あの青タイツとオマエじゃ相性が悪い」

 

 いや、今回現界した中で、ランサーと相性が良い英霊のほうがむしろ少ない。

 白兵戦で奴に正面から対抗できるのはバーサーカーくらいのものだろう。

 

 ゲイ・ボルクはそれほどに恐ろしい。一対一なら正に必殺と言って良い代物だ。

 今回は様子見であるはずだから使ってくる可能性は少ないが、絶対とは言えない。

 原作でのセイバー戦のように、命令忘れてぶっぱ、なんてこともあり得る。

 

「そこで僕の出番ってわけだ――変ッ身!」

 

 掛け声と共にいつものポーズ。この間、コンマ一秒。

 蒼銀の鎧を身に纏った慎二に、ランサーが僅かに眉を上げる。

 

「それは……」

「フッ……やっぱり見る人が見ればわかるんだね」

 

 ダブルバイセプスからのサイドチェスト。

 月下で煌々と輝く鎧を、青タイツ野郎に見せつける。

 そして極めつけは――これだ。

 

「いでよッ! 死棘の槍ィ!」

 

 朱槍が慎二の手の中に現れる。

 ランサーの瞳が、今度こそ驚きに見開かれた。

 

「その槍……鎧といい、テメェ……何モンだ?」

「間桐慎二――ただの改造人間さ」

「……ふざけてんのかテメェ……」

「ふ、ふざけてないわい!」

 

 何をおっしゃる青タイツ。

 ホントのことしか喋ってないというのに。

 

「……」

「……」

「……なんか言ってよ! ねぇ!?」

 

 沈黙が痛い。

 ついでに後ろの二人から突き刺さる視線も痛い。

 何も悪いことをしていないのに。なぜだ。解せぬ。

 

「と、とにかく! まずは僕が相手だ!」

「お、おう」

 

 気を取り直して槍を構える。

 広く平らなこの庭であれば、持ち前の機動力が殺されることもない。

 莫大な推力、その全てを十全に扱い切ることが出来る。

 

 スラスターを全開に。

 噴出した魔力によって、蒼銀の鎧が深紅に染まる。

 

「さて、行くぞクランの猛犬!」

「テメェ、俺の真名を――!?」

 

 推進方向を前方に設定。発進。

 魔力放出によって地面は抉れ、慎二が通った後には芝生一つ残っていない。

 明日の朝一で庭師さんに来て貰わなければならないだろう。

 突進、そして激突。朱槍が軋みを上げる。

 円の軌跡を描きつつ、突進、離脱をくり返す。その度に火花が舞う。

 

「へっ……色物かと思ってみれば、意外と楽しめそうじゃねぇか」

「色物ちゃうわぁ!」

 

 こちとら悪の組織に造られた由緒正しき改造人間だ。

 出自的には某バッタ怪人さんと同系統である。

 決して色物ではない、断じてない。

 

 前面のスラスター展開。後方に飛翔。そして跳躍。

 飛び上がり深紅の閃光となった慎二が夜闇を切り裂く。

 宙を舞い、穂先で狙いを定め急降下。さながら隼のような軌道だ。

 

 スラスターと重力による加速が合さり、一瞬で音速に到達。

 莫大な推力を保ったまま、深紅の閃光がランサーへと迫る。

 

「甘いな」

 

 ランサーは卓越した技巧で慎二の槍を受け流し、その穂先をズラす。

 推進方向を変えられた慎二は、自らの推力を殺し切れぬまま地面へと激突した。

 

「くっ!」

「そらよ!」

 

 追撃とばかりに振り下ろされた槍を転がりつつ躱す。

 全身のバネを使って飛び起きるも、さらに起き上がりに重ねて二撃、三撃。

 繰り出される高速の刺突が慎二の装甲を僅かに抉った。

 位置は頭と心臓。的確に急所の位置を突いてきている。

 

 流石はケルト有数の英霊と言ったところか。

 アサシン戦の反省で装甲を強化していなければ即死だった。

 すぐさま鎧の破損部を修復し、虚勢を張りつつ吠える。

 

「まだまだァ! 勝負はここからさ!」

「ハッ、かかって来な!」

 

 上空からの攻撃は通用しないと見た。

 ならばと庭を縦横無尽に駆けつつ、すれ違いざまに突進(チャージ)をかける。

 

「そらどうした! 突進するだけしか能がねぇのか!?」

 

 困った。その通りである。

 馬鹿の一つ覚えで突進をするだけでは勝てないようだ。

 とはいえだ。ケルトの英雄たる彼に技巧で敵うわけもない。

 そうなれば手段は一つ。

 

「不意打ち上等! 真の英雄は眼で殺す(ゲイ・ボルク)!」

「はぁ!?」

 

 一撃必殺、眼からビーム。

 しかし残念。慎二の攻撃は当たらなかった。

 

「ちっ……躱したか……」

「躱したか、じゃねぇよ! なんだそれは!?」

 

 マトリックスめいた回避姿勢から復帰したランサーが叫ぶ。

 なんだと聞かれても、そんなもの決まっているじゃないか。

 むしろ本家本元の彼のほうが良く知っているはず。

 これこそは謎の魔術結社に改造されて得た最終奥義。

 

「そう、ゲイ・ボルクさ!」

「んなわけあるかぁ!」

 

 必死の形相で否定された。解せぬ。

 これはゲイ・ボルク。取り扱い説明書にはそう書いてあった。

 おそらく、きっと、めいびー。

 外国語だったせいで良くわからなかったが、多分そのはずである。

 

「もういい、わかった」

「うん? 何がわかったっていうんだい?」

「その槍はゲイ・ボルクじゃねぇ。ガワだけは似せてるが別モンだ」

「……なんだって?」

 

 それは聞き捨てならぬ。

 こちとらゲイ・ボルクを売りにして戦っているのだ。

 本家から否定されて、はいそうですかと頷くわけにはいかない。

 

「だったら試してみようじゃないか、この槍が本物なのかどうか」

「やめとけ、結果は見えてる」

「何事もやってみなきゃわからないものさ」

「……後悔しても遅いぞ」

「それはこっちの台詞だよ」

 

 弾かれるようにして同時に距離を取り、そして朱槍を構える。

 急速に高まっていくランサーの魔力。

 来る、あの外れることで有名な一撃が――来る。

 ランサーの魔力に同調するようにして、慎二もまた魔力を高めていく。

 そして張り詰めた糸が切れるように、その時は訪れた。

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!」

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!」

 

 全く同時に放たれた朱槍は、同一の軌跡を描き――激突、拮抗。

 因果逆転の槍が同時に放たれれば、呪い同士が克ち合い相殺される。

 なんだほら、やっぱり大丈夫じゃないか。

 これは間違いなくゲイ・ボルク。本家と当たっても対抗できる。

 

「――えっ?」

 

 けれどそれは一瞬のことで。

 ミシリ、と嫌な音が慎二の手元から響く。

 

「だから言っただろ。テメェの槍は別モンだってよ」

 

 一瞬の拮抗の末、慎二の槍は粉々に砕け散っていた。

 そして残った深紅の閃光が、獲物を喰らうかのように慎二の胸を穿る。

 

「兄さん!」

 

 桜の叫びが間桐邸に木霊した。

 刺さった朱槍を引き抜いたランサーが吐き捨てる。

 

「戦士としちゃあ三流も良い所だったな」

 

 糸の切れた操り人形のように、慎二が崩れ落ちる。

 咄嗟に駆け寄ろうとした桜をライダーが押しとどめた。

 

「いけませんサクラ! 近づいては――」

「離してライダー! 兄さんが!」

 

 その様子を眺めるランサーがつまらなさそうに鼻を鳴らす。

 慎二からゆっくり視線を外すと、朱槍の切っ先をライダーに向けた。

 

「次はテメェだ大女、さっさと構えろ」

「……いえ、まだ私の出番ではないようですよ」

 

 首を横に振ったライダーに、ランサーが訝しげに問いかける。

 

「あン? テメェ以外にまだ隠し玉があるってか?」

「……いや、隠し玉はないよ」

 

 返って来るはずのない声。

 有り得ないモノを見るかのように、ランサーが振り返る。

 

「僕はまだ終わってない……それだけのこと!」

 

 心臓を貫かれ、それでも慎二は立ちあがっていた。

 抉られた胸から、血の代わりに深紅の魔力が溢れ出ている。

 

「……まさか不死の類か?」

「そんな大層なもんじゃないよランサー……ただの一発芸さ」

 

 体内の魔力機関が、破壊された心臓の代わりをしている。

 血液の代わりに循環するのは魔力。

 魔力が尽きない限り止まらない。それが慎二の肉体であった。

 

「さぁ、第二ラウンドといこうか」

 

 なおも戦意を滾らせる慎二をランサーが制す。

 

「やめとけ。その有様じゃあ戦うのは無理ってもんだ」

 

 確かにランサーの言う通りだ。

 ゲイ・ボルクによって心臓の代用たる駆動炉を失ってしまった。

 サブ炉心と備蓄魔力でなんとか動いているものの、いつ止まってもおかしくない。

 満身創痍と言って良いその有様に、見ていられないと桜が叫んだ。

 

「ランサーの言う通り限界です、もうやめてください兄さん!」

「いやセーフだ! 先っちょ、先っちょが入っただけだから!」

「アウトですよ! 思いっきり全部入ってます! むしろ抉れてますから!」

「病は気から! 怪我も気合で補え――」

「補えてません! 胸から色々と漏れてますからね!?」

 

 チッ、いつものノリで誤魔化せなかったか。

 流石に胸に大穴開けた状態で説得もナニもない。

 しかし、だがしかし。

 

「それでも……男には引けない一線って奴があるのさ!」

「兄さん……」

 

 桜の静止の声を振り切り、ランサーに向き直る。

 確かにこのままでは戦闘続行は不可能だ。

 けれども慎二には、こんな時のための最終手段がある。

 

「――ハァーン!」

 

 慎二は自らの両内腿を刺突。

 次の瞬間、衰えかけていた魔力が間欠泉の如く噴出した。

 明らかに尋常な量ではない。

 まるでタガが外れたような放出の仕方だ。

 

「あ、あれはまさか!」

「知っているのですかサクラ!」

「ええ、あれは兄さんの最終兵装……」

 

 内腿にあるボタンを刺突することによって、貯蔵魔力を開放する装置。

 その名も――セッカッコー。

 ちなみに説明書には、エマージェンシーなんとかと書いてあった。

 

「でもあの技は諸刃の剣……」

「……そうなんですか? 私には覚醒してヒャッハーしているように見えますが」

「今の兄さんは貯蔵魔力で無理矢理体を維持している状態なのよ……!」

 

 そんな状態で貯蔵魔力を戦闘に回せば――

 桜が叫ぶや否や。慎二の肉体に異変が訪れた。

 

「ゴフッ――!」

 

 突然の吐血。そして胸から噴き出す鮮血。

 肉体を維持していた魔力をカットした結果だ。

 

「……い、命は投げ捨てるモノォ……!」

 

 最早、朱槍の再構築に回す魔力すら惜しい。

 一瞬の思考の末に選択されたのは、徒手空拳による格闘。

 拳を握る慎二を、ランサーが鼻で笑う。

 

「……満身創痍の上に素手……自棄になったか?」

「自棄かどうか……試してみるといいさ……!」

 

 絞り出すような言葉と共に慎二が取ったのは――祈り。

 つまりは合掌の構えだった。

 

「なんだ? 神様にでも祈ろうって――ッ!?」

 

 瞬間、ランサーが真後ろに飛んだ――否、吹き飛ばされた。

 土埃を上げながら転がり回り、正門付近に達した所でやっと立ち上がる。

 朱槍を杖にしながら慎二を睨み付けるその瞳は、困惑の色に染まっていた。

 

「テメェ……今、何を……」

「感謝を捧げた。それだけだよ」

「……何ィ?」

 

 祈り、そして正拳を放つ。ただそれだけを毎日愚直に繰り返した。

 磨き上げられ、反射の域にまで達した一撃は音すらも置き去りにする。

 ネタで始めた感謝の正拳突き。それはいつしか本物となっていた。

 いくら英霊といえども容易く反応出来る速度ではない。

 

「ユクゾ――」

 

 言葉だけを置き去りにして慎二の姿が消える。

 いや、消えたのではない。

 慎二の踏み込みによる加速がランサーの知覚を上回っただけだ。

 

「マジカルリバーブロー!」

「――チィッ!」

 

 流石は英霊と言うべきか。

 寸での所で朱槍を盾にし、ランサーは慎二の拳を受け止めた。

 しかしここで終わる慎二ではない。

 

「かーらーのー! マジカル発勁!」

 

 魔力が慎二の体内で渦を巻き、加速。

 轟音、そして衝撃。

 撃ち出された魔力は拳を起点に、爆発する。

 

「オラァァァ!」

「なにッ――!?」

 

 槍ごと腕を弾き上げ、がら空きになった胴。

 そこ目がけ、踏み込む。腰を回転させる。

 スラスターからの推力を得て加速したエネルギーを拳に集中――叩き付けた。

 

マジカル崩拳(ゲイ・ボルク)!」

 

 慎二の右拳に深紅の魔力が迸った。

 炸裂――肉を抉る感触がハッキリと伝わってくる。

 このまま心臓を抉りとってやる。

 

()ったァ!」

「――甘ぇんだ、よォッ!」

「なッ――!?」

 

 放たれたランサーの一撃が、腕を振り切った姿勢の慎二を襲う。

 咄嗟に腕を盾のように構えるが、朱槍は易々と鎧を切り裂き、腕を刎ね飛ばした。

 

「嘘だろ……ッ!」

 

 どうやら鎧の強化が追い付かなくなっているようだ。

 いよいよ魔力切れが近いらしい。

 慎二は鳩尾を押さえて後退するランサーを睨みつける。

 互いに満身創痍。次に動いた時が決着。

 しかし――ランサーは槍の切っ先を下げ、間桐邸の正門まで後退した。

 

「……悪いがこの勝負、預けたぜ」

「なんだって?」

 

 ここまで殺りあっておいて、今更引くのか。

 訝しげな慎二に対し、ランサーが忌々しそうに答えた。

 

「雇い主の意向でな――業腹だが仕方ねぇ」

 

 そういえばそんな設定あったよーな気がする。

 ナイス麻婆。ナイス愉悦。

 率直に申して、続けていれば負けていた可能性が高い。

 

「次は殺す。首を洗って待ってやがれ」

 

 慎二は退却するランサーを無言で見送る。

 その姿が完全に見えなくなった所で、ホッと息を吐いて膝をつく。

 ライダーが尋ねた。

 

「追いますか、シンジ」

「いや、放っておいて良い」

 

 ランサーのスキル構成からして、戦闘力は健在であると見るべきだ。

 手負いの獣は恐ろしい。ライダーを単身で向かわせるわけにはいかない。

 それよりも――

 

「この怪我をなんとかしないとね」

 

 心臓を抉られ、腕は刎ね飛ばされ、さらに出血多量。

 有様を現すのであれば、控えめに言って動く死体(リビングデッド)

 肉体を維持している魔力も底を尽きかけている。

 

 所謂、絶体絶命ってやつだ。

 このまま放っておいたら普通に死ねる。

 

 こちとら曾孫の顔を見るまで頑張ると決めている。

 胸に大穴が開いた程度で死んでやるワケにはいかない。

 

「そんなわけで早急に修復用の魔力を調達しないといけないワケだけど――」

 

 慎二の肉体には非常に高い対魔力機能がある。

 自然に任せる以外に、魔力を回復させる方法はない。

 外部からの魔力供給も異物として弾いてしまうからだ。

 

「ふふ、それなら私に良い案がありますよ」

 

 ニッコリと笑顔を向ける桜。

 なんでだろう、嫌な予感しかしない。

 

「こんなこともあろうかと、用意しておきました!」

 

 桜が取り出したのは、どっかで見覚えのある蛍光ピンクの物体。

 アレだ、慎二の外装に桜の魔力が籠められた卑猥な物体エックスだ。

 さらに魔力が充填されたのか、非常に禍々しい見た目になっている。

 

「そ、それをどうしようっていうんだい、桜?」

「そりゃあ……どうにかして体内に取り込んで貰うしかありませんね」

「……どうやって?」

「昔、言いましたよね? 消化器系からなら大丈夫って」

「いやぁ、それは無理だよ桜」

 

 例の事件以降、慎二は自らの肉体に残るセキュリティホールを潰してきた。

 残念だが魔力の“経口摂取”はもう――

 

「大丈夫ですよ兄さん、消化器系は上だけじゃありませんから」

「……上? まるで下があるような言い方だね」

 

 笑顔のまま迫って来る桜に、薄ら寒いものを感じる。

 おかしいな、震えが止まらないや。

 

「実は前から興味があって」

 

 おい。

 

「ずっと試してみたいと思ってたんですよ」

 

 待て。

 

「安心してください兄さん、上手にシてあげますから」

 

 もうオチがわかった。

 無言でスラスターを展開した慎二を、ライダーが羽交い絞めにする。

 

「ええぃ、離せライダー! 僕の貞操の危機だ!」

「命には代えられません、諦めてくださいシンジ!」

 

 こうなったら令呪じゃ、令呪を持て。

 なに、ワカメに令呪はない?

 そんな。

 まさか。

 信じられない。

 

 嫌でござる、絶対に嫌でござる。

 後生じゃ、後生じゃから見逃してくれ。

 

「そ、それに私も少し興味が――」

「おぉう……」

 

 天を仰いだ。

 どうやら味方は居ないらしい。

 

「そういうわけで観念してください、兄さん」

 

 いやだ、やめろ、やめてくれ――

 しかしそんな懇願は聞き届けられず。

 その晩、慎二の悲しげな声が鳴り止むことはなかったとか、なんとか。

 

 

 




頼光サンはともかく、なんで☆4の茨木ちゃんが出ないんですかね(半ギレ
なお、すまないさん(宝具強化

シュテンノー事件でだいぶキてたけど、頼光に止めを刺されました。


円卓勢関係で新要素出ると設定的にアレかなって思って様子見してたのに、特に影響はなかったでござる(既に相当アレなのは気にしない


聖杯を槍ニキに使おうか、メッドゥーサ様に使おうか悩む。



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