試作 艦娘たちの憂鬱   作:かのえ

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タイトルは飛龍でもメインは赤城


10 飛龍の憂鬱

 我が艦隊に赤城が加わったのと同時に間宮さんがやってきた。戦果を上げてるし戦闘する艦だけで鎮守府を回すのも難しいだろうという上の判断だ。これを見るに先日川内が持ってきた危ない情報、俺を建造用提督にするみたいな話はいまのところ保留になっているようだ。艦娘つくるだけの機械になりたくないし提督頑張るぞい!

 

「やっと秘書艦二人体制から解放されるのね」

「なのです」

 

 結構前から五十鈴の言うように秘書艦二人体制になっていたのだけれども手が回らないためにそのうち大淀が着任することが確定した。彼女が上とを取りもつことによって作業の円滑化が進む。着任当初から秘書艦をしてもらっていたために、引き継ぎ失敗に寄る仕事の不備が減るよう電をほぼ秘書艦の一人にしていたが、ようやくある程度自由にしてあげられる。

 

 五十鈴は長良型二番艦の軽巡洋艦である。どこがとは言わないけれど軽巡サイズではないし重巡以上かもしれない、でかい。彼女は長良型の娘さんであるので阿武隈の姉にあたる――が、まるで全然! 容姿が程遠いんだよねぇ! どこがとは言わないけれど! でけえ!

 

「失礼します」

 

 馬鹿で失礼なことを考えながら一息ついていたら扉が叩かれて二人の女性が執務室へと入ってきた。片方は先日迎えに行った赤城型一番艦「赤城」。もう片方はその直後建造した飛龍型一番艦、もしくは蒼龍型改「飛龍」である。飛龍曰くどちらでもいいとのことで、そして書類上では飛龍型一番艦になっている。

 

 赤城、飛龍共に弓道着のような装いをしておりすでに着任していた二隻の軽空母とまた異なる。弓道、ということで二人とも神通さんに負けないくらいに背に芯が通っているかのような立ち姿で大変美しい。幾度か弓を引く姿を見せてもらったが、周囲の空気までその弓のように張り詰めたのには思わず息を呑んだ。

 

 さて、毎度のごとく艦娘に相対した時には前世の知識とくらべてしまうことが多々ある。赤城は大食い女王で飛龍は多聞丸LOVEだとか……合ってるわ。ただ赤城の大食いはそういう趣味ではなくその艦種に見合った必然的なもので、大体飛龍もそんなもん。あと鎮守府のペットまとめ役の戦艦「比叡」もね。

 比叡は着任と同時に鎮守府のペットを全て自らの手下とした、すげえ! まあ海兵学校の教官をしていたくらいだし、艦時代は練習艦でもあったしね。ということで夕立、時雨、ついでに多摩は比叡に従っている。やはり比叡は犬っぽいと思っていた自分の目に狂いは無かったんだな! 海兵学校時代は犬のように厳しく躾けられたけど!

 

 比叡のことは一旦置いておく。大食いというイメージが強かったために、実物の赤城と相対して会話して生活をともにするうちに彼女がただの大食いキャラではない、と実感し始めた。戦いに対する真摯さは誰にも負けていない、おそらくこの鎮守府一かもしれないくらいだ。艦載機の運用に対しても先輩格になる龍驤や同僚でもあった飛龍と話し込んでいる姿がよく見受けられる。

 普段落ち着いた『静』な印象の彼女が『動』に変わるのは戦闘時のみ。俺はそこに微かな憧れと形容しがたい恐ろしさを感じている。

 

「おつかれさま飛龍、そして赤城さん」

「五十鈴もおつかれ」

 

 五十鈴と飛龍が親しげに言葉を交わす。それもそのはず、二人ともあの「山口多聞」に関係があるのだから。五十鈴が「私のパートナーだった五十六に多聞、ほかの人たちは出世したわ。でもあなたはそれを越えるわね、必ず!」と言ってきたときにはご冗談を、と笑ってしまった。んな人達と同じくらいになんて期待しすぎですよ五十鈴さん、と返したところむうと頬を膨らませられた。かわいい。

 

「こちら演習結果のまとめと改善点をまとめたものです」

「相変わらず早いな赤城。少しは休んでくればいいのに」

「いえ問題ありません」

 

 すました顔で答えられた。母港に帰還してそんな時間が経っていないというのに演習結果だけでなく色々まとめてくる二人の仕事の速さに舌を巻く。

 ただ休養は大事だしきっと付き合わされた飛龍はつかれているだろうなあと赤城の隣に並び立つ彼女に顔を向けてみたのだが、疲れの色なんて見せちゃいない。ちらりと電に視線を投げて窺えば彼女は瞳を閉じて頭を横に振った。そうだった、忘れていた。普段朗らかな飛龍を見て忘れていたが、その実は神通さん並みかそれ以上に"ヤバい"やつだった。彼女の尊敬する山口多聞は人殺しとも恐れられていた人物……ッ!

 休養とれと言っても無駄だろうなあと諦めた。

 

「ご苦労、早い報告ありがとうな」

「当然のことです」

「それじゃ提督、また夜にね!」

 

 丁寧に礼をする赤城に片手をぴょこんと跳ね上げて体を反転させた飛龍。ううん空母こわい、駆逐艦に癒やされたい。

 

「現実逃避しないで仕事をするのです。大淀さんの着任まで時間がまだまだあるのですよ」

 

 駆逐艦も怖い! 俺に逃げ場はないのだろうか――なんかすでに逃げられないように包囲網敷かれて手遅れになってる気がしたんだけど気のせいだよね? ……ね?

 

 

 

 

「あーかぎっ! おなかすいちゃった。間宮さんのところ行こうよ!」

「はい、喜んで」

 

 赤城は飛龍に誘われて間宮のいる食堂へと向かう。ちょうど三時頃ということもあってか、普段鎮守府内に散らばっている妖精たちが食堂へと集まり間宮からお菓子を受け取っていた。非番の駆逐艦もそのなかに混じって甘味を楽しんでいる。

 執務室で提督にくっついていた妖精もどこから持ってきたのかお菓子を食べたり昼寝をしていたりしたが、彼女らはそういう自由な存在だ。彼女らに助けてもらっている立場の大本営もそれを咎めないし、提督たちも邪険に扱ったりもしない。いたずらをされなければ、ではあるが。

 いたずら好きの妖精といたずら好きな艦娘の駆逐艦「卯月」が結託して騒ぎを起こしていたなあと赤城はぼんやりと思い出す。

 

「赤城はほかの艦隊にしばらくいたんだよね?」

「はい、私以外は電さんが私とはまた別の艦隊にて建造されたようです。他にも提督の艦は様々な鎮守府にいくらか散らばっているみたいですよ?」

「へぇ、いつかは迎えに行ってあげたいね」

「戦力を集中させすぎるのを恐れているようで。艦娘が最も力を発揮できるのは提督の下だというのに許されないのは……」

 

 珍しく赤城が不快感を示して眉をハの字に歪めるが、頭を振って普段の顔に戻す。

 

「べつの鎮守府ではうちの加賀さんが提督を下僕にしていましたよ」

「あぁ~、言っちゃあ悪いけど加賀は人当たりキツいもんね。作戦の改善とかで顔突き合わせているうちにその提督の心折れちゃったのかな」

「というよりかは"そういう"のに目覚めてしまったらしく、熱のこもった視線を加賀さんに投げていましたね」

 

 思わず飛龍はうわあ、と言葉を漏らしてしまう。確かに加賀は冷たそうな表情を常にしており、その手の人間から大変人気が出そうではあるが。しかし、その実内面はひどく乙女的であって彼女は今の提督のそういう趣味に絶対辟易としているだろう。鉄面皮が崩れかけているかもしれない、と想像して飛龍はぷぷぷと笑ってしまった。

 

「やっぱり加賀って面白い。けど提督と"繋がる"機会とかなかったはずなのにどうやってそんなことが出来る練度になったのよ」

「建造されてから死に物狂いで探し当てたのではないでしょうか」

 

 だってほら、加賀さんは少女漫画脳ですし。そう続けられた赤城の言葉に飛龍は今度は思わず吹き出してしまった。一通り笑った後にふと飛龍は気になる。

 

「赤城は提督のこと探したりしなかったの?」

「しませんよ。だって提督の下に戻った時に情報を万全に揃えておけばその後の戦いがより完璧に進められるでしょう?」

 

 赤城は加賀と色恋沙汰に関する想いを足して割ればちょうどいいのではないかと何度目かになるか分からない感想を飛龍は抱く。

 この赤城は戦闘に関すること以外へは大概鈍感だ。だからはじめて知ったものに強く執着する癖がある。『前』の時ははじめて感じた美味、というものにしばらく固執して周囲が見えなくなっていた。一時期呆れられて、食に関係のない補給のための資材として手に入れてきたボーキサイトでさえも「赤城給食」と呼ばれてたりもしたのだが、後日それを知った赤城は顔を真赤にして恥ずかしがっていたのはとてもめずらしい光景だったと飛龍は記憶している。

 そう、盲目的なのだ。一途と言えば聞こえが良いがそういったレベルを超え盲目的なのだ。赤城の提督に対する感情はもう恋を越え愛を超越し、崇拝の域にまで達している。龍驤も似たようなもので、二人とも狂気の域にまで達していた。

 

「深海棲艦を潰せば提督は喜ぶ。相手は人間じゃない、容赦も慈悲も要らないわ。ただ倒せばいいの、倒せばね……」

 

 あいつらは船の怨霊だし自分たちが沈んだ時の無念さとかも混じってると思うんだけどなー、と飛龍は思ったりもしたが口にするのをやめた。言ったところで「でも敵は敵でしょう?」と返されるのだ。自分や相棒(加賀)に似た容姿の敵が現れて、深海棲艦は自分たちのなっていたかもしれない姿、憎しみにとりつかれた姿と言ってるようなものなのに情け容赦なく艦載機を放ったのを飛龍は忘れていない。

 明らかに春雨だったり那珂や阿賀野だったりすんのにオーバーキルしていくのだ。いつもと変わらない表情で仲間に瓜二つな敵を粉砕していく姿は味方にも恐怖を与えていたんだとか。

 

「あ、あの。出来ればたすけ」

「彼女は敵よ?」

「見るからに春雨ちゃ」

「深海棲艦よ?」

 

 初期艦である電が敵わない艦の一人、それが赤城であった。




SERIOさん誤字報告ありがとうございました。

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