試作 艦娘たちの憂鬱   作:かのえ

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閑話
金剛型会議へようこそ


 洋室、金剛型四姉妹の部屋。ふかふかなソファや絨毯など、畳の上にちゃぶ台などといった扶桑型とは全く異なる趣なそのお部屋。高身長でありいまこの部屋にいる他の四人よりも頭が一つ抜けた彼女は、某朝潮型五番艦に「あのひとすごい!」と恐れられている女性である。

 眼鏡を光らせた彼女、金剛型戦艦四番艦「霧島」は咳払いをひとつ、目の前にいる三人の姉とどうして連れてこられたのか分かっていない女性を見据えて声を発した。

 

「えー、金剛型会議を行います。議長はいつもどおり私、霧島です」

 

 霧島の言葉のあと、そろーっと手があげられる。四姉妹は全員その視線を彼女に向けた。

 二番艦、比叡の隣に座らされている彼女は、この国の人間にしては長い色素の少し抜けた髪の毛をポニーテイルにまとめた和風美人である。扶桑に似た、と言えば分かりやすいし名前からして共通点がある。

 そんな彼女の名前は大和。大和型一番艦の「大和」である。どうして金剛型会議に連れてこられているのかと言えば、姉のようで母のような比叡にガシっと掴まれ連れてこられたからである。彼女ら2人の成り立ちからか顔立ちが非常に似通っており、知らない人が見れば仲の良い姉妹だと見ただろう。

 

「はい、発言を許可します名誉金剛型の大和さん」

「名誉金剛型というのも気になりますが、どうして大和を……場違いというか」

「気にしなくていいのデース。比叡の妹分なら私の妹も同然デース!」

「そ、そうですか」

 

 大和はこの国の大多数の人間らしく外人に弱いようだ。金剛は帰国子女だけど。

 

「榛名は大丈夫です!」

「霧島にも妹ができたようで嬉しいわ。歓迎するわよ~」

「だから気にしないで、大和」

 

 比叡がそう言って大和の肩をポンポンと叩く。そして「金剛型は姉をお姉さまって呼ぶから、大和も比叡のことを比叡お姉さまって呼んでね」と一言。比叡の言葉に金剛型姉妹は揃って首をうんうんと縦に振った。

 いきなりのことに戸惑い「えぇ……」と口にしてしまうも、真剣な他四人の表情から大和は顔を赤らめながら呟く。

 

「こ、金剛お姉さまこれからよろしくお願いします」

「カワイイ!」

 

 金剛が思わず椅子を蹴って立ち上がり大和へと抱きつく。それを見た比叡がずるい、と金剛と大和2人にガバッと抱きついた。榛名がおずおずと三人に近寄って体を寄せ、最後に霧島もくっつく。金剛姉妹丼カッコカリの完成である。後日、大和の妹の武蔵も巻き込まれて更に大きな塊になったとかならないだとか。そして清霜がこれを見て「駆逐艦も集まって戦艦になろう!」と言い出したとか。

 

 あわあわと首筋まで赤くした大和が開放されたのはそれから数分後。霧島が仕切り直しといった形で切り出す。

 

「では本題に入りましょう。前回は確か司令の好みは『不幸な子』かもしれないというところで終わりましたね」

「は、榛名は大丈夫です」

「榛名、全然大丈夫じゃない顔デース」

「まるゆちゃんを吐き出せばいいのでしょうか!?」

「妙なことを言ってないで正気に戻るネ!」

 

 榛名、この面子の中では一番の幸運艦。今にも死にそうな顔になり変なことを口走ったのを金剛に咎められる。なおもし幸運艦が幸運の源のようなものを分け与えることが可能であるならば扶桑型が黙っていないことは明らか。

 

「扶桑姉妹に翔鶴、雲龍あたりだったよね。確かに司令は好みみたいだったけれど」

「はい、比叡お姉さま。ですが、明らかに不運な大鳳にはそこまでなようです」

 

 霧島の言葉に全員が大鳳を思い浮かべる。陸奥に匹敵するかそれ以上な不運を持っており、不幸だわと言う方の扶桑型ですら同情的な彼女。しかしながら提督はそこまで好みといった素振りを見せていなかったし、むしろ仲の良い訓練仲間のようであった。

 ちなみに今日も長良型の一部と大鳳、提督で走りこみに行っている。

 

「……思い出せば別に不幸でもなかった加賀や蒼龍。むしろ幸運艦な飛龍にも鼻の下を伸ばされていましたね。例の日誌にも色々書いていますし」

 

 榛名の言う彼の日誌は色々な情報を得るのに手っ取り早いし確実なものである。川内が書き写し青葉が隠し撮りした写真などを付けて皆に回す、あとたまに秋雲の絵。提督にプライバシーというものはなかった。下手をすれば艦隊の大多数が彼の部屋の合鍵を持っており、PCのパスワードまで知っている。

 

「やっぱり胸デスか。shit!」

「……金剛型も負けず劣らずだとは思いますけど」

 

 大和は時々浴場で見かける彼女らの胸部装甲を思い出す。金剛型はパッと見た目そこまでの大きさを持っていないように見えるが実は全員着痩せしている。というかサラシでキツくしばっているためにあまり無いように見えるのだ。提督も私服姿を見たことあるし知っているはずである。日誌にも「金剛型の私服はヤバい」て書いてあった、大和は知っている。

 

「それでは今回は胸で考察しますか」

 

 異議なし、と霧島の言葉に大和以外が返す。

 

「空母勢つよいよね、胸だと」

「大鳳さんみたいなフラットな空母にはセクハラな言葉書いていませんもんね」

 

 比叡の何気ない言葉に無意識に毒を混ぜつつ榛名が返し、続ける。

 

「雲龍型ですよ雲龍型。なんですか末っ子の葛城さん以外どうなっているのですか」

「少食なのにあのスタイル、霧島の面白い分析対象ですあの姉妹。秋月型もですがどうして食べる量に比べて肉付きがこう、女性らしいのでしょうか」

 

 一応言葉を選ぶあたり自称艦隊の頭脳である。なお興奮していたのであればもっと乱暴に「あの人達えっちな肉体してますね!」とド直球な言葉を口走ったのは金剛には容易く想像できた。

 

「たくさん食べてそれなりなスタイルの大和、そこのところどう思うかしら?」

「た、体質でしょうか」

 

 思わぬところで飛び火したので大和は身構える。こういった話題になると妹の武蔵は「大和は胸に徹甲弾の被帽つけてるからな!」と胸元をガンガン叩いてカンカン音を鳴らしてくるのである。大和撫子らしく恥じらいを持つ大和は、元からサラシしか身に着けていないような痴女と言われても仕方のない格好の武蔵の、そのでかい胸を同じように叩いてみたいと思っているが叩けずにいる。

 一方清霜はこれが戦艦、と目をキラキラさせながら武蔵の胸をわっしと掴んでいた。

 

「うー、でも単純に大きさだけなら五十鈴や浦風、浜風もネ」

「けど色気が違いますよね、空母とかに比べれば」

 

 その比叡の何気ない指摘に電撃が走る――

 

「色気……なるほど陸奥は色気ムンムンネ」

「金剛型は金剛お姉さま率いる愉快な四姉妹といったものなので色気とは少し遠いわ……この霧島が気付けないところを、さすがお姉さまです」

「なるほど、提督を誘惑してきます!」

「そういうのが色気から遠いネ! 榛名落ち着くデース!」

 

 再び混沌としだした金剛型会議に大和は思わずため息をつく。そして窓から空を見上げて呟くのだった。

 

「大和型も色気とは少し遠いですね」

 

 夫の影を踏まないような場所にいそうな大和、見るからに色気とは別ベクトルな勇ましさの武蔵。確かに大和の言うとおりに色気とは遠いところにいる姉妹であった。




つづくかも

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