毎日のように扱かれて艦娘と共に戦う方法を日々学んでいたら、気が付くと卒業の日を迎えててんやわんやしているうちに鎮守府に着任する運びとなった。海兵学校の提督科を卒業したからといって通常すぐに提督になんてなれるわけもなく、雑用や副提督などといったことをこなしてからようやく一人前と認められ艦隊を与えられるのだが。
まあ主席卒業だし教官からの推薦もありかつ提督の空きが出たとか仕方ないね、特例だ! お兄さんこのままエリートコース突っ走ってお金たくさんもらってかわいい嫁と子どもに孫に囲まれた生活送っちゃうゾ。
いやあ、教官の扱きは辛かった。入学当初は中の下くらいだった成績が一方的な虐めによってみるみるうちに上昇、卒業試験前にそれまで常に一位だったお坊ちゃんイケメン君をぶっ倒し躍り出たのだった。いやあ田舎からかなり出世したものだよ、今世の家族も喜んでくれるかなあ。
「主席おめでとう、これから一緒に護国のため頑張っていこうな」
「おう」
次席のイケメン君、中身もイケメンで惚れてしまうやろ! ちなみに惚れた場合恋敵は鹿島教官になる模様。勝てない(確信)
「お前運いいよなあ、教官たちに目をかけてもらえて。それに先輩に現役提督がいるんだろ?」
「こいつの先輩って五月雨連れたあの人? なんかゲッベルスに似た顔の」
「先輩というか……友だち?」
「そこ疑問形なんだ」
だって提督になろうってなったきっかけ。あいつのとこにいる島風がすんごい可愛かったから。可愛いは正義、仕方ないね。前世でもホイホイされたのは島風だったしやっぱり島風可愛いんだよなあ島風。
無事卒業して、同期は別鎮守府に回されたり同じとこでも工廠や裏方だったりとあまり会うことは少なくなってしまったが。けれど緑色のスマホのトークアプリでつながってるしだって俺たち仲間だもんげ! ってやつ。
「では初期艦を選んでください。現在初期艦として選べる艦はこちらとなります」
本営所属の軽巡洋艦「大淀」さんから渡された資料に記載された初期艦は、うんいつも見るメンバーだった。主人公、ツンデレ、メイド、プラズマ、ドジっ子の五人。しばらく艦隊の運用を学ぶためにいろんな鎮守府から艦を譲り受けることになるらしいが、この初期艦だけは自分の艦になる。
艦と提督との間には絆とかなんやらがあって力を十二分に出すためには自分の艦を使わないといけないらしい。この示された五人は俺との絆があるとか妖精さんがなんかの装置で測った。詳しくは知らん。
つまりここで選ばなくてもいつかはうちの鎮守府に移籍してくるってこと、説明終わり!
「せっかくだから俺はこの暁型四番艦を選ぶのです!」
無論前世での初期艦でもある。
「では後日、鎮守府に『電』、他鎮守府から派遣の『大井』、『木曾』、『比叡』が着任します。迎え入れる用意をしておいてください」
「了解!」
なんかバランス悪く無いかな、ほら重巡とか軽空母とかさ。あ、戦艦と空母はいいです資材を食うので……というか比叡がしばらく置物になっちゃうやだー。
「そうそう、派遣の艦娘は貴方の知る人達ですから」
ふと思い出したかのように言い出した大淀の言葉に脳内でキーカードを引き当てた決闘者のSEが流れた。どういう……ことだ……! 俺の知っている艦娘なんて友人提督のところのを除けば教官たちしかいないのだが。
「もしや教官たちがうちに……」
「はい、ですがもう教官ではないですよ? 貴方の部下です」
なんてこったい。
つまりどういうことだろうかと妖精さんを見る。学校からここまでひっついてきた妖精さんたちはみんなニヤニヤと笑うだけでなにも答えてくれない。リーダー格の一匹にじとっとした視線を投げたら露骨に目をそらされた。おい、絶対になにか知ってるだろお前ら。
考えられるのはいくつかある。妙に厳しかった元教官たちのことだ、いきなり提督になって調子に乗るんじゃないだろうなと監視に来た。あ、これ有力説だ。ふたつ目はこの俺様に惚れて、好きな子に苛めたくなるアレをしてたからついてきたとかいうのだ。いやあモテる男は辛いなあとか脳内でふざけようかと思ったけど最初に思いついたのが有力説過ぎて冷や汗が流れる。
卒業の時脳内で調子に乗ってたのバレてたんかな……。
数日が経って艦娘たちがやってきた。
俺の初めての艦たちだ。四分の三が学校の教官だけど。ものすごくやり辛そうだけど。ふと思ったんだけど教官たくさん抜けちゃって大丈夫なのかな、一応退役した艦もいるし彼女らが指導にあたったりもできるとは思うが。
「電です、どうかよろしくお願いいたします」
「重雷装艦、大井です。あのガキが私の提督なんてね、無様な作戦だけは立てないように」
「木曾だ最高の勝利を与えてやる。大井姉さんはこう言うけど大丈夫だ、お前を信じる俺を信じろ」
「比叡です! 気合! 入れて! 一緒に頑張りましょう!」
電の自己紹介にほわわ~んとなり、次の大井ので背筋が寒くなった。これが落差……っ! そして木曾に男にないはずの乙女の心臓が高鳴り比叡で気合が入る。
ふと気がついたけど大井に木曾、改二じゃない? 海兵学校時代は軽巡として色々してたから改くらいだと思ってたけど実は重雷装巡洋艦だったのか、やったー! 正面海域のイ級は会敵とともに魚雷で爆発四散! インガオホー!
それに比叡も改二な気がする。過剰戦力じゃないですかねぇ、僕は電ちゃんと共にレベル1から始めます。
「俺が提督だ。これから共に戦っていこう。とりあえず電を秘書艦として艦隊運用を始めていこうか。よろしく頼む」
俺の、俺達の艦隊これくしょんはこれからだ!
「命中させちゃいます!」
「ギエアアアアアア!」
「なのです!」
暁型四番艦「電」、練度99
「え、ええ……重巡ワンパンかよ……」
さいっしょっからクライマックスな自艦隊に提督は困惑することしか出来なかった。
※
「では行ってくるのです!」
電は意気揚々と自分の所属していた鎮守府を出発した。ようやく会えるのだ、自分の提督に。
創りだされた自分には前世の記憶があった。前世の練度と今の練度とで多大な差があったせいで思うように体が動かせなくとも蓄積された経験は、自分の提督ではない提督の下であってもそれなりの戦果を上げることができていた。
人を守るために戦う、その信念を持つ電はこの生まれ変わりに異論はない。けれどもずっとそばにいた彼が近くにいないことは、彼女の心に影を落としていた。
「お、あの子って」
「ああ、暁型の電だ。しっかしいきなり提督に興味が湧くって……もっと早ければ俺と同期だったろうに」
「いいんだよきっかけなんてなんでも良いのさ。俺は護国の心に目覚めた!」
「適当ぶっこいて……」
港町で声を潜めて行われたその会話は電の耳にはしっかり聞こえてきた。あまり適当な心持ちで提督になられてもこまる、と思いつつ何故か心がざわついてその声の方向に目を向けた。
「それにうちの親戚も海軍だったんだ」
「へえ」
「ばあちゃんの兄ちゃんが熊野の甲板掃除をしていた。つまり……俺は熊野の全身エステができる!」
「……こいつ相当なアホだ」
会話をする二人の少年。片方は海兵学校の制服で、もう片方は見慣れない学生服。地方から来たのだろうか。電はその見慣れない学生服の少年を一目見た瞬間に『繋がった』
そう思った瞬間、改装されていなかった電は改の状態に。そして練度も最大にまで取り戻した。『あの』特殊装備分の練度は取り返せなかったがそれでもいい。やっと、やっと会えた。あの提督に。
「妖精さん、あの人のことを頼むのです」
「ラジャ! ソウビハ?」
「妖精さんがいなくても大丈夫。あの提督の下でない私なら"それくらいの練度"と誤魔化せます」
「リョウカイ! マタネ!」
電から離れた妖精は彼の元へと駆け寄る。そして服をよじ登ったかと思えば手元の飲み物を奪って飲み始めた。
「ちょ、君!」
「ケプ、アリガト!」
「まあまあ妖精さんのお腹分だとそんな無いからいいだろ? てかほんっと好かれてるよなお前は」
「だよなあ。不思議だ」
彼は少年と青年の間にまで育った。奇しくもそれは電と彼が前世で出会ったときと同じ姿だった。その鋭い手腕で深海の敵との戦いを終わらせた男の懐かしい姿。電は自然と笑みが浮かぶ。
「電です、どうかよろしくお願いいたします」
あの時と同じ言葉で、同じように目一杯背筋を伸ばして愛しい提督へと挨拶をした。
(ところで派遣されてきた大井さん、木曾さん、比叡さんが改二の状態なのですが……まさか、ですよね)
そのまさかである。