艦娘にもごく稀に変異種なるものが生まれるらしい。どうして生まれてくるのかわからないが、戦闘自体に問題がないのであれば大体個性ということで片付けられる。
「とは言っても、これを個性と言って良いのか……」
むむう、と眉を顰めながら建造された目の前の軽巡洋艦を眺める。優しげな顔立ちに凛として透き通った瞳、どこか鋭い雰囲気を漂わせるも、それ以上に包容力を感じさせる。女侍、といった出で立ちで魚雷を刀のように装備し額には鉢巻が巻かれている。
軽巡洋艦「神通」、俺の目の前にいる少女は海の上では苛烈に華を咲かせる、らしい。
いやまあそれはどうでもいいのだ。普段はニコニコ笑いながらもふとした拍子にヤバい表情を見せる大井で慣れている。慣れたくもなかったけど。問題は
(この神通、建造された時から改二ってどういうことなの……)
「あの、提督。……そんなに見つめられると照れちゃいます」
顔を真赤にした、かわいい。じゃなくて
「ねえ電」
「はい?」
「この神通て俗にいう変異種ってのだよね」
「なのです」
着任初日、とりあえず軽空母レシピを使って建造してみたのだが、まあそんなうまくいくわけがなく軽巡が建造されるよと妖精さんに言われて数日待った。ゲームでは数時間以内でどんな艦種でも建造が出来たのだけれどさすがにそんな早く建造できるというわけでもない。が、船舶同様の時間がかかるということでもない。
秘書艦にしていた電からの建造終了の報告を受けて工廠へと向かったのだが、出てきたのはすでに改二の状態だった神通。
これまで確認されてきた外見上の変異種は通称『ヤング長門』のようなものだったり軽空母状態の『千歳』、『千代田』みたいなもの。というかそもそも改二というもの認識されていないらしく、見た感じ改二状態であるいまうちにいる「大井」「木曾」「比叡」だって全員書類上は改なのだ。故に俺は改二という言葉ではなく変異種なのかと電に聞いたら肯定の返事が来た。
なんで変異種と聞いたのかって? そりゃ改二っていう知られてすら無い言葉を言って怪しまれるのも嫌だったしね。
「着任の書類のための写真は撮ってあるのです」
「ありがとう、電。それじゃあ神通さん、執務室に案内するよ」
なんか神通さんってさん付けしたくならない? 俺はなる。加賀さんとか妙高さんとか語呂が良いというかなんというか。やたら神通さんは自分の左手が気になるようなんだけどどうしたんだろうか。いまうちにいる艦娘全員もだけどやたら左手が気になるらしい。なにかのおまじないだろうか、こんどあの友人提督に聞いてみるか。
「けど奇妙な縁を感じるな」
「……どうかなされました?」
「いいや、なんでもない」
前世でも最初の建造艦は神通さんだった。ほんと不思議なものだ、正面海域を電と神通さんの二隻でしばらくレベリングしてたような気がする。最初はその少し内向的な見た目に惹かれて建造できたことを喜んでいたのだけれども、史実を知ってやるときはやる娘さんだと分かった時からなるほどこれが真の「大和撫子」かとますます好きになってしまった。
改二が発表された時は狂喜乱舞したし、姿が敵に向かう覚悟を見せているようで、彼女にはかなり出撃してもらっていた。アブゥがチートになるまでは。イベントは攻略するものだからね、仕方ないね。でも半々くらいでは使ってました。
「あら神通さん」
「大井さん……大井さんも私と同じ?」
「そう、貴女も、なのね」
ああ分かっていたわ薄々気がついていたわとブツブツと大井がつぶやき始めた。というか目の前に提督がいるのに挨拶がないって提督泣いちゃうよ? いくら出身が同じだからといって無視はヤメテ!
ハッ、出身。……そうか、この二人は川崎か。カワサキかぁ……二人共強烈な個性あるもんな。川崎の面々を思い浮かべてそう思った。けどそう言えば別の造船所出身でも艦娘は全員個性的だった。
「あ、提督こんにちは~ウフフ」
思い出したように挨拶をして近づいてくる。何やら嫌な予感がして背筋に悪寒が走り、思わず一歩下がってしまう。少ししたの位置からガッと肩を掴まれ頭の高さを彼女と同じ所まで下げられる。痛い、痛いよ! 人が軍艦に勝てるわけ無いだろ!
「ねえ貴方、彼女をいやらしい目で見てたでしょ」
「い、いえ見ては」
「今回は許すけどもし彼女が別の神通だったら……」
耳元でドスの利いた声出さないでください、漏らしちゃう。提督怖くて漏らしちゃうから。てか別の神通てなに、どういうことなの。別の神通とはどういうことですか、別の神通ということですか。まるで意味が分からんぞ!
「今夜私の部屋にいらっしゃいな。この提督の下にいる娘集めてお茶をしたいわ。ね、提督? 全員の夜の日程開けておいてくださらない?」
「り、了解であります教官!」
「あらやだ今の私は貴方の船よ。うふふ……」
大井には一生勝てない、そう思った瞬間だった。
※
瞳を開けたら遠い昔の始まりと同じ光景だった。
「ケンゾウセイコウ!」
「センダイガタ! ジンツウ!」
「ニスイセン! ニスイセン!」
妖精たちの声を聞きながら体を起こす。そう、また産まれたのか。そう思うのと同時に自分の提督がまた彼であることに歓喜した。はじめて会った時の彼のポカンとした顔、大方私のような内向的に見える娘が戦場に出ることに疑問を抱いたのだろう。本当に懐かしい、また一緒に戦えるだなんて。
だけど、繋がりが足りない。特殊兵装として渡された大切な大切なアレがない。彼にとって特別な意味はなくとも、艦隊という家族の生存率を上げるためのものだったとしても、私という乙女にとっては幸せの象徴だった。
「神通さん、ですね」
「電ちゃん」
「まさか改二の状態で建造されるだなんて……」
「改二? 本当だわ、この装備は二度目の改装の時と同じもの」
そのつぶやいた独り言を耳に入れた電ちゃんは、目をまんまるに見開いて。そして驚きの声を上げた。
「もしかして神通さん!?」
「え、電ちゃん。まさか貴女も『前』の記憶が」
「はい! はい! まさかとは思っていましたがびっくりです!」
改二という名称はあまり知られていない。『前』の私達だって初めて知ったのは『大井』『北上』が大本営により改装されてようやくだったのだ。電ちゃんによれば、この世界では改二は事例が少ないためにまだ変異種の一つくらいにしか認識されていない。改二と聞いて反応出来るのは私達のような前世持ちぐらいとのことだ。
懐かしい若い提督に連れられて執務室に。途中で大井さんに出会いお茶に誘われた。大井さんが見た目改二の状態だったので思わず同じかと聞いたらそうだと言われた。なんということでしょうか、世界を超えてもまた彼女らと一緒に居られるだなんて。
「単刀直入に聞くわ。あなた達もここではないどこかで彼に指揮されていた記憶、あるんじゃないかしら?」
大井さんに集められた艦。「電」「木曾」「比叡」は本当に前の記憶を持っていた。船だったときに練習艦だった電ちゃん以外の三隻は、それもあって海兵学校で教官をしていた時に彼と出会えたという。だが、大喜びで話しかけても彼はただの教官に対する態度で懐かしさなど微塵もなかった。
記憶があるのは自分たちだけで、彼は同一人物であっても記憶が無い。かつての手腕などかけらも見せず、ただただ無知な学生だった。
「過去さえ思い出さなければよかった、最初はそう思っていたんだけどやっぱり司令は司令でさ。根本的なところは変わっていなかった。気付いてからは前よりももっともっとすごい司令になってもらおうと指導に気合! 入れました!」
「一時期比叡がしおれてたのはどうしてだって思ってたけどそうだったのか」
「む、そういう木曾だって剣にキレが無かったときありましたよ」
教官だった艦は全員、提督を一番にしようと鍛えたらしい。公私混合じゃないかな、と思ったものの自分ももし教官だったなら提督を素晴らしい提督にするために毎日血反吐を吐くような特訓をさせてた自信がある。
「……神通さんが教官じゃなくて良かったわ」
「私にも加減は分かります!」
「どうかしらねぇ」
大井さんも似たり寄ったりじゃないのかしら。この娘は好意を素直に出せずきつく当たる娘だから。
「あっ」
「どうした比叡」
「いや木曾さん。私たちはその、提督を強くしようときつく指導してたじゃないですか」
「そうだな」
「じゃあ香取さんや鹿島もかなり厳し目でしたけどまさか……」
「もしそうだとしても練習巡洋艦は戦闘向けじゃないのです。どう頑張っても着任したての提督の下に来られないのです。海兵学校で羨ましがってるといいのです」
やっぱり私の知る電ちゃんだなあ、と思いました。