試作 艦娘たちの憂鬱   作:かのえ

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第一部 彼女と出会うまでの憂鬱 乙
7 阿武隈の憂鬱


 戦前のことはさわりしか知らないために、たまにどうしてこの子たちがという組み合わせがある。一番艦の暁を欠いた暁型三隻に加えて曙、そして阿武隈の集まりはまさにそういう組み合わせだった。が、まあ来歴を見てみればなるほどなと思う。

 第一水雷戦隊旗艦であった阿武隈。この集まりは現在我が艦隊に着任している中で彼女の下にいた艦の集まりであった。そして名前繋がりではあるが護衛艦「いなづま」「いかづち」「あけぼの」ははるさめ型の姉妹でもある。この世界では俺だけしか知らない知識だ。

 

「なのです!」

「うっ……電ちゃん、突っ込んでくるのはやめて……痛い」

「とりゃー!」

「雷ちゃん!?」

「えい」

「響ちゃんまで!?」

 

 お腹に電が、背中に雷が。そして阿武隈から見て右に響がひっつく。おおう、懐かれてるなあいいことだと思いつつどうしようか迷っている様子でうずうずしている曙を見る。

 

「左あいてるぞ」

「べ、別に羨ましいとかじゃ」

「俺は羨ましい、突撃していいかな?」

「この変態!」

 

 お腹を抓られる。やめて、提督お腹が弱点だから変な声が出ちゃう。それはさておき、あの艦娘に大量にひっつかれている阿武隈は、妖精が大量に乗っかってきている俺となんだか似ていてシンパシーを感じてしまう。うんうん、なんか嬉しいけど困るよね分かるよ分かるよ。あとお腹に駆逐艦が突撃するのなかなかに辛いよね夕立で知ってる。

 しばらくするとおずおずと曙が阿武隈の右側にくっついて、提督適当命名「艦隊合体超改二阿武隈」みたいな感じになった。頭部に何かを乗っけてみたいけど頭部か……艦首? 北上様を持ってこなきゃ。

 

「危ないこと考えながら前髪いじらないでくださいよぅ」

「んー? 危ないことなんて考えてないけどなあ」

「うそっ! 艦首のあたりを危ない目で見てたから絶対考えてました!!」

 

 なんと最近の軽巡洋艦は読心術まで持っているというのか。

 

「そんなわけありません!」

 

 そりゃそうだ。

 艦首とか崩れやすい前髪とかともかく、どこかしら幼い雰囲気を漂わせながらも海兵学校で見た資料の阿武隈よりかは大人っぽい彼女をじいっと眺める。外見は外国の少女ではあるがれっきとした我が国の船である、かつて今の友軍と戦闘した時に彼らの姿を真似たところから来たのかもしれない。真相は阿武隈自身も知らないだろうし神のみぞ、といったところか。

 例によって改二状態での着任であり、もしかして俺の知ってる改二艦は全て改二状態で建造されるのではと思いはじめた。

 

「もう、やんなっちゃう。第一水雷戦隊旗艦阿武隈、ファミレスへ出撃します! 提督のおごりなのでわたし的には全然おっけーです!」

 

 第一水雷戦隊の会カッコカリの会合に何故か誘われたので親睦を深めようと思い参加することにした。鎮守府からそれほど離れていないところにあるファミレスにやってきた。着席して注文をした後、隣の響と曙に腕を引っ張られてドリンクバーコーナーへとたどり着く。

 ファミレスといえばドリンクバーでミックスジュースだよな! とりあえずコーラとオレンジジュースを混ぜた。響はカルピスで曙はオレンジジュース、かわいい。

 

「コーラとオレンジジュース混ぜたんですか?」

「よく気付いたな阿武隈」

「あたし的にはナシです」

 

 真正面には雷と電に挟まれた阿武隈が座る。なにげに艦隊の指揮を取り始めて数ヶ月たつのに、こうやって鎮守府の外へ複数の艦娘と一緒に来ることはなかった。

 

「それにしても深雪が着任と同時に大破入渠とは……」

「びっくりしたよね司令官。執務室で電と倒れてたもん」

 

 雷の言うとおり、ある日執務室の扉を開けばそこには倒れた電とおなじく倒れた見慣れない駆逐艦の姿があった。阿武隈の着任の少し前に本部から派遣されてきた彼女、吹雪型の深雪さんは不慮の事故によりしばらく療養している。

 

「次に顔を合わせるときには中破までになるよう努力するのです」

「電、当たる前提で話すのはどうかと思う」

 

 響の言うとおりである。同じく大本営から派遣されてきた白雪が妹である深雪の分まで頑張ってくれているが、まあさして仕事もないし深雪にほぼつきっきりな感じだ。

 大本営の妖精の謎の技術により、この吹雪型二隻ともが俺の艦であると分かったうえでの派遣らしい。建造しても艦娘との繋がりのようなものがない場合、大本営に連絡してその艦の提督を探すらしいのだが今のところ俺の建造艦は全て俺の艦なのでどういった手続きを取るのか不明。

 あちらにいる艦でうちの娘と確定しているのはあと「龍田」「赤城」であり、すでに顔合わせはしているのだが……うん、この派遣艦ってゲームと全く同じだ。なんというか本当に不思議というか。着任順もなんか一緒な気がする。もしあれで先行登録とかしてたら電と一緒に大井も着任できていたんだろうか。

 

 やだ、なんか寒気がしちゃう。大井が帰ってくる前に北上様建造しとかないと。

 

「北上さんがいれば大井さんをどうにか出来ると思ったら大間違いと思いますけど……」

「なに? 北上様を建造できれば北上LOVEな大井が落ち着くのではないのか!」

 

 阿武隈が黙って首を振る。悲しいね……

 

「まったく、クソ提督はヘタレね」

「まあまあ曙ちゃん、そこも提督の可愛いところなのです」

「アンタのその感性、理解できないわ…」

 

 あの隣でそう言われると困ります。というか電よ、俺が可愛いってどういうことだ? アレか、JKが学校の中年の先生に向かってかわいいかわいい連呼するあれか?

 

「うん、紅茶にメロンソーダを入れてみたがなかなかに不思議な味だな。ハラショー」

「さすがにどうかと思うわ……」

 

 隣では響がカルピスを飲み終えて不思議な飲み物を作り始めていた。それを雷が諌めるが……だめだな、これで響が止まるわけがない。どんどんエスカレートしていってよくわからないものが出来上がるだろう。彼女はそういう娘だ。

 こういう贅沢が出来るというのも先人の艦隊が国を守ってくれたからだ。これからもこう余裕のある生活を送れるように俺たちが頑張らないといけないな、と思う。

 

「そうですね頑張りましょう」

 

 阿武隈のとびきりの笑顔はとてもかわいかった。

 ところで阿武隈さんや、本当に人の心を読んでいないよね?

 

「当たり前です、エスパーじゃないんですから」

 

 それもそうだ。エスパーなんているわけないじゃないかははは。

 

 

 

 

「第一水雷戦隊の会カッコカリ楽しかったなぁ~」

 

 ふんふーんと鼻歌混じりで歩いていたら、向こうからピシッ背の伸びた侍のような女性が歩いてきた。あれは神通さんか、訓練の反省でも考えていそうな雰囲気だ。あたし的には今のままでも充分すぎるくらいだとは思うけれども神通さんは不満みたいね。

 神通さんの下にいた二水戦の娘はまだ着任していないが、那珂ちゃんの四水戦は村雨ちゃんと夕立ちゃんがいる。艦隊が寂しいし、もっともっと駆逐艦が着任してほしいなあ。

 

「お疲れ様です神通さん、訓練でお悩みですかぁ?」

「お疲れ様です阿武隈さん。そうですね、訓練で悩んでいますけれども相手がうちの子たちでないので……」

 

 なるほど、那珂ちゃんにあたしが着任して余裕が出たから、大本営へ旗下の艦が少ないのもあるし神通さんを貸し出すことになったのね。あたし的に神通さんが抜けるのは結構な負担になりそうだけど、期間も半月と短いしまぁまぁオッケーかな?

 それにあちらに行ってしばらく生活するということはそれだけ情報が得られるということ。大井さんや木曾さん、比叡さんにも会えるだろうしいいことばかりだと思います。

 

「第一水雷戦隊の会カッコカリはどうでした?」

「人数が少なかったけど楽しかったです! 神通さんも早くみんな揃うといいですね」

「ええ本当に。……それで」

「はい確かに見られてはいました。隠すようなこともないですしなにも困りませんケド……それだけ提督が注目されているということだしあたし的にはOKです」

「戦力増強はどこでも重要な課題ですものね、彼らの気持ちも分かりはしますが」

 

 仲間内でスパイなんて……。見られて困るようなものもないしあたし達の練度が高くて改二の状態で建造される理由は私たち自身と提督が原因だから真似はできない。無駄なことをしていると早く気付いてくれればありがたいです。

 

「提督に害がないうちはこちらも手を出しませんが、何かあれば頼みますよ?」

「相手に気づかれない作戦行動はあたし的には十八番なんです。任せて任せて!」


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