十勇士 作:妖狐
夜……月明かりが照らす城の屋根の上。
双眼鏡を手に、才蔵は鎌之介と見張りをしていた。
「今んとこ、怪しい奴等はいないと……」
「……俺が住んでた国は、ここより小さい地だった」
話をし出した鎌之介……才蔵は双眼鏡を覗きながら、黙って話を聞いた。
「けど、豊かな土地だった。
俺達一族は、そこの殿様に代々仕えていた。
俺の親父は、その一族の当主だった。スッゲぇ強くて格好良くて……俺もいつか、親父みてぇな強い奴になりたいって思ってた。
テメェに盗られてる鎖鎌、それ親父の形見なんだ」
「……」
「親父は遠距離でも近距離でも攻撃可能の武器を探して、見つけたのが鎖鎌だった。投げれば遠くにいる敵を倒せて鎌を振れば近くにいる敵を倒せる……そして何より、鎖を回すことで本来由利一族にある風の力をより強く使うことが出来る」
「けど、お前は鎖鎌無くとも」
「俺の風は特殊なんだ。
元から強くて、鎖鎌があれば鬼に金棒だ!」
「……」
「そんでお袋!
スッゲぇ優しいんだ!俺と同じ赤い髪で!」
幼い頃、鎌之介の長い髪を母親は丁寧に梳かした。梳かし終えると、髪の毛を結った。
「結った髪を揺らすと、お袋は凄ぇ喜んだ。
それが嬉しくて、髪の毛をずっと伸ばしてた。女みてぇだって言われても気にも止めなかった」
「……」
「俺が二歳の時だった……
主にガキが出来たのは」
思い出す過去……産まれた子供を抱く主。その主の背中に登り、小さい子供を鎌之介は嬉しそうに見た。
母親に下ろされた鎌之介に、主はしゃがみ抱いていた子供を見せた。
『今日から、お前がこの子を守ってくれ』
「凄え小さかった……小さい手に指入れたら、弱い力で握ってくれた。
嬉しかった……弟出来たみたいで。
その日から、お袋とガキの母親と一緒にそいつを育てた。そいつが歩き出した頃から、俺にくっついてくるようになった……可愛かった。
けど……長く続かなかった」
「?」
「ある日、突然そいつがいなくなった……
部屋に行っても、主の所に行っても、屋敷のどこを探してもいなかった。
お袋に聞いたら、遠い所に行ったって……最初は分からなかった。
しばらくして、話を聞いちまった……ガキは不治の病にかかって、そのまま死んじまった」
「……」
「理解した途端、一晩中泣いた。
悲しくて悔しくて……けど、一番辛かったのは、主達だった」
「……だからお前、ガキの扱いに慣れてたのか」
「あいつが生きてたら、多分あのガキと同じくらいかもな」
「……」
「それから二年後だった……事件が起きたのは。
あの日、俺は親父から買い物を頼まれて一人で下里に行った。買い物を済ませて、帰ってきた。
けど、様子がおかしかった……帰ってくると、いつも出迎えるお袋が出迎えに来なかった。気になってお袋と親父を呼びながら、襖を開けた……」
『親父?お袋?……!!』
目の前に広がる光景……血塗れになった二人の亡骸。襖の縁が冷たく、鎌之介は恐る恐る手を見た。ベットリと付いた赤黒い血……ただ事じゃ無いと思い、彼は中に入り二人の体を揺すった。だが二人から反応は無かった……錯乱状態の中、襖から悲鳴が聞こえ慌てて振り返った。
そこにいたのは、腰を抜かし座り込む侍女だった。鎌之介は彼女に近寄ろうとした……だが侍女は、体を震えさせて後ろへ下がった。
不思議に思った鎌之介は、ふと自身を見た。親の血が付いた服……顔にも手にも、至る所に血が付いていた。
『待って、俺が着た時にはもう』
『人殺し!!』
『?!』
侍女の悲鳴に聞きつけた一族と主が、変わり果てた鎌之介と状況を見て絶句した。その中にいた叔父が、彼を指差しながら言った。
『お前が両親を殺したのか!』
『違う!!俺じゃねぇ!!』
『じゃあなぜ、ここで人が死んでいる!!』
『それは……』
『お前しかいないんだ!!』
『この人殺しが!!』
『二度と俺達の前に姿を見せるな!!』
『俺の話を聞いてくれ!!俺はやってない!!
ここへ来た時には……来た時にはもう!!』
『……鎌之介』
『?
頭、信じてくれ……俺じゃ』
『……』
『こいつの言葉を信じるな!』
伯父の言葉に遮られ、主は何も言えなかった。
「それからすぐだった……城を追い出されたのは。
追い出されて、伯父の家に置いて貰うことになった。誰も俺の言う事を信じてくれなかった……ただ、あの場を一番に見つけただけだったのに……」
「……」
「伯父の所は酷かった……暴力は日常茶飯事。機嫌が悪けりゃ暴力。何か失敗すれば飯抜き。
地獄みたいな日だった……通る奴等は皆、見て見ぬふり。それが嫌になって、一年前」
「出てったって事か」
「あぁ。
けど、里を出る前に、主に会いたくて城に行ったんだ……だけど」
「?」
「……主はいなくなってた」
「!」
「噂で聞いた……
主は大病を患って、その療養のために城と里を他の物に任せて、遠くに行ったって」
「……その主、今は?」
「さぁな。
風の噂で、死んだって聞くけど本当かどうか……」
「……」
「……あいつの所に、帰りたくない」
「……このままここにいても良いんだぜ」
「?!」
「大助の奴は、お前のこと気に入ってるし、仕事もきっちり熟すし、俺から見れば文句なしだ」
「……」
「まぁ、決めるのはお前だ。
一週間後、鎖鎌は返す。それでお前がどうしたいか決めろ。俺が出来るのはそこまでだ」
才蔵の言葉に考え込む鎌之介……そして思い出す彼等と過ごした一ヶ月。
とても居心地が良かった……かつて、両親と仲間と一緒に過ごした時のように。
(……俺は)
夜中……皆が寝静まった頃、氷柱は城へ帰ってきた。
彼女は、集めた情報を幸村達に話した。
「じゃあ、鎌之介の一族は」
「皆、身分を隠して生きている。
と言っても、里からは出てないわ」
「やはり、主か……」
「それもあるみたいだけど……」
「?何だ、他に理由があんのか?」
「……鎌之介の帰りを待ってるらしいわ」
「……」
「一週間後、来るそうよ」
「え?来るって?」
「一族の人!」
「嘘!?」
「待て待て!なんで、鎌之介がここにいることを知ってんだ?!」
「さぁね。
情報収集でもしたんでしょ?」
「いや待て!伯父も来るんだぞ!」
「幸村、どうすんだ!?」
「普通に対応すれば良い」
「あのなぁ……」
「緊張感持って下さい!」
「それからもう一つ……
鎌之介の伯父についてだけど……裏では、相当な悪よ」
「やっぱり……」
「伯父の仕事は、珍しい人材を見つけては他国の大名に売りさばいてるらしいわ」
「珍しい人材?どんな奴だ?」
「例えば、南蛮人とか。
見つけては誘拐に拉致……ざっと言って百人近くは被害に遭ってるわ」
「酷っでぇ……」
「情報によると、近々また五、六人売りに来るって言ってたらしいわ」
「どんな奴を売りに?」
「聞いた話だと……」
氷柱から放たれる言葉……その言葉に才蔵達は目を見開き驚いた。