十勇士 作:妖狐
庭ではしゃぐ鎌之介と大助。二人の後を、清海と伊佐道は追い駆けていた。
「大助様ぁ!!怪我しますー!!」
「へへーん!捕まえられるもんなら捕まえてみな!」
「またその様な、端ない言葉遣いを!!」
走り回る大助と鎌之介……角を曲がった時、何かにぶつかった。
「あん?誰だ、お前?」
ぶつけた箇所を手で抑えながら、鎌之介は顔を上げた。前にいたのは甚八と十蔵だった。
「あ!十蔵に甚八!」
「若君、そのガキ誰だ?」
「鎌之介!数ヶ月前から、ここに住んでんだ!」
「……!
何だ!?あのデカい獣?!」
甚八の後ろで、大あくびをするレオンに鎌之介は、目をキラキラさせながら駆け寄った。二人を追い掛けていた清海と伊佐道は、息を切らしてその場に座り込んだ。
「オメェ等、大丈夫か?」
「ハァ……ハァ……
か、鎌之介が来てから…毎日、走りっぱなし……」
「それはご苦労だな」
「うわぁ!!」
大助の叫び声に振り返ると、レオンの首輪を掴み振り回される鎌之介と彼の背中にしがみつく大助が、レオンに振り回されていた。
「また、あのクソガキは……
レオン!やめろ!!」
甚八はすぐさま、レオンの元へ駆け寄り、振り回される二人を十蔵は呆れてため息を吐いた。
「痛ってぇ!!」
腕に出来た傷に消毒された鎌之介は、叫び声を上げながら、手当てをする氷柱から逃げようとした。
「コラ!!ジッとしてなさい!!」
「痛いんだよ!!」
「痛いのは当たり前よ!
こんだけ深く切ってれば!」
「自業自得だろ!」
「うわーん!!才蔵、痛い!」
「テメェも自業自得だ!!我慢しろ!」
「ったく、嫌がってる動物に無理矢理乗ろうとするからだ」
レオンの喉を撫でながら、甚八は呆れたように言った。レオンは何事も無かったかのようにして、顔を洗い甚八の膝に頭を乗せた。
「チェ!面白くねぇ!
痛っ!!」
「ここは相変わらず、騒々しいですね」
その声に反応したのか、レオンは起き上がり声の元へと駆け寄った。そこにいたのは、真助だった。彼は駆け寄ってきたレオンの頭を撫でながら、彼等の元へ歩み寄った。
「よぉ、真助」
「お久し振りですね、皆さん」
「才蔵、あいつ誰?」
「山本真助さん。
幸村の兄貴の小姓」
「へ~」
「おや?見掛けない子供ですね?」
「数ヶ月前からいる、由利鎌之介だ」
「由利?
あぁ、菅沼の所にいた」
「?すがぬま?
誰だ?」
「テメェが知らねぇでどうすんだよ!」
「尾張国にいた武将です。
しかし、一族の一人が数人の由利家の者を連れて、別の場所にいるとか……
まぁ、詳しいことは知らないので」
「珍しい。真さんが知らないなんて」
「知りたくもありません。
武田に戦いを挑んだ者ですから」
満面な笑みを見せる真助に、一同は寒気を覚えた。
「そういえば、真さん今日は?」
「先日、何やら悪者がここへ来て忘れ物をしていったみたいでしたので」
そう言いながら、真助は懐から伯父が持っていたあの資料を見せた。
「何の資料だ?」
「さぁ……
まぁ、君等には知らなくて良い情報ですけど」
「ふーん……
大助!森行くぞ!」
「あっ!待ってぇ!」
「大助様!!」
「お、お待ち…!!」
大助を追い駆けようとした清海と伊佐道は、足を取られ兄弟仲良く転んだ。
「何やってんだ?お前等は」
「鎌之介が来てから、ずっとあの調子だ」
「勉学が疎かになってるんです……」
「刀の稽古もな……」
「それは困りましたねぇ」
「真さん、何とか出来ませんか?」
「何とかと言われましても……
勉学も稽古も、自分からやらないと意味がありませんし」
「そこを何とか……」
後日……
机の前に座る大助。手には筆を持っていたが、全く手が進んでいなかった。
「大助様、手が進んでいませんよ」
「……」
手を進めない大助は、ボーッと外を眺めていた。その様子を見た清海は、障子を閉めた。
「勉強に集中しなさい!」
「うっ……
鎌之介は?」
「才蔵と一緒に、任務中です」
「え~!オイラも」
「あなたは勉強です!!
遅れた分、しっかりやって貰いますから!」
「っ……」
森の中、木の上に立ち見張りをする才蔵と、森の中を歩く鎌之介。
森を歩く鎌之介は、何かの気配を感じて足を止めた。その時心地よい風が吹いた。
『……鎌之介』
聞き覚えのある声に、鎌之介はハッと振り返った。風と遊ぶようにして、木の葉が舞っていた。
「……主?」
「鎌之介ぇ!!」
呼ばれた彼は、才蔵の元に急いだ。風で舞う木の葉の中、男が姿を現し口角を上げると、そのまま風と共に消えていった。
現在……
森の中の崖付近に立つ鎌之介。その手に握っていた花を崖から落とした。ヒラヒラと舞い落ちる花達に向かって、風を起こし空へ舞い上がらせた。
「……」
しばらくその花弁を見送ると、鎌之介は城へと帰っていった。
風で舞った花弁は、風に乗りとある屋敷に舞い込んだ。縁側に座っていた男は、その花弁を拾い笑みを溢してそれを見た。
「心地良い風ですね……当主」
「そうだな」
「鎌之介様も、この風を感じているのでしょうか?
やはり、あの時」
「良いんだよ。これで」
「……」
「あいつはここにいるより、あの城にいた方が良い。
とても楽しそうで、幸せそうな顔を浮かべていた……ご両親といた頃と同じように」
「当主……」
「して、あの悪者は?ちゃんと働いているか?」
「はい。
見張りが五人も付いています!逃げようとしても逃げられないでしょう!」
「ならいい。
さて、この資料を燃やすか」
焚き火を起こしていた場所に、倉之介は手に持っていた資料をその中に入れた。
燃え盛る炎に包まれる資料は、あの桜華達の名前が書かれたものだった……