十勇士 作:妖狐
誰も殺したくない……
誰も死んで欲しくない……
『私と一つになれば、済む事よ?』
違う……ただ、皆を……
『一つになりましょう……
桜華……』
閉じていた目をゆっくりと開く桜華……
「桜華……なのか?」
「……」
振り返る桜華……そんな彼女に、大助は歩み寄った。歩み寄る彼に、桜華は一瞬手を動かした。それを見た鎌之介は大助の前に立った。
「!?」
粉々に砕けた鎖の破片と共に、赤黒い血が飛び散った。
「鎌之介!!」
肩から胸にかけて、鋭い刃で切られたような傷を負った彼はその場に倒れた。
「残念……
もうこの世に、桜華はいないわ」
不敵な笑みを浮かべた桜華……いや、伊佐那美はそう言った。
「やっと、目覚めることが出来たわ。
この魂のせいで、あなた(久久能智神)のように体を奪えなくて、苦労したわ」
「私のは特殊だからよ」
「そうだったわね……
さぁ、とっとと出雲へ行きましょう。自分の体に早く戻りたいから」
「そうね……
けど、その前にこいつ等を片付けない?」
幸村達に目を向けながら、久久能智神は言った。幸村達の前に佐助達は立ち武器を構えた。
「……相手にしなくて良いわ」
「あらそう」
「けど、その代わり……」
手を上げる伊佐那美……次の瞬間、優之介の傍にいた椿と陸丸は、何かに吹き飛ばされ木の幹に体をぶつけた。怯んだ彼等の傍へ行った伊佐那美は、椿の簪、陸丸のピアス、優之介のブレスレットを奪った。
「これさえ貰えば、ここはもう用無し……
さぁ、行きましょう」
どす黒い雲を起こし、伊佐那美は久久能智神達と共にその場から姿を消した。
誰もいなくなった場所に、風が吹いた。
呆然と立つ佐助達……
「……嘘だろ……」
「桜華が……そんな」
「桜華……うっ……ウワァァン!」
鎌之介の傍で大助は泣き出した。彼の元へ幸村が歩み寄り、彼を抱き寄せ宥めるようにして頭を撫でた。泣きながら大助は、幸村に抱き着き顔を埋めた。
夜……
桜華の部屋の前へ行く、青達……寂しそうに鳴き声を上げながら、その場に座った。
「!?」
目を覚ます才蔵……大量の汗を腕で拭きながら、体を起こした。ふと見ると、傍らに桜華の刀が置かれていた。
「……桜華」
傷を抑えながら、才蔵はふらつきながら立ち上がり部屋を飛び出した。
障子を勢い良く開ける才蔵……だが、部屋は物家の空だった。
「……」
「目が覚めたみたいだな?」
「?!
猿……桜華は!?」
「……
伊佐那美になった」
「……」
「大人しく寝ていろ!」
十蔵の怒鳴り声が聞こえ、才蔵達は声の方へ向かった。
部屋へ行くと、そこでは傷口が開き体中から血を流して立ち上がる鎌之介と、彼を必死に止める十蔵と清海がいた。
「何やってんだ!!
傷口開いてるぞ!!」
「こんなの、唾付けときゃ治る!!
それより、早く桜華を助けに行く!!」
「無茶なことを言うな!!見ただろ!
大助様や一族の仲間である優之介達にも、攻撃をした!!
さらにお主の父上の形見である、鎖鎌を粉々に砕くくらいの力を持っているんだぞ!!」
「それがどうしたって言うんだ!!」
「桜華はもう、以前の桜華では無い!!」
「っ!!」
十蔵の言葉に、鎌之介は大人しくなり、そのまま腰が抜けたかのようにして、床に座り込んだ。
「……んで」
「?」
「何で伊佐那美何かになったんだよ!!」
床を力任せに叩きながら、鎌之介は悔し涙を流した。
「俺等が守るって言ったのに!!
守るって言ったのに!!何で!!」
「鎌之介……」
部屋へ戻ってきた才蔵は、傍らに置いてあった桜華の刀を手に取った。
桜吹雪の模様が付いた黒い鞘に、束の部分には赤い糸と共に硝子玉が吊された刀だった。
「……?」
背後に感じる気配……障子の縁に凭り掛かり、煙草を吸う甚八が、そこに立っていた。
「……何で桜華は、この刀を置いてったんだろうな」
「……
その刀で、自分(桜華)を斬れ……って事じゃねぇのか」
「……
あいつの笑った顔……どことなく千草に似ていた」
「……」
「俺と猿の妹弟子で、売られていた所を馬鹿師匠に、拾って貰ってくノ一になった……
明るい奴だった……
けど」
蘇る過去……
血塗れの千草を抱き上げ、泣き喚く才蔵……その傍で、氷柱と佐助は呆然と立っていた。
その事を思い出した才蔵は、手に持っていた刀を強く握り、悔し涙を流した。
そんな彼の背中を見た甚八は、何も声を掛けずその場を去っていた。
翌日……
桜華の部屋を覗く大助……しかし部屋は、昨日と変わらず物家の空だった。
「桜華……」
木の上から風景を眺める陸丸……
屋根から町を眺める椿……
体に包帯を巻いたまま、川を眺める優之介……
彼等の傍へ、佐助、氷柱、才蔵はやって来た。
「……本当ならあの時、俺等は殺されていた」
川を眺めていた優之介は、才蔵にそう言った。
「魂を守っていた俺等は、伊佐那美にとって邪魔な存在……
なのに、あの時殺さなかった……」
「あんなにいじめてたのに……牢屋に閉じ込められてる時なんか、遊びに行こうとも心配もしなかったのに……」
「僕等だけ安全な場所にいて、桜華は襲撃された里の中にいたのに……」
「俺等は……守らなきゃいけなかった桜華を、守ろうとせず逆に俺等が、あいつに守られたんだ……」
「僕等は……守らなきゃいけなかった桜華を、守ろうとせず逆に僕等が、桜華に守られたんだ……」
「私達は……守らなきゃいけなかった桜華を、守ろうとせず逆に私達が、あの子に守られたんだ……」
そう言葉を放った途端、三人は大粒の涙を流した。
涙を流す椿を、氷柱は黙って抱き締めた……
泣き喚く陸丸を、佐助は何も声をかけず黙って、傍を離れなかった……
悔し涙を流す優之介の頭の上に、才蔵は黙ったまま手を置いた。
出雲大社……
火の海となった大社……床には神主に巫女、巫覡達が血を流し倒れていた。
そんな中、鼻歌を歌いながら伊佐那美は、大社の外にある太極図が書かれた地面へ行くと、その上で舞をするかのようにして、足を動かし扉を開けた。
太極図の黒い部分と白い部分が光を放ち、扉が開き地下へ続く階段が現れた。
階段を降りていくと、そこは暗い洞窟の奥に、大岩が置かれていた。
(何だ……この空間は)
「さぁ、扉を開けるわよ」
岩に掘られた窪みに、伊佐那美は久久能智神から、悪しき魂と四つの勾玉を嵌めていった。
魂は不気味な光を放ち、そして大岩が動いた。そこから黒い霧と触手が飛び出てきた。
「!?全員撤退しろ!!」
危険を察知した半蔵は、すぐに撤退命令を出した。傍にいた仲間達は、一斉に外へ出て行き最後に出て行った半蔵が出た直後だった。
“ドーン”
爆発と共に、黒いオーラが地下から噴き出した。
噴き出したオーラの中から、長い黒髪を揺らし、赤い目を光らせた伊佐那美が現れ出た。
「何百年振りか……妾の体。
さぁ、この世を闇に包むぞ!」