十勇士 作:妖狐
「桜華!早くぅ!」
「待ってよ!大助!
伊佐道、これでいい?」
「はい、いいですよ」
「大助!待ってぇ!」
「走ったら、崩れますよ!」
「お前等!玄関前で待ってろよ!!」
「はーい!」
「うん!」
「それじゃあ才蔵、伊佐道、後のことは頼んだぞ」
「はい」
「応。
頼むから、問題は起こすなよ」
「分かっておる」
「……本当に起こすなよ?」
「しつこいぞ!」
町を歩く才蔵達……大助は店に並ぶ品々を見ながら、どんどん先を歩いて行った。
「大助様!少しお待ち下さい!」
「遅いよ!早くー!」
後ろを振り返った大助は、伊佐道達にそう叫んだ。
伊佐道は、後ろを歩く才蔵と桜華を気にしながら歩いており、彼は時々後ろを向いては、二人を気に掛けた。
「桜華は大丈夫ですか?」
「く、苦しい……」
「我慢しろ。女の着物なんだから」
「才蔵みたいな、着流しがよかった」
「胸晒す気か!!」
「だって~」
「里にいた頃は、着物とか着なかったの?」
「着てないよ。
いつも、忍服だもん」
「それ以外は?」
「祭りで着た踊り巫女の格好と、袴くらいだよ」
「踊り巫女?
舞出来るのか?」
「一応。でも、里では椿が一番だよ!」
「椿?誰?」
「里にいた私の女友達」
「いつか、その子に会いたいなぁ!
桜華の里に行って」
「いつかね!私も、大助や鎌之介、才蔵達のこと皆に紹介したいし」
笑顔を向けながら、大助と桜華は話した。そんな彼等を、背後から見つめる者がいた。
「……才蔵」
「分かってる。
伊佐道、大助と桜華連れて宿に戻ってくれ」
「はい」
「私も戦えるのに」
「お前を狙ってんだよ!
ここは任せて、大助の護衛してろ!」
「しくじるなよ!才蔵!」
「猿みたいな言い方するな!」
何も知らない大助は、桜華の手を引いてそのまま駆けて行きその後を伊佐道は追い駆けていった。
「さぁて……お仕事といきますか」
茶会……
家康の話を終え、来ていた大名達は互いに他愛のない話をして暇を持て余していた。
「よぉ、真田」
「……珍しのぉ。
お主から話し掛けるとは……伊達政宗」
茶が入ったお猪口を手に、政宗は幸村の隣に座った。
「噂で聞いたが、お前さん……あの光坂を部下に迎え入れたんだってな?」
「……」
「で?
光坂から、一人預かったんだろ?」
「……」
「……答えろ!!真田!!」
「言ってどうする?
お主が何か得するのか?」
「……知らねぇのか?
光坂が何故、武田にしか仕えなかったのかを」
「知らん。知る気もない」
「なら、教えてやる」
「人の話を聞け」
「あいつ等は、極大な力を隠していた……武田はそれを知っていた。だから、光坂は武田にしか仕えなかった」
「それが本当であれば、光坂はその力の恐ろしさを知っていた。だから縁の深い武田に身を置いたのだ」
「その力を、使いたいとは思わねぇか?」
「知らん。
そんな力があったところで、天下を取れるわけがない」
「……」
夕方……
宿へ戻ってきた才蔵。階段を上がり、部屋の襖を開けた。部屋には、昼寝をする大助に羽織を掛ける伊佐道がいた。
「大助の奴、寝てんのか?」
「えぇ。歩き疲れたんでしょう」
「……あれ?
桜華は?」
「隣の部屋にいるかと……」
「さぁ!上田に帰るぞ!」
突然襖を勢い良く開けた幸村は、そう言った。隣の部屋にいた桜華は、その声に気付き彼等の元へ駆け寄った。
「いきなりなんだよ。
茶会はもういいのか?」
「終わった終わった!
とっとと帰る支度せい」
「え~!もっといたい~!」
「また今度な」
「……幸村、何かやらかしただろ?」
「下で待っておる」
(やらかしやがったな!!)
明け方……
馬を走らせる幸村達。すると、彼等に追い駆けてきた輩が、後ろから銃弾を放った。
「追い付いてきた!」
「幸村、どうする!」
「しつこい奴等だ!」
「森の中に逃げ込めば、撒けるかもしれないよ!」
「だとさ!幸村!」
「……全員、森の中へ入れ!」
走らせていた馬の方向を返させ、幸村達は森の中へ入った。走って行く内に、茂みから水が姿を現し隣を駆けた。
「才蔵達はこのまま森を突っ切って!」
「突っ切ってって……桜華、何する気だ!?」
馬の上に立った桜華は、次の瞬間木の枝を掴み馬から跳び上がり一回転すると、枝に着地した。
「桜華!!クソ、あの馬鹿!」
「この場は、桜華に任せる!
儂等は早く、琵琶湖へ向かうぞ!」
「父上、何で?!」
「運が好ければ、甚八がいる!」
「その自信はどっから湧き出るんだ!?」
走り去っていく幸村達を見送った桜華は、肩に掛けていた黒いマントの紐を、首前で結びフードを深く被ると顔に黒い狐の面を着けた。
“バーン”
その時、後ろから銃弾が横を通り過ぎ木の幹に当たった。桜華は振り返り、放たれた方向を見た。火縄銃を持ち構える数人の輩。
(……ざっと、六人)
「お主、真田の者か?」
「(気付かれてはいない……)
だとしたら、どうする?」
「……?」
ざわめく木々と異様な空気に、輩達は辺りを見回した。
輩達が目を離した瞬間、桜華は指を鳴らして地面に向かって思いっ切りかかと落としをした。亀裂が入った地面から木の根が生え伸び、輩達に攻撃した。その光景を桜華は、木の上から見届けると水の背中に跳び乗り、幸村達を追い駆けていった。
しばらく走っていると、霧が出て来た……水は走るのをやめ辺りを警戒しながら歩いた。桜華は水から降りると、面を上げ周りを見回した。
「……凄い霧……
どうしよう……才蔵達の所に行けない」
「クゥ~ン」
「大丈夫だよ。
……!?」
何かの気配を感じ取った桜華は、刀の束を握り引き抜こうとした。
「伏せろ!」
その声に従い、桜華は伏せた。次の瞬間、二本の槍が頭上を通り過ぎ、目の前にいた敵を突き刺した。
「凄ぉ……」
「怪我はねぇみてぇだな」
「?
あ!独眼竜!」
「よぉ、小娘」
「また助かった!ありがとね!」
「礼には及ばねぇよ。
それより、こんな所で一人何やってんだ?」
「追ってきてた輩を追っ払ったの!
そしたら、濃霧になっちゃって」
「確かに、この辺り霧が酷くなりましたね」
「……どこまで行くんだ?」
「?琵琶湖だけど……」
「小娘、俺の馬に乗れ」
「若!!」
「琵琶湖まで送ってやる」
「やったー!」
「どこの輩か分からない娘を、助けるなど!!」
「輩は分からないが、こいつは俺のことを知っていた。
それだけの縁だ」
「……」
馬に飛び乗った桜華を見ると、政宗達は馬を走らせ琵琶湖へ向かった。
森を抜けた政宗達……すると先程まで広がっていた濃霧が晴れ、目の前に琵琶湖が広がっていた。
「琵琶湖だ!」
「このまま真っ直ぐに行けば、すぐに着く」
「ここまで、ありがとな!独眼竜!」
馬から飛び降りた桜華は、水の背中に跳び乗った。水は首を一振りすると、崖を駆け下り一直線に琵琶湖へ向かった。
「……小十朗」
「はい?」
「あの小娘、どこかで会ったことあるか?」
「いえ、身に覚えは……」
「そうか……(覚えてはねぇが……どっかで会った気がする)」