十勇士 作:妖狐
それは皆同じ』
過去?
『二度と、手を離しちゃ駄目だよ?
霧隠才蔵』
目を覚ます才蔵……
眠い目を擦りながら、起き上がり外へ出た。
(何だったんだ……あの夢)
場所は変わり、滝壺で遊ぶ大助達。
「鎌之介!」
「あ?
うわっ!!」
振り向いた鎌之介に、桜華は水を思いっ切りかけた。びしょ濡れになった彼は、水を吹き払うようにして頭を振った。
「やりやがったな!桜華!
そーれ!!」
鎖を振り回し、風を起こした鎌之介は水の渦を桜華に放った。彼女は難なく避け、彼の後ろに回ると足を自身の足で払った。鎌之介は尻を着き倒れ、それを大助は面白可笑しく笑い、その笑いに釣られ桜華も笑った。
「元気だねぇ……あの三人」
「年が近いから、気が合うのよ」
「そういうもんかねぇ……?」
才蔵が座っていた近くの茂みから、レオンと水が出て来た。獲物を捕らえたかのようにして、水は身構えそして桜華に向かって飛び掛かった。
「うわっ!」
「桜華!」
“バシャーン”
顔面から水の中へ倒れた桜華……水は彼女から降りると、心配そうにして顔を近付けさせた。次の瞬間、桜華は咽せながら起き上がり、鼻を手で押さえながら川から出て才蔵の元へ駆け寄った。
「鼻血出だ」
(やっぱり……)
鼻に氷が入った袋を置き、桜華は日陰で横になり休んでいた。
「鼻の骨は折れてねぇから、止まるまでジッとしてろ」
「う~……
もう水!飛び乗るなって、母さんに言われてただろ!」
怒鳴られた水は、耳を垂れ下げ反省しているかのようにして伏せた。
「まぁまぁ、水も反省してるみたいだしいいじゃない」
「氷柱がよくても、私は鼻血出して遊べないんだよ!!」
「あーはいはい。
そう怒鳴るなって。興奮すると、また鼻血出るぞ」
起き上がった桜華は、頬を膨らませながら座り込んだ。そんな彼女の頭に、手を乗せながら酒樽を担いだ甚八が現れた。
「何だ?桜華、鼻血か?」
「水にやられた」
「そりゃあ可哀想に」
「酒樽なんか持ってきて、どうしたんだ?」
「聞いてねぇのか?
幸村がここで、宴会するって話」
「聞いてねぇ……」
「私も初耳」
「幸村さん、宴会大好きだね」
「あいつは単に、酒が好きなだけだ」
夕方……
山道を歩く才蔵達。
「川遊び楽しかったね!」
「また行こうぜ!」
「父上、いいよね?!」
「まぁ、いいだろう」
「ワーイ!」
「大助!城まで競争だぁ!!」
「あっ!待ってぇ!!」
「ビリは桜華なぁ!」
「ビリになるわけないじゃん!!」
駆け出す三人……彼等の後を、レオンと水が追い駆けていった。
「元気のいい子供達」
「あの体力を、勉学の方に回せって」
先に城へ着いた鎌之介……彼の目に映ったのは、大きい狼。後から走ってきた大助は、驚き鎌之介の後ろへ隠れた。
「?どうかしたの?」
途中から歩いてきた桜華は、二人駆け寄りながらそう言った。すると二人は、彼女の後ろへ隠れた。
「……お前等……
女の私を盾にするな」
「だ、だって……あの狼!」
「?狼?
あ!」
門前に座っていた狼に気付いた桜華は、嬉しそうに駆け寄るとその狼に飛び付いた。
狼は桜華に顔を擦り寄らせ、頬を舐めた。森から出て来た水は、その狼に気付くと尻尾を振りながら、駆け寄り体を擦り寄せた。
後からやって来た才蔵達の元へ、大助は駆け寄り門前にいる狼を指差した。
「水の親戚なんじゃねぇの?あの狼」
「それか兄弟。もしくは親子」
「毛繕いしてるから、多分そのどっちかだろう」
「ここの警備は、随分と薄くなったのね?」
狐の面を顔に付け、黒いマントを頭から被った者がそう言った。傍には各々の面を着けた、部下達も立っていた。
「何者だ!!」
「何者も何も、アンタ達と同じ立場の者よ。
ねぇ、真田幸村様?」
面を取ったその人物は、桜華と同じ真っ白な髪を一つ三つ編みに結い、赤い目をした女性だった。傍にいた者達も、同じ赤い目をしていた。
「れ、蓮華!?」
「母さん!!」
「全く、来てみれば誰もいないじゃないの!
いて六助と使えない兄弟の三人だけって、どういう事よ」
「い、いやそれはだな」
「説明して貰いましょうか?
幸村様?」
優しい微笑みを浮かべる蓮華だが、幸村の目には悍ましい何かが映り、彼は言い訳をあれこれ考え言うがどれも通用しなかった。
「母さんに言い訳なんざ、通用しないよー!」
「真田って聞いてたから、てっきり真さんが仕えてる方にいるのかと思った」
「あんな奴の所に行くわけないじゃん!」
「まぁそうだね。
僕もどちらかと言うと、こっち側だし」
「アタシも」
「俺はどっちでもいい」
「……こっちで男作ろうかなぁ」
「俺もこっちだ」
突然意見を変えた男に、桜華は二人と顔を合わせて笑った。
「桜華、そいつ等誰?」
「あぁ、そっか。
里にいた頃の同期。こっちから陸丸、椿、そんで優之介」
「里にいる桜華の友達?」
「そうだよ」
「真田に若君がいるって聞いてたけど、まだまだクソガキじゃない。
頼りなさそうだし」
「言われてるぞ、大助」
「うわーん!佐助ぇ!」
「偉そうなこと言う前に、私から一本刀で取ってから大助を馬鹿にしな!」
「桜華!!」
「未だに私から取ってないくせして、何小さい子供をいじめてんだか」
「アンタねぇ……
ええい!!今日という今日は、取ってやる!!」
腰に挿していた二本の刀を抜き、椿は桜華に向かって振り下ろした。彼女はのらりくらりと避け、椿を馬鹿にしながらその場から去って行った。
「……追い駆けなくていいのか?」
「気にするな」
「毎度のことです」
夜……
宴会を開く上田城。飲み比べるかのようにして、蓮華は大きなお猪口に注いだ酒を、甚八と幸村、六助は一斉に飲んだ。
「プハー!
相変わらず、いい飲みっぷりだな!蓮華!」
「アンタもいい飲みっぷりぃ!」
「今日はじゃんじゃん飲むぞぉ!!」
「オォー!」
「昼間飲んだばっかなのに……」
「呆れて物も言えません」
「お疲れさんです」
「何故、君がここにいるんです?」
少々驚いた顔をしながらも、若干キレ気味の真助は蓮華に質問した。
「あ~ら?妻子捨てて、真田に仕えた旦那が現れた」
「……君、酔い回ってますね?
どのくらい飲みました?」
「樽二本は開けたぜ」
「またそんなに……」
「何よ~。何か、文句ある訳?」
「あのねぇ、一応君光坂の当主でしょ?
その当主が、こんなんじゃ話になりません」
「っるさいわね!!堅物が!」
「君がだらしないからでしょうが!!」
「何よ!!桜華を立派に育て上げた、この私に何か文句でもあんの!?」
「ありますよ!!君は母親なんですから!!」
「父親のアンタは何もしてないくせして、偉そうなこと言わないでよ!!
アンタが父親らしいことやったのって、剣術教えたぐらいじゃない」
「おい蓮華、少し落ち着け」
「アンタは黙ってなさい!!」
「は、はい……」
「この際だから、言わせて貰うけど」
蓮華が言い掛けた時だった……二人に突如水が掛かった。掛けた方を向くと、そこにはバケツを持った六助と、水球を手の平に浮かべた桜華がいた。
「六助……」
「桜華……」
「九年ぶりに会って早々、喧嘩しないでよ」
「頭は冷えましたか?隊長、副隊長」
「桜華ぁ」
「六助ぇ」
怒りのオーラを纏いながら、二人は冷や汗を掻いた。
「六助……これ、マズいよね?」
「逃げるが勝ちという言葉がありますが……」
「……逃げる!!」
「賛成!」
駆け出す二人に、蓮華と真助は刀を抜き追い駆けていった。
タンコブを作り、六助の隣で真助が作ったおにぎりを食べる桜華。彼女の隣で六助は、顔に無数の掠り傷を作り、茶を啜った。
「桜華、大丈夫?」
「大丈夫。慣れてるから」
「また、あなた方の喧嘩に巻き込まれるとは……」
「六助が余計なことをするからでしょう」
「……」
「そもそも母さんが酔っ払って、父さんに絡んだりするから、喧嘩になったんでしょ」
「まだ酔ってないわよーだ!」
舌を出す蓮華に向かって、桜華も舌を出した。真助と六助は呆れながら、二人の頭に拳を乗せた。
「やめなさい」
「端たない」
「子供相手に、何をやっているんですか」
「次から次と、口うるさい亭主」
「あのねぇ……」
その時、強風が吹いた。皆の髪を靡かせる中、目の前に生えていた桜が花弁を吹雪かせ、見事な桜吹雪を幸村達に見せた。
「凄え!!」
「相変わらず、タイミングが良いのぉ」
桜吹雪を見る才蔵……その時、彼の頭に何かがフラッシュバックで流れた。才蔵はふと、桜華の方のを見た。
水ともう一匹の狼と戯れる桜華……彼女に続いて大助に鎌之介、椿達も戯れていた。
(……何だ……
以前にも、この光景を見たことが……)
何かを思い出し掛けた才蔵は、手に持っていた残りの酒を飲みながら、彼女達を眺めた。
翌日……
門前に集まる、才蔵達。彼等の前には、黒マントを羽織った優之介達が、各々の面を着けていた。
「ちぇ!もう少しいても良いのに」
「そうはいきません。里に長がいないというのとは、武器を持たぬ武士と同じ。その間に敵に攻められでもしたら」
「分かってるよ!それくらい……」
「まぁ、九年か十年経てば……俺等の里も、真田の者だけ許されて入れるかもしれない」
「本当?!」
「多分ね」
「その時が来たら、里を案内するよ!」
「約束だよ!
オイラ、頑張るから!」
「楽しみにしてるぜ、大助さん」
「大助で良いよ!
あれ?桜華は?」
「そういえば……
って、真さんもいない」
「三人共、用があるとかで少し出ています」
「えー!
オイラも行きたかった!」
「まぁまぁ、いいじゃねぇか。
親子水入らず!どっか行ってんだろ?」
「でも~」
「蓮華も桜華も、ずっと長い間真助に会ってなかったんだ。思い出話に花咲かせて、その邪魔をされたくないから、別の所に行ったんだよ」
「……」
「鎌之介にしちゃ、良いこと言うじゃねぇか」
「応よ!思い知ったか、才蔵!」
「あー、はいはい」