カルネ村。かつて自分達が自分達の都合で助け、自分達の都合で支援をし、自分達の都合で少しずつ発展している村
もちろん村人には悟らせず、あくまでただの支援であると見せかけ色々と実験(軽めのやつ)を行っている村
そんな村にひょんなことから護衛任務でンフィーレア君を連れてきたのだが、良く考えると村を(表向きは)助けに来た三人で来たことに気づいたアインズは変装しているとはいえ身バレを防ぐため森に薬草を採取に行くまではバラバラに行動をしようと提案した・・・・その結果がこれだよ
サイファーは一人でポツンと佇んでいた。依頼主のンフィーレア君は昨日聞いた好きな子の家にいったし、漆黒の剣の皆は思い思いの場所で休んでいるし、アインズさんは村を見渡せるところに行き、アルベドはそれに付いていった
見事に一人ぼっちである
「ふ、ふふうふふう、流石にここまでハブられた事はユグドラシルでも・・・アインズ・ウール・ゴウンでもなかったな・・・」
どうしてこうなった、身バレを防ぐため分かれて行動するのは分かる、だがなぜ俺はハブられているんだ、なぜアインズさんはアルベドが付いて来ているのを知ってるのに何も言わないんだ
昨日の夜だってみんな仲良くご飯食べたし、ボロが出ないように片言だったけど会話をおこない友情っぽいものの欠片くらいは出来たと思ったのに、なぜ村の散策に誘わない、やっぱり初日の『サイファー素顔スルー事件』が尾を引いているのか、やっぱりちゃんと話したほうが良かったのか、初日に馬車で昼寝してろくにコミュニケーションをしなかった俺が悪いのか、夕食を四杯もお代わりしたのがいけなかったのか
・・・おのれ人間どもめこの俺の心をこうもかき乱すとは、悪魔はほっとかれるのが一番心にくるのだぞ
カルマ値0の中立のはずが若干マイナス値に下方修正されかかったとき、後ろからサイファーを呼ぶ声が聞こえる
「やっぱりサイファーさんだ、なにやってんの」
「ん、その声、ネムちゃんか」
振り返ってみるとそこには幼・・・笑顔の少女がいた
「一応正体は隠しているのに良く分かったね」
「だって頭の金色の角が目立ってんだもの」
「・・・つの・・・」
「うん、つの」
この少女にとって角=サイファーなのだろうか、確かに最初来た時に触らせてあげたけど、他に特徴があっただろうに、例えば・・・えーと・・・肌の色とか・・・うん、言ってて自己嫌悪になりそう
「まあ、それは置いといて、俺の正体が分かったのって君だけ?」
「ううん、多分私だけだとおもうよ、他の人は角なんか見てないし」
「そっか、それは良かった」
完璧に変装したつもりだったが、まさか角のせいで身バレするとは・・・弱ったな他の村人にもバレたとなると一緒にきているアインズに申し訳が立たん
しかし正体が即バレしたとはいえこの子が来てくれて助かったな、もう少しでボッチの寂しさでカオスに堕ちるとこだったぜ、おかげでカオスによらずロウに傾くことができた
「所で相談なんだが俺の正体はしばらく秘密にしてほしいんだ」
「どうして?変装しなくってもこの村の人たちはサイファーさんを追い出したりしないよ」
おお、小さいのにそんな気遣いが出来るのか・・・じゃなくて
「いや、そうじゃないんだ、俺は今人間の冒険者をやっているわけで悪魔と知られたら大変なんだよ。もちろん黙っていてくれたら良いものをあげよう」
「いいもの?」
「そう、これだ」
そう言ってサイファーは小さい苗木を取り出しネムに渡す
「サイファーさん、これは?」
「リンゴの木の苗木だよ、育て方は簡単だから良く聞いてね」
『鮮血色の林檎の苗木』
その名の通り大きくなると血の様に赤い実をつける果樹であり、その実は酸味が少なく甘さと香りが強いのが特徴である。育て方は簡単、畑に植えるだけ、水も肥料も要らず植えたら15日で木になり直径15cmの実を10~15個つける、実を収穫してから3日経つとまた収穫でき、要らなくなると切り倒し木材にもなる優れもの・・・という設定の食材系アイテムである
このアイテムをチョイスした理由は単純にあげた本人が林檎を食べたいからである
「すごいよ!サイファーさん、こんなに凄いのもらっちゃっていいの!?」
昔生産系のメンバーに「余ったからあげる、え?いらない、偉くなったもんだな!」って半ば無理やりもらったものだったが喜んでもらえたようだ
ちょっと大げさすぎるけど
「もちろん・・。じゃ、一緒に植えに行こうか。どこか良い場所はあるかな?」
「んーんと、じゃぁ私ん家の横に小さいけど畑があるからそこにしようよ」
「よし、じゃあ案内をよろしく」
「うん!」
何だかんだ言ってボッチ化は避けられ良い時間つぶしができるな。
笑顔の少女に手を引っ張られながらサイファーは目的の畑を目指し歩いていく
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森、森、森、木、木、木、草、草、草・・・嫌になる
ネムとの植樹を終えた後ついに依頼である薬草摘みのため森に入ったがサイファーは30分もせず嫌になってきていた
最初は歩きやすい林程度だったため軽くピクニック気分であったが徐々に道はなくなり草はボーボーで歩きにくいし、木は高く伸び太陽の光を遮り若干薄暗いし、変な虫はいるしで現代っ子で育ったサイファーは今は遠き環境の整ったナザリックを思い浮かべるのであった
しかも今現在アインズに連れられンフィーレア君や漆黒の剣のメンバーから離れたとこにきている。正直こんな所で内緒話は勘弁願いたいが俺もNoとは言えない日本人らしく付いて来てしまった
「で、こんなトコにきて何の相談なんですかね」
サイファーはマントに着いた何かの糸みたいなものをはたきながら質問する
「いや、ここで俺達の名を上げる打ち合わせをしようと思いましてね」
「名を上げる~、アイテムBOXの中にしまい込んだレアな薬草でも発見しました~って持っていくの」
その作戦なら要らないアイテムを処分でき名を上げる事も出来るで一石二鳥だが、最後に収穫したレア薬草は4年前くらいからアイテムBOXにあるが大丈夫なのだろうか
「いえ、森の賢王と戦おうと思います」
「え~、でもその賢王ってこの辺りを支配しているから倒すと村が大変になるってンフィーレア君が言ってましたよね」
「別に殺しても後からナザリックからそれっぽいのを連れて来れば良いだけの話です・・・話が逸れましたけど、つまりゴブリンやオーガ程度のモンスターでは不足なんです、彼らがモモンという冒険者の偉業を言い広めてくれる際オーガより森の賢王を撃退の方がインパクトがありますから」
「ハイハイ、で、その賢王をこの広い森から探す方法は?、アルベドも流石に感知は出来ないだろう」
「ご心配には及びませんサイファー様、既に手は打ってあります」
いつの間に、サイファーが問いかけたときに上の木から声が聞こえてきた
「はーい。ということであたしが来ました。」
「アウラちゃん! 一体何時から」
「はい。サイファー様達が森に入った時からです」
確かアウラはビーストテイマー兼レンジャーだったな、この格好に変装した時から常時発動系のスキルはほぼカットしていたから全然気付かなかった
「ということであたしが森の賢王なる魔獣を発見し、アインズ様達にけしかければよろしいんですね」
「その通りだ。アウラ、心当たりはあるか」
「ええ、大丈夫です多分あいつだと思います」
「よし。ではアウラ。任せたぞ」
「はい!」
元気よく立ち去ったアウラをしり目にサイファーはある言葉をアインズにぶつけた
「マッチポンプぇぇ~」
「ち、違います、こ、効率の良いさ、作戦です・・・よ」
皆のもとに戻るまでアインズさんは目を合わせてくれませんでした・・・
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森の賢王早く来てくれ。俺の心は挫けそうだ・・・
皆に合流した俺達は早速薬草の採取に取り掛かったが・・・最悪だ。
草を引き抜くため膝を地面につけて屈んだら膝が泥で汚れてしまいブルーになる・・・薬草を引き抜けば草の変な汁が手にかかりべとべとする・・・キタナイナァ
小さいころから自然なんて夢のまた夢で暮らし、ゲームでは服や身体は汚れなかったから地面に這ってでもレアアイテムを探せたが今はゲームではない
まさか此処まで自分が軟弱な現代人だとは思わなかった、アインズさんは平気みたいだけど、何でだろう、やっぱりアンデッドと生身では感じ方が違うんだろうか
そんな事を考えていると急に森の空気が変わる
警戒していたルクルットは険しい顔になり周りに注意を促す・・・それからは流れ作業の如く
①賢王だ、撤収しよう
②モモンさんお願いします
③分かりました 以上
「全員逃げてしまったけど、誰が賢王って判断するの」
「・・・証拠として足の一本くらい切り飛ばすか?」
「良い考えと思います。しかしアインズ様のお手を煩わせる訳には参りません、その時はこの私、アルベドにお任せください」
「・・・って、サイファーさん何突っ立ってるんですか」
一応剣を構えているアインズとアルベドに対し全くの無防備のサイファー
「いや、賢王って言うくらいだから不意打ちみたいなことはしないでしょう、ど~せ最初は上から目線の嫌味に決まってますよ、こういうキャラはユグドラシルでもそうだったじゃないですか」
たしかに、ユグドラシルでもイベント戦闘の前は長い前置きから始まっていな・・・
サイファーの言葉に少し肩の力が抜けたアインズ
「大丈夫だっ!!ぶべらはうy~」
言い終わる前にサイファーの顔面にかなりの速度をもった質量のあるものがぶつかり木々を倒しながら吹き飛んでいった
「サイファー様!?・・・おのれ!下賤な獣風情が至高の御方であるサイファー様に手を上げるとは!!」
アルベドの身体から物凄い怒気があふれ出し、無礼な獣を八つ裂きにするべく飛び掛かろうとした瞬間
「ぶははっはっははっはは!!・・・サイファーさん・・・ぶはっはははっは! っふ・・・『ぶべらは~』って、ふははっはっは!」
「あ、アインズ様・・」
主人であるアインズの突然の爆笑で頭が混乱・・・いや・よくわからない状態になり怒りが落ち着いていき、ただアインズに視線を向けるしか出来なかった
「いや、賢王って言うくらいだから不意打ちみたいなことはしないでしょう、ど~せ最初は上から目線の嫌味に決まってますよ、こういうキャラはユグドラシルでもそうだったじゃないですか」
「大丈夫だっ!!ぶべらはうy~」
そう言って友は不意打ちをくらい森の奥に飛んで行った
それを見ていたアインズに宿った感情はアルベドの怒りとは違い笑いだった
「ぶははっは!!、あんな前振りしといてく、ふふふふ」
何てことはない友はさんざん「押すなよ、押すなよ」的な前振りをかまし奇声を上げながら吹き飛ばされた、しかも顔面から・・・
こんな珍プレー笑うなという方がアインズにとっては難しい、先ほどから精神安定が何度も起こるがしばらくの間次から次へとこみ上げてくる
「それがしを無視して馬鹿笑いとは、良い度胸でござるな」
それがし? ござる?なんだか可笑しな言葉使いだな・・いや、俺が聞いている言葉はこの世界に翻訳され聞こえているんだったな
さて、どんな奴か姿を拝んでやるか
アインズの頭には丈夫すぎるサイファーの心配はなかった