オーバーロード~悪魔王の帰還~   作:hi・mazin

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十八話目 俺のいる意味

 

 

 

 

 先日泊まった宿屋の一室でサイファーは墓地での騒動を鎮めたとして冒険者組合より貰った報奨金の入った袋の中身を確かめながらほくそ笑んでいた。

 

「うぷぷぷ、金貨ですよ金貨。しかも10や20じゃないですよこの重さからして。しかもバレアレ家からも別件でさらに貰えるって、笑いが止まりませんね」

 

 金貨の入った袋に頬擦りし喜んでいるサイファーに対しアインズは無慈悲に水をさす。

 

「サイファーさん、残念ですけどその報酬はセバス達の活動資金に回しますから俺達が自由に使えるのは金貨2~3枚くらいですよ」

 

「え~。そんなんじゃちょっと飲み食いして終わりじゃないですか」

 

「金貨ですよ!? どんだけ食べる気ですか!?」

 

 露骨に不満を漏らすサイファーだがアインズもここは譲れない。

 

「ま、冗談はさておき、一気にミスリルになっちゃいましたね、これもアインズさんの計画のうちですかね」

 

「まさか、本当はオリハルコンを想定してましたけどね」

 

 そう言っておどけて見せるが内心ではアルベドがいなければサイファーと馬鹿騒ぎしたいほどうれしかった。

 もう計画通りに行き過ぎて大笑いしたい。墓地の調査が進みアインズ達の語ったことが嘘ではなく真実と分かり、墓地の衛兵は自分達の活躍を大勢に聞かせるだろう。

 

 サイファーが金貨の袋を名残惜しそうになで、アインズがミスリルプレートを指で弾いて遊んでいるとアルベドより声がかかる。

 

「アインズ様、あの二人の処遇はいかがなさるおつもりでしょうか?」

 

「リイジー達の事か。あの二人ならカルネ村に移住してもらいナザリックのために新しいポーションを作ってもらうつもりだ」

 

「新しいポーション? それってどういうこと?」

 

 いまだに金貨の袋を離さずサイファーが話に参加してきた。

 

「俺が求めてるのはユグドラシルにない方法で作られたポーションなんですよ。俺たちは最近この世界に来たばかりで、もしかしてたら俺達は過去にいたプレイヤーより600年も技術が遅れているかもしれないんですよ、だから専門家に研究をしてもらいその差を埋めようという訳ですよ」

 

「さすがはアインズ様、素晴らしい先見の明でございます」

 

 アルベドからキラキラした目で見られ少し照れてしまうアインズ。

 

「ふふふ、ひとまずリイジー達の事は後回しだな。あ、そうだった……すみませんサイファーさん、ちょっとデミウルゴスに『伝言/メッセージ』をしますから静かにして下さいね」

 

 そう言ってアインズは魔法を発動した。

 

「じゃ俺らは食事会の準備をしようかね。アルベドは何が食べたい」

 

「私はアインズ様がお召し上がりになる物と同じ物でお願いします」

 

「うん予想通りの答えをありがとう」

 

 面倒なのであえて否定も肯定もしない。

 この子の相手はアインズさんに任せよう。それにしてもアインズさん話が長いな何かあったんだろうか。

 

「・・・サイファーさん」

 

「ん、 話は終わったんですかアインズさん?」

 

「・・・シャルティアが裏切ったんだって・・・」

 

「はぁ~?!」

 

俺達のお疲れ会はまだまだ開催できないようだ・・・

 

 

 

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 シャルティア・ブラッドフォールンの離反の報せを受けた一行はナザリックへと帰還した……がサイファーのみ安宿に留まって店先でハムスケの毛を少しでも理想の柔らかさにしようとブラッシングをしていた。

 

「は~ いざという時のための連絡係とは言え、何もできないのはもどかしいな」

 

「それがしにはナザリックの事はよくわからないでござるが、サイファー殿にはサイファー殿の役目があるのでござるよ」

 

「わかってるんだけど・・・ホント俺の立場って微妙なんだよなぁ」

 

 至高の御方とNPC達から敬われようと組織の決定権を持つのはギルド長のモモンガであり自分には何の決定権もない。そして守護者達のように決められた仕事がある訳でもなくモモンガの仕事の補佐をするぐらいしか仕事はない。その事がサイファーにとっては耐え難いものであり、悩みでもあり、同時に自分が居ないほうが組織は上手く回るのではないかと何度も思ってしまう。

 

(とは言っても俺に出来る事は大体モモンガさんでも出来るし内政面ではアルベドとデミウルゴスがいれば滞りなく進められる、戦闘でも無理に俺が出しゃばらなくても自由意思を持った守護者達がいればほぼ問題ない)

 

 いよいよ役立たずな感じがしてきた、自分が出来てNPCが出来ないことと言ったらモモンガの愚痴を聞いたり一緒に食事したり今、昔、未来の話をしながら馬鹿みたいに笑い、二人でナザリックの娯楽施設に遊びに出かけるくらいである。

 

 

 

 

「モモン殿は今居られますかな?」

 

 少し気が滅入っていたサイファーに見慣れぬ男が話しかけてきた。

 

「今は諸事情で出かけていますけど、アンタ誰?名指しの依頼ならまた今度お願いしますよ」

 

「申し遅れました、私は冒険者組合より派遣された者です。今回は名指しの依頼ではありませんがそれに近いものです。この街の近辺に吸血鬼が出現したとの情報が入りまして、既に幾つかの冒険者チームにも声を掛けております。詳しくは冒険者組合で話があると思います」

 

 そこまで聞いてサイファーの頭にシャルティアの姿が浮かぶ、おそらく今回の呼び出しとは無関係ではないだろう。

 

「分かりました。すぐに向かわせてもらうとお伝えください」

 

その言葉を聞いて冒険者組合の男は帰っていった。サイファーは急いで部屋に戻りアインズに『伝言/メッセージ』を繋げる

 

 

 

 

「もしもし、アインズさん聞こえる?」

 

『何ですか、サイファーさん今は・・・いや、そちらで何か動きがあったんですね』

 

「さすが話が早い。実はさっき冒険者組合の方から招集要請がありまして、その内容が吸血鬼関係らしいんですよ、時間的に多分シャルティアの事だと思うんだけど、どうする? そっちが忙しいんなら代わりに出席して後で内容を話すけど?」

 

『ちょっと待ってくださいアルベドにも相談してみます・・・』

 

 二人の話す声がおぼろげだが聞こえてくる、どうやらアインズの好きにしたらいいとの事らしい。

 

『・・・組合にはサイファーさんが参加していただけますか。俺はそっちの話が終わるまでニグレドの部屋でシャルティアを監視していますから後で合流しましょう』

 

「了解しました。じゃ、また後で」

 

 そう言って『伝言/メッセージ』を切りサイファーは冒険者組合に向かうべく行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

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 やっぱりアインズさんを連れてきた方が良かった……そんな後悔の波に襲われながらサイファーはある人物の言葉の暴力に耐えていた。

 

 少し前冒険者組合に到着したサイファーは受付嬢に案内されある一室に通される。

 そこには冒険者組合長のアインザックだけではなく魔術師組合長のラシケル、おまけに都市長のパナソレイまで参加していた。都市にきてほとんど経ってないのに街のTOP3に会えるとはついてるのかついてないのだが。

 

 ここからが苦痛の連続だった自分達の経歴を組合長が話したら嘘くさいだの、たった一つの事件を解決しただけでミスリルかよ、とかやっかみがすごい。兎に角すごい。輪を掛けて酷いのは『クラルグラ』の代表のイグヴァルジだった……もうね、敵意丸出しっていうか、こちらの言うことすべてにいちゃもんつけてくるんだよ。

 リーダーのモモンが居ないからって「先輩を舐めてるのか」 とか「人数が居ないのは人間性に問題がある」とか「顔を隠すのは礼儀知らず」とか、で顔を見せたら「国外からかよ」ってほんとどうしたらいいんだろう。

 間違いなく言えるのはこの場に来たのがアルベドだったらこの街は全滅ENDまっしぐらだっただろう、アインズなら適当にあしらって話を進めてくれるだろう……俺はだめだ。『天狼』や『虹』の二人は話がわかる良い大人なのがせめてもの救いだろうが……もうガマンノゲンカイ。

 

「その吸血鬼はズーラーノーンとは関係ない」

 

「何故だね、サイファー君。何か知っているのかね?」

 

 言っちゃった。場の空気に耐え切れずつい言っちゃった。何とか誤魔化せなければ本当にお荷物になりかねない。

私に力をお貸しください偉大なる設定神タブラ・スマラグディナ様

 

「その吸血鬼の名前はよく知っている。なぜなら俺達がここまで追ってきた吸血鬼だからだ(頭は真っ白です)」

 

「何!?」

 

 部屋はざわつくが構わず話を進める。

 

「非常に強い吸血鬼なんです。俺達が冒険者になったのも全ては奴らの情報を集めるためなのです(今明かされる衝撃の真実)」

 

「奴ら?奴らと言ったのかね」

 

「そうです二体の吸血鬼です。その片割れの女の名は・・・シャ、シャル(名前が思いつかない)」

 

「なんと言ったのだサイファー君」

 

「シャシャルンです!(勢いで誤魔化す)」

 

「そ、そうか、しかし女吸血鬼の正体を知っているということは・・・そろそろキミ達の正体を聞かせてくれないかね」

 

「残念ですが私の口からは答えられません。その権限を持つのはリーダーであるモモンさんだけなので(全て丸投げスタイル)」

 

良し、ナザリック限定の神様のお力でポンポン答えられるぞ、ここまで来たら一気に・・・

 

「偵察は俺達のチームで行います。もしその場にいたらそのまま戦います(戦いません)」

 

「では他のチームは・・・」

 

「必要ありません。足手まといを守りながら戦えるほど甘い相手ではありません(割とマジで)」

 

「・・・報酬は?」

 

「最低でもオリハルコンを約束してください。もう一体を捜索する時に我々が動きやすいためにね(動きません)」

 

 完璧だ。神様のおかげで俺はミスする事無く話をまとめられた、しかも成功すればオリハルコンになれるおまけ付きで……後でアインズさんに報告して話に穴がないか聞いてみよう。それとナザリックに帰ったらタブラさんの造ったNPC達にタブラさんの代わりにお礼とした飴ちゃんでもあげよう。

 

「納得がいかん! 大体、その吸血鬼が本当に強いかどうかも不明ではないか!俺達もついていくぞ!」

 

さっきから何なのこの人・・・正直言ってこの人キライ・・・って、ついてくるって事は・・・

 

「やめた方がいいですよイグヴァルジさん・・・確実に殺されますよ(ナザリックの皆様に)」

 

「やってもいないのに結果が分かるものか!」

 

 サイファーが穏便に済まそうとした態度を弱腰ととらえたイグヴァルジはこちらを睨んでくる。

 

「脅しでも何でもないんですよ、本当に殺されてしまいますよ(普通に殺して貰えればラッキーなんだぞ)」

 

「くどい!!」

 

「警告はしましたよ(ご愁傷様です貴方の冒険はここで終わってしまった)」

 

 

 

 彼の人生があと数時間で終了することが決定された瞬間である。

 

 

 


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